便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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寮引っ越しを夏休み明けと勘違いしてたという極大ガバやらかして数話前を多少書き直しましたが私は元気です。


No.148『蛙少女と吸血姫』

 夜風が心地よく私達の肌を撫でる。その感触がまだ感じられることに私は安堵しつつ、隣りに座った梅雨ちゃんに視線を向けて

 

「で、話っていうのは何かしら?」

 

「……」

 

 流れる沈黙から、これが軽い雑談の類ではないことが察せられる。まぁ、態々この時間を選んでるわけだから分かってたけど。

 

 さて、この場合はどう切り出すべきか。それとも向こうが口を開くまで待つべきかしら、それでも別に構わないけどと思っていた矢先、梅雨ちゃんが語り始めた。

 

「私ね、思ったことを口にしちゃうの」

 

「そうね、何時だったかそれは聞いた気がするわ」

 

「……私はレイミィちゃんのことを友だちと思ってる、でも貴女は私達のことをあくまで依頼の為に接してるのかしら」

 

 見つめてきた顔に浮かんでいたのは不安、が一番近いかもしれない。普段の彼女とは違うどこか不安げな眼差しと声で出されたその質問、それを見た私はあの話を聞いて軽蔑や失望ではないという事に驚いていた。

 

 いや、だって普通はそうでしょ? 私は学校から依頼を受けていて、初めから襲撃も分かっててその上で対策とあなた達なら問題ない(ヴィラン)をぶつけてましたなんて言われたら良い感情なんて持てるわけがない。

 

 だと言うのに梅雨ちゃんからの感情にそれらが無いことに私はもしかしたら動揺したのかもしれない、だからこんなことを聞いてしまった。

 

「失望、しないのね」

 

「え?」

 

「私はあなた達を散々利用してたって言われたら普通はもう関わりたくないって思うものでしょ?」

 

 私だったら関わらないどころか嫌味をネチネチ言ってから絶交すらしている。だと言うのにA組の彼らは部屋を見て回ろうなんて誘ってきたし今こうして梅雨ちゃんからも怒りではなく不安の感情を抱きながら私にそう聞いてきている。

 

 正直に言えば驚きでしかなくてだから質問に質問で返すような形でそう聞いてしまった。これが切っ掛けでじゃあなんて言われても仕方がないと思いながら、けれど。

 

「思う所がないと言えば嘘になるわ。でも全部、私達のためのことだったのでしょ? それにお陰で成長にも繋がったもの、だからそうね、感謝とかはあっても軽蔑や失望なんて物は抱かないわ」

 

「感謝って、いやまぁ失望とかがあったらそもそもあんな誘いをしてこないってのは分かるけど、なんかこうあるじゃない普通?」

 

 或いは私がそういう世界に浸かりすぎたのかもしれない。私だったらで物事を考えてしまって出てきたその言葉を聞いて梅雨ちゃんは今度はちょっと怒ったかのような表情に変わった。

 

 それは自分たちをそんな人間として見ていた私に対してだということに気付くまで時間なんてものは要らない。同時に自分でもこれはちょっと失礼すぎたわと直ぐに頭を下げた。

 

「ごめんなさい、その、素直な好意に慣れてないのよ」

 

「だとしても今日までの付き合いで私達がそういうことを思わないっていうのは気付いて欲しいわ。今のは正直傷付いたわよ」

 

「あ~、その、本当にごめんなさいって貴女の質問に答えてなかったわね。極論を言えば、私と貴方達の関係は梅雨ちゃんの言葉が正しいわ」

 

 逃げるような形で彼女からの最初の質問に答える。梅雨ちゃんが言うように形だけを見ればあくまで依頼されたが故の関係、でも私が〝極論〟と付けたように実際はそんな物じゃないし、そもそもの話よ?

 

「本当にそれだけの関係だったら放課後の付き合いなんてやらないわよ私」

 

「それはそうね。私は分かってはいるのよ、レイミィちゃんの性格を考えたらって……いいえ、違うわね、多分私は見てられなかったの」

 

「と言うと?」

 

「友達の貴女が私達を守るために、自分の目的のためにボロボロになっていく姿を見るしか出来ないのが。友達だと私達が一方的に思ってるだけで、実は余計に背負わせてしまっているんじゃないかって」

 

 そう語る梅雨ちゃんの姿は気づけば私から視線を外し右手で作った拳を胸に当てながら顔を俯かせていた。私はそんな彼女に姿を見てどうすれば良いのか正直に言えばわからない。

 

 初めて見せられた姿だったのもある、もっと言えば同年代の同性にこんな感情をぶつけられたのが初めてだというのもある。そりゃ被身子も似たようなことがあったかもしれないけどあの娘は割りと勝手に復帰してくるし……

 

 でも梅雨ちゃんはそうじゃないというのがなんとなく分かってしまった。彼女は期末試験の時にリカバリーガールが言ったように人々の精神的支柱になる存在になれるくらいに気遣いができる少女かもしれない。

 

 だけどそれが同時に繊細なのだろうと私は思った。気付けてしまうから抱え込み、そして壊れていっていまう。便利屋としてそんな人間を何人も見てきたが故に私は気付けたから、なら掛ける言葉はこうだろうか?

 

「安心なさい、少なくとも貴方達のことを負担だとかそういう風には思ったこともないから。それと、私も貴方達を友人、とは思っているわ」

 

「そう、なの?」

 

「さっきも言ったけどじゃないなら、ここまで付き合い良くなんてしないっての私は自分勝手な人間なんだから」

 

 ただそうね、普段の接し方とかでそう思わせていたということならば私は申し訳ないという感情と同時にちょっと言い訳をさせてもらいたいと言いたい。

 

 私は同年代との接し方が非常に不得手だということを、そもそもこういう場面にあったことすらない、何だったら同学年の友人とか居なかったし。

 

「だから慣れてないと言うか、分からないっていうのが正しいのよね。小学校は通ってなかったし、中学の時なんかは向こうが勝手に離れていったし」

 

「ケロ、急にぶち撒けてきたわね。でも離れていったというのはどういうことかしら?」

 

 フフッ、そこはせっかくだから付き合って頂戴。で、離れていったはそうね、確かに中学に入学したての時はクラスメイトが話しかけてきたし、放課後に遊ぼうかなんて話もしてきたわ。

 

 でもその頃は便利屋が全然安定しなかった時期だから断ってたのよ。そんなことを繰り返してる間に気付けば周りは必要最低限の会話だけしかしてこなくなったし、私を見る目の大きく変わってしまった、あれはそうね。

 

「生きてる世界が違うって感じだったわね。まぁ強ち間違いじゃないんだけど、笑えるのは私がその事に気付けたのは中3のときだって言う部分よね」

 

「でも渡我さんが居たのよね?」

 

「あの娘は一つ上だったから昼休みと放課後以外じゃ流石に教室に来れなかったのよ。だからまぁ、割りとボッチだったわね」

 

 思えば教師も人を見る目は異物とまでは行かなくても近い感じだったわと今は関係ないことを思い出しつつ、結局のところ私はこう考えていたのかもしれないと梅雨ちゃんに語る。

 

「私の振る舞いを見ていれば、いずれは私から離れていくんだろうなって……梅雨ちゃん、そんな怖い顔しないで頂戴、心から失礼なことだっていうのは分かってるから」

 

「なら良いのだけれど。でもそれを聞けてよかったわ、レイミィちゃんがそう思ってくれてたって安心できるもの」

 

 ここで彼女の表情に笑顔というからしさが戻ってきたのを見て私は息を吐き出す。吐き出してから私はどうやら彼女たちを思って以上に友人だと感じていたらしいと気付かされた。

 

 じゃなければ梅雨ちゃんの表情一つで一喜一憂するわけないもの。で、そんな彼女たちを勝手に離れていくと思い込んでたのがこの私ってわけで、うん、非情な女だ何だって言われても文句言えないわねこれ。

 

 それはそれとしてもう一つの問題よね。梅雨ちゃんが今回ここまで追い込まれてしまったのは神野の一件でしょうし、かと言って私のあり方を変えられるわけでもないし。

 

「友人として信頼はしている、けれど今後も神野のようなことが私の身に起きない保証はない……」

 

「それは便利屋としてということよね?」

 

「えぇ、私は高校から、校長から依頼を受けた。ならそれを完遂しなくてはならない、でもね」

 

 また不安げになってしまった梅雨ちゃんを見ながらはっきりとこうも告げておく、確かに今後も体を張ることも、それに伴って死にかねない怪我をするかもしれない。

 

 だが私は公安及び協会からここを、雄英高校を卒業しなければ便利屋を取り潰すと言われている、つまりは。

 

「卒業まではくたばるつもりはないから心配しないで頂戴」

 

「ケロ、それはそれでちょっとこう違うのよ」

 

「へ?」

 

 違うって? いやだってそういうことじゃないのかしら? 重傷云々もというのはちょっと無理な相談だから言わないでほしいのだけれど。

 

 え、私達はそういう部分も心配してるって? そう言われてもねぇ、仕事だし現場なんてそういうものだし、そもそも。

 

「ヒーローだって同じでしょ? 死ぬかもしれないなんて、今後なんかは赤霧が相手になるでしょうし生きて戻ってこれるだけでも御の字の話よ」

 

「それは確かにそうなのだけれど。やっぱり私達じゃレイミィちゃんの助けにはなれないのよね」

 

「厳しく言えば現場でしゃしゃり出てきたら本気でぶん殴るくらいには。貴方達に任せているのは問題ない相手だけだもの、それ以上の相手には絶対に戦わせないわ」

 

 赤霧なんかには絶対に前に出させない。あれはもうそういう次元の存在じゃない、でもそうか、そういう心配をしてるのね、ヒーロー科の生徒らしい考えだとは思うわ。

 

 心配っていうか、私の役に立ててないのに守られっぱなしの現状に心を痛めていると見るべきかしら、どちらにせよこればかりはすぐに同行できる話じゃないのよね。

 

 確かに実力は付いてきているけど、あれとの戦いに出せるほどになるには時間が足りない。足りないと言うか、時間云々の領域じゃないと言うか、ともかく間違っても相手には出来ない。

 

「それに貴方達は生徒であってヒーローではないのよ? 現場に出てくることのほうが異常事態でしかないじゃないの」

 

「レイミィちゃん、急に現実を叩き付けてくるのね……」

 

「厳しく言うって伝えたじゃない。ともかく助けにとか役に立ちたいとかは考えすぎないほうが良いわ、身が持たなくなるわよ」

 

 ああもう、ついつい突き放すような言葉を出してしまった。中学の時もそれが若干は原因なんですよとか被身子に言われたわね。

 

 でもこれはきちんと伝えないといけないことな気がするし、何かフォローを考えないと、うーん、こうかしら?

 

「でもそうね、私の助けとかっていうなら今後も友達として接してくれると嬉しいかしら」

 

「それは勿論そのつもりだわ、でもそれでいいの?」

 

「寧ろそれが良いわ。今日まで被身子以外に友人が居なかった身としてはこれ以上無いほどに贅沢な話だもの」

 

 私の全てと真実を話せば離れていくと思い込んでた友人たちが、私のことで心を痛め、こうして話してくれたというだけでも 正直な話、嬉しすぎることだ。

 

 ずっとそんな対等とも言える存在は現れないと思っていたのだから。だから依頼とかはもう関係ない、友人を守るためにも私は前に出て戦える。

 

「初めてよ、家族のような便利屋の所員と付き合いが長い轟家以外にそう思える者は」

 

「そう、分かったわ。ケロ、何だか物凄く重い話になってしまったわね、ごめんなさい」

 

「謝るのは私のほうじゃないかしらね。寧ろお礼を言いたいくらいよ、友達との接し方を改めて考え直さないといけないなって気付けたし」

 

 意識の改革もしなくちゃなって分かったのもあるし。ともすれば早速、梅雨ちゃんに一つだけ教えてみようかしら、私の秘密の一つを。

 

「秘密? まだなにか隠してたのレイミィちゃん」

 

「これは身体の不調とかそういうのじゃないから安心して、〝個性〟の秘密よ。今まで疑問に思わなかった? どうして色んな情報を握ってるのかって」

 

「ケロ、確かに気にはなってたけれど、良いのかしらそれって私に教えて?」

 

 良いか悪いかで言えば、これを話したら血染あたりが迂闊に広めるなって咎めてきそうだけど梅雨ちゃんなら下手に広げないと確信しているので彼女には血の記憶について話す。

 

 勿論、梅雨ちゃんだけに聞こえるように彼女の耳元でこっそりとだけど。え、なんでそこまで徹底する必要があるのかって? フフッ、なんでかしら。

 

「ってことなの」

 

「……ケロ」

 

「あら、どうしたのかしら、ちょっと顔を青くして」

 

 まるで知られてはいけないことを知られてしまったと確信した表情をする梅雨ちゃんにクスクスと笑みをこぼす、まぁ勿論その理由も知ってるんだけど。

 

 さて、そろそろ動くとしようかしら。梅雨ちゃんももう寝たほうが良いわ、明日は明日で夏休み中とは言え何かあるみたいだし。

 

「え、えぇ、そうするわ。おやすみなさい、レイミィちゃん。それとごめんなさいみんな、バレたわ」

 

「聞きたいことがあるなら梅雨ちゃんだけに任せなきゃ良いのにねぇ」

 

『へ?』

 

 サプライズでも人に仕掛けようと考えてたのでしょうけど、筒抜けじゃこうなるに決まってるわよね。笑顔を浮かべながら私が〝なぜか寮の一階に隠れていた〟耳郎たちの目の前に最速で向かって……

 

 何があったかって? まぁ翌日に相澤先生から深夜に悲鳴が上がったが何があったのかって聞かれたってことだけ書いておくわ。




そろそろ赤霧方面も一話挟まないといけないかなと思いつつある。

便利屋メモ
何故か、その日はA組の大半は気絶するように寝ていたとかなんとか。
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