便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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ここ最近、ちょっと空気が重かったからね。


No.145『自室披露大会~プロローグ~』

 あれから寮の案内、自室の確認を終えたレイミィを除いたA組の面々は荷解きを始めていた。

 

 しながらも彼らの脳裏に浮かぶのはレイミィの口から語られた数々の真実、正直に言えばまだ誰も全てを飲み込んだわけではない。

 

 それもそうだろう。これは今までただの少年少女だった者たちにはあまりにも複雑で残酷でしかなく切り替えることは容易ではないのは言うまでもないだろう。

 

 なのでこの部屋作りは彼らにとっては気持ちの整理なども兼ねていたりもする。そんなこんなで時間は夜、途中で便利屋主催の歓迎会も挟みつつも無事にことが済んだ男子組は一階の共同スペースにて寛いでいたが切島から。

 

「にしてもすげー話になっちまったというか、落ち着いてきてから改めて話を思い出すとなんつったらいいんだ」

 

「切島が言わんとしてることは分かる。てか時間経ってもやっと少し咀嚼できたって感じだわ俺」

 

「共同生活がとか盛り上がる感じじゃねぇよとはなる。まぁだからなのか便利屋の人たちが歓迎会してくれて気にするなってしてくれたのは助かるんだが」

 

 言ってしまえばお通夜一歩手前をなんとか盛り返したという感じだろうか。特に青山なんかは未だに心の片隅で罪悪感に苛まわれている部分もなくはないという表情に口田が気に掛ける場面も見える。

 

 実際、便利屋の火伊那なんかは一度に話すのは迂闊が過ぎたんじゃないかとレイミィに伝えたが彼女は最終的に全部知ることになるんだから遅いか早いかの差でしかないと反論されている。

 

 もっと反論こそしたがレイミィも気にしているようで歓迎会のあとから彼女を見たものは誰も居なかったりする。

 

「うぅむ、とは言え俺達がこうして悩んだりしてもどうにもならないというのも事実だ。悔しいがな」

 

「って割り切れたら苦労しないんだけどな。はぁ」

 

「おぉっと、男子組の空気ヤバ……」

 

 声の方向に全員が向ければ、居たのは女子組。どうやら向こうも部屋作りが終わって降りてきたらしいのだがそこで見たのがどんより空気の彼らだったので芦戸が分かるけどという感じに笑みを浮かべていた。

 

 無論、女子組も飲み込みきれたというわけではない。まだ内心では思うことしかないし引き摺ってないというわけではない、ないのだが結局はさっき天哉が言ったように自分たちが悩んでもどうにもならないのだからと一旦割り切っているらしい。

 

 まだ多少ぎこちない感じの笑みではあるのだがそれでもそう考えられているということに焦凍は素直に感じたことを口にすることにした。

 

「強いな、俺でも時間は掛かったのに」

 

「うーん、そこは轟くんと私達とじゃ付き合いの長さが違うから仕方ないんじゃないかな? こっちは良くも悪くも学校での付き合いしかないからさ」

 

 彼女をどの程度知っているかの差による立ち直りの早さであると、それを言われれば確かにと焦凍は納得する。そうと分かればこの男子組の中でも引き摺っている者は彼女に恩があったり世話になったりという人物かもしれないとすればこの空気も頷けてしまう。

 

 青山は家族を救われた。出久は特訓や〝個性〟の調整などで世話になった。天哉は兄が便利屋に救われた。そして焦凍は今更言うまでもなく自分を含めた家族を救われた。だからこそあの話を聞いてどうにもならない現実に打ちのめされてしまっているのかもしれないと。

 

「って違う違う、こんな重い話をしに来たんじゃないってば! ね、芦戸ちゃん!」

 

「そうそう、さっき皆と話してて提案があるんだけど。お部屋披露大会しない? って」

 

 刹那、先程までの空気がガラッと一変したのを全員が感じ取った。それはあまりに唐突で、けれど空気を入れ替えるという意味では正しいかもしれない一手ではあった。

 

 あったが自室を見せるという行為は正直に言えば勇気が居る行動である。特に出久、踏影は部屋を見られるという可能性すら考えていない部屋であり、その言葉はいかなる(ヴィラン)よりも強大で恐怖しかないものだった。

 

 というか正直に言えば断りたいとすら思っているこの二人、だが悲しいことにそれを言えるほどのコミュ力を持ち合わせていない。なので冷や汗だけが流れていく、誰か助けてくださいとすら思っていたりもする。

 

「まぁ、まずは皆のよりもレミィの部屋を見に行こうかってところから始まったんだけどね」

 

「すっごい気になるよね、レイミィちゃんの部屋!」

 

 だがどうやら若干の時間稼ぎはできるらしい。出てきたのはレイミィの話題、元々は彼女の部屋が気になるという話からどうせならという流れだったらしいと説明されれば男子組も確かにとならないわけではない。

 

 その流れで焦凍に知らないかと聞いたのだが彼も実を言えば便利屋に行ったことはないので知らないと返される。

 

「思えばバートリー達が家に来ることはあっても、向こうのは行ったこともないし聞いたこともなかったな」

 

「あ? え、バートリーは轟の家に行ったことがある? は?」

 

「落ち着け峰田、そういう関係じゃないってのは今日までの感じで分かるだろ」

 

「んなぁことは分かってんだよ、だがなぁ! あの感じは一度や二度じゃねぇだろ、そんなに頻繁に行ってんのが問題なんだよクソがぁ!」

 

 峰田、世の不条理に怒り叫ぶがこの場の誰からも同意は得られない。寧ろ全員してドン引きしかしてないし、このまま話は進むだけなのだが。

 

 ということで現在は一階の寮の入口近くにあるレイミィの自室前、この場所にある理由は事務所との移動を考慮した結果とのこと。因みに行く前に響香が被身子に確認を取ったところ

 

『寧ろ顔を見せに行ってあげてください。レイミィちゃん、あれでかなり繊細ですし友達が部屋に遊びに来るってイベントも初めてですし』

 

(聞きとうなかったそんな事実)

 

 思わずお茶子が顔を手で覆ってしまった事実だがこれでも友人と言える存在がそもそも被身子以外だと雄英高校に来るまで一人も居なかったという部分を伏せられていることを知らない。

 

 これも別に被身子が気を利かせて伏せたとかではなく、向こうは知ってると思っているから言わなかっただけなのでふとした拍子に出てくる話題である可能性があるとかなんとか。

 

 そんな余談は置いておき、大丈夫だということならば遠慮はいらないよねと代表して響香が扉をノックしてから

 

「バートリー、今大丈夫?」

 

「耳郎? ちょっと待ってて……」

 

 直ぐに返事が来てかパタパタと足音がしてから扉が開かれたのだが、先ずここで誰もツッコミを入れなかったのが奇跡だと響香は思った。

 

「ん? どうしたの皆して人の部屋の前に集まるなんて」

 

「いや、ちょっと話の流れで皆の部屋を見に行こうってなって。その一番手にバートリーが選ばれたって話なんだけど……なにその、なに」

 

「部屋を? って人の格好を見てその表情されると困るんだけど」

 

 ついぞ我慢できなかった声が響香から漏れ、レイミィは怪訝そうな表情で全員を見る。彼女の視線の先には困惑し自分を見る響香達が居るのだが彼女たちからすればレイミィのそのオフの姿を見せられて困惑するほうが無理だという話だろう。

 

 彼女の姿は要は事務所でのオフの姿。つまりは黒のスウェットパンツに例の鳥のイラストがデカデカと書かれたオーバーサイズTシャツなのだから。

 

「それって一体どれくらいグッズがあるの」

 

「知らないけど、あぁ最近わかったことが合って【電波】って〝個性〟持ちのイラストレーターが出してるらしいのよね、だから商品がたくさんあるんだとか」

 

「それ絶対に駄目な電波受信しちまってるだろ」

 

「ですが段々と愛嬌があるようにも感じてきますし、悪くはないと思いますわ」

 

「やばい、ヤオモモが汚染された!!」

 

 人のオフの格好を見て随分な言い様に思わず一度扉を締めてやろうかとレイミィは口元を引くつかせるがふぅと息を吐き出し落ち着かせた、どうであれあの重っ苦しい空気からかなり軽めになったのだから壊す必要はないだろうという考えである。

 

 それから部屋を見たいんだっけとなり、向こうも無理にとは言わないけどとなるが

 

「別に構わないわよ。特に面白いものはないけどそれでいいなら」

 

(もうすでに面白いものしか見えてない)

 

(正直、バートリーの部屋着だけでお釣りが出るレベルなんだわ)

 

(これ以上面白いものを見せられても困るっちゃ困る)

 

「んじゃおじゃましま~す!」

 

 まぁレイミィの部屋だから変なものは出てこないでしょというのが彼らの共通認識だった。そして実際、部屋に通された彼らが見たのは彼女のイメージよりも更に普通、というよりも

 

「めっちゃ仕事人と言うかキャリアウーマンみたいな部屋!」

 

「至る所にファイルや書類が纏められていますわね」

 

「おっと、このパソコンとか見ないほうが良いよね!?」

 

「そこに機密性の高いものは映してないから大丈夫よ。それだってただ収支とかを纏めてただけだから」

 

 ほら、とレイミィがパソコンを見せれば確かに書かれていたのはひたすらに数字の羅列。ここ最近はまとめる時間がなかったので丁度いいとばかりに初めていたらしく、それももう纏め終えたタイミングだったとか。

 

 本人的には慣れ親しんできたものではあるが響香達には見慣れないものであり葉隠と芦戸、上鳴や切島達はそれを見て

 

「う、持病が」

 

「これもしかしてバートリーは毎日やってるのか」

 

「毎日って訳じゃないけどね。こまめにやらないと後でのほうが面倒だし。ていうか、あなた達も将来的にはやることになる作業なんだから今からでも家計簿を付けてみるとかしたほうが良いわよ」

 

「ふむ、それは確かにそうかもしれないな」

 

「ふふん、家計簿なら実は私は付けてたりするんよ。でも流石にここまで細かくはしてないけど」

 

 その後も機密の類ではない書類やファイルを見せながら報告書の纏め方や仕事の話などをしている最中、チラッと響香が部屋のある一点を見て思わず思考が停止した。

 

 部屋の隅とその隣のベッドの上、そこに置かれている彼女が命名するのならば『変な生き物シリーズ』とでも言うべきだろうか。レイミィのTシャツに描かれているのと同じキャラクターグッズが飾られていたのだ。

 

(これ触れないほうが良いやつだわ、うん)

 

「どうしたの響香ちゃ……レ、レイミィちゃん! 良かったら一緒に他の人の部屋とか見に行かない?」

 

 急に静かになった響香にどうしたのかとお茶子が見れば彼女もまたその光景に言葉を失い、咄嗟にその提案を出す。このまま部屋に居れば誰かが触れてしまうと。

 

 だが考えてもほしい、そもそも隠してないものを誰も気付かないわけがあるのかと。答えは否であり、全員が全員その一角を見て、見たうえで誰も触れなかったのだ。

 

「(ナイスだ、麗日!)そうそう、こもって仕事ばかりだと疲れるだろ?」

 

(あ、みんな気づいてて触れてなかっただけなんだこれ!)

 

「うーん、まぁそうね。丁度キリが良いところまで仕上げてるし悪くない提案ではあるわね。私だけ見られたってのもムカつくし」

 

 ぐっと伸びをしながらそう告げるレイミィ。なお、あの一角に誰も不気味なくらいに触れないことは気付いているし、だからといってどうということはない。

 

 ないのだが内心ではそんなに触れたくないことかしらこれと思っていたりもしている。彼女としてはもう少し興味を持ってくれる方が嬉しいのだけれどと思ってもいる。

 

「それじゃ次は誰の部屋から行こうかって」

 

「おうおう、どうした緑谷ぁ? 逃げようっていうのはどういう了見だ?」

 

「え、ちち、違うよ? 逃げようとかじゃないから、ただちょっと、ね?」

 

「緑谷の部屋からにしましょう、絶対に面白いものが見れるわ」

 

 レイミィの一言で全てが決まったとばかりに行動を開始する面々とどうにかして後回しもしくは免除されないかと説得をする出久、勿論ながらそれで彼らが止まるわけもなく無慈悲に開かれた彼の自室を見たレイミィの一言目が

 

「予想通りすぎてツマラナイわね」

 

「ひっどい言われよう!?」

 

 ハァとレイミィがため息すら吐き出す出久の部屋は所狭しにオールマイトグッズが飾られているという光景なので彼女からすれば想定通りでしかなかった。因みにだが血染の部屋も割りと同類だったりする、彼の場合はかなり巧妙に隠されていたりするがそれでも過去に一度、入ったときにレイミィは軽く引いたレベルではあった。

 

「嫌だって意外性もなにもないじゃないの、誰がこの部屋を見たってあぁハイっていう反応にしかならないわよ」

 

「ボロクソすぎないかなぁ!?」

 

「……これもしかして部屋を見せる度にバートリーのボロクソな評価されるコーナー始まったか?」

 

 瀬呂が冷や汗を流しながら口にした言葉にレイミィはにこりと笑みを浮かべながら告げる。別にしてほしいなら構わないしやってやろうじゃないと。




困ったことに話が浮かばなくなってしまっているという。

便利屋メモ
【電波】の〝個性〟持ちイラストレーター曰く、透き通るような電波を受信したと思ったらこれを描かなければならないという使命感に襲われとかなんとか。
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