正直に言えば、昨日の冷さんと冬美さんの説教は冗談抜きでキツかった……私はただ単に先が長くないから気にしてほしくなくて、燈矢が帰ってきたからもうこれ以上は深くかかわらなくても大丈夫だと思ってのつもりだったんだけど。
どうにも、そういう訳ではなかったらしい。あんな真正面から私ももう家族みたいに思ってるなんて淡々と、それでいて優しく言われたとなると間違った対応したのねと納得しか出来なかったわ。
(あと確かに考えてみれば、冷さんをちょっと弱く見すぎてたわね)
どうにも初対面の印象に引っ張られすぎたわとここは反省するしか無い。というかそうよね、今じゃエンデヴァーを抑えてのかかあ天下だもの、そりゃ弱いわけ無いわっと。
(これでよしっと)
因みに何してるかって言うと退院の準備として片付けをしてるだけよ。まぁやることなんて着てた入院着を畳んで、ゴミも片付けだけなんだけどさ。
とは言え、それも終わっちゃったんだけどとサイドテーブルに置いておいたスマホを見れば、表示されてた時間は4時と少しが経ったと告げている。
やっぱり実験的に一睡もしないで片付けとかやるもんじゃないわ、暇になるだけじゃない……なんてね、本当は寝れないだけ。
目を瞑り、意識を落としたらまた〝あれ〟を見るんじゃないかと思ったらどうしても寝たいという感情が湧かなくなってしまった。
(まるで不眠症ね。まぁ、幸い睡眠が絶対必要って訳じゃなくなったから良いけどさ)
そう、仮眠を含め一睡もしてないのに頭はスッキリしてるし身体も怠さを訴えていない。つまりは今の私は睡眠を必要としなくなったと言える、言い換えれば三大欲求の一つが消えたとも言えちゃうけど。
まぁ眠れないってことじゃないから全く無いってわけじゃないとは思うし、何よりも眠る必要がなくなったということは行動に制限がなくなったということと同じ、つまりは……いや、駄目ね。
「結局は退屈に殺されそうな感じになるわねこれ」
「何がだ」
「っ!?」
突然、声を掛けられ驚きながら病室の入口を見ればそこには呆れた評定をした血染の姿。てか、ノックもなしに入るんじゃないわよ、一応は女なんだけど私。
「したが気づかんかったのはお前だろ」
「だとしても返事があるまで待たないかしら?」
「反応ができない状態だと思ったんだ、ったく……」
あぁ、そうかそうよね、〝もしも〟が突然来る可能性がある以上、反応がないのは最悪を想定されても仕方がないというか、私も逆の立場だったら押し入ってるわね、えぇ。
「心配かけたわね、って昨日から何回言ってるんだか」
「ふん、お前からその言葉を何度も引き出せることなんて早々ないから構わんがな、で? こんな早朝から片付けとは良い心構えだとは思いたいが、お前のことだ、どうせ寝てないんだろ」
「……眠りたくなくてね」
彼を相手に隠せるとは思ってなかったしと思いつつベッドに腰掛けながら告げれば、血染はだろうなと言いながら側の丸椅子に座ったのを背中越しに感じてからポツリポツリと話していく。
昨日見た悪夢を見てしまいそうで眠りたくないことを、寝たらその最期が本当に来てしまうんじゃないかと思ってしまっていること、つまりは
「怖いのよ、死ぬのが。貴方達や周りに散々覚悟してますって顔しておきながら、怖いの、情けないことにね」
「ふっ」
割りと深刻な感じで語ったはずなのに返ってきたのは笑いの一つだったけどこれって怒ってもいいやつよね? 人の覚悟をなんだと思ってるのかしらね貴方は!
「いや、すまん。お前が俺にそんな弱音を吐くとは思ってなくてな、そういうのは被身子の役割だろ普通」
「はぁ、別に何でもかんでもあの娘に吐けないわよ。話せば被身子は多分、変に引きずっちゃうと思うから」
「そうだな、あいつはあれで感受性が高い、特にお前のこととなればな」
だからこそあの娘には言えない。親友だからこそ、変に引き摺って欲しくない、その点ではこういったことは血染のほうが話しやすい。いえ、話しやすいんじゃなくて、やっと話す気になったって方が正しいわね。
思い出すのは昨日のこと、燈矢の病室で冷さんと冬美さんの二人からああやって私を思っての説教をされて、実を言うと戻ってから少ししてラブラバからの電話でも同じようなことを言われたことを。
『子どもが変な気遣いしてるんじゃないわよ。大人ってのは子供に遠慮されてそれで手遅れになったら死ぬまで後悔するんだから』
『だから頼れ、側に居るでしょうがアンタのことを常に見てた保護者が』
なんて言われて、一晩色々と考えて、そして今こうして話してみたってこと。大人に頼れ、気軽に言ってきてくれるとは思いつつも口にしてみれば割とすんなりと出てきたことを見れば私も相当参ってきてたのかもしれないわね。
或いは本当に死の感覚を目の当たりにして無意識に気持ちが変わってしまったか、どうであれ前の私から考えればなんとも情けない限りだわと自嘲すれば。
「情けないとは思わないがな。誰だって死ぬかもと思えばそうもなる、多分、俺もな」
「それは意外だわ、貴方も気にしない人間だと思ってたけど」
「やり遂げなきゃならないことがあると思えば、まだ死にたくないと思うのが普通だろ。お前なんかは特にな」
やり遂げなくちゃいけないこと、AFOを吸収した赤霧を消さなくちゃならないこと、なるほどそう考えたら確かに今の私が死にたくないと思うのは自然なのかもしれない。
もしくは今の生活が楽しいと思ってしまっているからかもしれない。便利屋があって、雄英高校のクラスメイトと学生生活を楽しんでっていう生活を。
「せめて卒業までは死にたくないわね。公安からの条件もあることだし」
「本当に公安だけか? お前のことだ照れ隠しでそれっぽいことをってやめろ、拳を握るな」
「五月蝿いっての。もういいわ、んで今日は?」
これ以上あれこれ話してると要らないことまで喋っちゃいそうだと話題を変えれば、血染は若干呆れた顔をしつつ、今日の予定を話し始める。
「予定としては今日中には雄英の敷地内に向こうが用意した事務所に引っ越しを行う。そのために前、というか本来の事務所に今、仁と圧紘が向かって囮のコピー体と重要な書類等を回収しに行ってる」
「まさか十八番の夜逃げ術を私達自身を対象に行う日が来るとはね」
「仕方がないだろうな。だが元の事務所の周辺には公安が手配した人員で見張らせるとのことだ」
ホークスと会長が上手いこと話を付けて配置させたらしい。借りを返すってのもあるんでしょうけど、あの二人のことだから純粋に手助けって面もあるんでしょうね。
更に言えば私達が良くも悪くも目立てば、事務所に手を出そうとする
「被身子と火伊那は?」
「あの二人はホテルに待機中だ、7時頃に被身子が車を出して迎えに来るからそれに乗って雄英高校に向かう手筈になってる」
「被身子の運転って、あの娘ハンドルを握るのって相当久しぶりじゃない、大丈夫なの?」
「本人が言うには大丈夫とのことだが、まぁ最悪は俺が変わればいいだろう」
一応言えば被身子も免許は持っている、何時取ったのかは知らないけどドヤ顔で免許を私に突き付けて『これで何時でもレイミィちゃんとドライブに行けますね!』とか言ってたわね。
でも彼女の運転で乗ったのって一度っきりだし、その一度も割りと危なっかしいことこの上なかったので出来れば乗りたくないと思ったのは被身子には秘密にしてある。
「出来れば血染に変わってほしいものね。それで向こうに到着後は荷解きとかかしら?」
「あぁ、それと並行して地域に便利屋を宣伝をしておくつもりだ。事務所が変わって活動地域での信頼も零になるからな」
「あ~、そうよね。となるとあそこで便利屋を開いたときみたいに細々とやっていかないといけないか」
文字通り便利屋として些細なことから何でも受けるくらいに勢いで業務を回すことになる、そう考えると疲労感も禄に感じなくなったこの身体は便利かもしれない。
まさに馬車馬のごとく働けるのだから、なんて言ったら血染に凄い顔されたわ。
「やるなとは言わんが、出来れば止めてほしいというのが本音だ、信頼を稼ぐ以前に子供であるお前が労基もぶっちぎりそうなことしてるとなれば何を言われるか分かったもんじゃない」
「それもそうね」
「まぁ今は幸いにもまだ夏季休暇の最中だ、ある程度は問題にはならないだろうがな」
言われて気付いたと言うか思い出したけど、まだ夏季休暇の途中なのよね。強化合宿から今日まで様々な事がありすぎて忘れてたわ、たった一日が濃密過ぎたわ本当に。
でも夏季休暇中なら受けれる依頼も幅広く出来る、この間に稼げるだけ稼いじゃいましょ。それで他になにかあるかしら?
「いや、今のところはこのくらいだ。あとは向こうについてから校長とかから話があるだろう、あぁいやすまん一つ合った」
「なに?」
「明日辺りに塚内警部が話を聞きに来る。恐らくは雄英高校側も含めた事情聴取だろうな、その時にはお前と俺も出るようという話が来てる」
そりゃまぁ警察も動くわよね。寧ろ動かない理由がないし、だから別段それは問題ないと頷いておく、ともすればそれまでにある程度は資料を作らないといけないか。
今日中に纏めておくしかないか、とは言ってもAFOと戦ったのは血染と火伊那の方なのよね、そっちは頼める?
「任せろ、ま、昨日のうちに殆ど纏めておいたがな。正直な話、あとはお前の分だけだ」
「ちょっとそれは卑怯じゃないかしら? まぁいいけど、あとは雄英高校に行く前に燈矢にも顔を出しておかないとね」
当たり前だけど、燈矢には可能な限り毎日顔を出すつもりではある。所長として当然のことだけど、なんてことを被身子と火伊那が来てから顔を出しに行った時に伝えたんだけど、その時に返って来た言葉がこれ。
「週一でよくねぇかそれ」
「なんでよ、毎日顔を出されたら迷惑だっていうの?」
「普通に重いんだよそれ、つか事あることに子供が出入りしてるなんて噂になったらヤバいだろ」
「……はぁ?」
割りと本気で何を言ってるのお前という感じの声が出てしまったのは許してほしい、でも本当に意味が理解できなかったので後ろの三人に聞けば
「ま、普通に考えたら彼女さんが健気に見舞いに来てるとか思われても不思議じゃねぇわな」
「レイミィちゃんに献身的に見舞いに来てもらえるとかトガからしたら羨ましすぎて嫉妬しそうです」
「そもそも毎日来れるだけの余裕があるとは思えんがな」
そういうことらしい、世間の目と言うのはいつの間にか厳しいものになってしまったのね。冷さんの時なんかは問題なかったのに
「いや、冷さんのときの年齢と今のレイミィちゃんの年齢を考えましょうよ。幼女が健気に向かうのと高校生が健気に見舞いに来るのとじゃ意味合いが滅茶苦茶変わっちゃうんですよ」
「俺が知らないところでロリコン疑惑持たれるとか本気で勘弁してくれよ、マジで」
「9歳差くらいならロリコン疑惑は無いだろ、学生に手を出したってことで色々と世間の目は冷たくなるだろうけどな」
結構本気でマズイことらしいので週一で、血染か圧紘か火伊那を連れてくることにした。これなら然程問題にもならないでしょ。
にしても高校生がそういう事するとあまり宜しくないのね、今後は気をつけておくわ。何かしら、被身子、その顔は
「いえ、既に手遅れなのに気をつけるとか宣ってるレイミィちゃんが面白いなって思っただけです」
「またその話? あれからは気を付けてるし心操も特に気にしてない様子だから問題ないってば」
もちろん、昨日のうちに無事だってことはメッセージが来てたから返信で答えておいた、置いたけどそう言えば既読は付いたけど反応が返ってこなかったわね。
あれかしら、安心してそれで気が抜けたとかかしらね? 何故か燈矢が何かを察したという表情で私を見てきた、何よ。
「心操ってやつに本気で同情してるだけだ」
「なんで同情……?」
「分かんねぇならそれでいいけどよ。割りと面白いなこの所長」
「見てる分にはな、被害を受ける方は洒落にならないとは思うが」
さっきから被害だ、同情だって何を言いたいのかしら、まるで私が悪人みたいじゃないの。え、割りと悪人だって? えぇ……
どうにも腑に落ちないけど、ここで燈矢の治療の時間も来てしまったので私達は病院から雄英高校へと向かうことにした。あ、言うまでもないけどしっかりと退院の挨拶は告げてから病院から出てるわよ?
あと運転は早々に血染に交代した、というかさせた。やっぱり被身子に運転は免許を持っていようが駄目だわ、寧ろよく取れたわね貴方。
「ちゃんと事故らないようにしてるじゃないですか!」
「事故らないってだけで同乗者の心労を考えないのが問題だって話なのよ」
「私も免許取っておくかぁ……」
「頼む、被身子に可能な限りハンドルは握らせたくない」
などと雑談をしつつ車は雄英高校に到着し向こうの案内で新事務所に到着してから私の初めの一言はこうだった。
「どうしようかしら、元事務所ビルよりも立派で綺麗なんだけど」
本気で今後もこっちで活動していいかしらと口にしそうになるほどだった。
とりあえず日常編みたいな章を挟んでから死穢八斎會編かなぁと。因みに仮免許云々はレイミィちゃん達どうしようかな状態です。
便利屋メモ
被身子の運転はルールとかきちんと守るし事故も起こさないようにするけどそれはそれとして同乗者は常に心労が襲うらしい。