便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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両者はいよいよ衝突する。


No.125『そして始まる』

 強化合宿三日目、本日も朝からA、B合同にて各々の個性伸ばしが行われていた。とは言ってもやる内容自体は多少の変化あるものの、大凡は同じであり、その上で上がった分だけの負荷もきっちりかける方向で鍛え上げていくことに。

 

 無論、便利屋も総出でその手伝いに入っておりレイミィは昨日に続いて鉄哲の〝個性〟強化のために一方的な攻撃を繰り広げていた。しかし今日は彼だけではなく、もう一人居るという点では昨日との変化だろう、その人物とは

 

「うぐぐぐぐ!!」

 

「気ぃ引き締めろ切島ぁ! 少しでも緩めたら死ぬからなこれ!!」

 

「わかって、らぁ!!!」

 

 思ったけど切島の〝個性〟も叩けば強くなるのよね。レイミィの悪意も何も無い思い出したという感じの言葉に補習もあり眠気などで覚醒してなかった切島は一気に目が冷めた。

 

 彼は思い出してしまったのだ。昨日の鉄哲が行ってた地獄という言葉も温いと思わせるレイミィの特訓内容を。正気かよとも言える光景に、そしてその矛が今自分に向けられたのだと。

 

(いや、俺の〝個性〟を伸ばすなら確かに最適解なんだろうけどさ!)

 

(昨日よりも威力も速度も上がってねぇかこれ!?)

 

 息を入れる暇もない乱打の嵐に何とか耐えている切島の隣で鉄哲は明らかな威力の変化に驚愕していた。昨日の時点でも気を抜いた時点でボコボコにされるのは分かりきっていたのだが、今日のはまるで違う。

 

 例えるとするなら昨日のはまだパワー系の〝個性〟からの乱打だった。でも今回のはそれを超えている、かなり大きめの鉄球を凄まじい速度でぶつけられ続けているそれに近い感覚を覚えていた。

 

 一撃一撃を受け止めるたびに身体が悲鳴を上げる。絶対と信じている鉄の身体が、硬化した身体が屈しそうな攻撃に心まで負けを認めそうになるが二人はそれを振り切る、此処で折れたら何がヒーローだと。

 

「くっはぁ……はぁ……」

 

「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ」

 

 果たしてどれほどの時間が経ったのだろうか、と二人は思うが実際は数十分程は経過した時点で一旦乱打の嵐は止んだことで倒れ込むように地面に寝転んで息を整える切島と鉄哲。

 

 今まででも経験がない程に〝個性〟を維持しひたすらに耐えた、まだ実感らしいものを二人は感じられないが恐らくは〝個性〟も伸びているだろうと思いつつ上半身を起こしてレイミィの方を見て勝てねぇと互いに感じていた。

 

(マジかよ、息一つ上がってねぇぞ)

 

(ただ耐えてただけの俺等よりもスタミナ使ってるはずだってのにな……)

 

 視界の先には動き回ったので汗や髪が多少乱れてはいるものの息一つ上がっておらず、それどころか体の調子を確認する余裕すら見せているレイミィの姿。

 

 これが実戦経験の差かと思わずにはいられない二人だったのだが彼女が自分たちの方に顔を向けた瞬間、それどころではなくなった、と言うのも

 

「ば、バートリー、鼻血出てるぞお前!?」

 

「まさか適当に振った拳が当たっちまったか!?」

 

「……は? ってあれ、本当ゴホッ」

 

 本人的には喉に違和感あるな程度の感覚で咳き込んだつもりだった、だったのだが咳き込んで勢いでピシャという音が聞こえそうな勢いで口から吐き捨てられた血の塊と手の甲で鼻付近を拭き取った際に付着した血を見て不愉快そうに顔を歪ませてから。

 

「ちっ、やっぱり〝個性〟の強化に身体が追いつかなかったか」

 

「いやいやいや、何冷静に分析してんだよ!! せ、先生、バートリーが!!」

 

「騒ぐほどじゃないっての」

 

「どうしたって何があった!」

 

 あぁもう面倒なことになったというのを隠すつもりのない溜息を吐き出しつつ、慌てて駆け寄ってきたヴラドにこの症状についての詳細を話すことに。

 

 曰く昨日の夜と今朝の朝食後にプッシーキャッツ及びB組女子に事情を説明し吸血したこと、それによって更に【吸血姫】が強化されたまでは良かったのだが身体がそれに追いつかなかったから反動によって鼻血と軽い吐血をしてしまったということ。

 

「流石に急激に強化をしすぎたってだけなのよ。馴染めば起こらなくなる症状だから気にしないで頂戴って言って納得しないわよね、はぁ、とりあえず10分休憩ってことにするわ」

 

「お、おう、いや、そうだ鉄哲」

 

「あぁ今、俺もそれを思い付いたぜ。構えろ切島」

 

 自身的には問題なく特訓を再開できるのだが、周りがそれを許さないと分かっているのでレイミィが休憩を言い渡すも二人は頷きあったと思えば〝個性〟を発動、そして

 

「行くぞぉ!!」

 

「来いやぁ!!」

 

「……あぁまぁ、良いんじゃない? 程々にしなさいよ」

 

 二人が始めたのは単純明快な殴り合い、だが自分たちの〝個性〟を鍛えるとすれば確かに有効な手であり、しかもただ耐えるだけのものとは違って格闘戦の経験値も詰めると考えれば確かに妙案とも言える特訓だろう。

 

 もっとも避けるということはやらないので経験値が急激に集まるかと言われればレイミィは疑問を覚えなくはないが、何もやらないよりは遥かに良いということで触れないでおくことに。

 

「ふぅ、悪いわね。なんか面倒かけて」

 

「それは別に構わないのだが、本当に問題ないのか?」

 

 大丈夫と答えようとするもそのタイミングでヴラドが呼んだのか、はたまた騒ぎが聞こえたからなのか相澤と便利屋の面々とプッシーキャッツのラグドールがやってきたのだが彼女は〝個性〟の【サーチ】でレイミィを見た瞬間、目を見開いてから

 

「今日はもう運動はやめておいたほうが良いよ。心臓、内蔵、筋肉や神経、それに脳。とにかく至る所が大きなダメージを負っててこれ以上の運動は致命的な物になりかねないから」

 

「まるでプリンセスを使った時みたいな感じだね。所長、ここはラグドールさんの言う通りにしたほうが良いかもよ」

 

「……そうも行かないでしょ、とりあえず三十分休んでそれから考えるわ」

 

「血を吐いた奴を動かせるか。あとはコピー体か他の奴に任せておけ。特に今日はお前が要なんだからな」

 

 〝要〟その言葉にレイミィは息を吐き出してから地面に座り込む。その際に被身子がパイプ椅子がそこにあります! と叫ばれて座り直すことに。

 

 座ってから彼女は自覚することになるのだがどうやら身体は思ってよりも反動を受けていたようでドッと疲れを感じ、そこでまた舌打ちをする、分かってはいたことではあるがまさか此処までとはという感情なのだろう。

 

「厄介な状態ね、たかが訓練程度の動きで此処までの反動に襲われるなんて」

 

「これ、プリンセスを使ったら本当に無事じゃ済まないですよ……どうにか使わないで済む作戦とか無いんですか?」

 

 ラグドールの診断で判明した今のレイミィの身体の状態に被身子が不安な声と表情でそう言葉にするものの彼女も分かってはいるのだ、相手はそんなに甘くない存在だということを。

 

 今回の相手は(ヴィラン)の中でも上澄みも上澄みの集団、本気で挑んでやっとだと考えるのが自然だろうし血染たちもそう思っているからこそ残酷なまでに被身子に現実を突きつける。

 

「赤霧に素の状態で勝てるならって話だが、可能だと思うか?」

 

「無理だな、はっきり言えば赤霧は今の嬢ちゃんよりも強いと考えるべきだろう、そもそも本気すら出してないだろうしな」

 

「今の私でプリンセス使ってやっと同じ土俵って所でしょうね。とりあえず休んでおくわ、殻木からの報告だと今回の襲撃、思ったよりも戦力を集めてるらしいし」

 

「裏の人間でもかき集めたのか? だとすりゃここで一網打尽にすりゃこの国の(ヴィラン)はかなり減りそうだな」

 

 仁の言葉にレイミィは首を振る。そうだったら物事はものすごく簡単に済んだだろう、しかしAFOはこちらの動きに何か違和感を感じたのか、もしくは殻木の裏切りにでも気付いたのか彼は一手打ってきた。

 

「神野にある脳無保管庫からそれなりの数を動かしたらしいわ。しかも殻木が手を加える前にね」

 

「流石にこちらの思惑通りにとは行かないってことか。そう言えば、死柄木達の行方は?」

 

「相変わらずって感じ。殻木が言うにはAFOも掴めてないみたい、目立たないってわけじゃないのにここまで見つからないのはちょっと気になるわね」

 

 自身は万全とも言えず、AFOは的確な一手を打ち、一番の懸念事項である死柄木組の行方は不明という状況に眉間を揉むレイミィとそれを見て各々思考を巡らす便利屋面々。

 

 その場ではとりあえず警戒を更に強め、せめて不意打ちを受けない状況を作り出すということで解散となりまた〝個性〟伸ばしの手伝いに入るということになった同時刻、都内のマンションの一室に彼らは居た。

 

「……」

 

 ここは所謂億ションとも言われるマンション、その寝室とも私室とも言える一つの部屋にて赤霧は目の前の状況を見て無表情のまま溜息を吐き出していた。

 

 そこにあるのはベッドの上と床で寝ている二人の存在、片方は言うまでもなく死柄木、そしてもう片方は彼がオンラインゲームで知り合ったという異形型の〝個性〟持ちである【伊口 秀一】の姿。

 

「おや、帰ってましたか赤霧」

 

「これはどういう状況だ、黒霧」

 

「どうと言われましても、昨日も遅くまで二人でゲームをしてたという感じかと」

 

 それは分かっていると再度溜息を吐き出すと同時に頭痛を感じたのか頭を手で抑える。因みにだが伊口が死柄木達と合流したのは元々は拠点に困っていた死柄木達を彼が迎えたからであり、今も行動してるのは死柄木達の目的に賛同してからである。

 

 最も現状では現場に出るというよりは一般人であることを利用した情報収集や裏方が主になっているが、だが何れは足が付くことを懸念した赤霧と黒霧によってこのマンション最上階の一つを家主に魅了を掛けることで〝合法的に〟居候する形で拠点にすることに成功。

 

 以降は黒霧のワープや魅了を掛けた家主、或いは通販を利用することで極力自分たちの露出を抑えてレイミィ達やAFO達からも存在を隠し続けているというからくりとなっている。

 

 だが自由に動けないが物資は潤沢という状況がよろしくなかったのだろう、死柄木と伊口は若干自堕落な生活を送ってしまい、それが赤霧の目の前にある今の光景になっている。

 

「おい、起きろ二人共」

 

「んが? んだよ……まだ朝だろ」

 

「うぅ、もう、朝か……」

 

「さっさと起きろ、今日は例の日なんだぞ」

 

 若干苛立ちながら赤霧が言えば渋々と起き始める死柄木、伊口は単純に寝不足で頭が覚醒してないだけなので起こされることには文句はないらしい。

 

 ともかく彼らからすれば赤霧が言ったように今日は例の日もといAFOから指示された襲撃の日、そして自分たちの目的の一歩目を飾る大事な作戦の日でもある。

 

「んなことは分かってるっての。でも夜だろ? まだのんびりしてていいじゃねぇか」

 

「今回の襲撃のために集められた(ヴィラン)との顔合わせがある。昼間には一度前の拠点に戻る必要があるぞ」

 

「はぁ、めんどくせぇ。どうせ切り捨てるんだから良いだろ」

 

「駄目だ。形だけでも私達はAFOに離反してないというのは見せておく必要があるからな、分かったなら準備をしろ」

 

 ざっくりと切り捨てるような言い方ではあるが正論ではあるので死柄木はそれ以上何も言わずに準備を始める。それを見てから赤霧は部屋から出た所で黒霧から今回のことで何処まで上手くいきそうなのかと聞かれる。

 

 言ってしまえば、こちらの動きは全て便利屋及び雄英高校にはバレている。ならば襲撃はどう考えても負けると、そう聞けば、だろうなと呟いてから。

 

「どちらにせよ、死柄木が言ったように今回集まった連中は脳無ごと切り捨て、敗走という形を取るのは作戦通りだ」

 

「ならば知られている方が好都合、と。おっと、そうでした、切り捨てると言ったところ申し訳ないのですがその中で一人が我々の目的と賛同したのが居まして」

 

「……その辺りはお前に任せる」

 

 切り捨てるとは言いつつも自分たちの戦力が圧倒的に足りないのは確かであり、来るというのならば拒むつもりはないと言う赤霧の態度に黒霧はお辞儀を一つしてから己の準備に入る。

 

 一人残された赤霧は適当な椅子に座り、窓から外を眺めていると寝間着から着替えた死柄木と伊口が部屋から出てきて、あくびを一つしてから赤霧が

 

「それにしても良いのか? 私が取り込むってことで」

 

「お前も言ってただろ、俺が取り込むと不都合が起きる可能性があるって。なら赤霧が取り込むほうが良いだろ」

 

「なぁ疑うわけじゃねぇんだが、それはそれで大丈夫なのか?」

 

「私はそこまで軟ではない。ヤツの意識くらいは抑えるのは造作でもないだろう。それにどうであれ今後のためにも誰かが取り込む必要があるからな」

 

 彼らの会話の意味は本人たち以外にはまだわからない。そのまま時間は過ぎていき、日が落ち夜の帳が下りた時刻、敵連合は合宿場所の付近に展開。

 

 数は脳無も含めて十分とは言い切れないが手筈通りであれば【マスタード】という(ヴィラン)の〝個性〟【ガス】での奇襲で戦力差は詰めれる、と思った所でふと赤霧は【マグネ】の言葉で疑問を覚えた。

 

「何も知らずに肝試しなんて、ヒーローは油断でもしてるのかしらねぇ」

 

「(……そうだ、向こうは私達の動きを知ってるはず。だと言うのに生徒が孤立しやすい肝試しを? いや、違う!)死柄木、総員に警戒するように伝えろ!!」

 

「あ? 急にどうしたってんだ赤霧」

 

「既に罠に嵌められ……」

 

 彼女が言い切るよりも前に通信機からマスタードの悲鳴が聞こえ、それから森の各所で戦闘音が発生、騒然となる敵連合に対して宿泊施設から出てきたレイミィは笑いながら呟いた。

 

「〝一手〟気付くのが遅れたわね、赤霧。こちらレイミィ、便利屋、プロヒーロー、ヒーロー科、そして全コピー体に報告、狼達が罠に嵌まったわ」

 

 告げる彼女の側に現れるのはコピー体のラグドールとマンダレイ、何処から来るかがわからないのならば監視の目を数に物を言わせればいいという話であると少女は反則なまでに手札を伏せたのである。




次回から色々と話しが動くと良いなって!

便利屋メモ
スピナーこと伊口は原作違って表に出てこず裏方専門。また死柄木とは割と真正面から友人として付き合っている状態になっている。
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