便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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No.151『もうどうにでもなーれ』

 もっと発現するにしても場面ってのがあるだろ普通。レイミィ・バートリーはただそんなことを思いながら事態の把握を急ぐ。

 

 把握を急ぐとは言っても見たままでしかないので数秒の時間すら必要ないし、把握してしまったので彼女は深い溜息を吐き出してから。

 

「どうすんのよこれさ」

 

「いやなぜそうも冷静なんだいバートリー少女!?」

 

「何が起きてるんだあれは」

 

 いつでも、いや、すぐにでも【抹消】を発動できる態勢で聞いてきた相澤。対してレイミィはその問いにさてどうするかと頭を悩ます。

 

 何が困るかと言えばOFA関連はレイミィ個人の采配で話せる内容ではないということ。一応、これらはオールマイトと出久の2人がどうするかの意思決定が必要なのだが。

 

 現状だけで見れば隠し通すのはもはや不可能と言っても過言ではない。仮に適当に誤魔化しても蟠りが残るのは後々面倒に発展する可能性を考えると彼女としてはよろしくないとすら考えている。

 

「(ま、緑谷をどうにかする方が先よね)相澤先生、ちょっと彼の所に行ってくるわ」

 

「危険だぞ。だったら俺が抹消した方がいいだろ」

 

「駄目よ、彼には今ここで制御に成功してもらうわ」

 

 抹消による鎮圧が確かに正しいかもしれないがレイミィとしてはそれでは彼の成長にならないと理由でそれを否定する。とは言え、このままだと制御出来るようになる前に被害が広がるのもそれはそうと思っている。

 

 正直、彼ならばあんな暴走させるヘマをやらかすとは思えないんだけどと考えるが上手く行ってないあたりなにか別の要因があるのかもしれないと危険ではなさそうな距離を取りつつ出久に近づき、大丈夫なのかと声を掛ければ

 

「ば、バートリーさん!?」

 

「驚いてないで、とりあえずさっさと制御して頂戴」

 

「それがその、ぐっ! なんか上手く行かなくて……!」

 

 どうやら本人もどうにかしようとはしてるらしいが出来ずに焦りの表情を見せる。確かに制御は一筋縄にはいかないとは言われたがまさかここまでとはと言う感情もある。

 

 発現直後、彼はOFAと全く同じイメージを用いて力のコントロールを試みたが結果は今の状況、つまり【黒鞭】の制御方法は

 

(違うんだ、今までのやり方じゃON/OFFすらできない!!)

 

「ちっ、緑谷! 焦る必要は無いから〝理解〟に集中なさい!!」

 

 刹那、声に反応したかのように黒鞭の一部がレイミィを襲う、その速度はプロヒーローの相澤にして速いと思わせるそれだったがレイミィは慌てる様子もなく回避行動を取る。

 

 右から来るのを最小限の動きで回避、続けて隙を狙うかのように飛来する背後の一撃をなんと左の裏拳で弾き、弾いたそれを右手で掴み、何故か驚いた表情をさらした。

 

「あれ、掴めるとは思ってなかった顔のように見えるんだけどウチだけかな」

 

「いやぁ、間違いなくそうだと思うよ」

 

「なんで掴もうと思ったんやレイミィちゃん……」

 

 ことここまでの騒動になればA組の面々も何事かと安全な距離までとったうえで観戦していた耳郎達がそんな感想を述べているようにレイミィはこれが掴めるものだという認識がなかった。

 

 じゃあなんでというお茶子の質問に対しては彼女はこう答える、反射的に掴んでしまったと。因みにこれは余談だが高所から滑空という落下をしてきた黒いアイツを今回と同じように反射的に握りつぶし大騒動になったことがあったとか。

 

「(これ、結構はっきりと実体があるのね)緑谷、これに感覚は!」

 

「つ、摑まれたことは分かる、けどこれは引っ張られたから分かったとかそういうかん、じ」

 

「ともすれば腕から伸びてるって感覚はあると見ていいわね。良い、〝個性〟は身体の延長よ、忘れてるわけじゃないわよね!」

 

 え、ここでレクチャー始めるんですかと周りは思うが緑谷にしてみれば、毎度のことなので気にすることもなく彼女からのアドバイスにハッとなる。

 

 そうだ、〝個性〟は己の身体の延長、確かに自分のは授かったものではあるがその定義は覆らない。寧ろ貰い物だからこそ制御しようだの押さえつけようだのと思えば思うほどに反発は強くなるんだと。

 

(なら抑えるんじゃない、これは体の一部だと受け入れる! 落ち着け、五代目も言ってたじゃないか、心を制し自分たちを使えって)

 

 黒鞭の暴走に焦る心を深呼吸で落ち着かせ、今度は〝個性〟そのものに意識を巡らせ今度はそれを制御しようとするのではなく己の体の一部であると認識させ伸ばした手を引っ込めるかのような感じに〝個性〟に訴えかける。

 

 変化は直ぐだった。制御不可能ではと思うほどに暴れていた黒鞭が段々と大人しく、そして出久の腕に絡み付くように動きを変えたのだ。それはつまり彼はレイミィのアドバイス一つだけでコツを掴んだように見えるだろう。

 

 だが実際はそこまで甘い話ではなく、出久が出来たのはあくまで暴走を落ち着かせただけ。レイミィもそれに気付いているようであり、とりあえず安全になったのと確認してから彼の近くに着地し様子を聞いてみれば予想通りの言葉が返ってきた。

 

「正直に言うとすぐに扱えないと思う。力の入れ方がまだ全然わからないんだ」

 

「でしょうね、貴方があそこまで苦戦するってなると根本的に違うってことでしょうし」

 

「おーい、大丈夫か緑谷ー!」

 

 声に振り向けば安全になったからと集まってくるクラスメイトと教師陣、その姿を見てレイミィはあっと何かを思い出したかのような声を出し、出久がどうしたのかと聞こうとしてから事態に気づいたようで顔を青ざめる。

 

 あの暴走を見られたということは明らかに自己申告した〝個性〟と違うものだってことに気付かれたということに。そして集まってきたということは当然、この質問も飛んでくるということに。

 

「なぁ緑谷、今の何だ?」

 

「あ、ええっと……」

 

「私に助けを求める目をされても困るんだけど」

 

 一応の救いがあるとすれば勝己、焦凍、天哉の3人は事情を知っているので詰めてこないというところだろうか。最も出久からすればそれが何かの助けになるというわけではないのだが。

 

 ならばとオールマイト視線を向けるが彼も彼で冷や汗をダラダラとかいているのを見て出久は悟る、もしかしてこの場を切り抜けるのは僕の頑張りしか無いのではと。

 

 対してクラスメイトと教師陣も出久とオールマイトの様子から何やら簡単に話せる内容ではないのかもしれないということは悟りつつ、かと言って見なかったことにするのは難しいんだけどと思っていると

 

「はぁ、さっきのことだけどあれは緑谷の〝個性〟よ」

 

「ちょっ!?」

 

「今まで彼は〝無個性〟だなんて言われてたけど条件次第で発現していくタイプの新しい〝個性〟だったらしくてね、先ずは超パワー、次に危機感知、そして今って感じでね」

 

 居たのよね、たまにそういう未解明な〝個性〟持ちがさと語る彼女の姿は後にクラスメイトが語った、あまりに郷に入りすぎて本気で信じかけたと。

 

 しかも教師陣も思わずそうだったのかと、あの相澤すら思いかけるくらいには堂々とホラを吹いていた彼女だが途中で気分が変わったのか、或いはやっぱり無理あるわこれと思ったかは不明だがある程度語って一区切り付いた所で。

 

「って設定で話を通したいんだけど駄目?」

 

「バートリー少女!!???」

 

「バートリーさん!!!??? なんで、あのまま話を進めても良かったんじゃ!?」

 

「設定!!??? 今、設定って言ったかお前!!???」

 

 えぇ、言ったけど何かと笑顔で峰田に言い放つレイミィとそれを見て凄まじい頭痛に襲われたという感じの表情をする相澤、驚愕の表情のまま固まってしまった出久とオールマイト、控えめに言って場は混沌としていた。

 

 別段、レイミィもあのまま誤魔化すのを手伝おうかという気持ちがなかったわけではない。だがよくよく考えれば今後も嫌なタイミングで先代の〝個性〟が発現するかもしれないと考えたら 通らんだろこれと気付いてしまい最終的にこうなった。

 

 とは言え真実をありのまま語るつもりはないからこそ〝設定〟という言葉を使った。そうすれば誰か一人はこう気付けるからだ、例えばそう八百万とかが。

 

「もしや、真実はあまり知られたくないということでしょうか?」

 

「流石、八百万。えぇそうなのよ、緑谷のあれこれに関しては迂闊に情報を広めたくないってレベル、だからこれで納得してくれないかってことよ」

 

「まぁ明らかに普通じゃないのはそうなんだろうなとは思ったが、そこまでの話なのか……」

 

 レイミィ、つまりは便利屋の所長がそこまで言うということは本当に興味本位で知るとヤバい話なんだなと言う空気が辺りを包む。これこそが彼女の狙い、とりあえず事情はあるけど知らぬふりしてという空気を作ろうという作戦だった。

 

 こうすれば今後も出久に何かあったとしても、今日の延長線の話なんだろうなとなり一々弁明しなくても良くなる、見なさい完璧な流れよと出久とオールマイトの方を見ればなんとも微妙な顔をしていたのを見て

 

「何よ、不満があるならさっさと言いなさい」

 

「い、いや、話を纏めてくれたという点ではこちらから何か言えることはないのだが」

 

「うん、えっと、驚かせてごめん、ただバートリーさんが言った通りその、迂闊には話せなくて……」

 

「それは俺達にも、ということか?」

 

 割って入ってきた相澤に対してはレイミィは少し考えてから、オールマイトに教師陣及び信頼できるプロヒーローには話しておくべきではないかと進言する。

 

 流石に子供には危険かもしれないが信頼できる大人には話しておかないと逆に色々と面倒になると更に付け足せば、オールマイトは暫し考えるように目を瞑ってから。

 

「そうだね。済まないイレイザーヘッド、後でで構わない、校長に頼んで人を職員室に集めてくれないだろうか、私と緑谷少年の事を話したい」

 

「分かりました。全員、この話はここで終わりにする! 訓練に戻れ!!」

 

 相澤の一言でA組全員がそれぞれまた訓練に戻っていく辺りは彼の教育の賜物だろう。最もその光景はレイミィにはやっぱり軍隊とかの動きなのよこれと思わざるを得ないのだが。

 

 なんてことを思いつつレイミィは改めてラグドールたちの下へと戻れば、向こうはどうやらそろそろ引き上げる様子らしく戻ってきたレイミィにその旨を伝える。

 

「そう、今回は色々と知れたから助かったわ。今度何かあったら言って頂戴、借りは返す主義だから」

 

「いやいや、こっちも思ったよりも凄いこと知れちゃったからお相子だよ。それよりも本当に無理だけはしないでね、私でも貴女の残り時間は分からなかったんだから」

 

「そうだね~、もしレイミィちゃんに何かあったってなったら洸汰は特に落ち込んじゃいそうだし」

 

 洸汰、その名前を出されると彼女もググッとなってしまう辺り彼女は子供には弱いし、特に彼のこととなれば全くの他人ではない以上、そういう事で抱え込まれたくないんだけどという感情しか無い。

 

 だとしても今後を考えれば無責任な言葉は返せないんだけどと頭を掻いてから、一つため息を吐き出して

 

「まぁ、善処するわ。洸汰と、それとマンダレイと虎にもよろしく伝えておいて」

 

「ったく、安心しておきな私の目が黒い内は無茶させないよ」

 

「ハハハッ、よろしくリカバリーガール。それじゃね!」

 

 そう告げて去っていったラグドールとピクシーボブを見送ってからレイミィはリカバリーガールにさっきのセリフはどういうことなのかしらと聞けば、当然の事だろうと返される。

 

 もはや主治医となっているリカバリーガールからすれば本当ならば、今すぐにでも病院にでもぶち込んで絶対安静を告げたいレベルなのだ、だと言うのにこの少女は善処などという言葉を使ったことに割りとお怒りだったりもする。

 

「何が善処するだい、お前さんが善処できた試しがあるって言うなら驚きだよ」

 

「してはいるわよ。ただ毎度毎度、相手がそれを許さない強敵だったり事案だったりするだけで」

 

「聞いてはいるが、当たり前のように徹夜を繰り返していたらしいからな。リカバリーガールの心配はご尤もだろう」

 

「血染か……!」

 

 大当たりである。しかも寮生活になるからということで相澤にはレイミィの今日までのあれこれを詳細に教えており、そのあたりをどうするかと真面目に検討されてもいることを彼女はまだ知らない。

 

(にしても訓練の熱が凄まじいわねぇ……良いことだとは思うけど)

 

 何気なく眺めるレイミィの視界にはそれぞれがあれこれと考案しつつ形にしようと身体を動かすクラスメイトの姿。対して自分は〝個性〟の使用には大幅に制限がかかっており、しかも免許も持ってるということで蚊帳の外、当然の事だし今までだったらなんとも思わなかった状況、けれど

 

(……皆と一緒じゃないって、こうも寂しいことなのね)

 

 少しだけそんなことを思いながら彼女は訓練の光景を眺めていた。




あ、まえがきネタは尽きたので暫く無いと思います。
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