随分と派手な爆音、間違いなく発生源はA組でしょうね。私有地だからってここまでやるとは思わなかったけど、被身子と仁が相手じゃ仕方がないか。
と私達便利屋や教師陣は比較的冷静に物事を見てたけど、B組はそうじゃなかったらしく今の爆音に何事かと騒然としている、その中で塩崎がボソリと呟いた。
「い、今の音は?」
「大方、盤面をリセットするためにA組のトップスリーがぶっ放したって所でしょうね。こちらレイミィ、大丈夫かしら?」
《し、死ぬかと思いました》
《今のでコピーが全部吹っ飛んだんだが》
満身創痍と言うか、焦燥してると言ったほうが良さそうな声の二人に労いの言葉を掛けつつ、宿泊施設に到着すれば丁度A組も着いたところだったらしく、私を見るや爆豪が爆発した。
他の面々は疲れているという雰囲気を醸し出しているのに私に突っかかってくるだけの元気があるのは流石というべきなのかしら?
「おいてめぇ、随分と舐めたことしてくれたなぁおい!!」
「あらあら、その様子じゃ随分と手古摺らせたようね。ご感想は?」
「正直、今日までで一番きついメニューだった……」
へとへとですという感じの緑谷がそう答えれば、切島たちも追従するようにあれやこれやと当時のことを話し始めるので軽く整理しながら話すわ。
曰く仁の数による攻撃をなんとか凌いでいたが、被身子が〝変身〟を利用した撹乱によって疑心暗鬼が広がり始め、そこから瓦解が発生寸前まで起こり立て直しに苦労したらしい。
このままでは全滅すらあり得るとなったが、八百万が自分たちの勝利条件を宿泊施設の到着だと再定義、打開策として全火力で前方の道を無理やり開いて今に至ると。
人が聞けば力技が過ぎる、或いはゴリ押しだとしか言えない策。けれど一度やると分かるけど力押しっていうのは簡単な作戦じゃないのよ。
あれはメンバーの火力が振り切れてて尚且つ、指揮官が優秀で初めて機能する作戦、それをぶっつけでやったんだから流石としか言えないわ。
「やるじゃないの八百万、貴方の混乱も狙ったんだけど凌いで指示まで出すなんて驚いだわ」
「いえ、轟さんが相手側の〝個性〟を知っていたから冷静になれただけですわ。でなければ、取り乱してても不思議では……」
更に言えば被身子が〝変身〟で自分たちに化けて紛れ込んでいると分かった後に、麗日がその場その場であの娘が知りようがない思い出話を切り出して炙り出すという方法も思い付いたお陰で八百万が策を練る時間が生まれ、結果があの力攻めとなったらしい。
まぁ轟による情報共有も折り込みだったけど、この様子だと初手で轟を妨害しなかったのかしらね二人は。じゃなきゃ直ぐに情報が共有されて対策を打たれるに決まってるじゃないの。そんな感じに言葉にせずに視線だけをボロボロの二人に向ければ、まず被身子が気まずそうに目を逸らしつつも弁明を始めた。
「うぐっ、や、やろうとはしたんですけどね。思ったよりも焦凍くんの反応が良かったといいますかぁ」
「轟だけじゃなくて、爆豪って奴も動きが良かったのも敗因だなと思う。お嬢が教師側だって分かったと同時に警戒してたらしい」
「けっ、てめぇが考えそうなことなんて、今日までの付き合いで分かんだよ」
「お陰で俺達も直ぐに事態を把握できて襲撃に備えることが出来た、それがなかったら奇襲にも反応が送れていただろう」
ともすれば、私の動きも失策があったと考えるべきか。勘が良すぎるのも相手にしづらいわね、今後はもう少し動き方を考えることにするわ。
それにしても、ここまで私の動きが読まれてるってことは、つまり爆豪は私のことを詳しく〝理解〟しているってことなの、あらあらお熱いアプローチを受けちゃったわ。なんだか恥ずかしくなってきちゃいそうって、危ないじゃないの、いきなり爆発しないで頂戴。
「余計なことを言うからだろうが……!!」
「乗るな爆豪、どうせお前から栄養を摂取しようとしか考えてないから怒るだけ無駄だって」
「栄養を摂取なんてそんな、ただちょっと物間じゃ反応悪いなって思っただけよ」
「ちょっと待ってくれ、それはどういう事かな?」
だって物間の煽りはこう、陳腐と言うか露骨って感じなのよね。爆豪みたいな新鮮さがないのよ、だから飽きるの、分かる? もう少しボキャブラリーを増やしてもらわないとねぇ。
って冗談は置いておきましょうか。えぇ、冗談だから壊れたスタンロッドを手に持って私に近寄らないで血染、分かってるから私が悪かったから。
「さてっと、それでこの後はどうするのかしら?」
「え、あ~、どうしようかな。予定じゃもう少し時間を掛けてここに辿り着くと思ってたから……」
「それで思い出したけどよ、どの辺りは三時間って話だよ。あれどう考えても超過するだろ」
「何言ってるの、〝魔獣〟だけだったら三時間って意味だったってだけよ?」
嘘は言ってない、本当のことも言ってないだけ、なんて態度で答えたんだけど返ってきたのは壮大なブーイング。うんうん、元気なのは良いことね、折角だから組手しましょうか、誰でもいいわよ。
何故かブーイングがピタッと止んだ。はて、どうしたのだろうかと振り向いて私も笑顔が引き攣ってから目をしらすことしか出来なかった。
そこに居たのは眼光をこれでもかと鋭くした相澤先生、つまりはまぁ、そういう事なのよ。調子に乗りすぎたわ、そうよね、これから反省会だとか色々とあるのに好き勝手やりすぎたわよね、ハイ。
「今回は生徒側じゃないからと羽目を外しすぎれば相応に罰を与えるつもりなのでそのつもりでいろよバートリー。他もだ、気を引き締め直せ」
『はい!!』
「よろしい、とりあえず全員バスから荷物を降ろしてから部屋へ運び、少しの休憩の後、食堂にて夕食とする。その後、入浴で就寝とする、本格的なスタートは明日からだ」
別に今から軽く動かすでも良いんじゃと思ったけど、見た感じA組もB組も消耗し尽くしているので合理的じゃないという判断か。
もっと言えば自分たちの想定よりも早く辿り着いたことに対する報酬という面もあるかもしれない、ともかくそれなら私達も荷物を運び入れちゃいましょうか。
「〝達〟っていうか、レイミィちゃんだけですけどね。トガ達のはもう運び終えてますし」
「そりゃそうよね。じゃ、部屋に持ってってから合流するわ、便利屋の部屋は?」
「教師組の隣に用意してもらったよ、その方が何かと便利だろうって」
ありがたいわね。早いところ、合流して明日のスケジュールとか纏めないといけないし、さっさと運んじゃいましょうか。ん、どうしたの緑谷、何か気になることでも?
つか、ピクシーボブは何をやってるの、緑谷達に唾を飛ばしてるけど……え、唾を付けてるって? そういう意味じゃないでしょ、あれ。
「あ、えと、その子はどなたかのお子さんかなって」
「あぁ違う、あの子は私の従甥だよ。洸汰、ほら挨拶しな、一週間一緒に過ごすんだから」
従甥、ね。どうしてそんな子がここに居るのかしらって態とらしく言ってみるけど、記憶見ちゃったのよね。彼、プロヒーローの夫婦の息子さんだったけど、そのご両親は
正直その記憶を見て出てきたのは深い溜め息だったのは言うまでもないと思うわ。どうしてこう、家庭を持つヒーローってのは子どもに対しての認識が甘いと言うか、拗れるような生き方をするのかって。
「あ、えと僕は雄英高校ヒーロー科の緑谷、よろしっ!」
「……っ!? な、何すんだよ!!」
洸汰へ握手を求めつつ自己紹介をした緑谷が何かを察知して跳び退くよりも早く、私の手が洸汰の振りかぶった右腕を掴む。掴まれた彼は子供らしくない目付きで私を睨みつけてくるが、その程度は話にもならないので、自分でも分かるほどに無表情のまま。
「貴方が個人的な理由でヒーローを憎むのは大いに結構、ヒーローになろうとしている者を嫌うのも結構、ただそれを理由に八つ当たりの暴力を振るおうってのは頂けないわ」
「えと、バートリーさん、僕は大丈夫だから」
「黙ってて」
「あ、はい」
貴方が良かろうが暴力を手段に選んだのならば子供と言えど、いえ、子供だからこそ相応の叱りは入れなくてはならない。じゃないと、それが常に手段として彼の中に根付いてしまう可能性があるのだから。
だから今この場である程度の説教はしておかないといけない、ていうか本来ならこれは保護者がやるべきじゃないかしら、マンダレイ?
「うっ、そう、だね」
「負い目で叱り方が分からないとかは話にならないわよ。で、洸汰、貴方がやろうとしてることは最低な手段よ、子供だからって許されるとでも?」
「うるせぇ、俺はヒーローになりたい連中とつるむつもりはねぇ、だから……!」
一度伏せていて顔を上げてきた洸汰だが、その目はとても悲しい目をしていたと私は思った。憎悪に染まろうとして染まれないそんな目、子供がするような目じゃないそれを見て私はフッと手を離した。
離そうと思ったわけじゃないんだけど。ともかく離された洸汰は逃げるように宿泊施設へと消えていく、その背中はとても小さくて、儚くて、思わず私は呟いてしまった。
「だから、今の社会は狂ってるのよ」
「バートリーさん?」
迂闊だったと気付いたのは緑谷に呼ばれたときだった。見れば今の呟きが聞こえてしまったのだろう、彼が心配そうな表情の私を見ていた、だから何でもないと答えてから荷物をバスから降ろして部屋へと運ぶ。
もしかしたらその時の私の背中も洸汰と同じように何かを感じさせるものがあったのかもしれない、私が建物に入っていくんだけど、その背中にはA組とB組も視線が突き刺さっていた。
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荷物を手に建物に入っていくレイミィの姿を見て、蛙吹が不安げな声で呟く。
「レイミィちゃん、大丈夫かしら。何かショックを受けてた感じだったわ」
「洸汰くんを見てからだよね、あ、そう言えば緑谷、何かバートリーに聞いてなかった?」
「へ、あ、いや、さっき洸汰くんの手を離してから〝だから今の社会は狂ってるのよ〟って呟いてたのを聞いちゃって」
「狂ってるって、そのまんまの意味かな」
急に彼女の闇を感じさせるような言葉にうーんとなるA組の面々、その様子を見てB組の一部女子が集まってきてから、どうしたのかと聞かれとりあえずで同じような話してみることに。
とは言え、付き合いが長いA組女子でも分からないことをB組女子が分かるわけもなくならばと白羽の矢が立ったのは被身子だった。彼女ならばレイミィのこともよく分かるだろうと聞いてみれば、あ~とどう答えたものかと悩んでから。
「多分ですけど、洸汰くんの境遇を理解しちゃったんだと思うんですよね」
「洸汰くんの?」
「はい、あ、どうやってとかは答えられません、企業秘密ってやつですから。ともかく、その上でレイミィちゃんは便利屋で色々と見てきちゃってるんで出てきた言葉だと思いますよ」
「あの年齢で色々と見てきて出てくるのが狂ってるって言葉なのも残酷な話だけどな」
シレッと入ってきた火伊那ではあるが、まだ仮面を着けているので相澤やブラド、プッシーキャッツ以外にはレディナガンだとはバレていないという余談は置いておこう。
ともかく彼の境遇と自身の経験から出てきた言葉だから深刻なものじゃないですよと答えれば、とりあえずで納得する面々。無論、明らかに何かを隠しているということにも気付いているのだが、聞いても答えてくれないと分かっているので黙っているだけである。
それよりも全員早く荷物を運んだほうが良いですよと被身子の言葉で解散となり、そのタイミングで今度はマンダレイが便利屋に近付いてきてから。
「ごめんなさいね、洸汰のことでバートリーちゃんに辛い思いさせてるみたいで」
「へ? あぁ、そんなんじゃないと思いますから安心してください。レイミィちゃんは洸汰くんのご両親に怒ってるんだと思います」
「怒ってる?」
まさかの言葉にオウム返しをしてしまうマンダレイ、ここまでのやり取りで洸汰の両親に怒りを覚える事があっただろうかと疑問に覚えるしか無い。
更に言えば彼とのやり取りで両親の話なんて一度もしてないのだから疑問はなおのこと加速するしか無く、それが表情に出てたからだろうか、被身子は曖昧な笑みのまま。
「まぁその、今悩む必要はないと思いますよ。そのうち、レイミィちゃんは自分で解決するか話してくれると思いますから」
「そう、分かった。とりあえずそれで納得しておくわ」
なんてやり取りをしてから便利屋の面々も一度、建物へと戻っていくのだがその途中で火伊那が誰に言うでもなく、言葉にした。
「なんつーか、ウチの大将は何かあるごとに悩んだりしてねぇか?」
「年頃の女の子ってことだよ、火伊那」
「……なるほど、ね」
年頃の少女だとしても社会が狂ってるだ何だって悩み方はしないんじゃねぇかなと口に出そうになった言葉を飲み込んだ火伊那であった。
次回 温泉回。
洸汰くん、ちょっと情緒壊されてみない?