敵連合の襲撃開始からどのくらい経ったのだろう、なんてことを思いつつ私は森を駆け巡っていた。流石にこれだけ木々があると飛ぶのはちょっと危ないのよね。
別段、避けれないってわけじゃないんだけど不意打ちとか受けやすくなるし。って今はそんなことはどうでもいいわね、確かコピーのラグドールと仁からの報告だとこの辺りって話だったんだけど……
「っ!!」
反応できたのは吸血によって能力が強化されていたお陰だった。視界の隅、位置にして自身の真横から見えた僅かな光、直ぐに振り向けば見えたのは迫ってくる〝蒼い炎〟。
やっと食いついてきたと思うと同時にまだ距離があるというのにハッキリと感じる直撃すれば致命的と言い切れる体感温度だけを見ればエンデヴァーを超えているかもしれないと思いながら羽根に意識を集中させ思いっ切り羽撃かせればって!?
「きゃっ!?」
「うぉ!?」
ちょ、ちょっとこれは想定外なんだけど!? これじゃまるで保須市での赤霧並じゃないの。お陰で炎を払うだけのつもりだったのが前方の木々が若干薙ぎ払われたみたいな感じになっちゃってるんだけど……
でもまぁその御蔭で視界が晴れたし、晴れた先に探し人が居たんだから結果オーライってやつよね。それはそれとして驚かしちゃったようでごめんなさいね。
「全くさ、全力じゃなかったとは言え結構本気で撃ったんだけどなぁ。流石、ヒーロー社会で便利屋なんてのをやってるだけはあるってことか?」
暗がりからぼやきながら出てきた一人の青年。確かに背格好は今どきの青年と言えるかもしれない、けれどその肌は焼け爛れたかのようなケロイド状のものであり、所々には移植した肌を固定するための金属製の留め具も確認できた。
そんな殻木からの資料と寸分違わずと言える姿の彼を見て私は笑みを浮かべるのを堪える、やっと、やっとだ。私の希望的観測から始まり、エンデヴァーの一つの情報から始まった追いかけっこが今此処で実を結んだのだ。
「やっと見つけたわよ、荼毘。いえ、そうね、ハッキリと言うべきよね【轟燈矢】」
「へぇ、俺のこと知ってるんだ、レイミィ・バートリー」
私がその名を告げれば驚いたようなセリフを吐き出すけど込められているのは動揺もあるのが分かる。それはそうだろう、
だからこそ、それが何処から漏れたのか気になるでしょう。いえ、貴方なら何処からかなんて考えなくても分かるはずよ、だって答えなんて一つしかないんだし。
「あぁそうか、エンデヴァーか」
「当たらずとも遠からずってところね。正確に言えば轟家からよ、便利屋としてってのもあるし個人的に付き合いがあってね」
どういうわけか向こうは戦闘態勢に入っていない。始めの炎も挨拶代わりだったのだろう、挨拶代わりで迎撃か回避をしてなかったらこんがり焼けてたんだけど。
ともかくそういうことだと話せば、向こうはふぅんと興味無さげという感じの反応を見せる。とは言えそれはポーズでしかない、彼からすればどうして自分の名前が出てきたのかという話があるでしょうからね。
「あの家族が、ね。死んだって思われて既に忘れられていると思ってたんだけど」
「……人ってのは簡単に家族を忘れることなんて出来ないわよ」
「どうだか、エンデヴァーなんか最後まで俺のところに来なかったってのに」
本当にあいつは……!! 思わず彼に同意して愚痴に乗ってあげようかと思う感情をぐっと抑え込んで、代わりに深めの溜息を吐き出す。一応、エンデヴァーからはその時の話も聞いているし、そん時に一発殴ってもいる。
来なかったと言うか、行けなかった理由も聞いてはいたんだけど、忘れた。まぁあいつの言い訳なんてどうでもいいわ、ここからどうやって話を持っていこうかしらと考えてから、慎重に言葉を切り出そうとして、その口は止まることになる。
「それに失敗作の俺よりも成功作の焦凍のほうが大事だろうしなぁ。じゃなけりゃ、山火事から三年経っても焦凍に執着なんてしないだろうし」
「ん? 待ちなさい、なんで知ってるの?」
「家まで帰ったからな、まっ、それを見て何も言わずに去ったけどいっ!?」
気付けば私は燈矢に向けて平手打ちを放っていた。彼の肌の状態もあるから力こそ入れてないけど速度だけは乗っていたので辺りにはパチンッ! なんて言う小気味良い音が響いたのが自分の耳に届いて行動に気付いたんだけど。
いえ、それよりも今は大事なことがある。なに、え、貴方、轟家まで戻ってたっての? 三年前ってことは冷さんは入院してたかもしれないし私達もまだ介入してない頃よね多分。
けど、戻ってたのよね? それで? エンデヴァーが焦凍に執着してるのを見て捨てられたと思って会話一つもしないで失望して逃げたと? はぁ?
「バッカじゃないの!!! なんでそう、轟家の人間ってのは抱え込んですれ違って、それを摺り合わせないで勝手に拗れていくのよ!!!!」
「な、何言ってんだお前……」
「それはこっちのセリフよ! 失敗作だから? エンデヴァーが当時どう思ってたかなんてどうでもいいけどね、他はそうじゃなかったわよ!」
貴方の話を聞いたとき、誰もが沈痛な面持ちだったわ。夏雄さんも冬美さんも後悔してた、何か出来ることがあったんじゃないかって、そうすれば貴方が死ぬこともなかったんじゃないかって。
あのエンデヴァーですら行ってあげなかったことを延々と後悔して、誰もが死んだと思い込んでた中、あいつは探し続けていたわ、まぁ焦凍への仕打ちは更に酷くなったのは褒められたものじゃないわね、もう一度殴られればいいわ。
「んだよ、それ、そんな都合の良い嘘を信じろってか!?」
「嘘じゃないわよ! それにね……!」
冷さんはずっと後悔し続けて仏壇の前で手を合わせる度に貴方に謝ってるのよ!! 精神を病んでる頃からずっと、入院してた時も、私がカウンセリングに入ってからも、そして退院してからも、絶対にあの人は貴方に謝り続けてるの!
「夢にまで見るほどに後悔してる人が貴方を捨てる? 冗談でも笑えないし私が許さないわ」
自分でも今までにないくらいに激怒しているのが分かる、それくらいの表情と声で燈矢に感情的に叫びをぶつけた。そりゃもう声は辺りに響くでしょうし、
それでも叫ばずにはいられなかった。あの家族は皆、轟燈矢のことで後悔しているんだと、ただ私が知っている事実を彼に教える、だからこそ私は便利屋として貴方の捜索の依頼を受けたということも。
「……」
「それに焦凍は貴方と話したいって言ってるわよ。何も知らない燈矢兄のことを知りたいって」
ふぅと息を整えつつ周囲に警戒をする。あれだけ叫んだのだ、間違いなく
表情は俯いているのといつの間にか離れてたから距離があって暗がりなのもあってよく見えない、ブツブツと何かを言ってるようにも聴こえるんだけど流石に耳が良くなったりはしてないのよね、身体能力に全振りすぎないかしらこの〝個性〟。
「後悔してる……? ハハッ、んで? だから何だってんだよ」
「あなたが今日までどんな感情で生きてきたかなんてのは私にも分からないし、エンデヴァーに対する憎悪についても否定はしない。でも……」
「知るかよ、あぁ、もういい、お前は生きて連れてこいとか言われてたけど……燃やしちまったってことでいいよな?」
蒼い炎が彼の両手から溢れ出るのを見て自分の選択が悪手だったと舌打ちをしてしまう。一気に情報を与えすぎたと、憎悪によって今日まで生きていた彼に対して真っ向から否定するような希望を晒しすぎた。
ハッキリ言えば焦ってしまったとしか言えない凡ミス、こうなってしまっては説得は何とか彼を無力化してからじゃないと厳しい、そう思い戦闘態勢に入った私と感情のまま蒼い炎を撃ち出した燈矢の間を氷の壁が遮り、炎によって溶かされ、水蒸気が辺りを包んだ。
誰か、なんて言うまでもないしこんな事を出来る人間は一人しか知らない。なので水蒸気が晴れ、私を庇うように立っていた焦凍の姿を見てもさして驚かずに
「よく此処が分かったわね、焦凍」
「バートリーの叫び声がよく聴こえたからな」
「ハハッ、ハハハッ、まさかそっちから来てくれるとはな、焦凍ぉ!」
「……燈矢兄さん、だよな」
顔を見てハッキリと焦凍が聞けば、燈矢は私が名前を呼んだ時のようにへぇと笑みを浮かべてから、分かるんだという感じに口を開く。
それに対して焦凍は怯むことも何もなく、そっかと呟いてから彼の目を見て思ったままのことを伝えた。
「ずっと会いたかった」
「あ?」
「俺には燈矢兄の記憶はないし、何も知らない。だからバートリーと親父から生きてるって話を聞いた時、話をしたいって思ってた」
話してる内容はついさっき私がしたのとそんなに変わらない、けれど部外者でしかない私がするよりも家族であり焦凍が口にするということに意味があるのだろう。
反応が劇的にとまでは言わないけど、違った。さっきまでの信じられないというものではなく、信じた上で冗談だろという感じのものに、自分が知っているエンデヴァー像と食い違っているからこその反応なのでしょう。
「エンデヴァー……が?」
「えぇ、私が言っても信用ないでしょうけど。貴方が、轟燈矢が生きているという情報を始めに見つけ出したのは、悔しいしムカつくけどエンデヴァーよ」
私の希望的観測とは違う確実な情報が無ければ、焦凍達に話すのも遅くなってしまって今この場で彼がここにいることは無かったかもしれない。
だけどエンデヴァーの情報があったからこそ轟家全員が燈矢の生存を改めて信じることが出来て、焦凍が今この場に現れることが出来た。
「夏兄も冬姉も母さんも、話がしたいって言ってた。謝りたいって、親父なんか土下座でも何でもするって言ってた」
「あいつの土下座? ハハハッ、それは観物だな」
その光景でも想像したのかもしれない。燈矢はお腹を抱えて笑い始めた、いやまぁ家族からの言葉だからだってのもあるのでしょうけど、反応が違いすぎないかしら?
そりゃ便利屋の所長でしかない私があーだこーだ言ったところで信用ってのがまるでないのは理解できるけど、そこまで信じられなかったのかしら。
「当たり前だろ、何も知らない人間に実はこうですって言われてはいそうですかって言えるかって話だ」
「バートリーはちょっと胡散臭い部分あるから、分からなくはないかもしれない」
「喧嘩なら兄弟ごと買ってあげるけど!?」
なんでそんなに打ち解けてるのかしらねぇ、と言うか確かに兄弟かもしれないけど一応、相手は
「そりゃな、けど此処までの話が嘘じゃないって分かっちゃうとな。なぁ焦凍、夏くん達は元気なのか?」
「うん、夏兄は家を出てるけど最近はよく帰って来て話をするし、冬姉も元気に教師の仕事をしてる。母さんも最近まで入院してたけど、バートリーのお陰で退院して親父を尻に引いてる」
「ブフッ、クックク、マジかよ……!」
「親父は変わったって言えば変わったと思う。厳しいのは相変わらずだけど、昔みたいな理不尽さは無くなったと思うし燈矢兄のことも今もずっと探してる、あ、いや、これは皆か」
「変わってなかったらそれこそどうだよって話になるけどな。でもそっか、そう、か」
呟くように言葉を発してから燈矢はストンとその場に座り込む、その顔は邪気が抜かれたかのようにも目的を失って燃え尽きそうになっているようにも見えた。
実際、もしかしたら目的を失ってしまったのかもしれないと思う。憎悪を向けていた相手からは自分のことを忘れているどころか、本気で後悔し、今も探し続けていて家族も同じだと言われればそうもなるでしょう。
でもそれだけでエンデヴァーが燈矢にしでかした過去は消えない、消してはならない。だからこそ私は座り込んで彼の側まで近寄って手を差し伸べながら告げた。
「ねぇ、もし良かったらあの日、貴方が踏み出せなかった一歩を踏み出してみない? 夏雄さんと昔のように話して、冬美さんにもあの日の感情をぶつけてみて、焦凍とはこれから沢山の会話をしてみて、エンデヴァーをぶん殴りたいっていうのなら協力するわ」
「……」
「それと、そうね。何も轟家に戻れっていうわけじゃないわ、ただ冷さんに貴方の元気な顔を見せてあげてほしいの」
あの人の後悔を貴方の生きてる姿を見せて溶かしてほしい、我ながら酷い口説き文句だと思ったのは秘密よ。でも本音でもあった、だからこそ私はこちらを見つめる燈矢に向けて、続ける。
今日までよく使ったあの言葉を、結局のところ、私は彼にこう言いたいってだけなのよ。
「そのための住む場所や働く場所、その身体のことも、前科云々もどうにかしてあげる、だから便利屋チェイテで働いてみない?」
それはそれとしてエンデヴァーはクソよクソと言い放つレイミィと燈矢は居ると思う。