便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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これ事後処理話でまた話数嵩みそうだな?


No.134『リビング・デッドガール』

 例えるのならばそうね、覚めない夢を見ているつもりだったのよ。あのまま意識は真っ逆さまに落ちて、最終的には真っ暗闇に立ち続けるだけの夢を。

 

 だからその意識が浮上し始めたという感覚を覚えたときは物凄く驚いたわ。ゆっくりとだけど確かに目覚めるのが自覚できて来て、まず感じたのは音だった。

 

 音、とは言っても静寂の中で微かに何かが聞こえたというレベルだけど。次に感触、これは探るまでもなくベッドとかの類ね、そこまで分かれば段々と残りの感覚も機能し始め最後にはゆっくりと目を開けば

 

(知らない天井だって言えばいいのかしらこれって)

 

 まぁ、どう見ても病院の一室の天井でしかないんだけど。今は何時? あれからどのくらい時間が経った? ってあれ?

 

(右腕、再生してる? いや、そもそも……)

 

 あれは確実に致命傷だったのに生きてるってだけでも驚きなのよね。多分、思ってた以上に私は今の状況に驚いてたし困惑もしてたのかもしれない、直ぐ側に居る気配に気付いたのは向こうから声を掛けてきた時だった。

 

「起きたか、バートリー」

 

「っ! ち、血染……あ、その」

 

「何も言うな、とりあえず他の連中も呼んでくるから待ってろ」

 

 言うだけ言うと血染は丸椅子から立ち上がって病室から出ていく、その姿からは若干の安堵が混ざっているようにも見えたけどまぁそうよね。

 

 向こうだって私がどの程度の怪我を負ったかは聞かされてるでしょうから。……よくよく考えたら、今の私って知り合いからどういう扱いになってるのかしら?

 

 普通にテレビで見てただけなら致命傷を受けた場面で画面は切り替わってるでしょうし。スマホ、は合宿所に置きっぱだからこの場には無いし、うわぁ絶対に死んだとか思われてるわよねこれ。

 

(そうじゃなくても心配かけたでしょうね。どうしたもんかしら……)

 

 いえ、今は目の前のことから考えましょう。そう思った理由は病室の外、間違いなく誰かが走ってきてる音が聴こえると言うか誰かなんて考えるまでもない。

 

 私は上半身だけを起こす、とりあえず身体を動かす事には苦労することはなさそうだと思ったタイミングで扉がそれなりの勢いで開かれた。

 

 見れば秘書で親友の被身子が私を見て、それから顔をぐちゃぐちゃにしながら駆け寄ってきて抱き締めてきた。

 

「よ゙がっ゙だ……!!レ゙イ゙ミ゙ィ゙ぢゃ゙ん゙がお゙ぎま゙じだぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」

 

 病院なんだから走るなとか個室と言えど騒がしくするなとか所長として言おうかと考えたけど、泣きじゃくってる被身子を見たら言えるわけもなく右手で優しくあやすように撫でるに留めることにした。

 

 言える立場でもないというものある。この娘にここまで泣かせてしまうほどに心配を掛けてしまったのは私なのだから、それはそれとしてこのままだとちょっと困るんだけどと思っていると

 

「被身子、病院を走るな、そして騒ぐな」

 

「まぁまぁ、被身子ちゃん、ずっと所長のことを心配してたんだから仕方がないよ」

 

「本当に、お嬢が起きてくれて本当に良かった」

 

「てか副所長も被身子のこと言えねぇだろ、起きるまでずっと側に居たんだからな」

 

 ゾロゾロと残りの面々も入ってきた。各々好き勝手に言ってはいるけれど、表情は共通して安堵したというものであり、それを見ればどんな感情で私が起きるまで待っていたかなんてものはすぐに分かった。

 

 分かったからこそ私は被身子を宥めつつも頭を下げて、彼らにこう告げる。

 

「ごめんなさい、心配を掛けてしまって」

 

「……そうだな、流石に今回のは本気で肝を冷やした」

 

 返ってきた聞いたことのない血染の声に顔を上げれば、さっきも座っていた丸椅子に座り込み息を吐き出す彼の姿がそこにあり、圧紘達もこれには驚いたような表情をして血染を見てしまっている。

 

 いやまぁ、なんだかんだで他人の心配は普通にする男だってのは知ってるけど、まさかここまではっきりと見せてくるというのは今日が初めてだと思うから驚くのも仕方がないのよ。

 

「んだよ、てめぇら全員でそんな顔して人を見て」

 

「ひっぐ、えぐ、ふぅ、単純に、驚いたってだけですけど。ふぅ、あ……あ~、あとで着替えましょうか、レイミィちゃん」

 

 ……えぇ、そうね、貴女の涙と鼻水で入院着が酷い有様だわ。さて、そろそろ真面目な話をしましょうか、私ってどの程度寝てたのかしら、今日は何日?

 

「実を言うとまだ一日経ってないよ。今は23時ちょっとってくらいかな、だから今さっき血染が目を覚ましたって言ってきた時は医者も驚いて目を見開いてたくらいだし」

 

「そもそもな話、俺と被身子でお嬢に輸血をしてそれでも起きるかどうかって言われてたくらいだからな……」

 

 輸血? あぁそうよね、あの状態じゃ傷の再生は出来ても血が足りてないって状態が普通か、それを被身子が私に変身して仁の〝個性〟で増やして輸血って形を取ってってことよね?

 

「そうですよ、ホークスさんから直ぐに病院に来てくれって連絡が入って慌てて向かったら、うぅ、ぐずっ、ひっく」

 

「はいはい、もう大丈夫だから泣かないでって。そういえばホークスは?」

 

「あいつなら事後処理があるとかでさっき帰った。明日また来るとは言ってたがな」

 

 事後処理か、そういえば私らもなにかした方がいいわよね。一応は当事者の組織なんだし、それともそこは後日ってことになったの?

 

「ってことらしいよ。ただまぁマスメディアの方もちょっとバタついててね」

 

「なにかあったの?」

 

「今回、嬢ちゃんが重体になる要因になった報道ヘリでまず第一炎上、次に死柄木たちが撤退したと同時に各報道局や新聞社、週刊誌を発行してる企業とかの上層部を中心とした数多のスキャンダルがSNSや動画投稿、ブログなどに掲載されたんだよ」

 

 しかも言い逃れできないレベルの証拠と一緒に。更に圧紘が補足するとそれらは私が握ってたのとほぼ同じ内容のものと聞けば赤霧が動いたというのは嫌でも理解できた。

 

 要は自分たちが身を隠し体制を整えるまでの時間稼ぎをしたということだろう。現に火消しや尻尾切り、それでも間に合わずに緊急記者会見やらなにやらでてんやわんや状態らしく、無事なのは私が突きに突いて自浄させられた公安のチャンネルだけという中々に悲惨な状態らしい。

 

 お陰で雄英高校の今回の事件に関する記者会見もさして盛り上がりも見せずに割と平和に終わったらしい、ちなみにその際に私達便利屋とも協力体制を取っていると言うのも話したらしいが

 

「世間様はそれどころじゃなく、スキャンダルで騒ぐのが忙しいらしい」

 

「ありがたいといえばありがたいけど、なんというか、ねぇ? はぁ、まぁいいわ。次に聞きたいけど、燈矢は?」

 

「燈矢くんは同じ病院で治療のために暫く入院ってことになりました。えっと、仁くんの〝個性〟で増やして無事な皮膚から移植してっていう感じで身体を治していくとか」

 

「付け足すなら、そこに殻木の技術を発展させた再生治療も施すらしいから上手く進めば半月くらいで退院できるほどにはなるってさ」

 

 末恐ろしい速さの治療ねと思ったけど、殻木自身はさておき医療関連は優秀だから別段、驚くことでもないのかしらね。ま、早いに越したことはないからいいけど、あとは……

 

「ってこれも大事じゃないの。私がやられてからはどうなったの」

 

「結論から言えば、さっきもちらっと話したが死柄木たちにはギガントマキアを囮に逃げられた。最悪なのは赤霧が〝個性〟の【オール・フォー・ワン】を吸血して会得したことだろうな」

 

「あの強さにAFOが付属するって考えるだけでも最悪な組み合わせですよね。どうするんですかってレイミィちゃん?」

 

 チッ、あの時に奴を吸血して読み取れた記憶通りってことか。とりあえず、今更感があるけど私が赤霧を吸血した際に見えた記憶を共有しておく、まぁ言っちゃえば何から何まで向こうの計画通りだったってことなんだけど。

 

 向こうにとって想定外があるとすれば、私の悪足掻きで【吸血姫】を吸われたこと。これによって今の分配は私とアイツで丁度半々ってことになっているわ。

 

「【吸血姫】で思い出したが、あの戦いの時に何をしたんだお前」

 

「ん? あぁ、そこも話してなかったわね」

 

 割と大事なことがちょくちょく話し忘れるのは疲れてるのか、或いは何かしらの後遺症なのかという話は置いておき、神野の戦いで私がやったことを説明しておく。

 

 言ってしまえばこの〝無個性〟の身体に【吸血姫】を無理やり適合させただけ、お陰で【吸血姫】を反動なく使えるようにはなったけどこの身体に無理が生じているらしく……

 

「本当に僅かずつだけど灰になりつつある、筈だったんだけど、見た感じそういうのが起きてないのよね」

 

「恐らくはそこに関係することで明日改めて医者から話があるとは思うんだが、今ここでも軽く話しておくか」

 

「所長、身体に異常とか違和感とかあったりしないかい?」

 

 圧紘に言われて改めて身体の調子などを確認するけど違和感とかは特に感じられない。寧ろ調子は良い分類にすら入ると思う、と書いたら何も問題が無さそうだなってなるんだけど。

 

 寧ろそれが私には異常にしか思えなかった、あれだけの負傷をして、いえもっとはっきりと言えば初めにも書いた通りどうしようもないほどの致命傷でしか無かったはず。

 

 なのに五体満足で五感も問題無しなんて逆におかしいとしか言えない。あと今気づいたことがあったわ、そう言いながら手を頬と胸に当てて、はぁとため息を吐き出す。

 

「私ってここまで冷え性だったかしらね」

 

「……」

 

「それと動いてないわよね、心臓」

 

 そう告げた瞬間、場の空気が重苦しいものに変貌してしまった。なるほど、圧紘が聞いてきた理由はそういうことだったか、つまり場の空気と全員の表情、それらを総合して考えるに私は……

 

「一度死んでるのね」

 

 〝死んでいる〟その一言を聞いて被身子が私にまた抱き着いてきた。この娘からすれば耐え難い事実だろう、いや、被身子だけじゃないか、圧紘も仁も火伊那も沈痛な面持ちなのは変わりない。

 

 そんな中で血染だけは冷静に私の言葉に答えてくれる。本当に頼りになるわよ、貴方はさ。

 

「あぁ、医者が言うにはお前が肩から胸に掛けて負った傷、それは心臓を半分近くまで抉っていたらしく即死だっただろうと。」

 

 曰く病院に運ばれた時点で心臓も腕も再生をし始めていたらしいがその時点で心肺停止状態であり、被身子と仁による輸血に加え懸命な治療も功を奏さなかった。

 

 筈だったのだがその数秒後に蘇生、これには場が騒然とすることになった。だってそうでしょ、呼吸も血液の循環も、あらゆる生命活動が正常に行われているというのに心臓だけが動いてないもの。

 

「医者も嬢ちゃんみたいなのを見るのは初めてだとさ。〝個性〟で不死身に近いやつは見たことあるがその場合はきちんと心臓まで動くからな」

 

「明日、リカバリーガールがここに来て診てくれるって話にはなってるけど、正直それで原因が分かるって気がしないんだよね」

 

「原因は何となく分かるわ。おそらくは【吸血姫】が私を生かしてるんでしょうね」

 

 殻木が赤霧の事を話したことを思い出してほしい。彼女は自殺が出来ずに死ぬために私に〝個性〟を吸血させて死のうとした、それってつまりは今の私と同じ状態だったんじゃないかしら?

 

 この力は例え宿主が死んでも蘇生させて生かす。半分程度の私でもこうして死ななかったんだから、完璧だったエルジェーベト時代はどんな状態からでも再生して復活できたとしても不思議ではない。

 

「死なない、と言えば聞こえは良いが。死ねないってことと同意義ってことか」

 

「そりゃ死ねないのに周りは死んでいき、誰も自分を知らない人間だけになるのが怖くて、孤独拗らせつつも繋がりを保とうとして壊れるわけよ」

 

「【吸血姫】ってそう聞くと碌でもない〝個性〟だな……」

 

「ですね、トガは御免被りたいです」

 

 ただ死ねないっていうのは完璧に継承してた場合。今回は私は半分しか【吸血姫】は持ってないから心臓の機能までは届かなかった、そこに〝無個性〟の身体に無理やり適合させたっていう無茶も加わっている。

 

 それを考えるともしかしたら、【吸血姫】そのものを消耗している状態なのかもしれない。

 

「消耗って、どういうことです?」

 

「……今のお前は【吸血姫】と言う〝個性〟をバッテリーにして動いてるってことか?」

 

「きちんと診てもらわないとはっきりは言えないけど、恐らくはそうだと思うわ」

 

 もっとも診てもらっても分かるかどうかは怪しいけど。今までは感覚で分かってた私でさえも今は大雑把でも掴みきれないもの。

 

 なんて話せばまた一段と場の空気が重くなる。まぁこればっかりは避けては通れない話ってことで許してほしいわ、とりあえず今日は貴方達も一旦休んで頂戴、事務所に戻るんでしょ?

 

「いや、この病院の近くに公安が用意したホテルがあるからそこに泊まることになってる」

 

「曰く病院近くのほうがいざって時に助かるからとのことだ」

 

「ま、大々的にAFOと敵連合は便利屋って奴らが潰しましたってなれば襲撃もあり得るからな」

 

「良くも悪くも有名になっちまったものだ」

 

「一応、交代で病院内にも待機しますんで何かあったら呼んでくださいね、レイミィちゃん。あ、最後にですけど明日は相澤先生と校長、それと轟家も来るみたいです」

 

 なんとも千客万来だこと、轟家の方は燈矢が先でしょうけど。それから軽く話をしてから一旦解散となり着替えてから一人っきりになった病室で私はベッドに横たわって天井を見つめていた。

 

 静寂に包まれて、あぁと私は思う。本当に心臓は動いてないんだなと、そして私はあとどのくらい生きられるのかしらと言う漠然としたことを思いながらゆっくりと目を瞑って意識をまた暗闇に落とすのだった。




A レイミィちゃんはつまりどういう状態なの?

Q ディアボロ初戦後のブチャラティ

便利屋メモ
ホテルはスィートルームでビビる便利屋の面々が居たとか。
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