開幕辛辣な挨拶をオールマイトに向けたレイミィではあるがこれは別に心から邪険に扱っているというわけではない、ただ思考を巡らせているさなかに大声で中断されたのでムカッときただけである。
「んで、急に叫んでどうしたのよ。まさかただ自分の名前が出てきたからだけって訳じゃないでしょうし」
「え、あ、あぁっと……ラグドール、彼女から視えた名前を教えてもらえるかい?」
「勿論、大丈夫ですよ。ごめん、レイミィちゃん、もう一度サーチするね」
「別に構わないわよ、どうせ暇だし」
質問に答えろよオマエという言葉を既でレイミィは飲み込みつつ、同時に出てきた名前に対しての考察を改めて行う。出てきたのは大体がプロヒーロー、幾らか一般人などが混ざっていたかもしれないがと考えられるかもしれないが
(一々名前を上げる必要もないし、そもそも吸血したことがない人物が大量に混ざってるのが疑問しか無いのよね)
更に言えば彼女が吸血するとなれば知っている人間からでしかあり得ないというのもあれば、男からは吸血する意味もないので名前が残る理由がない、つまりは
「名前があるのは吸血以外の理由ってことよね……?」
「だろうな、俺の名前があるが吸血をさせた覚えないからな」
それからもラグドールのサーチによって彼女の口から出される名前の数々にレイミィ達は疑問が深まる感覚しか覚えなかった。一部抜粋となるが他に出てきたのは『便利屋の面々』『轟家』『ジェントルとラブラバ』『ホークス』『ミルコ』『インゲニウム』とここでレイミィがふと疑問に思う。
なんでさっきからヒーローネームで出てくるんだと、一応これでも本名は大体把握しているのだから情報はそれで出てこないのかと聞いてみるがどうやらサーチで見えるのはヒーローネームだけらしい。
だとすればヒーローであることに何か意味があるのか? だとしてもどうして一般人も出てきてるのだと共通点が何一つ見いだせないでいるとオールマイトが考え込んだ表情のまま一言。
「まさか、これらは……」
「オールマイト、何か知ってるのかい?」
「いえ、そのまだ確信はないのですが」
確信はないと言っているが彼の中では今出てきた名前とラグドールが言った〝紅いコウモリ〟の関連からナイトアイが言っていたレイミィの未来に出てきたものと同じだと確信していた。
が、これを今ここで話すわけには行かないと誤魔化したのだがレイミィに通るわけもなく彼女は間違いなく何かを隠していると察し、そこから糸口を探り始める。
(オールマイトの反応、プロヒーローに限らず私の中から出てくる名前の情報……あいつの感じからすると私には話したくないって感じだとして)
ここ最近のことから記憶を徹底的に洗い出していき、ふと少し前のナイトアイとの会話を思い出した。確かあの時に向こうはオールマイトの未来を変えたとか言ってたなと。
そこからラグドールの上げた名前の中に彼の名前は存在したなとなり、最後にオールマイトの今の状況を当て嵌めて彼女は気付いた。
「もしかして、私が未来を変えた人物の名前?」
「っ!? ど、どうしたんだい急に?」
「驚くほどに隠し事が下手よね貴方、ナイトアイとの会話を思い出しただけよ」
未来を変えた人物、その前提で考えれば確かにプロヒーローの名前が多い理由にも合点がいくとレイミィが答えればオールマイトは自分が反応したがのが迂闊すぎたと言う表情に変わる。
己が隠し事が不得手だという自覚はあったがここまで迂闊な人間だったとはと。ここまで悟られてしまえば隠すことなど出来ない、かと言ってあの日ナイトアイとした会話を打ち明けるのも向こうの反応が不明すぎて避けたいと葛藤していれば
「……話せないんでしょ」
「出来れば今は、と言う程度ではあるのだが」
「なら良いわ、その確信とやらを得たら聞かせて。どうせ、今は話したくないとかあるんでしょうし」
気を遣われた、誰が聞いても分かる声と言葉にオールマイトが出来たのは感謝を述べて頭を下げることだけだった。同時にその行動でレイミィは自分の推理が間違ってないということを確認しつつ次の疑問を感じていた。
だとしても何故、名前が私の中に名簿のように残っているのだろうかと。更に言えば接触すら殆していない人物の未来を変えたと言われても自覚がないどころか若干の恐怖すら感じてしまうと。
ついつい、そんなことを口にしてみれば接触がという所でそう言えばとラグドール、曰く見えた名前の中にとんでもないビッグネームが混ざっていたらしいのだがそれを聞かされたレイミィは何がどうしてという感情しか抱けなかった、その名はアメリカ合衆国でのNo.1ヒーロー
「スターアンドストライプ……?」
「君、会ったことあるのかい彼女と?」
「んなわけ無いでしょうが、そもそもパスポート作れないっての」
「確かに便利屋である以上は海外に出るなんてことをこの国が許すとは思えんからな」
「会ったことすら無いのになんで名前がレイミィちゃんの中に?」
この娘は一体どうなってるんだいというリカバリーガールの言葉に誰もが同じ気持ちになるしか無い。何だったらこの場に血染達が居ても同じだろうし、被身子に至っては訳が分からないんですけどとと叫んでいたかも知れない。
もしかして出てくる名前全部を目を通しておいたほうが良いんじゃないかなとレイミィ達がなっている一方その頃、圧縮訓練中のA組の一人、出久は訓練しながら必殺技について考え込んでいた。
(必殺技、どうしようかな)
現状でも彼は必殺技と呼べる技を幾つかは所持している。だがそれは言ってしまえばオールマイトの劣化版としか言えるものでもなく、足を使った方も結局は拳でやってることの蹴り版としか言えない。
しかもどちらもOFAから出せる超パワーを相手にぶつけるという単純な技、言ってしまえばレパートリーが無いとも言えてしまうのだ。
(出来ればもっと汎用性のある技とかが欲しいけど……)
現状使える手札は超パワーによる【SMASH】シリーズ、AFOの力を身体に循環させる形で自身を強化する【フルカウル】そして先代の〝個性〟である【危機感知】のみしかなく、これではそれも難しいしなぁと訓練の手を止めずに頭を悩ます。
何をどうしても現状でできることと言えばこれらを極めていくことだけ。基本技を極めることでそれを文字通りの必殺技にするというものは創作物でもよく見られることであり、現実にも李書文が牽制やフェイントの為に放ったはすの一撃ですら敵の命を奪うに足るものになったとも言われているのを考えれば、彼の場合はこの道に行くのが良いのかも知れない。
もし、彼がヒーローではなかったらという枕詞が付くのだが。今、出久が欲しているのは殺す術ではなく救助者を救ったり
一度思考をリセットしたいという考えもあったが他の動きからなにか〝理解〟することでヒントにならないかと思っての行動だったのだが今回はそれが彼の成長に繋がることになった。そこで目に写ったのは二人の人物、一人はカエルのような舌で分身であるエクトプラズムを捕らえている梅雨、もう一人は自身の〝個性〟である【テープ】を利用した立体機動を行う瀬呂の姿。
(……そう言えば先代の〝個性〟の中に二人に近いものがあったよね?)
思い出すのは夏休み入る前の最後の放課後、その日にオールマイトから呼び出されOFAの先代たちについての話を聞かされた時に見せられた資料の内容だった。
出久が継承するまでのオールマイトを除いた七人の〝個性〟、その中にあった一人『万縄 大悟郎』の【黒鞭】、能力としてはほぼ文字通りのものだったと資料には描かれており、それこそ発現させることが出来れば梅雨や瀬呂のようなことも出来るはずの代物。
「(フルカウル35%の状態ならもっと幅広く使えたりするかもしれないと考えれば、直ぐにでも欲しいけど……)僕から発現を促したりは出来ないからなぁ」
でも欲しい、今後自分が成長するためにも、何よりこれ以上レイミィに無理をさせないためにも、何より己のオリジンであるヒーローとしてもっと遠くに、助けを求めている人の手を〝掴める〟ようになりたいと。そう心から想ったが都合良く出てきたりはしないよねと苦笑しながら訓練を再開しつつ
「無い物ねだりなんてしてるってバートリーさんにバレたらなんて言われるか、うん、今あるだけの手札でも出来ることを考えよう」
『助けを求めている人の手を〝掴みたい〟良いことを思うじゃねぇか、だとしたら俺の〝個性〟って思うわなさ!』
「っ!!!???」
え、何誰!? 思わず周囲を見渡すが勿論ながら今の声の主はどこにも居ない、寧ろ急な行動に近くに来ていた尾白がどうしたのかと言う表情をしてきたのを見て、とりあえずなんでもないと返しつつ
(い、今のは? って!?)
『よっ』
今の声はと思いつつ視線を上げればそこに居たのはスキンヘッドでゴーグル、鋲が打ち込まれた黒い革ジャンを身に纏ったラフな格好の男性、明らかな不審者でありながらクラスメイトもエクトプラズムもミッドナイトも、誰も反応をしていないということから出久は直ぐにこれが幻覚などの類であると判断、一旦気持ちを落ち着かせるために呼吸をする。
してから改めて妙にフレンドリーな幻覚の男性に視線を向ける。向けつつ周りに不審がられないように身体を動かしたりブツブツと考え事をしていますという行動をしつつ
「えと、貴方は?」
『俺か? 俺は『万縄 大悟郎』、はじめましてだな、坊主』
その名を聞いたときに声を上げなかった自分を褒めたいと出久は割りと生まれて初めての自画自賛をしたくなった。まさかついさっき考えていた人物がこうして眼の前に現れるなんて思っていなかったのだから当然ではあるだろう。
だがどうしてそんな都合よく現れたのだろうかこの人とと疑問に思っているとその答えは直ぐに大吾郎から返ってきた曰く【危機感知】が目覚めた段階で実は先代OFAの意識が目覚め始め、今回は出久の助けを求めている離れた人の手を〝掴みたい〟という意思に彼の意識が一気に浮上したからとのこと。
「先代の意識が? あ、でもそうか、四ノ森さんとも話したことあるんだから他の先代の人たちが現れても不思議じゃないか」
『そういうことさ、にしてもまさか先に【危機感知】とはなぁ。まぁいいさ、それよりも坊主が願ったことで俺の【黒鞭】が発現することが出来る、お前が願う遠くを〝掴む〟力さ』
その言葉に胸が高まる。願ってもないことだと出久は嬉しさを隠せない表情を見せれば大吾郎はそれを見て一つ頷いてから、ただと発現するのは良いが危険性もあることを伝える。
曰くこの〝個性〟は己が扱っていた頃よりもOFAの影響で強力になってしまっているということ、またOFAとはコントロール方法がガラッと変わるので恐らくは直ぐには使いこなすことは難しいだろうということを。
『確かに坊主の適応力はOFAの中から見て知ってるが、今のこいつはそう簡単な代物じゃないのさ。それでも今のお前なら問題ないと俺は託す』
「はい、えと、ありがとうございます」
『あと坊主、別に俺との会話は口に出さなくても大丈夫さ』
「今言います!? あっ」
「……大丈夫か、緑谷」
尾白からの割りとガチ目な心配の声が今の出久には羞恥心諸々を引き起こした。因みに大吾郎はそんな姿を見て笑っているが出久はそれどころではないので気付いていないし、周りから見られてないのでだれもしらないことなので置いておこう。
流れる沈黙の末、なんとか復活できた出久は尾白に改めて大丈夫であるということ、今のは前の会話を思い出してついツッコミを入れてしまっただけだという中々に無理しか無い言い訳をしてからその場から逃げるように場所を変える。
それを見た尾白は思った。もしかしなくても緑谷も結構無理をしてて疲れてるのかもしれないと、それくらいになるほどに頑張っているのだと好意的に解釈した彼は更に訓練に集中することになるが出久が知ることではないのでこちらも置いておくことにしよう。
『よし、じゃあ早速やることにするが、そうだな、俺から言えるのは一つだけさ』
(……)
『お前はこれから俺と四ノ森を含めたOFAに宿る6つの〝個性〟が発現するさ。どれもコントロールは難しいかもしれないが大事なのは一つ、心を制することさ』
(心を、制すること)
『そうだ、心を制して俺達を使いこなせ。頑張れ坊主、俺達がついてる、そして……スカーレットデビルを
「(え、スカーレットデビルって赤霧の)グっ!!??」
大吾郎が消える間際の言葉に驚愕するよりも前に出久の両腕から黒い鞭のようなエネルギーが迸り、暴走かと言わんばかりに周囲に広がり始め、その力の奔流とも言えるそれは周囲を襲った。
ともすればその音は体育館に響くわけで当然、何事かとレイミィ達が見たのは腕から黒い鞭のようなのを展開し、なんとか制御しようとする出久の姿、それを見たレイミィは察した上で叫んだ。
「隠蔽が難しいとかいう状況で発現するな馬鹿!!!!」
「バートリー少女のその一言がトドメではないかねそれは!!!」
控えめに言って場は混沌としていたし、出久はそれどころではなかったし、割りと危機的な状態だったりした。
レイミィちゃん、日常になるとツッコミが冴えますね(他人事)