便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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後書きにて更新についての話がありますので読んでもらえると助かります。


No.132『悲劇は終わらない』

 レイミィ・バートリーからすればこれは一か八かの賭けでしか無かった。そもそも身体を作り変えるに近いことが出来るかどうかすら今日まで試したことがなく、半ば悪足掻きに近いとも言えるものですらあった。

 

 だが、彼女はその賭けに勝った。勝って振り回されていた〝個性〟に適合することに成功することが出来た、だが

 

(思ったよりもギリギリと言うか、ヤバい橋を渡っちゃった感でしか無いわね……)

 

 はっきり言えば今の彼女に余裕なんてものは全くない。というのもこの状態を維持するだけでも削れてはいけないものが凄まじい勢いで削れているのを感じ取れるからだ。

 

 恐らくは長々とこの状態を維持することは自分の命に関わることであり、ここからは短期決戦だとレイミィが一歩踏み出せば、出力の違いに驚愕することになる。

 

 彼女としてはさっきまでの感覚で踏み込んだつもりだった。だと言うのに次に認識した時にあったのは赤霧を通り過ぎ数メートルほど先の位置、もはや誤差だとかそういう問題ではないことに咄嗟にブレーキを駆けながらレイミィは悪態をつく。

 

「ちょちょちょ、冗談でしょこれ!?」

 

「(今のアイツに出せる速さじゃない、ともすればさっきの技はそういうことか)制御できないか、なら問題にはならんな」

 

「言ってなさい、次はないわ!」

 

 一度動いてしまえば、感覚は修正できるのが彼女の強みであり仕切り直しだとばかりに赤霧に襲いかかる。まずは慣らしだと言わんばかりに単純な打撃での攻勢に出るがそれだけでも互いに驚く形になる。

 

 明らかに先程までと出力が違いすぎると。同時にこれは本当に長々と使ってて良いものじゃないとも理解すればレイミィの攻撃は激しさを増す。

 

 蹴り、殴り、僅かな隙に差し込むように撃たれる鎖、更には強化された深紅の爪による斬撃すら加われば赤霧も段々と防戦に回る場面が増え始める。

 

「くっ」

 

「はぁぁああ!!!」

 

 ひたすらに攻め立てる、決して向こうに主導権は二度と握らせないとばかりに。これだけ見れば誰もがレイミィが赤霧を上回ったと思うだろう、けれど実情はそんな甘い話はない。

 

 実際は赤霧が本気を出してても全力を出してないからの優位性でしか無い。その証拠というべきだろう、優位には立っているというのに直撃は未だに与えられていないのだ。

 

 これだけの能力の向上をさせたというのに一撃も。その事実がレイミィに焦りを生ませていく、自分が使える全てを利用しての攻撃でも赤霧に届かない、僅かな距離が埋めることが出来ないということに。

 

(クソ、あと少しなのに!!)

 

(チッ、思ったよりもキツイな。裁けないわけではないがこのままだと押し切られなくはない……か)

 

 だが逆に赤霧に余裕があるのかと言えばこちらもそうではない。捌けているのは自身の今日までの経験値があってからこそであり、それでも想定外の動きに対しては若干だがダメージを負い始めている。

 

 仮にこのまま膠着状態に近いことを続けていれば何れはレイミィに破られる。それでは自分たちの作戦が遂行できないのは分かりきっているからこそ赤霧は奥の手を切ることを考え始めていた。

 

(とは言え、これを安易に切りたくはないのだがな……)

 

 だがそうも言ってられないか。レイミィ・バートリーが己の想定を上回る強さを見せつけているのは確かであり、ともすれば自分も全力を出さなければならない現状が目の前にあるのは確かな事実。

 

 故に赤霧は決断する。これをこの場に居るオールマイトや他の便利屋の面々、そして遠方から聴こえてきている報道ヘリを通し他のプロヒーローにバレるのは手痛いことではあるがと。いや、違うなと彼女は自嘲気味に笑う。

 

「あぁ、そうだな。どうやら私はお前が越えようとしていることが嬉しいのだろう」

 

「は? グッ!?」

 

 唐突に吐かれた言葉に虚を突かれ蹴りが直撃し距離を離されるレイミィ。今までとは違う動きにヤバいと感じ取る、明らかに何かを狙っての行動だと、ともすればさせるわけ行かないと爪を展開、一気に距離を詰めようとした時、背筋が冷え自身の中で何か嫌なものが膨れ上がった。

 

 今のレイミィが一瞬だけでも恐れた。ならば絶対に阻止しなくてはならないと竦みかけた身体に活を入れ、間合いに入ると同時に最速で振り下ろされた深紅の爪は甲高い音とともに赤霧の腕に阻まれ、目を見開くことになる。

 

「(嘘、さっきまでの感覚ならこれを防ぐことなんて)ぐっぬぬぬ!!!」

 

「なぁ、ここまで戦っててお前は疑問に思わなかったのか? 自分が強化技を使えるのにどうして私はやってこないのだと」

 

「それは貴女が出来ないだけでしょう、が!」

 

 防がれはしたがそれでも阻止は出来るはずとそのまま四方八方からの攻撃を継続させる。光景だけを見れば少し前と同じ、だが戦っている本人からすれば明らかに違ってきていた。

 

 攻撃の通りが悪くなっている、それも僅かとかではなく明らかにと言うレベル、考えられるとすれば一つだけだろう、つまり。

 

(まさか、そんな……!)

 

「本当ならば使うつもりはなかったのだがな。【RedMist(深紅の悪魔)】」

 

「っ!?」

 

 静かに唱えられた一言。それを聞いた刹那、レイミィは防御態勢を取りながら全力で跳び退いた、己が出せる全力で、目の前の赤霧から逃げるように。

 

 次の瞬間、赤霧を中心に紅い霧が渦巻き、何かが外れる地面に落ちたような音が響く。その間に距離を十分に離したレイミィは赤霧がやろうとしていることに気付くと同時に本格的に焦りの表情を浮かべる。

 

 彼女が使った技がレイミィと同じものだとすればまた互角、或いは若干でも上回られてしまうと。渦巻く霧が晴れる直前、赤霧が放ってきた技を見るまではそう思い込んでいた。

 

「慣らしも要らんだろう、行くぞ」

 

 不思議と耳に届いた赤霧の声に反応するようにレイミィは自身の目の前に壁になるように上空に飛ばしたコウモリから鎖を何十、何百と重ね合わせて展開、更に自分自身も爪を展開する要領で盾のようなものを作り出して守りの体制に入る。

 

 と同時に渦巻いた霧ごと横薙ぎの紅い一閃がレイミィを、そして周囲のビルや建物を襲い掛かった。その威力は建造物の大半が一撃で両断され、レイミィも鎖は勿論、防御のために展開していた盾がほぼ全壊になってギリギリ止められたが後方に一直線に吹き飛ばされるほど。

 

 その余波はAFOと戦闘しているオールマイト達にも届き、何事かと彼が叫びAFOがクツクツと笑いながら答える。

 

「どうやら彼女が全力を出したらしいね。どうするオールマイト、急がないと便利屋の彼女が死ぬことになるよ?」

 

「踊らされるなよオールマイト、あいつがそれで死ぬやつじゃないってのは俺が保証してやる。もしそれでもというのならばさっさと目の前のことを終わらせるぞ」

 

「大丈夫だとも、バートリー少女のことは信じているからね!」

 

「ふむ、嫌につまらない男になってしまったねオールマイト。君ならばすぐにでも助けに向かっただろうに」

 

 挑発を繰り返すAFOだったがオールマイトからの次の返答が渾身のストレート、彼も決して信じ切っているわけではない、明らかに先程までとは違う攻防の音に焦りがないというわけでもない。

 

 けれど作戦前にレイミィはオールマイトに言っていた。何があっても貴方の仕事をやり遂げろと、だからこそ彼はAFOとの戦いに集中する。それが彼女の助けに一番なると分かっているから。

 

 そしてそれは血染も同じだった。レイミィの実力から考えれば全力を出してきた赤霧にどこまで彼女が喰らいつけるかが不確定要素であるが自分が向かったところで何か状況が好転するわけでもないが故にこの場から離れずオールマイトの支援に徹している。

 

(だが、こっちも想定以上に長引いているのは確かだ。まだか、火伊那!)

 

「とか思われてんだろうな、だがワリィな。AFOが思ったよりも上手く動いて狙えねぇんだ」

 

 今この場で一番焦っているのは火伊那だろう。ハッキリ言えば、撃つタイミングがまるで訪れないのだ、僅かな切っ掛けでもあれば撃ち抜ける自信はあるがそもそもその隙がないとなれば話が変わってしまう。

 

 もしかしたらAFOは便利屋に火伊那が居ることを知っている、もしくは想定しているんじゃないかという動きを見せてきては彼女の焦りを増幅させてしまう。

 

(ふぅ、落ち着け、こういう場面は現役時代にもあっただろ?)

 

 あの時は果たしてどれほど我慢比べをしただろうかと当時を思い出し落ち着かせ、意識を集中させる。その時に別の箇所からレイミィと赤霧の更に激しくなった戦闘音に大丈夫だろうなと思いつつも。

 

「なん、なのよそれ!」

 

 ほぼ全員からそんなふうに心配されているレイミィは赤霧からの全力の一撃を受け吹き飛ばされ、受け身を取りながら目の前を見据える。

 

 そこに居たのは仮面が外れエルジェーベトだということを隠さない素顔を晒し、身体中に付けられていた拘束具が外れ、先程の辺りを両断した深紅の大剣のオーラを消した赤霧の姿。

 

(赤霧が使ったのは私の【ヴァンパイア・プリンセス】と同じ原理、だって言うのにちょっと強化倍率がおかしいんじゃないかしら!)

 

「悪いがこの状態をあまり長くは使いたくない、決めるぞ」

 

「舐めんじゃないわよ!」

 

 もしここに第三者が居れば出てきた感想は何も見えないだろう。開幕時点ですら影がギリギリ認識できるだろうかという戦いだった速度が、今ではぶつかり合う音でしか戦っていると認識できないのだから。

 

 しかも音自体も互いに威力が大幅に上昇していると分かるほどに爆音、ハッキリ言えば音だけに限定すればどちらでオールマイトとAFOが戦っているのかと分からないと言えばこの戦闘の凄まじさが伝わるだろうか。

 

 ともすれば、その音は戦場に居る全員に届くことになるわけであり、ここで流石の血染も何かがおかしいと気付き始め、オールマイトも同じことを思ったのかAFOからは意識を外さないようにしつつ。

 

「明らかにバートリー少女が戦ってるって音じゃない気がするんだよね!」

 

「……あいつ、まさか!」

 

「あぁなるほど、彼女も赤霧と同じようなことが出来るのならば不思議じゃないか」

 

「何を知っている、AFO!」

 

「クククッ、いや、もしそうだとすれば彼女の命はどんどんと消えていってるだろうなと思っただけさ」

 

 その言葉にオールマイトが更にパンチを繰り出しながら聞き出そうとした時、彼の耳にヘリのローター音が届いた。血染にも聴こえたようで彼は気付くと同時に舌打ちをしてから

 

「思ったよりも早い、流石にこれだけ派手に戦えば飛ばしてくるか。オールマイト、時間は!」

 

「まだまだ余裕さ!」

 

「だが君とおまけの二人がかりで苦戦しているのを彼らに知られれば、どうなるかな?」

 

 オールマイトという誰もが認めるNo.1ヒーロー、彼が現場に付けば物事は一瞬で片がつくと言うのを国民の誰もが知っている。

 

 もしそんな彼が唯一人の(ヴィラン)相手に互角で戦っているとすれば? オールマイトと言えど人間である以上、そういうことは起こり得るというのにメディアは大袈裟に言うだろう、あのNo.1ヒーローが苦戦しているかのように。

 

 そうとなればヒーロー社会の信頼が揺らぎかねない、或いは今のオールマイトはあの時よりも弱まっていると判断して他の犯罪組織が動き出すかもしれない。が、それは起こらないとオールマイトは声高らかに反論する。

 

「なぜならば、ヘリが着くと同時に君は私達に倒されるからさ!」

 

「随分と強気な発言だねオールマイト、なら逆に僕が君たちを潰す映像を全国に流すというのはどうだろうか?」

 

 増強系複数+空気を押し出す〝個性〟を使い場を仕切り直してからAFOは新たに〝個性〟の複合を利用し一つにまとめ上げ、瞬く間に彼の右腕が肥大化を始める。

 

 二人を纏めて一撃で葬るための〝個性〟、流石のオールマイトも今の状況では押し負けるかもしれないというそれを見て彼は……〝笑った〟、と同時に報道ヘリが近くまで飛んできて辺りにはヘリの音とそれに負けない程のアナウンサーの声が響き渡った。

 

《悪夢のような光景です! 突如として神野区が半壊状態となってしまいました! 現在オールマイト氏が元凶と思われる(ヴィラン)と交戦中です!!》

 

「さて全国が見ているであろう状態で、これで君を殴ろ……」

 

「最高のタイミングだ、クソったれメディア共」

 

 火伊那の吐き捨てるような声と共に彼女の〝個性〟が吠える音がヘリの音にかき消され、火伊那の射程距離ギリギリから放たれた弾丸、確かに警戒していたかもしれないAFOと言えどこれだけの音に紛れたそれに気付くのが遅れた。

 

 だがそこは悪の帝王と言われた男だろう。彼は自身に向けられた撃たれた一発の弾丸に辛うじて反応し咄嗟に〝個性〟で作り上げた右腕を盾にすれば頭部を狙ったそれは貫通こそしたが逸らされる。

 

「やはり君たちの所に居たか、レディナガン。だが腕が鈍ったか、或いは焦ったかな? 君ならばこのタイミングで撃つことはしなかっただろうに。さぁどうする? 君たちの切り札は……」

 

「バカが、それが初めから狙ってたんだよ」

 

 AFOは一つ勘違いをしていた。火伊那は確かに切り札ではある、だがそれは仕留めるための物ではなかったのだ。火伊那の目的はAFOに血を出させるだけの一撃を与えることだけであり、AFOを殺すことは初めから考えていなかった。

 

 だからこそ殺気も殺意も乗せていない弾丸にAFOは反応がギリギリまで遅れ、回避ではなく防御を取ることになった。そして、血が出たとなれば血染の本領発揮だ。

 

 狙撃がAFOに直撃するよりも前に斬りかかるように動いていた血染が飛び散った血液を刀身で受け、舐める。たったこの行動でAFOは身体全てが金縛りにあったかのような症状に見舞われた。

 

「チェックメイトだ、魔王」

 

「これで終わりにしよう、AFO!【UNITED STATES OF SMASH】!!!!!」

 

「なる、ほど……! 君の〝個性〟を侮ってい……」

 

 突如身体の自由を奪われるという想定外に一瞬だけ思考が止まってしまったが故に〝個性〟による防御よりも前にオールマイトのトドメと言わんばかりの一撃が彼の顔面に叩き込まれ、その衝撃波は上空の雲をも吹き飛ばしていった。

 

 誰もが確信しただろう。オールマイトが勝利したと、ともなれば後は彼らの勝鬨だけだと、オールマイト自身もそう思っていたし血染もやっとかと息を吐き出そうとしタイミングで火伊那から最悪の通信が入った。

 

《嬢ちゃんがやられた!!!!》

 

「な!」

 

「バートリー!!!」

 

 鬼気迫る通信にレイミィが戦闘していたはずの方角を向いた二人の視界に映ったのは、報道ヘリを庇うように右腕を失い、心臓から左肩にかけ斬られたように出来た傷から夥しい量の血液を流しながら堕ちていくレイミィ・バートリーの姿だった。




この娘、また黒星飾ってる……

因みにですがオールマイトが【UNITED STATES OF SMASH】撃ちましたが、この作品だとまだ残り火に余裕はあるので全力全開の一撃の技ってだけです。

活動時間は大幅に削ったかもですがまだ残っては居ます。

さて、次回の更新についてなのですが明日からパソコンの新調及び来週のモンハンの都合により次の更新は3月の7日となります。完璧に私事で更新を止めて申し訳ございません、ちょっと禁足地の調査してきます。

便利屋メモ
【ヴァンパイア・クイーン】
吸血を十分に行い【吸血姫】を適合したことで使えるようになった切り札。
レイミィ・バートリーとしての全盛期を無理やり発揮する技、早い話がH×Hのゴンさん。
【RedMist】
赤霧版【ヴァンパイア・プリンセス】、いうなれば【赤い霧が帰ってきます】
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