レイミィ・バートリーは実は動物が好きな少女である。自主的には行かないが被身子に誘われて猫カフェに行くこともあれば、暇があれば迷子のペット探しも彼女が率先してやったりもするほどに。
故に今回の一件、彼女は凹んだかどうかと聞かれれば素直に割りと凹むと答えるくらいには響いていたりする。そう、現状でも口田の部屋の前で名残惜しそうに扉を見つめてから若干遠い目をして笑うくらいには。
「フフッ、じゃ次は誰にしましょうか?」
「なぁおい、この流れで続行するのか!?」
切島、思わず叫ぶ。ここから部屋紹介でってなるのは難しいだろうとそしてそれはそうとなるのが他の男子組、女子組も明らかに凹んでいるレイミィをどうしようかとなっているほどだ。
とは言えここまでやって止めようかというのはというのもレイミィとしては中途半端になるのが気持ち悪いので続行するつもりなのだが。
だがその場合は今までよりも非常に淡白な反応が返ってくるか更にボロクソな評価をし始める化の二択である、がここで救世主が現れた。
「な、なぁバートリー、実は部屋作りが早く終わって皆に振る舞おうって思ってシフォンケーキを焼いてあるんだけどさ、どうだ?」
「あら、ケーキを?」
砂藤の言葉への反応は非常に分かりやすく、纏う雰囲気の変化は劇的だった。それを示すように誰が見ても上機嫌だなこれと言うのが彼女の特徴の一つである羽根に現れたのだ。
(めっちゃ羽根が動いとる!)
(パタパタしてる! かわいい!)
(可愛いですわ……!!)
(レミィがここまで喜んでるの初めて見たかも!)
(ケーキ好きなのね、レイミィちゃん)
(普段は感情が分かりやすいんだよね、バートリーって)
いつもならば羽根の感情を抑えることができないということはない。だが今回は事前にうさぎの件で凹みに凹んでいる状態から一気に気分が上がるようなことを言われたので隠せないでいる。
なお、彼女はそれに気付いていない。どうやら相当浮かれていることにすら気付いていないほどに無意識な動きらしいがそれを指摘しないのは彼女たちの優しさだろう。
因みに男子組は女子たちに目線だけで釘を刺されているので何も言えない模様。最も刺されなくてもここで指摘したらまた凹まれるかもしれないという危惧からしないのだが。
「ならそうね、全部すっ飛ばしてケーキを食べに行きましょうか。あ、でもそうすると他を回る際に手間になるわね」
「ところでよ、全部見たいなら女子の部屋は良いのかバートリー?」
そう言えばそうだなと上鳴が峰田の言葉に賛同する。そもそもなんで男子だけ見て回っているんだと疑問を投げ掛けられたレイミィは……自分のアリバイに大きな穴があると言われた犯人のような表情をしていた。
あ、これ全く考えてなかったなとクラスメイトが悟るのに時間は要らなかったし、実際レイミィは考えてなかった。ここで指摘されてそう言えばそうじゃんとすら思っている。
「……何か、面倒になってきたわね」
「えぇ……」
「お、横暴すぎる」
さっきまで全員見なきゃ満足しないとか言っておきながら指摘されたら面倒になるとか言い出す彼女に瀬呂は思わずそんなことを口にする。
とは言えこれは今のレイミィのテンションが原因でもある。先程も言ったが現状の彼女は凹みに凹んでからケーキというスイーツを食べれるということで復活しているだけ、つまりはケーキさえ食べれるならもうどうでもいいかなという状態なのだ。
「それにこう、他人の部屋を見てあれこれ言うのも悪い気がしてきたのよね」
「今になって!?」
「オイラもしかして今、とんでもない横暴を目撃してるのかこれ?」
(そういや、何時だったか自分勝手だとか言ってたような気がするな)
まさかここでその具体例を目の当たりにするとは思わなかったと言うのは天哉の気持ち、だがこうも考えられるかしれない、彼女は遠慮するのを少しだけ辞めたのかもしれないと。
あの日、蛙吹が言ってたように彼女は今までは一線を引いて接していた。いや、爆豪とのやり取りを考えればそれも若干疑問を覚えなくはないがそれ以外のクラスメイトとは割りと当たり障りのない会話しかしてなかったなと。
なんてことを天哉が思っている間にもレイミィは悩み、先に部屋を見られた者(主に峰田)が続行させようと説得しているのだが結局出された結論は
「とりあえず、ケーキ食べてから考えない?」
「……考えるんですよね?」
「考えるわよ。でもケーキは放置するわけには行かないじゃない、でしょ?」
「へ? あぁ、まぁ、出来れば焼き立てを食べてもらいたいとは思ってるが」
これ考えるだけなのではと砂藤は思いつつも答えれば、レイミィはなら行きましょうかと歩き出し、周りもケーキの誘惑には勝てないのとあのテンションのレイミィにこれ以上何言っても聞かないなとなればついていくことに。
そんなこんなで自由なレイミィとその仲間たちは4階を飛ばし5階の砂藤の部屋に。彼の部屋は内装で言えば一般男子とも言えるが、一角の揃っている調理器具などが目を引くところだろう。
実際、レイミィも入って早々にその一角を眺め、これはこれはと呟いてから
「かなり本格的ね、しかもオーブンだけでも作れるスイーツ関連のレシピ本ばかりだわ」
「まぁ自室って行っても火は一階じゃないと使えないからな。っと、よし焼けてるな」
「おぉ!! この時間帯でこんなの悪魔の誘惑だよ!」
女子からすればカロリーと言う部分で考えれば食べるのは悪手かもしれない。だがそもそもヒーロー科はカロリーを消費するのが当たり前であり、多少過剰摂取しようともすぐに消えてなくなるだろう。
とレイミィはにこやかにそれらしく芦戸に告げる。なお、実際は知らないし個人差が激しいので当てにならない、ならないが芦戸はそれもそうかと納得したのを見て出てきた男子代表、上鳴の一言はこちら。
「悪魔の囁きだ、文字通り」
「別に嘘は言ってないわよ。あら、結構本格的と言うか、片付けが早く終わったって言ってもこの短時間によく作れたわね」
「まぁ慣れてるっちゃ慣れてるからな。その口ぶりだとバートリーも作るのか?」
「作れなくはないってところね。普通よ、普通」
彼女に限らず便利屋の面々は割りとそういうことに慣れているので一通りは作れてしまう。とは言いつつも合宿の時にレイミィが言ったように彼女はオムライスとイワシ料理以外では本当に普通の味程度のものしか作れないが。
逆を言えば普通程度であれば何でも作れてしまうとも言える。最も彼女自身がその程度のものを出したくないという理由で出てくることは滅多にないのだが。
なんて余談は置いておき、砂藤が切り分けホイップと共に出されたシフォンケーキを一つ貰い、レイミィは一口そして
「美味しい……」
「うま~!」
「くそ、悔しいがこれは美味いとしか言えない!」
レイミィにしては珍しい感じに一言だけの感想を言えば、続けてそれぞれが砂藤のシフォンケーキの美味しさに感動の声を上げていく。対して砂藤はまさかそこまで感動されるとは思ってなかったとばかりに小っ恥ずかしそうに且つ嬉しそうな表情を浮かべている。
無論、この美味しさに感動してるのは女子だけではなく男子もであり、同時に上鳴と峰田のいつものコンビが
「卑怯だろ、こんなの!! オイラなんて只々酷評されただけなんだぞ!」
「俺は酷評も何もされなかったが賄賂なんてヒーローらしくねぇぜ」
「峰田くんに関しては自業自得であり、別にこれは賄賂でもなんでもないのではないだろうか」
因みになのだがレイミィが好き勝手部屋を酷評し始めた辺りからこれが【お部屋披露大会】だという趣旨は忘れられていたりする。これがもし趣旨を忘れられずに居たとすれば最終的には砂藤の圧勝だったかもしれない。
ともかく、趣旨完全忘却の一同はシフォンケーキを食べつつこの後はどうするんだとレイミィに問い掛ける。問い掛けられた彼女は最後の一口を食べ終えてから踏むと唸り考える。
(見て回っても良いんだけど、まぁ軽く周る程度で5階から降りてけば最後は一階で解散で私は直帰できるし良いか)
「レミィ?」
「ま、中途半端と言うか峰田とかの言う通り途中まで見ておいて面倒は失礼よね、巻き気味で見ていきましょうか」
「へへっ、流石はバートリーだ、話がわかるぜ」
この時、峰田は知らなかった。彼女が巻き気味だと言った意味が、それは比喩でもなんでも無く本気で巻きだったということを。
彼がそれを理解したのはシフォンケーキも全員が食べ終えて、それじゃ部屋巡りを再開しましょうかと5階一発目、隣の焦凍の部屋を見た時だった。
「外から眺める程度で良いのか?」
「巻き気味だって言ったでしょ? 時間も時間だし明日もあることを考えたら見れればいいのよ」
「……え?」
「峰田、お前が考えそうなことは分かる。分かるがそれをやればお前朝日が拝めなくなるからやめておけ」
そんなコントを聞き流しつつ焦凍が部屋の扉を開ければ、そこにあった光景は……和室だった。いや、おかしいだろとは誰のツッコミだっただろうか。
ここまで確かにどの部屋も個性というものが現れていた、いたがそれでもフローリングの洋室でありこれはもう模様替えとかの話ではなくリフォームだお前と上鳴のツッコミが光る。
「そう言えば、仁が増えて忙しくしてたけどそういうことだったのね」
「あ、悪い、後で話そうと思って忘れてた。仁さんにもお礼は言ってある」
「いや別にそこは良いんだけど、派手にやったわね本当に」
「そう言えば部屋の荷物の運び入れとか便利屋の人たちがやってくれたけど慣れてる感じだったよね。引越の手伝いとかも仕事にあるの?」
葉隠が思い出したかのように聞けば、返った来たのは当然でしょというレイミィの言葉。そもそも〝便利屋〟を名乗っているのだから出来なければ仕事は取れないじゃないと。
「本当にお金さえ貰えれば犯罪以外は何でも、なんだね」
「寧ろ下手な引越し業者に頼むよりも確実で手早くて安いって評判だったりするわよウチ」
「それって引っ越し業者からやっかみ受けたりしない?」
受けるかどうかで言えば割りと受けている。いるがだったらそっちの質を上げればいいだろうの一言で潰してるといえば、中々のパワープレイな言葉に引きつった顔をするしかなくなる切島たち。
なんてことがありつつ続けて瀬呂の部屋、彼の部屋は表すならば芦戸の一言で感想が纏まるだろう。
「エイジアン!」
「こういう雰囲気に纏めてるのは良いわね、落ち着くわ。ハンモックか、私も部屋に置いてみようかしら」
「お、だったらいい店知ってるから紹介しようか?」
後日、瀬呂の紹介の店であれこれ悩んでいるレイミィとそれを微笑ましそうに眺める被身子が目撃されたとかなんとか。
次に向かったのは八百万なのだが向かい途中でそう言えば圧紘が苦笑してたようなと思い出しつつ、彼女曰く少々手狭になってしまったという部屋の扉を開けられた瞬間、レイミィはフフッと思わず笑ってしまった。
「圧紘が苦笑してた理由はこういうことだったのね、ごめんなさい、突然笑ってしまって」
「いえ、まさか部屋がここまで狭いとは思っておらず持ってきてしまった私の落ち度ですもの」
(お嬢様なんだね……)
なお、レイミィのアドバイスで数日後には一回り小さくなったベッドに変わった模様。それでも運ぶのを担当した仁曰く、高級すぎて今までで一番運ぶのに神経を使ったとかなんとか。
5階、最後になるのは蛙吹の部屋。その部屋はレイミィは非常に彼女らしくありつつも、見える範囲での家具の感じにこう感想を漏らした。
「意外と凝り性って感じなのかしら、梅雨ちゃんって」
「そうかしら? あ、でも自室って言うのは初めてだからあれこれと拘ってしまったのは確かだわ」
曰く大家族故に家には自室はなかったらしい。なので若干、彼女が遅れて合流した理由はそういうことだったらしい、それにしてもとレイミィはふと見えたものにこう思う。
割りとカエルって感じの家具は置かれてなかったわねと、言葉にしないのは素直に失礼だと彼女自身も思っているからである。
こうして5階は終わり続けて4階。ここでは障子、切島、芦戸、麗日の部屋を順繰りと見て回っていくことに、やはり各々個性が現れている部屋ではあったがレイミィが一番感想を述べたのは障子の部屋だった。
「ここまで何も無いとなると逆に心配になるわね」
「ミニマリストだったのか?」
〚まぁ、幼い頃から物欲は無かったからな〛
その言葉にレイミィは何かを隠してると直感する。経験から考えれば部屋というものはその人の人生を一端を表すものであり、ここまで何も無いというのは彼女が言うように心配になるものがあるのだ。
特に障子は異形型の〝個性〟、特に見た目が現れている彼のタイプは差別というものに晒されやすい、つまり
(無いんじゃなく、生まれるような余裕もなかったって所かしら……それでもヒーローを志せるのは素直に凄いわね彼)
因みに他の部屋に関してはあぁ、らしく良いんじゃないと言う程度の言葉で留めている。これは耳郎や蛙吹曰く飽き始めてるわこれとのこと、実際そう。
なので最後、3階の女子二人、葉隠と耳郎もそうなるのかと思いきや耳郎の方でこんな一幕があった。彼女の部屋はいわゆるロックな感じであり音楽関連が所狭しと並べられているのだがそこで芦戸が聞いた、聞いてしまった。
「そう言えばさ、レミィって歌とかどうなん?」
「どうして突然」
「いやさ、好きだったらカラオケとか行かないって思って」
カラオケ、その一言を聞いた刹那、レイミィの表情がなにか思い出したくもないことを思い出したというものに変わる。
やば、地雷踏んだかもと芦戸が思うももう遅い、話そうかどうかと悩んでからレイミィは彼女の質問にこう答えた。
「前に一度だけ被身子とカラオケは行ったのよね」
「う、うん」
「その日のうちにあの子から言われたわ。二度と、誰かの前で、歌わないで下さいって」
(あのバートリー全肯定の渡我さんが!?)
まさかの事に驚くしか無いクラスメイト。一体何があったのか、事の真相を聞きに耳郎たち女子組が後日、被身子に聞きに行ったところ曰く彼女の歌というものは。
「恵まれた美声から繰り出される音響兵器です、因みにカラオケの時は機材の一部がぶっ壊れました」
あの時のレイミィの表情はその時の弁償代を思い出したからだった模様。そんなこんなで後半はレイミィの飽きが入ったが故に巻きになってしまった部屋披露大会も終わりそれぞれ解散。
だがレイミィは部屋には戻らずに寮の入り口の階段あたりで座っていると
「……やっぱり、気付いてくれてたのねレイミィちゃん」
「ま、あの程度だったらね。それで話は何かしら、梅雨ちゃん」
この日の最後、レイミィと蛙吹の夜会話が始まる。
え、ここから一話を稼げと!?(無計画)