実際、生徒たちに訓練でボロボロに疲れ切っている生徒側に夕食を作らせるというのはそういう観点もあるかもしれない、なんてことをレイミィは思いながらふと気付いた。
自分はどっち側で立てばいいのかと。訓練は思いっ切り教師陣で動いていたので、これも仮に訓練であるとすれば参加しない方がいいのかと相澤に聞いてみれば
「いや、普通に参加してくれ、でないとアイツラが五月蝿いだろうからな」
「それもそうね、皆、私も手伝うけど何すればいい!!」
「お、んじゃ下準備の手伝いしてもらっていい!」
そのままレイミィが調理の手伝いに入っていくのを相澤は眺める。彼から見た現状の彼女は生徒としては問題児筆頭に当たるだろう、だが便利屋としての彼女を語るとすれば、恩人が近いかもしれない。
USJ襲撃事件、あの場において彼女が居なければ自分は間違いなく重傷を負い〝個性〟の使用に何らかの障害すら残っていたかもしれない、しかし彼女が居たお陰でそうはならなかった。
もっと言うとすれば〝便利屋〟の存在が大きいだろう。彼女たちの集団が居たからこそ今日まで大きな被害もなかったと言っても相澤は過言ではないとすら思っている。
世間からすれば褒められた集団ではないとは理解もしているが、今回の合宿も彼らが居なければ恐らくはもっと面倒なことになっていただろうと彼は考えていると。
「イレイザーヘッド、話があるが良いか?」
「なんでしょうか?」
此処で話とはなんだろうかと思いつつ、血染の言葉にそう答えれば相手はなぜかレイミィの方を見てから疲れたようにため息を吐き出してから
「バートリーから夕食の時にサプライズをすると伝言をもらっている」
「……サプライズ?」
なんだそれはとしか言えない内容であり、血染の相澤の気持ちは痛いほどに理解できるので顔だけで自分の後ろを示し、見てみればそこに居たのはプッシーキャッツ、ブラドと会話をしている残りの便利屋の面々。
その中でも外での活動中ということで仮面をしているホークアイこと火伊那を見て彼もレイミィが言うサプライズの意味に気付き、はぁと息を吐き出す、要は
「何も今のタイミングじゃなくてもいいだろ……」
「すまん。だがどちらにせよ、今回の作戦でマスコミ連中にもアイツのことはバレる事を考えれば、今のうちにというバートリーの言葉も分からんではないと思っている」
「土壇場で露呈して驚かすよりも、か。分かりました、あぁそうだ、こちらからも一つ」
そう言えばという感じの声に血染も何かあったのかと聞けば、別段そういうことではなく学園からの連絡であり内容は寧ろ血染にはありがたいの一言のものだった。
「サポート科から二代目のスタンロッドが今夜にも届くとのこと」
「早いな、予備機でもあったのか」
「いや、どうやら改良を進めていたらしく、今朝の大破の報告で急ピッチで仕上げたとか」
曰く開発者の発目は大破の報告を聞いてパワーローダーも今まで聞いたことないような叫び声を上げてから一気に完成させたとのこと。彼女的には携帯性重視のものだろうと実戦には耐えうる物を作り上げたつもりだったので壊れたという内容は悔しかったらしい。
その話を聞いて若さゆえの執念は凄いなと思いながらも替えの武器が来るのは助かることではある。壊れた初代スタンロッドも扱いにくいというわけでもなく、その改良型となれば今から振るうのが楽しみだとすら思っていたりするのだが、同時にそう言えばと昨日の夜にレイミィに伝えられたことを思い出した。
『あぁそうそう、ホークスからだけど今回の作戦用の武器の件。どうやら明日の夜にはホークスが届けに来る話になってるみたい、まぁ受け取るのは私なんだけど』
公安が態々便利屋の人間にというのも中々に彼としては笑える話ではあるが、向こうも積み上がった借りを返済するのに一生懸命なだけである。最も、じゃあそれで返し切れるかと言えば無理だろうとも血染は思っているが。
なんて感じの二人の後ろでは先程も述べたようにプッシーキャッツ、ブラドと会話をしている残りの便利屋の面々が居るのだが。
「ふぅむ、つまり部長さんはフリーってこと」
「え、あぁまぁうんそうだね。便利屋やってると出会いなんてまるでないから」
「……」
何故かピクシーボブがグイグイと来ることに圧紘は割と本気で困惑していた。確か始まりは年齢の話からだっただろうか、そこから便利屋での仕事、何が出来るか、そして今の会話から分かるように彼女とかは居ないのかという話に。
そこまで繋がれば彼は別段鈍感でもなんでもない男性、向こうの会話の意図が分かるというものであり、だからこそさてどうしたものかと本気で頭を回転させていた。
「もしかしなくても超優良物件なのでは?」
(うわぁい、今のおじさんは聞かなかったことにしていいかなぁ?)
「これちょっと面白い展開になってません? ていうかヒーローが灰色万歳な集団の一人に目をつけるってその辺りどうなんです?」
「え、別に個人の自由だからピクシーボブが良いならいいんじゃないか、な?」
良いのかよと言葉にせずに仁と火伊那は思う。だが圧紘が優良物件だという点においては二人も同意できる話であり、実際に日常だとそういった感じに声を掛けられることも実を言うと無いわけではない。
無いが便利屋をやってるといえば大体は勝手に退いていくので今回もそれで乗り切ろうとしたのだがまさか受け入れられそうになってることのは圧紘としても想定外であり、誰か助けてくれないかなと周囲に目を向ける、が
「ふむ、あの短時間で此処まで纏めてもらえるとは」
「この程度のことはお茶の子さいさいってやつですよ。まぁやったのは私じゃなくて血染くんや圧紘くん、火伊那ちゃんですけど」
「俺も文にするのは苦手なんだよなぁ。その分、実践訓練じゃ馬車馬の如く働いてるが」
「いや、なんで私よりも長くやってるお前らが苦手なままなんだよ……」
おっとこれは誰も手を差し伸べるつもり無いねと冷や汗をかく圧紘。なお、その後は個人の連絡先まで踏み込んできた彼女を何とか凌いだらしい、だが諦めた感じもなかったので期間中、無事に過ごせるのかと思う圧紘なのであった。
そこから時間は進み無事にA組もB組も夕食のカレーを完成させ、食事を始め数分と経った場面。味は平凡としか言えないもののこういう状況下で作るからこその相乗効果で絶品と言えるカレーを楽しみ、大体が終わって落ち着いてきた頃合いを見てレイミィが席から立ち上がり。
「ちょっと良いかしら!」
「ん、どったんレイミィちゃん」
「今日は皆に話しておくことがあってね。そろそろ気になるでしょ、彼女の正体ってやつ」
いつの間にかそこに居たのだろうか、仮面をしたままの火伊那がレイミィの隣に立っていた。確かに生徒たちからすれば彼女のことはホークアイという明らかな偽名もといコードネームで呼ばれている便利屋の中では一番の新参ということと戦闘力がプロヒーローとも引けを取らないくらいに強いということくらいしか分からない。
放課後特訓に付き合ってもらっている勝己たちもある程度は勘付いている部分もあるものの確証には至っておらず、なので興味を惹かれないわけもなくカレーを食べる手を止めてそっちに注目する。
全員の注目が自分たちに集まったのを見計らってからレイミィは満足げに頷きつつ、では紹介しましょうと隣の火伊那を肘で小突けば、火伊那ははいはいと言う感じに仮面を外しヘアピンの機能をオフにして髪の色を元に戻したのを確認してから。
「あ~、と、紹介に上がった便利屋チェイテ平社員の筒美 火伊那。そうだな、レディ・ナガンって言えば少しは伝わりが良いか?」
「……レディ・ナガンって確か昔にヒーローを殺したとかでタルタロスに居るって話じゃ」
恐らくは兄であるインゲニウムから聞いたことがあるのかもしれない天哉が記憶から引っ張り出したという感じに呟けば、続けて八百万がハッとした表情を浮かべる、彼女も今のを聞いて思い出したのだろう。
ともすればどうして便利屋にという話になるのだが、レイミィは不思議なことに不満そうな表情を浮かべており、これには火伊那が何だその表情はと聞けば。
「なんか、思ったよりも反応が薄いわねって。もっと騒ぎになると思ったんだけど」
「そりゃお嬢ちゃん、私のあのニュースはかれこれ10年以上前だぞ? 熱心なヒーローオタクならまだしもなぁ?」
「ヒーローオタク、あ、そうじゃない、緑谷はどうしたの? あとどうやってタルタロスからって質問に関しては禁則事項ってことにするわ、まぁそうね、麗日たちはなんとなくでも分かるんじゃないかしら?」
それよりも緑谷はどこ行ったと聞けば、焦凍が皿に盛ったカレーを持って森の中に消えていったとのこと。なお、何となく分かるんじゃないかと言われた麗日達は当初は首を傾げたが直ぐに彼女がやろうと思えばこの国を無政府状態に出来る話を思い出して青褪めた表情をした模様。
勿論、周りにどういう意味だと聞かれるが彼女たちからすれば下手に話せるわけ無いじゃんこれ! という案件なので曖昧な笑みを浮かべながらごめんなさい話せないですBOTと化すしかなかった、誰だって死にたくないのである。
こんな空気の中、レイミィは火伊那に後を任せ、出久が消えたという森の方角へ飛び上がり捜索を開始、とは言っても分かりにくい場所に居たというわけでもなく森の木々に隠れるように出来ていた高所の崖のところに二人が居るのを上空から目視。
レイミィはとりあえず二人にバレないように更に上の木の上に着地して耳を傾ければ聞こえてきたのは洸汰の叫びと出久がそれに対しての自身の体験を友人という形で伝えている内容。
(ったく、口下手なのに何とか伝えようとしちゃってまぁ)
互いの言い分は彼女にしてみれば分からなくもないという話。洸汰は〝個性〟に対しての怒りと否定を、出久はその考えを否定はせず、だが否定だけじゃ洸汰が辛くなるだけだということを。
もっとも洸汰が彼の言い分を素直に受け入れられるわけもなく、出てけと叫ばれカレーだけを置いて退散することになるのだが。そこまでの流れを見ててレイミィは流石に彼を一人でというのは色々とマズいだろうと洸汰が空腹に負けてカレーを食べ始めたタイミングで音もなく距離を離したところの崖の淵に座る形で着地、それから
「どうかしら、私も手伝ったカレーのお味は?」
「っ!? ゲホッゴホッ!? お、おま、おまえなんでここに!!!」
「あぁ~、ごめんなさい、ほらお水」
そりゃ驚くかと思いながら念の為にと持参してきた水筒を取り出して渡せば、奪い取るように受け取って飲み始める洸汰。少しして落ち着いたタイミングで改めてなんで此処にと聞かれれば
「緑谷がカレーを持ってどっかに消えたって言われてね、気になって来てみればって話」
「ケッ、じゃあ盗み聞きしてたってことかよ」
「……そうね、仕事柄、そういう癖が付いちゃってて。そこは謝るわ」
実際、聞かれて良い気分ではないだろうと謝罪の言葉を述べるが洸汰の返事はなく、またカレーを食べ始める音だけが空間に響く。特に会話もなく、ただただ食事の音と森の木々が風に揺れる音をレイミィが聞いていると
「何も言わねぇのかよ。聞いてたんだろ、さっきの会話も」
「言えるような立場じゃないし、何言っても納得できないでしょ。貴方から見れば便利屋も同じなんだし」
「違うって言いたいのかよ」
「どうなのかしらね。私達はただ今の社会がおかしいと思って変革させたいって思って便利屋をしてるつもりだけど」
ヒーローだけに全部を押し付けて無責任を貫く社会を、洸汰のような子供を生み出してしまう今のあり方を変えたい、設立時からの理想からは変貌しつつあるがそれでも根っこは変わっていない。
だからこそ便利屋と言うヒーローじゃない存在でも誰かのために動ける組織があるということを世間に知らしめようと動いている。今も昔も、そこだけは変わっていないと洸汰に、いや、彼女自身が確認するように語っていく。
「誰かがただちょっと手を差し伸べるだけでいいのに、それを誰かに任せて自分たちは良いことがあれば称賛し、都合が悪くなれば非難する。そんなのおかしいと思って動いているつもりなんだけどね」
「……んなことして意味あるのかよ」
「意味があるかどうかじゃないわ、誰かがやるかやらないかって話よ。動く人間が誰も居ないんじゃ何も変わらない、だからこそ私達が……私が全部を賭けて動いてるの」
〝全部を〟その一言が洸汰にどう聞こえたのだろうか。彼は気付けば空になっていた皿を持ったままレイミィの方を向いた。そこに居たのは風に靡く髪を気にすることもなく座った場所からの光景を眺めている憂いを帯びた横顔の彼女の姿。
端的に言えば見惚れてしまったと言えるだろう。洸汰にとって新しいタイプの人間だったということもあるし、同時に昨日の温泉での一件を思い出してしまってのもあり尚の事、魅力的に見えたのかもしれない。そのまま、呆けるように眺めてしまっていたがレイミィが顔を動かす気配を感じれば直ぐに空になっている皿に視線を落とす。
「あら、食べ終えたのね。んじゃ、帰るわよ」
「未だ此処にっておい、来んな!!」
「時間が時間だってのに置いてくわけ無いでしょ、ほら立って」
「ささ、触んな!!! 一人で立てるっての、あとそれ以上は寄るな! つか、一人で帰れるっての、じゃあな!!」
はっきり言えばただの照れ隠しでありその証拠に洸汰の顔はこれ以上にないほどに真っ赤にしているのが分かる。恐らくはその昨日の温泉での一件が尾を引いているのだろう、だがレイミィはそうじゃなかった、逃げるように去っていく洸汰を見送ってから、麗日達の所に戻るのだがそこで彼女が見たのは明らかに落ち込んでいるレイミィの姿、どうしたのかと聞けば
「私って洸汰に嫌われてるのかしら」
「って言うと?」
その時点で耳郎は流れを大体察した、察したうえでとりあえず聞いておくかと思うのは彼女自身の善性だろう。因みにこれは耳郎だけではなく昨日の温泉事件を知っているA組も同じである、そして返ってきた言葉に、クラスメイト全員の気持ちが一つになった。
「さっき洸汰を一人っきりで帰すのはマズいと思って一緒に戻ろうとしたら触んなとかそれ以上は寄るなって言われてから逃げられたのよね」
(めっちゃ落ち込んでる)
でも残当何だよ、その反応されるのはさ。これがクラスメイト全員の総意だったが流石にこの事を彼女に教えなかったのは良心と突いたら本気で泣かれそうな空気を感じ取ったからだった。
この空気のまま時間は更に進み、23時、宿泊施設から離れた森の中、人の気配も何も無い暗闇の中でレイミィは一人待ち人を待っていた。
ピクシーボブを圧紘に迫らせたのは特に意味はありません、でも年齢近いんだよなこの二人って思い出しただけです。
便利屋メモ
レイミィは実は子供好き