私信
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後に彼女は語る。驚くほどに雄英高校の必修科目での授業は普通オブ普通だったと。他のプロヒーローの授業の場合は普通だとしても納得できた、けれどプレゼント・マイクまでテンション以外はかなり真っ当な授業だという事にレイミィ・バートリーは思わず欠伸をしてしてしまえば
「HEY! そこの欠伸ガール、この次の英文の内、間違ってるのはどれか分かるかーい!?」
「4番。関係詞の場所違うわよそれ」
「YEAH! なんだよ、欠伸するくらいに簡単だってことかよ!」
いいえ、単純に朝は酷く弱くてあくびが出ただけなのでそっとしておいて欲しい。という本音を飲み込み、欠伸が出ない程度には集中し乗り切ることに、見ればクラスメイト達も大体は同じことを思ってるのだろうという雰囲気であり割とぶっ飛んでるの期待してたんだなぁと思いつつ、自分も人のことは言えないかと黒板を眺める。
そんな退屈で、普通で、されど中身は流石は雄英高校と言える授業だった必修科目の午前が終わり次は昼食。彼女としてはこのときが実は楽しみの一つで、今から食堂に向かうのが楽しみだと言うのを隠す素振りも見せずに立ち上がれば
「あ、もしかしてレイミィちゃんも食堂行くん?」
「えぇ、麗日もよね。なら一緒に行ってもよろしいかしら?」
「勿論! あ、デクくんと飯田くんもやけど良い?」
ふむ? となったのは二人が一緒という部分ではなく、お茶子の口から『デク』と言う、記憶が正しければ勝己が出久を呼ぶ際の良く言えば渾名、悪く言えば蔑称だったはずと。まさかこの人畜無害な彼女が後者の理由で言うとは思ってもいないので聞いてみれば。
「えっと、こう、デクって頑張れって感じがするやん?」
握り拳を作り本気でそう思ってますと言われればレイミィもそれ以上何かを言えるわけでもなく、聞けば本人も納得してる、と言うよりも直ぐに合流してきた出久と飯田にその話をすれば当の本人から
「こ、コペルニクス的転回で良いかなって」
「……ごめん。私のセンスってのが他とズレてるのかしら」
「いや、俺も君と同じ感想ではあるのだが、本人が納得してるのならば問題ないのではないか?」
なら良いかとこれ以上は考えないことにし、ついでに他も誘ってみようかなと教室を見渡せば焦凍が丁度、席から立ち上がった場面を目撃。このタイミングで立ったってことはそういうことだろうと。
「轟、食堂行くなら私たちとでどう?」
「良いのか? 邪魔しちゃ悪いと思ったんだが」
「何遠慮してんのよ。それに貴方のお姉さんに一人寂しく昼食食べましたって伝えたいの?」
「うおっと、いや、急に引っ張るな。それに、そん時は話さねぇだけだが」
遠慮気味になっている焦凍の腕をぐいっと引っ張り、引っ張られた側の焦凍はその際に転けかけるがすぐに立て直し、彼女の手をそっと払い除けてから三人の元へ向かう。
合流してからこれこれこういうことだからと伝えれば、誰も嫌な顔一つもせずに
「も、勿論!」
「寧ろ遠慮なんかしなくて大丈夫だよ~」
「あぁ、是非とも親睦を深めたいとも思っていたから歓迎だとも!」
歓迎の言葉を聞き、でしょ? とレイミィがニヤリと焦凍に笑いかければ、彼は一瞬だけ驚いた表情になってからいつもの無愛想のようでよく見ると表情が変わってらしいものに戻って一つ頷く。
レイミィもそれを見て満足気に頷いてから五人は食堂へと向かうために教室から出ていく。出ていってからの話になるが今のレイミィと焦凍のやり取りを見ていた本日は弁当だった組の一人、峰田が血を吐きそうな表情と声で
「なんだ、何だよ今のはよぉ!!??」
「どうした峰田!?」
「テメェも見ただろ上鳴、あの気心知れてますって感じのやり取りを! イケメンだからか? イケメンだからなのか!?」
「いや、つっても入学前から知り合いって話だし、そういう感情とは違うんじゃねぇかなぁ」
上鳴の指摘通り、レイミィにはその手の物は一切無い。積極的に絡みに行ったのも同じクラスになったんだからという程度のものでここで峰田ないし上鳴が一緒に食いに行きたいとでも言えば彼女は喜んで受け入れただろう。
忘れてはいけない、彼女の中学時代は灰色だったことを。同年代と食事なんてものは轟家での夕食を除くと全く無かったほどに友達という存在に心の底では飢えているということを、同時に。
「レイミィちゃん、オムライス好きなん?」
「えぇ、作るのも食べるのも好きなのよ。とは言っても作る方は滅多に出来ないんだけど、卵が高いのよ」
「分かる。でも偶に食べると美味しいんよね~」
彼女の会話相手は便利屋の大人組、一つ上の親友の被見子と時たまホークス。つまるところが大体が大人であり、彼女のことをよく知っている人物としか食事中の会話なんてしたことがない。
これはその経験値不足が生み出した重力波の嵐の出来事、後の時代に入学早々に食堂を沈黙に沈めた吸血姫と語られることになる事件の始まりだった。
「美味しいのもあるけど、私にとってオムライスは笑顔のお母さんを思い出せる唯一の料理なのよ」
ズシン、とレイミィたちを中心とした空間に超重力が発生した。当の本人から雑談だというレベルの口調で出された重すぎる話に出久はあまりの重力に冷や汗をダラダラにかきながら料理に目を向けることしか出来ず。
天哉は急な衝撃に箸を持った格好のまま固まり、自身の眼鏡にヒビが入ったような幻覚が見え。
話を振った麗日は脳の処理速度が追い付かなかったのだろう、日常的な笑みの表情のままフリーズした。因みに焦凍は既に一度聞いているので蕎麦を啜り、非常に美味しかったようで若干表情が動いた。
おかしい、ただちょっと好物の話をしただけだと言うのになんで地雷を踏み抜いた話が出てきたのだろうか。麗日はフリーズしながらも脳みそをフル回転させ、無理やり復帰してから申し訳ないという表情で
「レイミィちゃん、その、なんかごめんな」
「へ? 別に謝るようなこと言ってないでしょうよ。寧ろどうしたの貴方達、急に固まっちゃって」
「いやいや、あんな話がポロって出てきたら誰でもそうなるんよ!?」
もしかして本当にただの雑談感覚で喋ったんか!? 悲しいかな、彼女にとってこの程度が何だというのだと言えてしまう。今どき親が実はなんてものはよく聞く話じゃないかとレイミィは思うが、それは彼女が便利屋として関わったことが多いからであり、世間一般的なものとは程遠いことに彼女は気付いていない。
「そう、なの。ごめんなさい、私、同級生とこういった場で会話とかしたこと無くて」
「待って待って、話題を変えたら別の重さが出てくるの待って!?」
「重さ……?」
この娘、天然か! コテンと可愛らしく小首を傾げるレイミィにそう思わざるを得ない麗日、これにはデクも天哉もどうしたらいいんだろうかと困惑の色を深め始めてしまう。
気付けば彼女たち周辺はポッカリと妙な空間も出来上がるほどに重力はドーム状のフィールドを形成し始めていた。無論、誰もそんな個性を使ってないので集団幻覚とかの類なのだが。
「おかしいわね。ホー……知り合いは特にそういったことは言ってなかったのだけれど」
「それ間違いなく気を使われたってだけや。と言うか轟くん、なにも反応しないけど大丈夫なん?」
「俺はもう聞いたからな。ただ姉さんとかはショック受けてたのは確かだ」
「待ちたまえ、君は轟君のお家でも同じ会話をしたのかい!?」
漸く復帰してきた天哉からの迫真のツッコミに今度はレイミィが困惑する番になる。流石にここまでツッコミが激しいともしかして私が悪いのかコレとなり、うーんとオムライスを食べながら考えて
「あれかしら、この手の話って早々に話すもんじゃないってこと?」
「うん」
「そう、だね。うん、話すにしてもこう、場面とかタイミングみたいなのがあるかなって僕は思うよ」
「緑谷君と同意見だ。バートリー君、流石にそういう話題を話すのは悪いとは言わない、言わないが急に出てくると我々も受け取り方に困るんだ」
と言うか入学二日目で知り合った同級生に話す内容ではないと思う。轟を除いた、食堂の学生と先生たちの心が一つになった瞬間だった。なお、焦凍は昼食のざる蕎麦を食べ終え、食後のお茶を楽しんでいる、茶柱が立ってたらしい。
「そうなの、だとしたら私が謝るべきね。ごめんなさい、うーん、難しいのね同級生との会話っていうのは」
「バートリーが話す相手ってのはもしかして、大体が依頼主とかそういうのしかいねぇのか?」
「えぇ、あとは所員達ね。思えばこっちの事情を知ってる人間ばかりじゃないの、そりゃ何も思わないわよね」
今気づいたという感じの声に、それにもう少し早く気付いて欲しかったなと言わなかったのは善意だろう。ともかく、焦凍のフォローのような話で分かったのはレイミィ・バートリーはあまりに同級生との経験値が不足しているという事実。
これは早急にどうにかしないといけないのではと決意を固める麗日。恐らくは今日中にもA組の女子全員のこの場での出来事が伝わり、後日には彼女を囲むようになるのだろうがそれは少しだけ未来のお話。
「ところで何やけど、オムライス作るのも好きっていうのはやっぱりお母さんの味、だからとか?」
もうこの際だから少し気になったことを聞いてしまおう、その気の緩みが良くなかった。何気なく、本当にもうコレ以上は出てこないだろうという考えで聞いてしまった麗日、彼女は直ぐにレイミィの地雷原の密度を甘く見ていたと遠い目を晒すことになる。
「いいえ、ただお母さんが得意な料理だって笑顔で話してくれたってことを覚えてるだけ。だから、あの人のオムライスがどんな味だったのか、分からないのよね」
「……ごめんなさい」
麗日の本気の謝罪が静かに響き渡り、食堂が再び今度はグシャという先ほどよりも調理場にまで届くほど大きく、強力な重力フィールドに包まれた瞬間だった。因みに出久と天哉は白くなりながらお母さんの料理の味は絶対に忘れないようにしようと心に誓い、焦凍は母さんの料理、久しぶりに食べたいなとぼんやりと思っていたとかなんとか。
なんてことがあった昼食を終えれば、午後はいよいよお楽しみの時間が始まる。そう、ヒーロー基礎学の時間だ、皆が教室でまだか、まだかと楽しみにしている中、一部生徒、もといレイミィと昼食をともにした三人は未だ復帰できずにいた。
「あの、三人ほどが纏う空気が非常に重いように感じるのですが一体何が」
「え~っと、不幸なことが合ったのよ、えぇ」
「ふ、不幸なことですか?」
それはそれで何が起きたか気になるのですがと百は首を傾げてしまうが、ありのままをここで話せば間違いなく二次被害が生まれると空気を読んだレイミィは全力でお茶を濁す。
濁しつつ授業が始まれば嫌でも復帰するでしょと根拠のない確信もあったので百には気にしないでと言い、そこで廊下から誰かの足音、どころの騒ぎではない。
「わーたーしーがー!!」
「ッ!来っ……」
聴こえてきたその声にクラスの誰もが期待の眼差しで扉の方を向く中、レイミィだけはテンションが地の底へと落ちていく感覚を覚えていた。冗談だろと、昨日の今日でこんな事あるのかと信じてない神に恨み節を放ちそうにすらなる。
「普通にドアから来た!!!!!」
HAHAHAHA!! と今や聞いたことはいないであろう笑い声とともに教室に現れたのはNo.1ヒーローことオールマイト。
そんな中、レイミィは本気で嫌な奴と出会ったと言う表情のまま彼を見据える。校長にも担任の相澤にもまだ聞いていないが、出久の記憶が正しければ彼は個性を譲渡し失っている、だと言うのに教室中に感じる圧は何一つ変わっている様子がない。
「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う課目だ!!」
ググッと態とらしく力を溜めるポーズ、次にグンッと突き出された手に収まっているボードに書かれている文字はBATTLE。つまりは
「早速だが今日はコレ!! 戦闘訓練!!!!」
出されたお題の内容にざわめく教室、それからオールマイトがリモコンを操作すれば教室の壁が動き出し、出席番号が書かれているケースが入っている棚が現れる。
「そしてそいつに伴って……こちら。入学前に個性届と要望に沿ってあつらえた【
『おおおお!!!』
戦闘訓練に、
(オールマイト、貴方もしかして……身体やばいんじゃないの?)
ただ一人だけ、オールマイトの異変に気付き、怪訝な表情を浮かべるレイミィ・バートリーを除いて、けれど今はそれに蓋をしておこう、彼女は表情を戻してから自身の出席番号が書かれたケースを受け取り着替えに向かう。
被身子が夜なべして考えたものなのだからきっと素敵な衣装なんでしょうねと思いながら。
楽しい楽しい昼食中の食堂で何してだこいつ案件。
便利屋メモ
レイミィはオムライスだけなら様々なバリエーションが作れるくらいに腕が良い