便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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温泉、峰田、何も起こらないわけもなく……


No.120『温泉大騒動』

 荷物を部屋の一角に纏め終えてから、一息ついているA組女子部屋、本当ならば汗や汚れを流したいと思ってるが曰く温泉はまだ準備が出来てないとの事なので夕食後になっているらしい、それはつまり。

 

「もしかして、先生たちの予想よりもアタシらが早く辿り着いたってことだよね?」

 

「マンダレイさんもそんな事を言っておりましたわね、バートリーさんも驚いた感じでしたし」

 

「そのバートリーで思い出したんだけど、どこに行ったか知ってる? 部屋に居ると思ったんだけど」

 

 だが姿はなく、あるのは彼女の荷物のみ。これには上記のように耳郎が疑問を漏らしたがレイミィの行方を知ってるものは誰も居ないので首を傾げられるだけである。

 

 この彼女らの疑問が晴れたのはそれから三十分後、夕食の準備が出来たと放送が入り、食堂に着いてからだった。結局、レイミィが部屋に戻ってくることもなく、はてさてどうしたのだろうかと食堂に来たA組の面々が見たのは

 

「来たわね、さっさと席に座って頂戴。席順は特に決めてないから適当でいいわよって、どうしたの鳩が豆鉄砲でも食らったような顔して」

 

「いや、何してんのバートリー」

 

「何って手伝いだけど?」

 

 居たのは制服にエプロンを着けポニテ姿のレイミィ。彼女本人が言うように今の今まで食堂で手伝ってましたという格好であり、よく見なくても便利屋の面々も忙しく動き回り料理を並べているのが分かる。

 

 が、それはそれとしてどうして手伝いに入ってるんだという新たな疑問に変わるだけであり、そのままの流れで耳郎が聞いてみれば呆れたという表情をしてから

 

「そりゃもちろん、今回の合宿は私は便利屋として来てるんだから、その内容に施設の手伝いが入ってるってだけだけど?」

 

「なるほど……? え、じゃあなに、もしかして一週間ずっと働きっぱなしってことなの?」

 

「えぇ、依頼内容がそうだから。それよりもさっさと座りなさい、冷めるわよご飯」

 

 彼女からするとなんで驚かれているんだろうかと思いつつ、まだ自分を見て驚いているA組に促せば、向こうも料理の匂いで自分たちが空腹の限界だということを自覚したのだろう、イソイソと席につき始める。

 

 正直に言えば並べられた数々の料理を前に何時までも会話をしている方が酷というものだろう、それほどまでに彼らは消耗しているしそこを考えればレイミィが便利屋として働いていることは些細な問題でしか無い。

 

『いただきます!!』

 

「バートリー、お前も座って食べておけ。あとは俺達だけでも問題ない」

 

「あらそう? それじゃお言葉に甘えて、隣失礼するわ八百万」

 

 レイミィとしては後で教師陣と混ざってと言うつもりだったのだろう。だがそこは保護者血染、こういうときは学友と時間を共有しろと言葉にしなくても分かる気遣いで彼女を座らせることに。

 

 最もレイミィがそれを察することが出来るかと言われれば、便利屋モードになっているので出来ていない。強いて言うなら、入浴もA組と同じだからその辺りの時間調整だろうな程度にしか考えていない。

 

「ん、待てよ。これもしかしてこの料理の中にバートリーが作ってるのも混ざってるってことじゃ……?」

 

「!! そうじゃん、なぁバートリー、どれかそうだったりするか?」

 

「何を期待してるか分からないけど、オムライスとイワシ料理以外は平凡でしか無いから手伝い程度でしかやってないわよ。大体は血染だったり圧紘、仁、被身子って所よ」

 

「あれ、ホークアイさんは?」

 

「察してくれ、私は今日まで仕事人間だったんだ」

 

 何気なく聞いてしまった麗日だったが聞いてはいけないことを聞いてしまったかもしれないという空気に襲われた。が向こうはまるで気にしてないどころか、寧ろ笑っているのを見て安堵の息を吐き出す。

 

 因みに便利屋において一番の料理上手はそれぞれのジャンルごとと言うことになっている。レイミィは言わずもがな、圧紘なら中華、仁なら和食、被身子なら洋食及び創作料理と言った具合になっている。

 

 なお、血染は得意料理というものはなく全体的に並以上に作れるという程度と自己申告しているが、この〝並〟が商店街の腕が良い喫茶店に比べてということなので実はかなりの腕前だったりするが余談なので置いておこう。

 

「でもオムライスをあそこまで美味しく作れるんだったら他の料理もいけるんじゃないの?」

 

「……はぁ、この小皿の唐揚げ、私が試しに作ったやつなんだけど食べてみればいいわ。因みに洸汰に食べさせたら普通って無慈悲に切り捨てられたわ」

 

 しれっと洸汰と仲良くなってるということに驚愕する面々だが実態は近寄ってきたタイミングで冷ましたのを口に放り込んで感想を聞いたというだけである。

 

 なので仲良くなったとかではない。などということは彼女たちが知る由もないので差し出された唐揚げを各々が箸で掴んで、そして……

 

「本当に普通だった、それ以上の評価ができなかった」

 

「だから言ったじゃないの」

 

 時は進み夕食から入浴へ。この宿泊施設一番の自慢とも言える温泉にて彼女たちは居て、先程の夕食の感想を述べるのだが葉隠の一言が総意だったりする。

 

 とにかく普通としか言えなかった。これは男子も同じであり、寧ろどうしてという表情すら峰田は晒していたと言うことがことの重大さを感じさせるだろう。

 

「いやさ、こう、美味しいんよ、そこは確か。でもオムライスの腕前を知ってるからこそ思ったよりも普通って感想が出てくる」

 

「私は食べたこと無いのだけれど、そんなに美味しかったのね。峰田ちゃんも上鳴ちゃんもあれ? って顔してたくらいだもの」

 

 割とボロクソに言われているがレイミィとしても自身の料理の腕は正確に把握しているつもりなので特にダメージはなく、寧ろ温泉に居ながら彼女は警戒していた。

 

 理由は言うまでもないだろう、この仕切りの向こうにいるA組男子、その中の最大の問題生徒にだ。

 

「レミィ、流石にあそこまで脅してたら大丈夫だと思うけど」

 

「向こうでは轟さんも警戒しているのですのよね?」

 

「……油断禁物ってやつよ、あの手の変態は時にとんでもない動きを見せてくるわ」

 

 実感が籠もったレイミィの言葉に女子達はまさかそんなと思いながらふと仕切りを見上げるように視線を向ける。この木の板の向こう側、そこには確かに男子組が来ているのは会話から分かる。

 

 そして峰田が動こうとしているのも同時に分かる、というのも。

 

「峰田くん、君は命が惜しくないのか!」

 

「や、止めておいたほうが良いって、な?」

 

「わりぃが変な動きを一つでも見せたら凍らす」

 

「ほら、見ろ轟のやつの目がマジだって! 死ぬぞ!!」

 

 命がけの説得が行われているのが聴こえるからだ。だが峰田の声が聞こえないと言うことにレイミィは嫌な予感が拭えない感覚を覚えていた、そしてこれは過去に感じたことがあるとも。

 

 あれは何時だっただろうかと彼女は思い出す、思い出そうとして強めの頭痛を感じたので中断した、恐らく禄でもない思い出だろうと彼女は思ったその時、気配が動いたのを感じ取った。

 

「峰田くん、やめたまえ!!」

 

「やかましいんスよ……壁とは超えるためにある〝Plus Ultra〟!!」

 

「っ! 避けられた!? バートリー!!!」

 

 舌打ちと同時にレイミィが温泉から飛び出して飛翔、その際に女子組が〝前!! 前隠して!!〟と叫んでいるが既に聞こえておらず、仕切りの頂上に向かい登ってくる峰田を叩き落とそうとした彼女だったがそれよりも前に一つの影が仕切りと仕切りの間の空間からヒョコッと現れたことで動きが止まることになる。

 

「ヒーロー以前にヒトのあれこれから学び直せ」

 

「くそガキィィィィィ!!!」

 

 トンッと軽く押して峰田を落としながら冷たい声で告げたのは洸汰、どうやらA組が温泉に来たタイミングにはスタンバイをしてたらしい彼が峰田が動き出したと同時に登って彼の覗きを阻止したのだ。

 

 流石にそれは想定してなかったレイミィは驚いた表情をしてから、フフッと笑い、小さな英雄の行動に芦戸が彼に声を掛けた、いや、この場合は掛けてしまったというべきかもしれない。

 

「やっぱり峰田ちゃん、サイテーね」

 

「ありがと洸汰くーん!」

 

 声を掛ける、もとい彼にお礼を言うということは声に反応して振り向くということ。振り向くということは、まだ地上に戻って無く体をタオルで隠すなどもしていないレイミィの裸体が少年の視界に入るということである。

 

 刹那、彼は言葉を失い顔を思いっきり赤くした。それはもうお手本のような赤面であり、だというのにレイミィは特に気にすることもなく彼の英雄的な行動に対してニコリと微笑みながら

 

「やるじゃないの、小さな英雄さん」

 

「なっ、あっ、え?」

 

「ん、どうしたのよって!?」

 

 彼女があまりに無頓着で恥ずかしがる素振りを見せてないのもあり堂々と見せられた少年には刺激が強すぎる美少女の裸体に彼の脳が限界を迎え、言葉にならない声を漏らしながら気を失い、そのまま仕切りから落ち始める。

 

 誰がどう見ても原因が何なのかは分かるはずだろう。だがレイミィはそうではなかった、割と真面目に急に気を失って落ちそうになるという事態に焦り、そのまま洸汰の手を握って引き寄せるように抱きしめた。

 

「ちょ、ちょっと大丈夫、洸汰!?」

 

「バートリー、多分それがもう大丈夫じゃない!!!!」

 

 耳郎迫真の叫びが温泉に響く、上記でも言ったがレイミィは洸汰を救うために引き寄せ抱きしめる形を取っている。つまり現在、洸汰の顔には彼女の決して大きくはないが小さくもない胸が押し付けられている状況であるということだ。

 

 ムニュとか聞こえそうな光景に耳郎は叫んだ。これは別にレイミィに羞恥心を持てというわけではない、あの小さな英雄のあれこれが歪むのを防ぐための叫びだった、が肝心の彼女には通じなかった!

 

「どうしたのよ、急に叫ぶなんて」

 

「どうもこうもないっての! とにかく洸汰くんを今すぐ開放する!」

 

「あぁ、まぁそうよね。よいしょっと」

 

「アホなのあの娘!!??」

 

 ついに耳郎、キレた。だがこれは当然の反応であり麗日に至っては頭を抱えたまま温泉に沈み、流石の蛙吹も嘘でしょという表情を隠せないでいた。

 

 何が起きたのかと言えば、確かにこのままここに居たら彼も逆上せたり脱水状態とかになりかねないと判断したレイミィは何を思ったのか〝男子側〟へと彼を抱えたまま降りて、偶々近くに居た出久に

 

「悪いけど、洸汰をマンダレイのところまで運んでもらっていいかしら緑谷」

 

「へ、ア、う、うん、それは良いんだけど!?」

 

「ば、バートリーくん! なんで君は身体を隠さないでここに降りてきたのかね!!!???」

 

 控えめに言って阿鼻叫喚の地獄絵図になった。出久は洸汰を受け取りつつも完全に思考が停止しており、天哉は真っ赤にした顔を彼女から背けながら正論のツッコミを叩きつける。

 

「見るな上鳴!!」

 

「ぶげらっ!?」

 

「なぁおい、流石にこれは色々と心配になるんだが? 頼むから女子側に戻ってくれバートリー、な?」

 

「咄嗟に峰田を締め上げちまったが許されるよな」

 

「あっ……あっ……」

 

 続けて切島がレイミィの裸体を凝視しようとした上鳴を鉄拳制裁で潰し、瀬呂がすぐに戻るように説得を始め、砂藤が峰田がレイミィを見ないように速攻で締め上げ気絶させ、最後に口田が慌てながら彼女を見ないように湯船に沈んだ。

 

 最後のはそれはそれで危険ではとなるが現状、それを気にするだけの余裕があるわけもなく、レイミィはなんだか大変なことになってしまったわねと他人事のように思いつつ

 

「んじゃ、私もすぐに出るけど洸汰をよろしくね」

 

「分かった、分かったから!!」

 

 フワッと仕切りを飛び越え女子の方へと戻るレイミィを見送った男子の面々はふぅと息を吐き出す。なんで温泉に入っててここまで疲れなければならないのかと、男たちは湯船に深く身を委ねてそう思わざるを得なかった。

 

 とりあえず、これ以上は何も考えないようにしよう、そうしよう。女子の方からレイミィへ怒涛の説教が繰り広げられている声が聴こえるが、きっと今のとは関係ないだろう。

 

「と、とりあえず洸汰くんを預けてくるよ」

 

「あぁ、気をつけろよ緑谷」

 

「……ったく、馬鹿らしい」

 

 うん、そうだねと勝己の言葉に誰がというわけでもなく同意するように頷いた全員だった。こんな形のラッキースケベとか嬉しくないんだなと後に瀬呂が語るが今はおいておこう。

 

 そしてこの地獄絵図を引き起こしたレイミィはと言うと……

 

「あのさ、本当にどういう神経というか精神してるわけ? 普通、羞恥心とかそういうの以前に異性の前に裸で現れるのはどうかなって考えるじゃん?」

 

「別に減るものじゃないんだからいいじゃない、私は何も思ってないし」

 

「レイミィちゃんはそうかも知れないけど、周りが色々と困るんよ! さっきもそれは感じなかったん?!」

 

「……まぁ、大変なことになったなぁとかは思ったわね」

 

「レイミィちゃん、流石に今の行動は私もどうかなって思うわ、そりゃ洸汰ちゃんを救うためだとは理解してるけど、向こうに降りなくても良かったって思うのよ」

 

 耳郎と麗日、蛙吹が今までで見たこと無いくらいの真顔で説教をされていた。なお、芦戸と葉隠、八百万は3人の重圧とも言える威圧に近寄ることも出来なかった模様。

 

 こうして彼女が温泉から出れたのは出久がマンダレイに洸汰を運んでから数分後の話、そこで彼女は語った。

 

「ヒーロー以前に、親が子を残して死ぬなんて人間として失格なのよ」

 

「バートリーさん?」

 

 その目に悲壮を乗せて、彼女は洸汰を見つめていた。




思ったよりも話が進まんかったやーつ、まぁうん、次は少し加速させるから、多分、きっと。

それとNo.118でレイミィが3人の吸血分でとか言ってたかもしれませんが火伊那さんが抜けてたので修正しました、性格には4人分ですね、はい。
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