出久と保健室で別れ、職員室前まで来たレイミィはノックしてから入室すれば、待っていたとばかりに相澤が反応、呼ばれるので向かってから。
「来たわ。ここで大丈夫なのかしら?」
「いや、校長室に向かう。行くぞ」
何処に目があり耳があるか分からないと言う事だろう。何でもありの個性がある手前、対策もされてない部屋で重要な会話は他人に聞いて下さいと言ってるものであり、だからこそ彼も校長室という密談室よりも更に安全な部屋を選ぶことにした。
レイミィもそれは理解しているので一つ頷いてから、彼とともに今朝行ったばかりの校長室に付いていき、特に何かあるわけでもなく場面は校長室。現在、この場に居るのはレイミィと相澤と根津の三人とこれまた今朝と全く変わらないメンバーに口にはしないが秘密結社みたいな集まりねと彼女は思ったりする。
「さて、疲れてるところを呼び出して申し訳ないねバートリーくん」
「いいえ、構わないわ。それで話っていうのは、どれかしら?」
「……やはり、内通者だったか?」
重さを感じる声で聞かれたそれに彼女は包み隠さずに相澤と根津に話す。彼、青山優雅は間違いなくクロであり、どうやら向こうから暗号化通信まで貰ってまで情報を流すつもりらしいと。
それと同時に続ける。間違ってもこれは彼が
「相当強いわよ彼、だからこそAFOの手先で潰してしまうのは勿体ないわ」
「うん、それは僕たちも同じさ。彼も、彼の家族も救い出す、とは言ってもそれが難しい話でもあるのが現実だけどね」
「下手な動きをこちらが見せれば即座に切り捨てるだろうからな。バートリー、便利屋として何か案はあるか?」
突然のパスではあったが便利屋という立場で言えば考えないわけ無かったので頷きはする。しかし、それがじゃあ確実なのかと言われると首を傾げるし、これをすぐに実行できるかと言われれば首を横に振らざるを得ない。
「あるにはあるわ。ただ、もう少し時間が欲しいわね、相手側が彼の情報を何処まで鵜呑みしてくれるのかもわからないと……」
「そうだね。あくまで判断材料の一つ、程度の扱いだとこちらの目論見が使えなくなってしまう、ともなれば先ずはそこを見極めるところから始めないといけないか」
「直近で郊外に出る行事とか無い? それを利用したいわ」
レイミィの質問に答えたのは相澤、確か近々救助訓練に郊外に向かうとのこと。その際に例年ならば二人だが今回は年のために三人ほど教師が同行するということも聞けば、彼女は目を閉じて思考を巡らし、一つの案を出してみる。
「その同行する教師、徹底して隠すことは出来る? 書類から何から全て、それと同行者も聞いておきたいわ」
「なるほど。あぁ可能だとも、それで同行者だったね」
「俺とオールマイトが……どうした?」
オールマイト、その単語が出た瞬間レイミィの顔がこれでもかというくらいに苦虫を噛み潰したものになる。苦手な料理が目の前に出されたばかりの顔に、相澤もどういう事だと困惑し事情を知っている根津はHAHAHAと笑ってから。
「相変わらず苦手のようだね、彼が」
「好きになる要素があるのならば教えてもらいたいものよ……」
何があったのかと言えば、過去に浮気調査の依頼を受け、調査していた彼女にオールマイトが子供がここで何をしてるんだい? という感じに絡み、自身は便利屋の所長で許可もあると言うが何故かだとしてもと食い下がられ危うく依頼を失敗になりそうになったという一件があるからだ。
もっとも、当時は彼女自身もまだ小学校の高学年ほどの年齢で時間も夜だったのでヒーローであるオールマイトが見過ごすわけ無い状況だったということを補足しておくが。それを聞いた相澤もまぁらしいと言えばらしいなと感想をこぼす。
「そのらしい行動で仕事の邪魔されちゃ溜まったもんじゃないんだけど。いや待って、オールマイトが教師で居るの!?」
「あぁ、そうか、知らなかったのか」
「ウソでしょ……はぁ、まぁいいわ、居るなら彼を餌にしましょう。ギリギリまで同行者の名前は伏せて、前日あたりに私がアドリブで先生に振るから、お願いできる?」
「なにか前ぶりをもらえりゃ、何とかする」
考えておくわと告げ話はコレで終わりかと根津を見れば、折角此処に来たんだしと彼は一つの質問を彼女へ投げかける。
「初日だったけど、どうだい、クラスメイト達は」
「へ? えぇ、とても良い子達ばかりで仲良くやっていけそうよ。ただちょっと眩しいわね」
「眩しい、か。それは灰色から真っ白を見てるからって事で合ってるかい?」
「その通り、だからこそ今回の依頼は手が抜けないって気を引き締め直したわ」
儚げに微笑む彼女に、根津は少しばかり胸を痛める。自分の立ち位置を完璧に決めてしまった人間が煌めいているものを見たときの人間の表情、それを15歳の少女がしてしまっているという事実に。
彼女は自分には青春というものは既に無いと思いこんでしまっている。そんなことはなく、今からでも手を伸ばせるはずなのに彼女は自身のを受け取らずに誰かの白のために灰色の立場から己の全てを使ってでも守ろうとしてしまっている。
「バートリーくん、どうか忘れないで欲しい。君に確かに便利屋として依頼をした、けれどここの、私たちの生徒であるということを」
「……」
「お前の過去は確かに聞いた。けどな、だからといって大人の俺達が子どものお前に全てを押し付けるつもりはねぇからな」
根津の心からの気遣いの言葉、相澤の若干乱暴な、されどこちらを想う声と言葉にレイミィは今日で何度目か分からない自分の仮面が外れそうな感覚に陥る。きっと外れてしまったとしても此処の二人は何も言わない、けれどそうではないと彼女は外れかけたそれを付け直し、笑みのまま
「まぁ、その言葉は受け取っておくけど。私だってそれなりに長い間、便利屋の所長を務めてる。だからプライドってのもある、それを譲るつもりは毛頭も無いわ」
「そうか。けど、所長として疲れを感じたなら遠慮なく言ってくれて構わない、休むのもまた依頼の内容にあるからね」
今はまだこれ以上は無理なのだろう。根津は彼女の思ったよりも硬いガードに困ったなと思いつつも一旦引くことを選んだ、けれど諦めたわけではなく、機会を見てはゆっくりとその仮面を剥がしていこうと決める。
「さて、と。今日のところはコレで解散として、次から集まる際はどんな感じにしたほうが良いかしら?」
「毎回毎回、お前を職員室に呼び出すのも怪しまれる。何人かの職員にも伝達してランダムにバートリーを呼び出すようにしたほうが良い、その方がまだバレにくいだろう」
「とは言っても何度もとなれば危うくなる。一度集まったら、緊急時以外はそこそこの期間を設けたほうが良いね」
じゃあそれで解散としようか。根津の言葉でレイミィと相澤が校長室を出れば、時計は入ってから数十分が過ぎていることを指し示しており、思ったよりも話し込んでたらしいと驚きつつ
「それじゃ相澤先生、私も帰りますね」
「あぁ、気を付けてな」
彼の言葉を背に聞きながら歩き出し、特筆するようなこともなく便利屋事務所に到着、本当に疲れたと思いながら扉を開ければ先ず出迎えたのは被身子。
「あ、おかえりなさいレイミィちゃん! どうでした? お友達沢山できましたか?!」
「はいはい、ただいま。友達、というかクラスメイトとは全員と話してきたわ、その先はまだわからないって感じだけど」
事実まだ今日だけの会話なのでそれで友達判定はどうなのだろうかというのが彼女の考えなので被見子に答えつつ、ドカッと自身の椅子に座り込む。
「おかえり所長、随分と疲れた様子だね。あと副所長はまだちょっと外回りに行ってるけど、直ぐに帰ってくると思うよ」
「初日から個性把握テストってことで全力で動いてきたのよ。流石は雄英高校、入学式もガイダンスもすっ飛ばしてくるとは思わなかったわ」
「すげーなそりゃ。他のクラスもそうだったのか?」
「いや、聞いた感じだと入学式とかガイダンスも普通にやってたみたい。つまりA組だけが初日からロケットスタートを切らされたってことね」
なのでこの場合は雄英高校が、というよりも担任の相澤消太が合理主義の極み過ぎるという話になる。だがそれが間違いとは彼女は全く思っていない、寧ろ一分一秒でも惜しいという感情は当たり前とも言えるだろう。
「A組はほぼ間違いなく
「そのために私たち便利屋がって話ですもんね。あ、誰か私好みのカアイイ子居たりしました?」
「あ~、居なくもなかった?」
なんで疑問形なんですか? 被身子は思うが、レイミィとしては実際に見たほうが早いだろうからそれまで待てという意味を含ませている。別に考えて答えるのが面倒くさくなったとかではない、断じて。
とりあえず全員揃ったら、話すことがあるのだが血染は何時戻るのかしらと思ったのが引き金になったのだろう。カツカツと誰かが向かってくる足音がしたと思えば、扉が開かれ噂の血染が帰って来る。
「戻ったぞって。バートリー帰ってたのか、初日から問題は起こしてないだろうな」
「私を何だと思ってるのかしら? 起こすわけ無いでしょ、寧ろ優良生徒とすら思われても不思議じゃない立ち振舞を見せてきたわ」
「……」
全くとは言わないものの全てを信頼するのは無理があるという目をする血染、怯むこと無く嘘じゃないしと言う視線を返してから、それよりもと依頼に関することで今日だけで判明したことを彼らに報告していく。
内通者は確実にA組に居たこと、一度は彼に情報を流し、どの程度利用されてるかを確認すること、オールマイトが教師として雄英高校に居るらしいので彼を餌に使うということ、のここで血染が驚きの声を上げる。
「なんだと、奴が居るのか?」
「みたいなのよ。本当に、心から本当に顔も見たくないけど、居るらしいの」
「今の世の中で
嫌いなものは嫌いなんだから仕方ないじゃないと子供っぽい言い分に思わず微笑ましいものを見たという感じの笑みが溢れる圧紘、仁、被身子。血染は寧ろ、なにをまだ嫌ってんだかという感じの事を言うのだが彼女が自分を曲げることは早々無いので無意味だということも理解している。
「あ、あと轟焦凍と同じクラスだわ。ついでに言えば八百万とインゲニウムの弟も」
「見事に便利屋と一度は接点がある子が集まったね。根津だっけ、彼の采配かな?」
「恐らくはね。とは言っても百、あぁ、八百万の娘さんね。彼女は私達があの件に関わってることは知らないみたいだけど」
それよりも轟かぁと言葉が漏れる。別段、彼らが嫌いというわけではない、寧ろ貧困一歩手前の時代には夕食もご馳走してもらったくらいに恩があるので何かあれば優先して助けに行くくらいには良く思っている。
が、それは別としてNo.2ヒーローことエンデヴァーと便利屋となると、初対面で最悪、現状は良くも悪くも不干渉を貫いていた。それが今日までの関係だったのだが、彼の息子と所長が同じクラスとなると話が変わってしまう。
「これ、何かに付けて向こうが絡んで来るとか無いですよね」
「向こうもそんなに暇というわけではないから大丈夫だとは思うけどね」
「そもそも、あっちからと言うことはないだろ、それくらいには目の敵にしてた時期もあったんだ」
上から被身子、圧紘、仁が好き勝手に言い合うがその全てがその通り当てはまることなのでレイミィも問題ないとは思うけどと締め括るが彼女たちはある種の予感を感じていた。
絶対にそんな上手い話で終わるわけ無いと、なんか絶対に関わることになると。
「……止めましょう。えぇ、大丈夫、向こうだって大人でNo.2ヒーローよ? こんな木端な便利屋に突っかかる理由なんてないわ」
「だな。それで、他に何かあるかバートリー」
「トガ知ってます。これ現実逃避ってやつですよね?」
黙ってなさい。レイミィのコレ以上疲れたくないんです私はと言うのも混ざった表情と視線、彼女だって一日の限界というものが確かに存在し、もうそろそろ許容限界が近いのだ。
つまり何が言いたいか、早い話が今ある書類仕事をさっさと終わらせたうえで
「今日はもう仕事終わりでいいんじゃないコレ」
便利屋チェイテ、所長のレイミィ・バートリーが疲労限界のため本日の業務は終了、こうして彼女の入学及び依頼初日は無事に一日を終えるのであった。
なお、その日の夕食時にクラスメイト全員に自分が便利屋の所長をやっていることをバレたないし自分で口を割ってしまったことを話したところ
「だろうなとしか思わん」
「押しに弱すぎますよレイミィちゃん」
「まぁ、それだけ関係者が居たら仕方ないよ」
「任務はバレてないなら良いんじゃねぇかお嬢」
まるで驚かれないことに眉をひそめる所長が居た。
やっぱり我が家と仲間たちとの会話が落ち着く所長であった。
便利屋メモ
本編でも語ったがレイミィはオールマイトを苦手を通り越して嫌い。実力や人格者であることは認めているがそれはそれとして嫌い