「こちらでも激しい戦闘が行われているのですが、その姿はまるで確認できません!」
そう告げているレポーターの視線の先にはまるで荒廃世界とも思わせるようなビル街を朱と紅がぶつかり合っており、そのたびに周りの建物は更に倒壊していくという光景が広がっていた。
もっともぶつかり合うとは書いたが、それは衝突した際に発生している衝突音と衝撃波と上記の広がっていく被害から周りは分かるというだけであり、誰と誰が戦っているというのは不明なままである。
この場においてオールマイト以外が激しい戦闘を行っている。騒動を報道しに来た数機のヘリの内、一機がその方向に飛んでいき状況を把握しようとするもまるで姿が認識できていない。
言ってしまえば報道記者としての使命感もあったのかもしれない、彼女を乗せたヘリはそれを追うように飛び回ってしまった。もしくは今日まで巨悪な
「え……?」
自分たちが一線を踏み越えてしまったと認識できたのは報道ヘリを庇うように現れた深紅の少女が
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自分の右腕が宙を舞い、肩から心臓辺りまでバッサリと斬られた傷口からは鮮血が壊れた噴水の様に飛び散り、身体から力が抜けていくのと落下を始めている感覚をはっきりと感じながら私は視線を奴に向ける。
「そうだな、私ならそうするさ。だからこそ、隙になるともな」
「やって……くれたわね……」
赤霧の皮肉に答えるために口を動かして出した声にも力が宿らない。そしてあいつの言う通り私は隙を晒し、今こうして致命傷を受けてしまった。
何が起きたかって? 簡単な話よ、呑気に飛んできた報道ヘリを赤霧が落とそうとしたから咄嗟に庇おうとしてしまったというだけ。はっきり言えば見捨てればよかったとすら思っているわ。
でもそれをすれば便利屋の信頼を地の底に落としかねない。だからこそ赤霧の動きを許すわけにもいかずに、って言い訳を並べても仕方ないわね。
(大っ嫌いなメディアだろうと殺されようとしてるのを見過ごせるほど私は非情に慣れなかったってだけよ)
そしてその善性によって生まれた致命的な隙を奴は的確に利用してきたってだけ。もし非情に赤霧だけを殺すために動いていればこんな醜態は晒さなかっただろう。
自分で自分が嫌になる。便利屋や自分を灰色と口にしておきながらヒーローみたいなことをしていることが、本当に……
「所詮、貴様は私だ。何をどう言い繕うとも、いざ誰かの危機を目の前にすれば嫌でも体は助けに向かってしまう」
えぇ、悔しいけどそこは認めるしかないわね。でもこのまま終わるつもりはないわ、血染たちが仕事を完遂したのに私が判断ミスで失敗しましたなんてカッコ悪いじゃないの。
薄れかかってた意識を無理やり引き起こし、飛び散った私の血と傷口、それと肘関節から先が無くなった右腕に〝個性〟を巡らせるように集中させ、言うだけ言って私から意識を外そうとしている赤霧に向ける。
どうやら、奴は私がこのまま落下死すると思ってるらしい、とてもムカつくから一泡吹かせてあげるわ。
「ヴァンパイア……チェーン……!!!」
力を振り絞り叫んだ声に応えるように空間中に飛び散っていた私の血が弾けた。弾けたと同時にそれらは鎖になり赤霧の逃げ場を封じるように広がり、右腕の断面から射出された鎖は異変に気づき振り向いていた赤霧の腹部を貫く、意趣返しって奴よ。
「貴様、まだ動け……っ!?」
赤霧が何か言っているが正直言えばほとんど意識が飛んでて聞こえない、聞こえないけど驚いた表情に私は笑みを浮かべながら鎖を引き寄せ、抱きついた勢いで牙を突き立てた。
突き立てすぐに力の限り、吸血を開始する。宛らあの日の続きというべきかしら、けれどあの日と違って今の私にはしっかりと意識があって、コイツの血の味もそして私は違和感を感じた。
(なに、この妙な感覚。冷さんたちとはまるで違う)
血だけじゃない? いや、そうかこれが【吸血姫】そのもの、ならこれを吸い尽くすことができればこの場でコイツを……とは意気込んでみたけど、吸血する力もだんだんと抜けてきてる。でもこれが残された最後のチャンスなのよ、気張りなさい私
「うぅううう……!!」
「悪足掻きが過ぎるな!」
万全の私なら耐えるか、吸血しながらの回避は容易の蹴りだったが今の私ではどちらの選択も取れず、蹴りの勢いで無理やり引き剥がされ、体が宙に放り投げられたのを感じ取る。
もう、禄に羽撃くこともできない。いくら血を吸ったと言っても致命傷を受けたのは確かで、再生も追いついていないし丁度このタイミングでヴァンパイア・クイーンも解除されてしまった。
つまり完璧な手詰まりというわけね……でも、そうね、不思議と負けたって感じはしないわ、吸いきれなかったけど無視できないくらいには手負いにはできたでしょうし。
その証拠にあいつの顔が歪んでいるもの、だからそうね、私は赤霧に勝ち誇ったような笑みをしながら左中指を突き立てて
「ざまぁ……みなさい……」
(思ったよりも【吸血姫】の因子を吸われたか。やってくれる)
中指まで立てて煽ってあげたのに顔色一つも変えない姿に舌打ちをしたかったけど、もうそれすらもできずに身体は重力に従って落ちていく。
落ちながら思ったけど、思いっきりこれってテレビに流れてるのよね? あ~、知り合い全員に悪いものを見せちゃったかしら……まぁ、これが現場ってことで一つ許してくれないかしらねって?
このまま地面に叩きつけられて死ぬんでしょうねと思っていた私が次に感じたのは硬い地面の感触ではなく、誰かに受け止められた感触、そのまま高速で過ぎていく風景を見て誰がという疑問はすぐに晴れた。
「ホー、クス?」
「大丈夫、じゃないよねバートリーちゃん! すぐに病院に向かうから!!! こちらホークス、被身子ちゃん、仁、今から指定する病院にすぐに来て!」
あはは、貴方がそんなに焦ってる姿は初めて見たわ。でも貴方が飛んできたってことは死柄木のほうが一区切りついたってことかしら? 聞きたいけどもう意識が保てないのよね……
どうしたものかしらとぼんやりと思ってた私だった。このまま意識を手放してもいいかなと思った矢先、赤霧の血から見えた記憶で私は目を見開いてしまった。
「ほー、くす、あか、ぎり……ゲホッ」
「無理に喋らないで!! あとはこっちでなんとかするから、火伊那、赤霧は!」
《奴ならAFOの所に現れた、撃つぞ!!》
薄れゆく意識の中で最後に耳に届いたのは火伊那の銃撃の音とホークスの通信越しから聞こえた彼女の驚愕する声、何が起きたのかは今このときの私には知る由もなかったけど、あとは聞かされてしてやられたと思わされたわ。
そもそもにして私達、便利屋とヒーローによる敵連合壊滅作戦自体が彼女たちが描いた絵図の通りの展開だったのだから。
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腕の中で冷たくなっていく少女、レイミィにホークスは焦りの色を隠せずにいた。誰がどう見ても、それこそ公安としてもプロとしても働いているからこそレイミィが受けた傷と流された血液の量からどうしようもないほどの致命傷だということを理解してしまっており、彼の表情には己への怒りも滲ませていた。
(何が速すぎる男だ、クソっ!)
元々彼はAFO討伐とは別に死柄木組が潜伏しているであろう場所をプロヒーロー軍団で襲撃し捕縛しに行っていた。結果だけで言えば、コピー体の荼毘の徹底抗戦と自爆によって失敗に終わり、急ぎレイミィたちの援護に向かってきたのだが彼が目にしたのは彼女がやられた瞬間でしかなかった。
状況から見て報道ヘリを落とそうとした赤霧の攻撃から庇ったのだろうと分かるに時間は要らなかったがホークスにしてみれば恐れてたことがついに起きてしまったという感情しかない。
ここ最近の報道機関の動きは明らかに前に出過ぎであり、いずれは何かしら問題が起きるのではという話は公安でも出ていたがよりにもよってヒーローではない便利屋の彼女が報道ヘリを庇ってというのは想定してなかった。
(いや、赤霧はこの娘が庇う動きを見せると踏んで? 状況からすれば時間をかけたくないだろうし)
庇えば致命傷を、庇わずに報道ヘリが落ちて死人が出れば便利屋の名声が。その二択を赤霧はレイミィに突き付けて、彼女は庇うことを選んでしまったとすれば?
いや、ここであれこれ考えても仕方がないとホークスは腕の中の彼女に負担をかけないように自分が出せる最高速で病院へと飛翔する、一刻も早くこの消えかかっている命を救うために。
ホークスがレイミィを病院に運んでいるとき、オールマイト達はと言うと突如として現れた赤霧によって戦況は仕切り直され、火伊那が放った狙撃に対して彼女が行ったのは倒れ伏し動けなくなっていたAFOを持ち上げ盾にするという行為だった。
「赤、霧……なにを?」
「何を? そうだな、丁度いい盾が手元にあったから使っただけだ。それにしてもここまで徹底的に追い詰めてくれた感謝するよ、オールマイト」
「どういう意味だい? いや、そもそも君たちは仲間だったのでは?」
「仲間? ふふっ、トップヒーローともなるとジョークも一流らしいな」
以前までとまるで違う雰囲気の赤霧に血染は静かに警戒の色を強める。内心ではレイミィがやられたことに思うところがないわけではないが、ここで動いたところで返り討ちにあうのがわかっているからこそ冷静に状況を見極めようとして、次の彼女の行動に虚を突かれた。
「さて、動けないのならば好都合だAFO、お前の物を全て貰うぞ」
「何を言っている、あかぎがっ!?」
片手で持ち上げた体勢のまま赤霧はAFOの首に喰らいつき吸血を始める。一体何が目的で? 血染の思考はそれに染める、レイミィも言っていたが【吸血姫】の吸血は男にやっても意味がないはずだと。
だがそれ以上に彼は感じ取った、あいつの吸血はさせてはいけないと故に
「火伊那、もう一度撃て!!」
《言われずともだ!》
遠方から重く響く銃撃の音、吸血の最中ならば動けないはずだと放たれた必殺の一撃は、黒い靄と同時に現れた巨大な手に阻まれることになる。
《なん、だあれ?》
「ふぅ、あっぶね。おい、赤霧やるならひと声掛けてからにしろっての」
「今は喋れないと思いますよ、死柄木」
次に現れたのは死柄木と黒霧、それからひときわ大きな靄から出てきたのは山のように巨大な存在、それをスコープ越しで見ていた火伊那が正体に気づき、驚愕の声を上げる。
《そいつ、ギガントマキアってやつじゃねぇか!》
「ホークスたちが探しているとは聞いたが、なるほどそれなら見つからないわけだ」
「もう既に向こうの手の中にって訳だったと……」
「がっあ、よせ、よせ赤霧!!! やめろ、それを持っていくな!!!!」
急に辺りに響いたAFOの懇願とも言える悲鳴にオールマイト、血染、火伊那の三人は何かが起きていると感じ取り警戒を強める。
いや、何かがなどと呑気なことは誰も思っていない。だが仮にそうだとすれば【吸血姫】という〝個性〟はあまりに強力すぎると考えないでいただけだ。
「まさか、〝個性〟を……?」
「お、大正解だオールマイト。赤霧が言うには〝個性〟因子ってやつを吸血してそれをモノにできるんだとよ」
「だがバートリーの奴はできるなどという話は聞いてないぞ」
「単純にレベルが足りないってだけじゃねぇの? っとうわぁ」
なにか見てはいけないものでも見てしまったかのような声を上げた死柄木、同時にギガントマキアが手を退ければ見えたのは地面に雑に転がされている干からびたとしか言いようのないAFOの姿とどこか苦しそうに何かを抑え込む赤霧の姿。
吸血を終えたのだろう、そして〝個性〟である【オール・フォー・ワン】を奪われた結果が倒れ伏し生きているかすらも怪しいAFOの姿、宿敵のその姿に思わずオールマイトも顔を顰めてしまう。
「あ、が……か、かえ、せ」
「へぇ、この状態でも生きてるんだ? まぁいいや、よぉ先生」
さて、どうする。呑気に自分が赤霧から知った真実をAFOに語り続ける死柄木を見つつ血染が思考を巡らせる。火伊那の狙撃も既にバレているとすれば確実とは言えない、かと言ってオールマイトと同時に攻めたとしてギガントマキアが邪魔過ぎる。
しかもオールマイト自身の活動時間も残り少なく報道ヘリが飛び回っている状況では無茶もさせられない、とここまで考えて苦い顔をすることになる。
(手札が足りない、せめてバートリーが無事ならまだなんとかなったかもしれないが)
「にしても酷いよな、俺を救ってくれたと思った先生が全ての原因だったなんて、まぁだからこそこうして全部壊そうって思ったんだけど」
「な、に、コヒュ」
「だから先生が、お前が描いた計画も全部壊して、ヒーローも壊して、民衆も全部壊す。何もかもを綺麗さっぱりしちまえば、悲劇も何も生まれないだろ?」
暴論が過ぎるとオールマイトが口にするが死柄木はんなことは分かってると返し、でも今の世界じゃ暴論が必要だろと返してから彼はゆっくりと広げた右手をAFOに近づける。
それが何を意味するのか、彼に〝個性〟を与えたAFOはすぐに理解し抵抗しようとするが〝個性〟を奪われた彼には動くことができる訳もなく、小指からカウントダウンをするかのように顔につけていき
「じゃあな、先生。あの世ってところから俺達が暴れるところを見ててくれよ」
「や、め……」
言葉はそれ以上続かず、無情にも崩壊していくさまを見てこれが闇の帝王と言われた男の最期かと血染は軽い同情をしたくなった。見ればオールマイトもどこか同情的な表情を浮かべており、火伊那もまた呆気ない最期だなと口にしている。
けれど危機はまだ去ったわけではない、AFOが居なくなれば次は自分たちだと構えるのだがそれを見た死柄木は手を降ってから
「悪いが今日は一旦帰らせてもらうわ。どうにも赤霧の調子が悪そうだしな」
「はぁはぁ、気にするな死柄木」
「気にするっての、お前はこっちの最高戦力だぜ? 万全に使えないのに無茶させるなんて無駄なことさせるわけ無いじゃん」
「我々は戦力があまりありませんからね」
「簡単に逃げられると思ってるのかな? この場に他のプロヒーローだって集まってきてるんだぜ?」
事実、ホークスからの通信で死柄木組の方に向かっていたプロヒーロー達はあと一分もすれば集結する、その中にはミッドナイトも居るので到着さえすればと考えていたオールマイトだったが向こうはそれも予測しているとばかりに笑ってから
「んじゃ悪いけど、本気で暴れるギガントマキアを止めてからにしてくれないそれ?」
「よろしいのですか? ここで切り捨てるのはいささか持ったいないなと思うのですが」
「別にいいよ、コイツはあくまで赤霧の魅了で従えてるだけだし、それだって何故か完璧じゃないからな。いつ暴走するかわからない爆弾抱えるくらいならここで使い捨てたほうがいいでしょ」
んじゃ、あと頼むという軽さで死柄木はギガントマキアに暴れろと命じ、黒霧の【ワープ】で移動する直前に改めて振り返ってから
「あぁ、そうだ。オールマイト、俺の婆さんの名前教えてやるよ」
「今このタイミングで言うことなのかなそれ!?」
「聞けっての、俺の婆さんは『志村菜奈』、確か……お前の師匠だったよな?」
衝撃的なカミングアウトとも言える情報だったのだがオールマイトは数日前にホークスからその情報を聞かされており、更にレイミィからのレポートでも知らされていたのでショックはなく、逆に事実が確定したということに沈痛な面持ちになってから
「やはりそうだったのか」
「あ? んだよ知ってたって感じかつまんねぇ。帰るぞ、赤霧、黒霧」
「ふぅ、はぁ、あぁ……」
「辛そうですね。ここは確実に撤退できるようにしましょう、スピナー、始めてください」
《了解! おりゃ!》
ギガントマキアが暴れるのと合わせるように何かが靄からばら撒かれ、刹那全てが炸裂し強烈な光を生み出す。つまりは閃光手榴弾が使われたと言うだけなのだが問題はその量であり、ギガントマキアすらも巻き込む勢いのそれには靄をくぐり抜けながら死柄木は呆れるようにこう呟いた。
「いや、やりすぎだろ」
《わりぃ、正規品を好きに使えるって思ったらテンション上がっちまった》
「分かる、なぁ今度は手榴弾とかにしようぜ」
「戦争でも……いや、ある意味で戦争するようなものですか」
呑気な会話だと赤霧は思いながら死柄木組は神野から姿を消す。残されたのは大怪獣のごとく暴れるギガントマキアとそれをどうにか止めようとするオールマイトたち、最もこの戦い自体は直後に到着したエンデヴァーを始めとするプロヒーローたちの奮闘で鎮圧されることになるのだが。
こうして後の神野の動乱と言われる事件はAFOの死亡、そして死柄木組の逃走、そして便利屋チェイテ所長、レイミィ・バートリーの重傷という形で幕を閉じる事になった。
否、レイミィ・バートリーに関してはこう書いたほうが正しいのかもしれない。彼女は意識不明の重体であり、救急搬送された病院で医者からは
「これは、私達も初めて見る症状です……」
告げる医者の視線の先には傷が全て再生され胸元は呼吸を示す動きを見せているが、一切動きを見せない心電図がそこにあった。
あまりに久しぶり過ぎて書き方を忘れてるヤーツ、くっそグダグダで申し訳ないです、ハイ。
便利屋メモ
描写をする余裕は無かったが、レイミィが庇った報道ヘリに乗ってたレポーターはNo.20で彼女にインタビューをしようとした女性記者だったりする。