便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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131話でやっと新技を会得する吸血姫が居るらしい。


No.131『更に、向こうへ』

 まだ相対しただけだと言うのにこのプレッシャーか。オールマイトと共に何時でも動けるようにしながらそんなことを思っていた。

 

 AFO、話だけはレイミィと公安、それから特訓時に暇な時にオールマイト本人から聞いてはいた。今の裏社会を支配している魔王、その力は全盛期のオールマイトが後遺症が残るレベルの負傷をしてやっと倒せたという程の存在。

 

(なるほど、これなら確かに納得しかない)

 

 向こうはただ構えも取らずに佇んでいるだけ、それだけだと言うのに感じる重圧と得も言われぬ寒気、背筋に冷や汗が流れていることすら感じ取れれば自分が緊張しているのだと嫌でも血染は自覚させられた。

 

 だからこそだろうか、己を落ち着かせるために隣のオールマイトへ声を掛けた。

 

「笑えよ、オールマイト」

 

「む?」

 

「お前は平和の象徴なんだからな。あの程度の(ヴィラン)、笑ってぶっ飛ばせ」

 

「は、HAHAHA!! そうだね、あぁ、すまない、その通りだ! さぁ覚悟しろ、AFO!」

 

これが幸運にもオールマイトには救いの言葉だった。自身が取り逃がした宿敵を弱体化した自分でやれるかという感情で気付けば顔から象徴である笑みが消えていたが血染からのその一言で自分を取り戻しビシッと指をAFOに突き付け宣言する。

 

 対してAFOはその宣言に笑うという形で答えてから、スッと手を前に突き出す。〝個性〟を使うつもりかと血染が警戒するよりも前にオールマイトが叫んだ。

 

「覚悟しろ? それはこっちのセリフだよ、オールマイト」

 

「マズイ! 私の後ろに下がっててくれ!! 【TEXAS SMASH】!!」

 

 刹那、大質量を持ったとしか思えない風圧と風圧がぶつかり合い、周囲一帯が衝撃波と粉塵を撒き散らしながら文字通り吹き飛ぶ。

 

 叫び声で出された警告に咄嗟に近くの物陰を壁にしつつ、粉塵から目を守るように覆った両腕を外した血染が見たのは今までで見たことがない程の本気で攻撃を仕掛けるオールマイト、血染から見てもそこらの(ヴィラン)であれば、一秒と掛からずに鎮圧できているそれを素手と〝個性〟による反撃と防御でいなしていくAFOの姿を見て

 

(化け物が……!)

 

 ギリッと歯を食いしばり、息を吐き出して肩の力を抜く。ここで力み、オールマイトの援護に行ったところで足手纏いにしかならない、更に言えば彼はオールマイトと肩を並べ戦うために居るわけでもない。

 

 己の役目はAFOを確実に仕留めるための策の札の一枚に過ぎない。故に動くにしても実行に移されるまではオールマイトの支援に徹すること、ここで重要なのは支援でも【凝血】を狙ってはいけない部分。

 

(まだAFOは俺の〝個性〟は把握しきれてないはず、仮にどうなるかは分かっててもトリガーは判明できてない)

 

 なので向こうにそれを悟らせないためにも戦闘をしつつ〝個性〟は発動できないと錯覚させなければならない。そこまで整理して引き攣った笑みが溢れる、これをあの魔王相手にやれというのは中々にハードな内容だと。

 

 だがそれでも彼は実行する。手に持った刀に力を込め、オールマイトとAFOの嵐としか言えない乱撃の応戦、そこに生まれる僅かなオールマイトの隙を潰すかのように

 

「疾ッ!!!」

 

「おっと、いけないいけない、もう一人居たのを忘れていたよ。でも君程度が出てきたところで彼の足を引っ張るだけじゃないかな?」

 

「なんだ、お得意の煽りってやつか。だとすりゃ意味ないな、そんなことは十全に理解してる、理解した上で格下の戦い方ってのをしてるだけだ」

 

 右腕を切り落とそうと振るった一撃、最速のもとで放たれたそれを難なく回避され煽ってきたAFOに対して血染はそう答えてから即座に離脱、でなければ次に遠慮も何もなく撃ってくるであろう攻撃に吹き飛ばされるからである。

 

「助かったよ、副所長くん! 【DETROIT SMASH】!!!」

 

「ふむ、やはり酷く衰えているねオールマイト。昔の君ならそこの彼ごと吹き飛ばす威力だったはずだ」

 

(駄目だ、オールマイト任せじゃ攻めきれてない。殻木も引き抜いて弱体化させてこれなら、鍵になるのは火伊那か、頼むぞ)

 

 渾身のストレートでさえ、AFOは同じ〝個性〟を乗せた右ストレートで相殺。それを見て血染は視線は送らないが別地点で潜伏している便利屋の狙撃手、火伊那に後を託す。

 

 一方、託された火伊那は戦場となっている地点から約3km離れた場所の建設中のビルの最上階に光学迷彩マントを羽織りその一瞬を狙っていた。

 

「……ふぅ、こりゃ思ったよりも難しいな」

 

 スコープ越しからでも分かるオールマイトとAFOの戦闘の苛烈さ。巻き上がる粉塵と〝個性〟によって飛ばされるビルの瓦礫、更に余波とも言える衝撃と暴風、これだけでも狙撃の難易度は現役時代よりも遥かに高くなっている。

 

 だと言うのにターゲットはオールマイト相手に普通に張り合い、〝個性〟を利用した瞬間移動染みたことまで行うということに火伊那はこう思うしか無かった。

 

(この仕事終わったら絶対にボーナス要求するからな)

 

 じゃなきゃ割に合わないってのと思いつつもスコープから目を離すことはしない。もっと言うとすれば周囲の警戒も最低限だけ、何故なら一瞬に集中したいからもあるが便利屋の仲間を信頼しているから。

 

 向こうが、レイミィが自分を信じこの策を提案してきたから。彼女は言った、火伊那ならば射程距離ギリギリの狙撃も成功できるでしょ?と挑発でもなんでもない、真面目に出来ると思っている真面目な表情で告げられ、火伊那は出来ると頷いた。

 

(頷いたなら私は応えるだけだ。それに……)

 

 態勢を直すついでに他の地点を見る。オールマイトが戦っている地点からまた別の場所では紅と紅が高速でぶつかり合っているのが分かった、レイミィと赤霧が戦っている。

 

 ほぼ姿が認識できないほどの速さでの戦い、打つかる度に聴こえる相殺音と交差しながら上空に上がる二つの紅い軌跡、上がりきってから距離を取り上空を彩る紅と紅の鎖の弾幕。

 

 その弾幕を互いに潜り抜け、衝突すれば今度は片方が大きく吹き飛ばされ地面に叩きつけられ直後にもう片方が追撃の一撃を狙うが、それよりも早く叩きつけられたほうが復帰し回避、そこまで見てから火伊那はオールマイト達の方に視線を戻し、チャンスを伺いながら

 

(結構な人数から血を吸ったってのにそれでも、か。けど戦闘にはなってるしお陰で距離を離せてる、あとは撃つだけ……焦るなよ私、なに、簡単だろ? 殺す必要のない狙撃なんてのは)

 

 心でそう思いながらも、彼女は焦りを感じないわけではなかった。あの戦いで叩きつけられた紅はレイミィの方。吸血を行い、強化された〝個性〟【吸血姫】によるリスク度外視のプリンセス状態の彼女でも赤霧に一歩届いていない。

 

 それでも援護射撃は行えない。だからこそ信じる、彼女ならば大丈夫だと、そしてレイミィの信頼に応えるべくこの狙撃を必ず成功させるのだと。

 

「ぐっかっこほっ……ハァ、ハァ(あと一歩、本当に一歩なんだけど遠くて、届かない!)」

 

「私を殺すんじゃなかったのか、なぁ!」

 

 果たしてこうしてビルに叩きつけられ回避するのは何度目だろうかと数えるのも億劫になりつつレイミィは赤霧の追撃を避けつつ、反撃でブラッドチェーンを放つ。

 

 放ちつつ一気に加速、距離を離すと見せかけ【吸血姫】の力で紅い爪を右手に展開し切り裂きに掛かるがそれを赤霧は同じ力で弾く、がその力は以前戦ったよりも強く弾いた後に反撃に出るのに遅れれば距離を取られることに。

 

「っ、やはりと思ったが何人の血を吸った? まぁいい、お前も化け物として生きる覚悟ができたようで何よりだ」

 

「20人ほど協力してもらっただけで化け物に堕ちたつもりはないわよ。いえ、化け物と言われようとも私には関係ない、貴女と違って独りじゃないのよ」

 

「便利屋、か。なぜそこまで民衆の味方をする、無責任で無知なくせに差別だけは立派な愚かな連中を」

 

 告げた赤霧の声には憎悪が込められていた。理由は言うまでもなく彼女自身の過去だろう、レイミィもそれは知っているがだからといって肯定できるわけではない。

 

 確かにそうだろう、彼らは無責任に人を追い立てる。ただ便乗し他人を叩き、結末がどうなるかを知りながらも止めることが出来ない、愚かと言われれば確かにそうでしょうねとレイミィだって頷ける。

 

 それでも彼女は赤霧には賛同できない。彼女は被害者だろう、謂れもない噂で化け物扱いされてしまった悲劇のヒロインだったかもしれない、だが。

 

「実力に訴えたらそこまでなのよ。特にヒーローが、それをやってしまえば認めたと思われても仕方がないわ」

 

「訴えてはなかったさ、エルジェーベトの時はな。だが誰も聞く耳を持たなかった、ならばもう残された手段は殆ど存在しないだろ?」

 

 対話してこないのならば実力を持って後悔させる。或いは自覚させるというのかもしれない、化け物として扱ったがゆえに貴様らの平穏は全て壊れていくのだということを。

 

「黒も白も全て壊す。一度リセットすれば差別も何も無くなるだろ?」

 

「トンデモ理論やめて頂戴、ぶっ壊したところで何も変わらないわよ。変えるんだったら筋を通し知らしめる方が効果がハッキリ出るわ」

 

「……呑気なものだな、その間にどれほどの犠牲が出る?」

 

「武力よりは出ないわねぇ」

 

 これ以上の話し合いは無駄だな。レイミィと赤霧の思考が一致した瞬間、先に動いたのはレイミィだった、一瞬とも言える速さとそれを乗せた渾身の蹴りを放つ。

 

 その蹴りを赤霧は先程の威力から受け止めるのは危険だと判断したのか、身体を逸らすことで回避した勢いでムーンサルトの要領で蹴り上げを撃つがレイミィはそれに合わせるように拳を打ち付ける。

 

 刹那、轟音が響いてから負けたのはレイミィだった。拳と蹴りではやっぱり不利だったかと彼女は思いながら吹き飛ばされる形で間合いを開こうとするが赤霧がそれを見過ごすわけもなく追撃のために距離を詰め、腹部へ拳を振り下ろす。

 

「何度もやられるかっての!」

 

 来るのは分かってたとばかりに振り下ろされた拳を両手で抑えてから、軸にして身体を回転させて首に牙を立てようとするがさせるかとばかりに腕の力だけで赤霧はレイミィを無理やり投げ飛ばす。

 

 投げ飛ばされたレイミィは空中で受け身を取ってから地面に音を立てながら着地、直ぐに攻勢に出ようと身体に力を込めた時、彼女の心臓が不自然な鼓動とともに跳ねた。

 

「えっ? あっがぁ!?」

 

 心臓の異変を理解するよりも前に身体中を駆け巡る激痛に声を上げるレイミィ。彼女はこの痛みを知っている、知っているからこそなぜこれが今起きたのか理解できなかった。

 

(プリンセスは解除してないのに、なんで反動が!?)

 

「反動か、そうだな、その身体じゃ吸血姫の全力に耐えられるはずもないからな」

 

(まさか、一定時間の使用でももう保たないってこと……っ!)

 

 本来であればヴァンパイア・プリンセスを解除してから発生するはずの心臓への反動、だが吸血で強化したことで解除しなくともそれが起こるほどに彼女の身体は耐えられなくなっていた。

 

 心臓を抑え立ち上がれないレイミィに赤霧が近寄る。その姿を脂汗を流しながら見つつ、どうにかしようと激痛で禄に回らない頭で無理やり考えを巡らす。

 

(や、ばい、このままじゃ。どうする、どうする、どうする!)

 

「苦しいだろ、元々は私の不始末とも言える。ならばここで……」

 

 スッと赤霧が腕を振り上げれば紅い刃が展開される。それはさながら処刑人の刃のようであり、このまま振り下ろされればレイミィ・バートリーの人生はそこで終わりを告げるだろうことは想像に容易い。

 

 だから足掻く、この状況を打破できる策を、〝個性〟まで総動員させてまでどうにかするのだと。と、ここまで考えて彼女は閃いた。

 

(この身体は〝無個性〟だから【吸血姫】を適合できなくて力に耐えられない。だったら適合させてしまえば……?)

 

 振り下ろされる刃、このままじゃ死ぬ。だがもしこの方法を取ったとしても恐らくはただでさえ長くない己の時間を更に短くしてしまうかもしれない、けれどとレイミィの目が紅から深紅に染まる。

 

 【吸血姫】と言う詳細不明の〝個性〟と呼ぶにすら殻木が言うには怪しいこの力を全力にする、今よりも先へ、そう、彼女がやろうとしていることは雄英高校の校訓。

 

「【ヴァンパイア・クイーン(更に、向こうへ)】!!」

 

「なにっ!?」

 

 血を吐くような叫びとともにレイミィ・バートリーの身体を深紅の血が包み、爆発したかのように弾ける。弾けた際の衝撃により赤霧は一気に吹き飛ばされ、そして見たのは

 

「なるほど、こうなるのね……」

 

 大人の姿、もっと正確に言うとすれば全盛期の姿に変化したレイミィ・バートリーだった。




まぁ、勿論ながらデメリットは大量にあるんですけどね、皆様。
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