とりあえず、話があるならここで立ち話じゃなくて事務所でしない? と私が提案して向こうも了承してから場を事務所の応接室を移したんだけど。
(私、彼に恨まれるようなことしたかしらね?)
いや、元々の目つきから私が誤解してるだけだとは思うんだけ……ってそう言えば最近は扱いが良かったから忘れてたけど便利屋ってヒーロー界隈からはあまりよく見られてなかったわね。
ならナイトアイの雰囲気にも納得しかないって思ったけど、それだったらオールマイトが止めるか。
「改めて、レイミィ・バートリーよ。知ってるとは思うけどここの所長を務めてるわ」
「サー・ナイトアイだ、時間を取ってしまい申し訳ない」
声の感じは然程ってところね。ただあまり大っぴらに便利屋を受け入れているって感じではないかしらこれと思いつつ彼と握手を交わす。
その際にナイトアイが身長の関係で私を見下すように見てくるので視線を返したのだが、その時に何と言うべきか遠い何かを見透かされたみたいな妙な感覚を覚えた。
「さて、話があるとはオールマイトから聞いてるけど要件は何かしら?」
「幾つかあるが今回はお礼、だろうか」
立ちっぱなしもあれだからと座ってもらい、圧紘が淹れたコーヒーで一息ついてから聞いてみればそんな話が出てくる。出てきたけど、お礼って何? 思わず隣の血染に視線を向けるが知るかと言わん表情をされる、そりゃそうだ。
ならばと事情を知ってると思われるオールマイトを見れば、向こうはえっとという感じに頬を掻き誤魔化すように笑みを浮かべられる、知ってるが本人から聞いてくれってことか。
「えっと、お礼を言われるような覚えがまるで無いのだけれど。もしかして過去に実は顔見知りだったりとかあったかしら?」
「いや、今日が初対面で間違いない。そうだな、詳しく話すためにも私の〝個性〟について説明しておこう」
「噂程度だが未来が見えるとは聞いたことがあるな」
「ふむ、ある程度はこちらのことも調べていたか」
あ~、私もその噂は聞いたことあるわね。その時はこの〝個性〟社会なら存在しても不思議じゃないくらいで思考を止めちゃってたし、その後の被身子が本気の声で見つけ出して宝くじ買いに行きましょうの発言でゲラゲラ笑ってたからすっかり頭からすっぽ抜けてたわ。
ともすれば目の前の彼、サー・ナイトアイがその〝個性〟の持ち主と見るべきかしらね。だとするとお礼っていうのは……
「誰かの悲惨な未来でも変えたって話かしら?」
「あぁ、オールマイトの未来をね」
「……」
「済まない、急にゲンナリという表情をされると私もどんな反応を返せば良いのか困るのだが」
おっといけない、よりによってお前かよという表情が抑えられなかったわ。でも未来を変えた言われてもあれよね、今一実感が湧かないと言うか、何かしたとかの記憶がないから私も反応に困るのよね。
だってそうでしょ、彼と関わったとか学校以外じゃ依頼の邪魔されたとかそんなんばっかりよ?
「ま、待ってくれバートリー少女、今その事は……」
「オールマイト、後で話が出来たのでそのつもりで」
「あ、はい」
何だか親友というか気楽な間柄みたいなやり取りをしてるのを見てそう言えばと思い出す。確か、オールマイトのサイドキックだったとか聞いたことあるわねと6年くらい前の話だっけ血染。
「だと俺も覚えている、何があったかは知らんがサイドキックを解消したとも。だが今なら理由も想像がつく、大方AFO関連だろ」
「そのとおりだ、詳しくは時間がないので話せないがそこで意見の食い違いと彼の凄惨な未来を見て止めようとして喧嘩別れの形でだ」
「……その、当時の私は意地を張りすぎていたと今は思っている。改めて済まなかった、ナイトアイ」
「その話は数日前に終わったことですから良いですよ」
ふーん、とコーヒーを飲みながら私は声を漏らすが正直な話、割りと興味がない。確かに凄惨な未来を変えることが出来たというのは悪い話じゃないんだけど、やっぱりお礼をと言われても反応に困るとしか出てこない。
とは言え未来が見えるナイトアイからすればそれが変えられたと言うだけでも色々と思うところがあってこうしてお礼を言いに来てるというのも理解できる。
「なんだか苦労しか無い〝個性〟ね」
「扱い方が分かってくればそれほどでもない。だが他人の未来が見えてしまうというのは良いことでもないというのは確かではある」
「ふぅん、てことは私の未来も見えちゃったりしちゃうわけ?」
多分だけどあの見通されたあの感覚がそうだと思うんだけどと聞いてみたけど返ってきたのは首を横に振る返事。どうやらそんなに簡単なものでもないのかもしれない。
「これは発動条件が難しいものでね。だがもし希望するならば見てみるが?」
「……いや、別にいいわ。聞いても聞かなくても私がやることは変わらないし」
興味がないと言えば嘘になるけど、じゃあこの場で見てもらって結果を教えてもらうのもなにかこう、私には余計なものな気がして断る。
これが被身子なら食いついてたんでしょうけど、血染はどう?
「俺も断る。見えたところで碌な事にならん」
「HAHAHA! 君たち結構容赦ないよね!」
「誰もが一度は食いついてくるのだが、その辺りもヒーローではなく便利屋をやっている人間の感性という所か……」
多分関係ないと思うとは流石に言えなかったのでコーヒーを飲んで誤魔化しつつ、まだ話はあるのかと促してみれば
「あるにはあるがこの場でするには私もそちらも時間がない物になる。今日のところはお暇させてもらう」
「あら残念、んじゃ一つだけ聞きたいけど便利屋をどう思ってるのかしら?」
「正直に言えばあまりいい目では見ていない、が雄英が信頼しているというのならば私からとやかくいうつもり無い、と言うところだな」
無論、時と場合によってはだがとナイトアイは告げながらコーヒーを飲み干して立ち上がる。とりあえずは信頼されていることには素直に喜ぶべきよねこれ。
それに私達に対して厳しい目を持ってるヒーローが近くにいるっていうのも大事なことだと思うし、じゃないと私も変な勘違いをしないとは限らないのよ。
「ともすれば今後もそう接しておこう。さて、ではまた、今度は互いに時間がある時にでも」
「えぇ、歓迎するわ、サー・ナイトアイ」
「じゃあ私は彼を送って行くよ。ではね、バートリー少女」
どうせオールマイト、貴方は雄英高校が職場なんだから嫌でも会うでしょうに。そう思いながら二人を見送り、姿が見えなくなったタイミングで息を吐き出す。
なんというか久しぶりに中々に強い威圧を感じた、エンデヴァーも最近じゃ割りと緩くなってきてるしってどうしたの血染。
「奴は本当にお前の未来を見えてなかったのかと思ってな」
「あぁ、あれ嘘よ。彼と握手して目線を合わせた時に何かを見通された感覚を覚えたから」
「なんだと? だとすれば嘘を付く必要が?」
「さぁ? それにあの時にも言ったけど見えたものを聞いたところで私のやることは変わらないし、別に構わないわ」
それよりも仕事に戻りましょうかと事務所に踵を返す。戻ったら浮気調査の書類が束になってるのを見てゲンナリして業務に追われるのを知らずに……いや、なんでもうこの依頼が束で来てるのよ、え、口コミ? そう。
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便利屋を出たオールマイトとナイトアイ、二人は暫く会話がなかったがレイミィと血染が見送りから居なくなったのを確認してから
「ナイトアイ、どうだったかな?」
「しっかりと〝視えました〟同時に私の推測も間違ってなかったことも」
レイミィと握手をした場面、あの時に彼女も気付いたようにナイトアイは〝個性〟で彼女の未来を【予知】していた。そしてそれが今回、彼女と接触したナイトアイの本当の目的。
彼が彼女と接触したかった理由はオールマイトの変化した未来にあった。約6年ぶりに向こうから話がしたいとやってきたオールマイトと腹を割って話をし、その際に改めて未来を予知、変化していることに驚いた。
驚いたと同時にその予知の場面に映ったとある存在がレイミィと接触する理由にもなったのだ。
「前に貴方の未来を予知した際に一匹のコウモリが視えたと言ったのは覚えていますね」
「あぁ、紅いコウモリだろ? それから心当たりがあるかと聞かれたからバートリー少女を紹介したからね」
「その〝紅いコウモリ〟が彼女自身の未来にも映っていました。つまり、オールマイト、貴方の未来を変えたのは彼女というので間違いありません」
ナイトアイにとってそれは衝撃的以外の何物でもなかった。彼の【予知】は的中率100%であり、変えることは今日まで一度も成功していない代物、それがまさかたった一人の少女に変えられたのだから。
同時にあの紅いコウモリが何なのかと言う疑問も出現しこうして今回の話になるのだが、そこでナイトアイが視たのは更に驚愕させる内容だった。
「紅いコウモリは確かに居ました、ですがその数は一匹ではなく少なく見積もっても数十匹という数です。仮にコウモリが未来を変えた証だとすれば彼女は数十人規模の未来を変えているということになります」
「待ってくれ、確か君は言っていたよね。自分が視た未来を変えられたことは一度もなかったと、仮に出来ても一時凌ぎ程度が限界だとも」
「えぇ私の【予知】はそれほどまでに強力です。もし変えるにしても生半可なことじゃない、だが」
「バートリー少女は一人でそれをやり遂げた。凄いことじゃないか、と言える空気じゃないね」
もしオールマイト一人だけというのならばナイトアイもレイミィ・バートリーと言う少女がなにか特殊な力を持っているのかもしれない程度に収めていたかもしれない。
だが問題なのは視えたコウモリの数、仮にコウモリ=未来を変えた人数だとすれば、それはもう不可能だと言える。一人変えるだけでも不可能に近いというのにそれをたった一人で数十人なんて異常でしか無い。
「もしかすれば便利屋全員で変えたというのもあるかもしれない、けれどそれを考慮してもあれだけの人数はおかしい、まるで彼女が存在したから未来が変わったとしか言えない」
「存在したから? それはどういう意味だい?」
「例えばオールマイトの未来も彼女が居なかったら現状では変わってなかったでしょう。ですがそこにレイミィ・バートリーと言う少女を一人加えられたことで変化が起きた、そう考えています」
まるで本来であれば彼女は存在しないからこそ起きた大規模なバグみたいだ。小さく呟いた言葉だったがオールマイトの耳にはしっかりと届いた。
言うとすれば特異点とも言える存在、彼女が存在したが故に凄惨な未来が待っていたはずの誰かの未来に変化が起きた。では、彼女自身の未来は……?
大規模なバグを引き起こした彼女に、本来ならば一人では出来ないはずのそれを数十人に引き起こした少女に何かしらの悪影響が発生しないのか、それが彼が視た未来の光景だった。
視えたのは大規模な戦闘が起きたかのように瓦礫の山と化した何処かの街でたった一人で何かと戦い、そして勝利こそするが……
「このまま行けば、彼女は18を前に数十匹の紅いコウモリに囲まれ、そして霧となって消滅します」
「18を前に、それはもう時間が殆どないってことじゃ」
「はい、遅くとも彼女が二年の頃、早ければ年内か来年の頭か。すみません、どういう訳か正確な予知が難しいんです」
初めてのことだった。確かに遠い未来ほど誤差が生じたりするが一年、二年以内のことを正確に予知出来ないことは今まで無かった。
これも彼がレイミィを特異点のような存在かもしれないと発言した理由でもある。だが今はそれは良い、大事なのはこのままでは彼女は確実にその身を犠牲に消滅するという事実だけ。
「ナイトアイ、どうにか彼女の未来を変えたい、私の未来を変えてくれたというのに何も出来ないじゃトップヒーローの名が泣くぜ」
「オールマイトならそういうと思ってました。私も同じです、彼女のお陰でこの〝個性〟も絶対じゃないと分かりました、未来は変えられるんだと」
だが決意を表すのは簡単かもしれない、しかし彼女の未来を変えるとなるとそれこそ生半可なことでは無理だろう。なんせ、一人で数十人の未来を変えてしまっているのだから、その因果とも言える負荷は計り知れない。
一人二人が足掻いたところで話にもならない、けれどナイトアイには考えがあった。それは紅いコウモリ、もしそれが本当に彼女によって未来を変えられた人物の証ならば
「その人物にも協力してもらえれば或いは。問題があるとすれば、誰に予知をすれば良いか、チッこういう時に一日に一人だけしか見れないが足枷になるとは」
「うーむ、大きく現状が変化したということならばエンデヴァーがそうかもしれないな。ともすればプロヒーローは大体関わっているかもしれない」
「だとすれば便利屋と関わりがある人物なんかを当たれば、もしくは彼女個人と関わったことがある人物でも良いかもしれない」
「なら校長に話を通してみよう、彼ならば更に良い案を出してくれるかもしれない」
では早速、話をしに行きましょうと二人は目的の人物へと歩き出す。こうしてレイミィが知らぬところで彼女の未来を変えるための戦いが始まった。
その未来が変わるのか、それとも。どうなるかは誰も知らない。
Q つまり?
A 原作なら死亡だったり欠損レベルの重傷だったり再起不能だったりするはずの人物がレイミィ・バートリーの存在で軒並み良い未来になったよ。
でもその分、本来ならば発生するはずのその悪い未来、負債とも言えるそれは全部レイミィに発生してるよって状態。
ナイトアイの予知は変化させるには『自分の望む未来のヴィジョンを強く持つこと』『複数人でその一つの未来を望むこと』が必要とされているヒロアカ世界で一人変えちゃってるのでその分丸々とレイミィに降り掛かってるって話でもあります。