事の始まりは宿泊施設に戻ってから女子組の部屋で寛いでいた時、レイミィのスマホが着信を知らせたところからになる。
すぐに取り出して画面を見てみれば届いていたのは通話ではなく、ショートメッセージの着信。その内容は〝注文の荷物をお届けに上がります〟、送り主は誰かと見てみればホークスの名が。
(ま、この時間帯に送ってくるのなんて貴方だけよね)
ともすればこの荷物というのは例の血染用の武器2つだろうとの判断もレイミィは直ぐに分かることであり、それを見てから彼女はぐっと立ち上がり雑談を楽しんでいるクラスメイトに少し便利屋の方を見てくると伝えてから部屋を出る。
だがすぐには指定の場所には向かわない。彼女的には向かっても良いのだが相澤達に一言入れておかないと後で絶対に面倒が発生するだろうなという一応の気遣いである。
「ってことで少し外に出るわ」
「分かった。言うまでもないと思うが気をつけろよ、この合宿場所も既にバレてるんだからな」
「勿論よ。それと多分だけど今夜も彼が動くから、頼むわね」
「待て、昨日の時点で青山は情報を流した筈だ」
相澤の言う通り、合宿初日の夜には青山はこの場所を夫妻に話しておりだからこそ、なぜ今夜も動くのだと聞けばレイミィは笑みを浮かべ答える。
「今日のサプライズよ。向こうが知らない正体が明かされ、しかも裏の人間からすれば知らない者はいないだろうビックネーム、伝えない理由はないわよね?」
「だから今日、急にってことか。初日で声を掛けなかったのは油断を誘う為だな?」
「流石、相澤先生。えぇ、一度成功したなら僅かだろうと気が緩むものだからね、警戒はしつつも情報を流すって行動は必ず起こしてしまうものよ」
特に素人であればあるほどその傾向が出やすい、これがもしその筋の人間ならばそんなボロは出さないと思うが青山はどう足掻いても脅されているだけのただの学生、自分の行動に親の命が掛かっているとは言えそこまで考えろというのは酷というものだろう。
「まぁそんな訳だからよろしく、戻ってきてからそっちの部屋に全員で向かうから」
「全員でというのは明らかに圧だと思うんだが。まぁ分かった、任せておけ」
因みに全員で向かう理由は便利屋として彼と相対するからである。ということでレイミィは相澤と別れた後に指定された場所に向かって、前回の最後に繋がる、時刻にしてそろそろ22時を越えようかというところ、メッセージからしてそんなに掛からないと思っていたのだが思ったよりも到着が遅いことに怪訝な表情を浮かべてから。
(まさか、しくじったとかじゃないわよね?)
ホークスのことは無論、彼女も全幅な信頼を寄せてはいるがそれはそれ、この世に絶対というのはないのでもしかしたら向かっている途中で何かトラブルにでもあったかと考えていれば、月明かりが雲が掛かるのとは違う影が頭上を覆う。
これがもし
「少し遅かったんじゃないかしら、ホークス」
「悪いね、お嬢様。これでも警戒に警戒を重ねて飛んできたもんだからさ」
軽口を叩きながら音も立てずにレイミィの前に着地するホークス、とは言っても素の姿はヒーロー活動中の
更にその手には長方形の大きな武器ケースのようなものを持っており、僅かに周囲を警戒する素振りを見せてからいつもの好青年という感じの笑みを浮かべて
「はい、ご注文の品物だよ。まずはこっちが公安から今回の作戦でのみ使用を許可されてる副所長さんの武器」
「確かに。中身は?」
「I・アイランドにて開発された試作品。鞘に納めた状態では強力なスタンロッドとして、鞘から抜けば高周波を利用したブレードとなってるらしいよ」
差し出されたそれをレイミィは受け取ってからそう聞き、ホークスの解説に反応を示しつつケースを開ければ中には機械仕掛けの鞘と同じく若干SFチックな見た目の刀、パット見ただけでも相当な代物だと分かり彼女は思わず笑ってから
「随分と信頼されてるようね。たかが便利屋にこんな上等な品を用意するなんて」
「お上も君からの借金を返済しようと頑張ってるから。でも今回の作戦が終わったら回収するからそのつもりで、あとこっちがサポート科からの贈り物」
今度は腰から取り出されたのは昨日、壊れた発目作のスタンロッドの二代目。見てくれの変化はあまり見られないが受け取った感想としては若干重量が増しただろうかというところ。
恐らくは耐久性を高めた際にどうしてもというところだろう。けれどサイズなどは変えずに済ませている辺り彼女の技術力の高さと将来性が見て取れる、いや、と彼女は呟いた。
「あの娘、もしかして更に腕を上げてる……?」
「パワーローダーが言うにはメキメキと上達してるってさ。あぁそうだ、伝言ももらってて合宿から帰ってきたらサポート科に顔を出してくれだって、何でも新作を幾つか作ったから見てほしいとか」
「そう言えば、緑谷も発目を頼ってるとか聞いたけどその影響もあるか。ともかく、ありがと、向こうには了解したって伝えておいて」
「畏まりましたお嬢様。それじゃ、夜も遅いし俺も面倒にならない内に帰るとするよ」
より正確に言えば長々と居て、
「じゃ、私は帰るとするわね、色男」
「へ、いや、お嬢様これってもう居ないし……えぇっと」
音もなく飛び上がりながら二つ折されたメモを開いて書かれている内容を確認してみれば、書かれていたのはウサギと電話のマーク。普通であれば何だこれはとなりそうだがホークスにはこれの意味することがすぐに分かってしまった。
だったら態々こんな回りくどい伝え方をしなくてもと思ったが恐らくは赤霧を警戒してのことだろうと納得しつつ、適当な所で彼は彼女からの頼みを遂行することに。ホークスがそんな事をしている同時刻、宿泊施設に戻ったレイミィは早速、預かった品を血染に渡していた。
渡された方は無言のまま手に取り、立ち上がって両方を数度振るえば、ほぉと声を上げ
「流石、最新技術で作られた品だ。軽く、それでいて重量もあり悪くない。発目の作品もだ、寧ろこのくらいの重さのほうが俺としては扱いやすくて良い」
「なら良かったわ。ただ公安からの品は後で返却ですって」
「そこは当然だろうねぇ。それにしてもいつの間にか血染が一番の重装備になっちゃってるね」
「言っても切り込み隊長になりやすいんだし、今回は一番ヤバい相手とやる合うことを考えれば仕方がないと思うがな」
「レイミィちゃん、私もなんか新しいのが欲しいです!」
「いや、被身子はそのナイフ一本で十分だろお前」
やれやれ自由ね相変わらずとレイミィは呟きつつ、今回の合宿が終えたらサポート科が新作を幾つか作ってから見に来てくれと言われたと伝えれば、被身子は楽しみだと言わんばかりの表情を浮かべる。
なお、他の面々はまぁ良いんじゃないかなという程度の反応である。大人組はあればいいけど無ければないで何とかする精神の持ち主なのである。と此処でスタンブレードとスタンロッドをケースに仕舞った血染から一言。
「お前が帰って来る少し前に相澤から青山を部屋に呼んだと連絡が来てるぞ」
「掛かったようね。全員準備、教師陣の部屋に向かうわよ」
内容は語るまでもないだろうとレイミィが部屋から出れば、血染たちも頷いてから後に続き、割と物々しい雰囲気のまま相澤達が居る部屋に前に到着、ノックをすれば間を置かずに入室許可が降り扉を開ければ
「え、バートリーくん? 君も相澤先生に呼ばれたのかい?☆」
相澤達の前に座りながら普段通りの振る舞いをしようとしている青山の姿。だがレイミィ達にはそれがあまりに痛々しいと思える姿でもあった、明らかに動揺し、焦燥をしている声、恐らくは昨日と同じように家族に情報を連絡しようというタイミングで相澤に声を掛けられてしまったのだろう。
そして、彼はこう思っているはずだ。内通がバレてしまったのだと、だからこそ焦りと恐怖が入り交じる声と目の色をしているのだろう。そんな彼を見据えたまま、レイミィはこう告げた。
「いいえ、貴方を呼んだのが私なのよ」
「君が? だったら明日でも……」
「今のこのタイミングじゃないと駄目よ。青山優雅、そして〝内通者〟さん」
告げられた言葉に青山は目を見開きレイミィを見る。その両隣では血染と圧紘が万が一に備えて何時でも動ける状態になっており、また相澤も既に個性を発動させており、ヴラド及びプッシーキャッツの一人【虎】こと茶虎柔も控えている。
ここで彼は自分が始めから内通者だとバレており、今このタイミングで接触してきたのだと気付く。気付き、自棄になったのかもしれない、青山は諦めたように笑い出してから
「なんだ……全部バレてたんだ」
「えぇ、入試のときからずっと知ってたわ」
「……え?」
バレていたのは分かったがまさかそこからとは全く思っていなかったのだろう、青山から出てきた声は素っ頓狂な物だった。同時に血染たちもまぁそういう反応になるよなとこれは彼には同情の念を送ってしまう。
よもや本当に始めから全部知られていた状態で泳がされていたなんて夢にも思わないだろう。
「入試からずっと貴方を監視してたわ。だから全部知ってる、USJの時も、今日までのA組の動きを全部AFOに筒抜けにしてることも、そして今回の強化合宿の宿泊場所も流していることも。何より……」
それら全てがご両親を守るために事だってことも。淡々とレイミィが最後の言葉を告げた刹那、青山の表情が焦りだけのものに変わり、彼女へ懇願するような目で見つめる。
言葉にしなくても何が言いたいかは分かった。両親は関係ないと告げていると、これは全て僕自身が勝手に行っていただけのことなのだと。
「ぱ、パパンとママンは関係ない、何も関係ないんだ!!」
「悪いけど、その言い分は通らないし通さない。言ったでしょ、全てを知っていると」
「違う!! 僕が、僕が全て悪いんだ!!!」
「落ち着け青山、バートリー!!」
茶番が過ぎると言外に相澤に、ではなく部屋に居る全員から非難の視線を浴びせられればレイミィはバツが悪そうな表情で頭を下げる。とは言っても唐突になんで下げられたのだと青山はなったが謝罪の次の言葉で何度目かの驚愕の表情を晒すことになった。
「ごめんなさい、ちょっと遊びすぎたわ。それとご両親のことなら安心して、私達便利屋が手を打って公安が保護してるから」
「え、いや、でも家には……あっ」
そんなわけ無い、家に二人は居るはずだと答えようとしたが今日の特訓なので便利屋がやってたことをよくよく思い出して声が漏れた。そう、便利屋の部長こと仁が〝個性〟で他のヒーローとかのコピー体を作り出していたなと。
他のヒーローを作り出せるということ、つまりは他人の完璧なコピーを作れるということは自分の両親だって作り出せるということだと繋がるまでに時間は掛からない。
「ほ、本当に、パパンとママンは」
「身の安全は保証されているわ。どこに、ていうのは私も知らされてないから答えられないけど、今回の合宿が終えたら公安から貴方に連絡が行くはずだからすぐにでも判明するでしょうね」
「そういうことだ青山。それとだが今回の内通に関しても始めから知ってたというのはさっきも言ったが、俺達はそれを利用してたんだ」
「貴方が情報を流すということは逆を言えば、向こうの動きを手玉にとる事が出来るってことだからね、寧ろお礼を言いたいわ。青山、貴方のお陰で今日までA組、ひいてはヒーロー科から被害が出ずに済んでいたわ」
だから、ありがとう。真っ直ぐな、余計なものが何一つ無い感謝の言葉を聞いて、青山はついに泣き始めた。自分は許されない行いをしててクズだと罵られるのがお似合いだと思っていたというのに、出されたのは純粋な感謝という現実に抱えていたものが溢れてしまったのだろう。
そんな姿の青山に周りの大人も優しい言葉と気遣いを見せ、便利屋の面々は一人の少年がやっと救われたことに息を吐き出し、レイミィは彼の側に向かってから目線を合わせてから
「よく頑張ったわね。あとは私達に任せて、必ずAFOを終わらせてあげるから」
「うっぐ、うん、あ、ありがどう!」
「あぁ、よしよし、にしてもこんな精神状態で今日まで過ごしてたとか強いわよ貴方は本当に」
縋るように泣きついてきた青山に驚く素振りもなく宥めるように頭を撫でるレイミィ、その光景と少し前の彼女の行動を見て被身子は聞こえるように感想を述べた。
「今日までに二人の男子の情緒が壊されてるんですけど、あれってもう罪に問えそうですよね」
「何を言ってるんだ、お宅の秘書は……」
「すまん、割とよく意味が分からなくなるんだこいつは」
こうして青山優雅という一人の少年は鎖から解き放たれ、その場は解散、解散時に青山の表情が赤かった気がするがそこは誰も見なかったことにして各々は部屋に戻り、既に寝ている女子組を起こさないように布団に潜るのだがその4時間後には彼女は起きて、持ち込んだノートパソコンを叩いていた。
画面に映っているのは合宿場の周辺マップ、それと無数とも言える赤い点、彼女はそれらを眺めつつ時折、指令を伝えるかのようにキーボードを打ち込む作業を繰り返す。これが意味することが判明するのは後日の話……
そう言えば赤霧側の話を全く書いてないことに気付く今日このごろ、次回はそっちにするか、そのまま進めるか。コレガワカラナイ
便利屋メモ
公安から送られたスタンブレードのデザインはMGRの雷電が使ってたあれを思い浮かべてもらえれば大体そう。