便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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彼らにもある、こんな平和なやり取り。


No.135『死柄木組の一幕』

 レイミィ・バートリーが改めて眠りについたのと同時刻、死柄木たちが住まいにしている拠点に複数の靄が出現、裏方で待機していた伊口と先にダウンしたのでと送られ、回復後は待機していたマグネこと引石健磁が警戒態勢を取る。

 

 取ったが、出てきたのが死柄木たちと分かれば息を吐き出してから急に胸を抑え膝をついた赤霧に驚くことになる。

 

「ちょちょ、どうしたのよ!?」

 

「あ、赤霧さん!?」

 

「はっ、ぐっ、はぁ……大丈夫、だ」

 

 いや、どう見ても大丈夫って感じじゃないんだがと伊口が死柄木に視線を向ければ、向けられた側も肩を竦めてから、だとしてもこっちからやれることはないと答える。

 

 ここに居るメンバーには医療関連の知識を持ってるとか〝個性〟を持ってるとかの人物は居ないので割と本気でどうすることも出来ないのだ。

 

「心配するな、全く動けないってほどではないからな」

 

「そこまで言うなら、納得しておくけどさ。暴走とかやめろよ? 誰もお前を止めることなんて出来なからな」

 

「強いて言うのならば、私が遠くにワープさせるくらいでしょうかね」

 

 なお、黒霧が〝個性〟を発動するよりも前に赤霧に沈められるという懸念が普通にあるので伊口としてはお願いなので暴走だけは止めてほしいと言うしかないのである。

 

 そんな和気藹々とも言えるような光景にこの場では一番の新参であるマグネはフフッと一つ笑い、それを見た死柄木が何だ急にと言えば

 

「いえ、雰囲気の良い職場に来れたなって思っただけよ」

 

「やろうとしてることは雰囲気の良さとは真逆だけどな。で、どのくらいで落ち着きそうだ、赤霧」

 

「一週間、くれればいい。ふぅ、その間には馴染ませる」

 

 適当な椅子に座り落ち着いた感じの声で答える赤霧だが、あくまでそう見えるだけであり、実際は体内で何かが暴れ続けているのではというくらいの痛みが走っている。

 

 本人はそれを隠そうとしたらしいのだが声が明らかにそれを堪えているというのが周りにも悟ることができ、なので死柄木は本気でヤバそうだなと頭を掻いてから。

 

「別段、急いでやれってのは言わねぇから完璧に馴染んだら言えよ。中途半端ってのが一番面倒だからな」

 

「そのための時間稼ぎも行いましたからね」

 

「おぉ、指示された通り撤退のタイミングでネットに全部上げといたぜ。だからほら、見てみろよ、テレビが全部しっちゃかめっちゃかって感じになってるから」

 

 付けられたテレビのモニターには特番として今さっきの神野の事件が流されているがその熱はどこか低めとも感じるものであり、またいつものキャスターではなかったり不手際があったりと各報道局が混乱しているのがよく分かる状態になっていた。

 

 それはネットニュースの類もそうであり、大体のサイトのサーバーが落ちて禄に閲覧出来ないらしい。そこまで聞いた死柄木は軽く笑ってから

 

「はんっ、ざまーねぇな」

 

「今まで蓋をしてたことが一気に溢れたらこうなるのね。そう言えば、さっき雄英高校が記者会見してたんだから妙に記者が行儀よくて笑っちゃったわよ」

 

「下手に突いて自分たちがしっぺ返しをこれ以上食らうのを恐れたのでしょうね。とは言っても殆ど意味のなさない足掻きでしょうが」

 

「でも良いことばかりじゃないんだよな。雄英は便利屋に依頼を出し共同状態だって発表したのにそこまで盛り上がんなかったから、向こうは普通に動けちゃうから」

 

 彼らとしてはここでマスメディアが便利屋を批判とまではいかずとも押しかける程度で圧を掛けてくれればという期待があったのだが現状でそれらしい動きもない。

 

 なのでそこは期待が外れたなと伊口が言えば、赤霧は寧ろ当然だろうなと答える、というのも。

 

「便利屋は我々以上に相手の弱みを握ってるだろう。寧ろそんなことをすればこの程度じゃ済まないダメージを受けることになるとわかっていれば間違ってもやれないだろ」

 

「でもそれだったら自分たちは弱みを握られてって被害者ヅラをすれば良いんじゃない? マスメディアはよくやる手法じゃない」

 

「……いえ、仮にそれを行ったとしても被害者にはなれないのでしょう。彼らは向こうの隠したい悪事を握ってはいますが、それは向こうが自浄してしまえば問題ない事案だけでしょうからね」

 

 今回の赤霧たちのリークももし自浄して、それを認めつつもう既に当事者は罰を受けていますと言っていれば大体がここまでのダメージになることはない事案だらけ。

 

 なので仮に便利屋にという話を出しても確かに多少なりとも批判などは受けるかもしれないが彼女たちからすれば悪いのは貴方たちじゃない? と開き直れるのだ。

 

「開き直れるってのもスゲー話だけどな……てか、便利屋はあいつが死んだんだから動けないんじゃねぇのか」

 

「いや、奴は死んでない。あの程度で死ねるのならば私だって苦労はしないからな」

 

「そう言えば、伊口から聞いたけど元々はあの娘は貴方が死ぬために生み出された存在なんだって? 何があったかは知らないけれど美人がそんな事言うなんて世も末ねぇ」

 

 今更な話ではあるがここに居るメンバーは赤霧の正体や過去を全て知っている。マグネは新参ではあったが待機時間で伊口から聞いていたらしいマグネがそう口を開く。

 

 彼、もとい彼女からすれば赤霧の過去はあまりにも酷すぎるものであり、自分もまた色々と言われたことがある身としては思うところがあってなおのこと赤霧には親近感を覚えたとか。

 

「世も末だからこそ全てを壊すのさ。ま、肝心の私がこのざまでは笑えないがな……」

 

「さっきも言ったが急がなきゃいけないわけじゃねぇからな。寧ろ俺達も準備やらなんやらですぐには動けねぇし」

 

「閃光手榴弾もさっきので使ったから補充しないと。それに戦力だって全然だし、それを補う道具もかなりの量が必要だもんな」

 

「無い無い尽くし、はぁ世知辛いわね」

 

「ですが物資の類はさほど苦労することもないでしょう。問題は戦力ですが、なんとか我々の考えに賛同してくれる者を集めるしかないかと」

 

 とは言ってもあまりの人数を集めては綻びが生じる可能性もあるので彼らはそこでまた頭を悩ませることになるのだがそこは置いておこう。

 

 そんな感じに今後の方針を話し合ったところで今日は話し合いは終わりにし、そこで死柄木が

 

「はぁ、腹減ったな……つかもうこんな時間かよ」

 

「襲撃が既に夜でしたからね。作戦前には軽食で済ませたので空腹を感じるのも無理はないかと」

 

 時刻は既に日付変更線を超えており、この時間まで禄に食べていない。だがさっきまで戦闘をしていたので夕食も何も無いぞと思っていたがそこで伊口がだろうと思ったという言葉とともに台所に消える。

 

 消えてから少しすれば死柄木たちの鼻になんとも空腹を誘う匂いが届き、すぐにその正体も判明した。

 

「これ、カレーか?」

 

「そのようですね、伊口、貴方が?」

 

「あぁ多分腹を空かせてるだろうなって思って待機してる間に作っておいたんだ。まぁ、普段の赤霧さんが作るよりも味は悪いと思うけどそこは勘弁な」

 

 素直に助かるわ本当にと死柄木が言えば、それに対してヘヘッと小恥ずかしそうに伊口は笑ってからとりあえずもうちょっと温めてから出すと顔を引っ込める。

 

 彼にしてみればこうして楽しい空間を用意してくれた友人に少しでもできることはないだろうかという気持ちからの行動だったので褒められるのは素直に嬉しい話なのだ。

 

「あらぁ、料理もできる男なんてモテるわよ~。ねぇ、赤霧もそう思わないかしら?」

 

「すまないが、その手の話は私もあまり得意じゃない、経験がなかったからな」

 

「そ、そうだったのごめんなさいね。ところでさっき伊口が言ってたけど、普段は貴女が料理してるのね、そこはちょっと意外だわ」

 

 あの暴力の化身とも言えそうな実力を持ち、イメージ的にもあまりその手の家事はやったこと無さそうな赤霧が担当しているということにマグネは驚いているがこの中では彼女が一番、料理の腕はあったりする。

 

 それは別に誰かのためにとかではなく、【吸血姫】のせいで長い年月を生きてきたが故に勝手に磨かれ身に付いたスキルと言うだけだというのがまた悲しさを誘う実情ではあるのだが。

 

「つっても先生の元を離れてからだけどな、俺等がそれを知ったのは。あとは意外と洗濯とか掃除も普通に出来るし、あぁなんだちょっとあれこれ細かいことが煩いってのもあるな」

 

「それはお前たちが普段からしっかりしないからだ。使い捨てる拠点とは言え、ある程度は利用するんだ、せめて脱ぎ捨てたりゴミを溜め込んだりはやめろと言うだけだろ」

 

「はいはいってか、言われてからはしっかりやってるだろ……」

 

 言われる前からやれと赤霧の言葉に死柄木はうるせぇなぁと面倒な表情を隠すことなくボヤく。二人のそんなやり取りにマグネは面白いものを見たとばかりな反応を示してから素直な感想を黒霧に伝える。

 

「まるで親子みたいなやり取りしてるわね、あの二人」

 

「伊口を入れれば三人ですがね。まぁ私としても少しはしっかりとしてもらえればと思わなくないので赤霧には感謝していますが」

 

 あまりその辺りは強く出れない黒霧だが赤霧は割と遠慮がないので、彼としては助かっていると心から思っている感じを見てマグネはまた笑ってから、何故か若干の説教が始まりつつある二人を見て一言。

 

「あらあら、なら私もその辺りはキッチリとしていかないといけないわね」

 

「お待たせって、なんだ、どうしたんだ?」

 

「いえ、いつものやつですので気にしなくても問題ないです。それよりも手伝いましょうか」

 

「いつもの、あぁ、そういう。んじゃ、お願いします黒霧さん、適当によそっちゃうんで運んでもらえると」

 

 〝いつもの〟黒霧のその言葉に伊口は巻き込まれたらたまらんとばかりにカレーを人数分よそう作業に逃げる。

 

 なお、彼も何度か赤霧に小言を言われたことがあるが、死柄木よりは遥かにマシな回数である。そもそもにして彼らと合流する前から一人暮らしをしていたので基本的なスキルは身に付いていたというのが大きいだろう。

 

 そんなこんなでカレーが人数分揃い、それぞれが食べ始める。味自体は市販のルーで作ったものであり普通だけれど、作戦開始から激動で全く食べてなかった死柄木たちにはそれでも十分な味であり中鍋程度に作られたそれはあっさりと完食される。

 

「はぁ、食ったぁ。んだよ、伊口も結構作れるじゃねぇか」

 

「そうかな、まぁ一人暮らしはしてたから多少はって程度だし赤霧さんに比べたら、な?」

 

「あれとは比べちゃ駄目だろ。あいつのはマジで絶品ってレベルだし」

 

「ふぅん、死柄木がそこまで言うってなると相当な気がするから気になるわね。いつか食べてみたいわ」

 

 現在は後片付けは自分たちがやると黒霧と赤霧が洗い物をしている最中、食後の休憩とばかりに死柄木と伊口はソファに座り退屈そうにテレビを眺め、マグネをその後ろで彼らと雑談をしていた。

 

 今は上記のような会話がされていたが、マグネの願いは割と早く叶う。というのも今日は赤霧が買い出しに出れなかったから作らなかっただけであって普段ならば彼女が率先して作るからだ。

 

 理由は彼女曰く、作れるやつが作ったほうが良いだろうし戦闘以外じゃこのくらいのことでしか役に立てないからとのこと。死柄木からすれば戦闘で役に立つんだからそれで良いんじゃとなるのだがマグネはこう答えた。

 

「きっと、それだけじゃ自分が納得できないんでしょうよ。彼女って元々はヒーローだったってことを考えれば、誰かのためにっていうのが基本なんでしょうし」

 

「そこは今でも変わってないってことか。でもなんだろ、悪い気がしないんだよな不思議とさ、寧ろ俺も何かしらしないとなって思うし、まぁ特になにか出来る〝個性〟とか持ってるわけじゃないんだけど」

 

「いや、お前はお前でネット上でしかやり取りしなかった俺に困ってるなら家に来ればっていうくらいには中々に肝が座ってると思うけどな」

 

 もしかして結構、勢いとか我が強い人達の集まりなのかしらねここと思うマグネだが彼女も彼女でキャラが濃いので人のことは言えない。言えないがそれを指摘できる人物はここには居ないので相対的に彼女が常識人枠として収まることになる。

 

 それから少しすれば洗い物を終えた二人が戻り、そこでふとマグネがさっきのここでの会話を話し、料理が得意というところから得意料理とかあるのかと聞いた。彼女的には〝無い〟とか返されるだろうなと思った質問だったが予想に反して赤霧は答えた。

 

「得意料理か。そうだな……」

 

 〝オムライスだな〟奇しくもそれはレイミィと赤霧が本当に同一存在だということを裏付けるものであった。




立ち位置的には敵版便利屋の面々って感じになりそうだなコイツラ……

便利屋メモ
オムライスの腕はレイミィより赤霧のほうが上
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