圧縮訓練二日目、話に聞けば何人かが発目の所に行って開発を依頼したらしくて喜びに喜んで発明に勤しんでいるとかパワーローダーが言ってたわ。
他には便利屋と言うか仁に考えてる必殺技のアドバイスが欲しくてこの人を出してもらえないかって相談されたわね。私としては別に構わないとは思うんだけど、自分が知らない所で自分が他人にアドバイスしてるとかホラーじゃない? ねぇ緑谷。
「ぐっ、うぅっ! へ、え、な、何か言ったバートリーさん?」
「……あぁまぁ、何でもないから制御頑張りなさい」
言えば彼はまた〝個性〟【黒鞭】のコントロール訓練に意識を戻すのを見てから、適当な瓦礫に腰を下ろす。え、私は何してるのかって? 緑谷の訓練の監督よ、もし黒鞭がまた暴走しても私ならすぐに止められるからって。
まぁ、やってることはフルカウル35%の状態の黒鞭で瓦礫を上げ下げするって単純作業だけど。そんな光景を眺めながら私は昨日、緑谷から聴いた話を頭の中で考えていた。
OFAの5代目継承者、名を万縄 大悟郎。意識体である彼と話したことで黒鞭が発現したらしいが消える直前に緑谷に『スカーレットデビルを救ってやってくれ』と伝えたらしい。
(スカーレットデビルって言ったってことはエルジェーベトの頃を知ってるってことになる)
しかも救ってくれなんて言葉が出てくる程には付き合いがあった。それ自体はアイツが【吸血姫】の所為で凄まじく長生きしてるのだから不思議でもない、寧ろ自然なこととも言えるでしょう。
少なくとも赤霧になる前はヒーローと言える存在だったわけなのだから、もしかしたら五代目よりも以前の継承者とも知り合いだったと言われても驚かない。
(にしても救ってやってくれ、か。これだけ言われるほどには想われてたってのにどうして折れちゃったんだか……)
そこまで考え、ふと思考が止まった。自分で思っておいてなんだけど違和感を感じた、可笑しいと。何がどう可笑しいって言われてもはっきりと言えないんだけど、ともかく違和感を強く感じたのだ。
五代目が知ってた、つまりは前も後も彼女を知ってたはず。更に言えば、そう、OFAもAFOも両方知ってるってことに……だとしたらよ?
(いくらAFOの策謀で心を折られたとは言え素性も知ってるであろう奴に頼る? 永く生きてるくせに人にアホみたいに善性を見せてたと思われるあいつが?)
頼らざるを得ない状況だったと言われればそうかもしれないし実際そうだったのは神野の時にAFO本人から聞いてるからそこは疑ってない。
が、エルジェーベトがAFOとOFAの因縁を知っていたとなれば話が変わってくる可能性が出てくる。彼女の性格的にただ乗せられただけとなるだろうかと、あの時だって結局はAFOを利用したうえで〝個性〟まで分捕ってるわけだし。
だとしたら人間性としての部分が折れただけであって、化け物としての冷酷な部分はそれすらも利用して何かを成そうとしていると考えるほうが辻褄が合う? 駄目ね、分析しようにも情報があまりにない。
(考えすぎ? いや、でもあいつならあり得ないとは言い切れないし……ちっ、せめて緑谷が他の継承者と話せればもう少し分かるってのに)
まぁ、これは酷い八つ当たりな感想だから口にはしないけど、寧ろ彼としてもいきなり先代から新しい〝個性〟発現させるとかで振り回されてる側だし。
こんなことならリカバリーガールとかグラントリノとかの長生きしてるヒーローにももう少し話を聞くべきだったかしらね、知らないってことは先ず無いでしょうし……
「やぁ、緑谷少年の調子はどうかな、バートリー少女」
「……見ての通り、基礎は出来上がりつつあるから仮免の試験までには扱えるようにはなるでしょうね。にしても貴方、暇なの? 確か引き継ぎだ何だの話があるとか言ってた記憶あるんだけど」
「ふむ、やはり彼の飲み込みの速さには舌を巻くしか無いね。あとその件については思ったよりも順調に事が進んでいるから問題はないよ、エンデヴァーが思ったより素直に話を聞いてくれて驚いたけど」
ふらっと現れたオールマイト(トゥルーフォーム)が言うにはエンデヴァーにも自身の真実を全て話したうえで引退するので君にNo.1の座を明け渡すと伝えたところ嫌味こそ出てきたが。
『ふん、本来の形ではないが貴様から譲られるというのならば受け取ってやる』
とトントン拍子で話が進んだとか。まぁアイツのことだから駄々をこねれば私に話が伝わって煽られるとか思ったんじゃない? なんて返したらオールマイトは笑ってから
「話は聞いたことはあるけど君にはとことん弱いんだね、エンデヴァーは」
「今度、エンデヴァーにあんたがそんなこと言ってたって伝えておくわ」
「HAHAHA! うん、すまない、私が悪かったので止めてもらえると嬉しいかなって」
だったらふざけたことを言わないことね、ったく。あ、そうだ、こいつだったら一つ前の継承者のこと知ってるんじゃないかしら、少なくても浅い付き合いってことはありえないでしょうし。
「お師匠が赤霧、つまりスカーレットデビルのことをかい?」
「えぇ、五代目があいつを知ってたってことはそれ以降の継承者も彼女を知ってた可能性がある、そして一つ前の継承者、志村菜奈が知ってたとなれば」
「歴代全てと関わっていた証明になるということか……うーむ」
思い出そうとしている態度を取るオールマイトだが、正直なところあまり期待はしていない。仮に話してたら私との初めの接触でなにかに気付いてたでしょうし、それを隠せるとも思えない。
それらを総合して考えれば、恐らくは何も聞かされてないって言う結論に至る。口が堅いことは良いことだが、これが向こうの勝手なのか、エルジェーベトがそう言ってきたのか、そこが分からないのよね。
自分の中でそんな推理をしつつ緑谷の訓練を眺めながらオールマイトの思案が終わるのを待って約一分といったところだろうか、彼は一通り考え終わったようで私に申し訳ない表情をしてから。
「すまない、お師匠からそういった話は聞いたことは……」
「でしょうね、まぁ期待してなかったから大丈夫よ」
「ただ、一つだけだが思い出したことがある」
おっとこれは想定外ね、反応から見るにたまたま目撃したって感じのことでしょうけど、この場で思い出したってことは関連はしてるでしょうと促してみれば
「確か、丁度スカーレットデビルが行方を晦ましたというときだったか、お師匠がそれを聞いてこう呟いたんだ。『やはりその選択を取るんだな』と」
「それって、あいつがAFOの所に下るってことを分かってたってこと?」
「かもしれない、その時に何がと聞いてみたのだが結局、はぐらかされてしまってね。その後は……」
察するに聞き出す前にAFOに殺されたってところか。はぁ、殆ど情報は手に入らなかったか、いや、一応だけどエルジェーベト・バートリーが歴代OFAと接点が合ってAFOとの関係性も知ってるだろうという情報は手に入っただけ進歩と見るべきかしらね。
参ったわね、まさかここに来て赤霧がただ倒すだけの
「せめて神野の時に吸った血から記憶が読み取れれば良かったんだけど」
「出来なかったのかい?」
「出来ないと言うか、深いところまで読み取ろうとしてもパスワードが掛かってて読み取れないのよ」
「パスワード、何か手掛かりはないのか言ってあれば君なら解いているか」
分かってるなら口にしないでくれるかしら。一応、意識が目覚めてからずっと挑戦はしてるけど、かすりもしないって現状だしヒントらしいヒントもないしで手詰まりなのよね。
何がアレって、そもそもにして解錠の形式すら分からないってところ。数字なのか文字なのか、はたまた何か特殊なフラグが必要なのか、それすらも謎だから総当たりしても当たる前に私がくたばるのが速いのは確実だって言えることよ。
「……オールマイト、緑谷を頼むわ」
「へ? え、構わないがどこに行くんだい?」
「暇潰しに他の奴らの特訓見てくるだけよ、何かあったらすぐに呼んで頂戴」
このまま緑谷の特訓風景を眺めるでも良かったかもしれないけど、煮詰まった頭をどうにかしたくて私はオールマイトにそう告げてから適当にクラスメイトの訓練を見て回ることにした。
今日は仁も来ているということで大体の所に〝個性〟で出したプロヒーローが彼らへアドバイスをしたりしているのを邪魔にならないように見学しつつ向かったのは轟のところ。
聞けば昨日の段階からなにか新しい試みをしているとからしく、それが何なのか見に来たんだけど……これってエンデヴァーの赫灼熱拳?
「ふぅって、バートリーか。緑谷は良いのか?」
「今はオールマイトに任せてるわ。私は……ちょっと暇潰しとあんたが新しい技を作ろうとしてるって聞いたから見に来たってわけ」
んで、今のがそうなのかと聞いてみればどうやらそうらしく。曰く、先ずはエンデヴァーの赫灼熱拳を完璧に使えるようにしてからそれを試したいとのこと。
原理としては氷と炎の赫灼熱拳を同時に使うことで中和しつつ出力を高めたものにするとかなんとか、言ってることは理解できるんだけどそれって可能なのかと聞けば
「燈矢兄さんのお見舞いに行った時に聞いたんだ。山火事にあったあの日、内側から冷やされた感じがしたって、それで病院の医者の話を聞いたらどうやら本当にそうだったらしくて」
「だからこそ瀕死だったとは言え形をほぼ保ってたってわけか。つか、そんな話私聞いてないんだけどまぁいいわ、それで原理は分かったからそれをやってみようってこと」
頷くのを見て私は多分、ちょっと引き攣った笑みを浮かべたと思う。いや、原理は分かるし彼が最近は特に強くなりたいと思ってるのは知ってるつもりだったけど、まさかここまでとはと。
それってどう考えても調整一つミスったら自爆するわよね? え、それを踏まえても会得するメリットが大きいから物にするって? そ、そう、頑張って。
「あぁ、絶対に物にしてやる。それよりもバートリーは大丈夫なのか?」
「大丈夫って体の話? まぁ変わりはないわよ、やっぱり〝個性〟をと言うか、プリンセスだとかクイーンだとかを使わないんだったら問題はなさそうだし」
「それもそうなんだが、そうじゃなくて、なんか悩んでるように見えたっつか、暇潰しとか明らかな嘘つくなんて珍しいって思ったからな」
これはアレかしら、思ったよりも私がわかりやすかったと言うべきか、それとも轟が人を見ていたと考えるべきか。どちらにせよ、あっさりと見破られるくらいには私の動きは露骨だったということだろう。
実際、煮詰まって気分転換で見学して回ってたわけだしね。だからまぁ多少ははぐらかしながらそうだと言えば
「そっか、話せないのか?」
「……今話してもって感じかしら、掛けられたパスワードがまるで分からないって話だし」
「パスワード? 事務所の金庫のやつを忘れたのか?」
こいつの天然ってこうして偶にぶち込まれると本当に耐えられようがないから止めて欲しい。いやだって、金庫のパスワードとかそんなサラッと出てくるわけ?
あぁ、駄目、耐えられないと気付けば私はお腹を抱えて笑い出していた。何だか久し振りにこうして笑ってるような気がすると思いつつもこのままだと相澤先生辺りに本気で怒られかねないと抑えようとするけど……
「ひっひひ、くっふっふふふ……!!!」
「おい、バートリー大丈夫か!?」
「何が……何があった、轟」
「いや、ちょっと話をしたらこうなったとしか」
「だって、何の脈拍もなく、ふっくく、金庫のパスワードって貴方、ふっふ、ぶふっ」
そもそも便利屋の金庫の管理は血染と圧紘がしてるから私は殆ど触ってないっての。ああもう、他の奴らも集まってきちゃったじゃないの、大丈夫、大丈夫だから。
「大丈夫って言ってる人間が青い顔してたら説得力ないっての。ヤオモモ、悪いけどいつもの」
「直ちに、それにしても久し振りに笑ってるバートリーさんを見れて安心しましたわ」
「うん、それは良いんだけど死にかけてるから安心はできないかなこれ」
「お嬢、平気か!? ってあぁこのくらいなら大丈夫そうか、ふぅ……」
気付けば集まってしまったクラスメイトに八百万が創った酸素スプレーで息を整えながら大丈夫だと手振りで答えておく。その後はまぁ他にもあれこれ見学したり、緑谷の訓練を手伝ったりしてたんだけど、そうそう。
爆豪が轟の訓練を見て閃いてたらしくて、その内容を聞いて感心しちゃったわね。確かに単純すぎて思いつかなかっただろうけど、これを実行したらこのクラスの火力はもう十分でしょって気分になるわ。
「汗を玉にして爆破を凝縮ねぇ、
「んなことたぁ分かってるっての。けっ、まさか半分野郎を見て閃くことになるたぁな」
こうして二日目の圧縮訓練も時間は流れていき、私はちょっと依頼を消化するために夜の街を飛び回ってから寮に戻っていた。
バートリーちゃんが迷走してても周りは前に進んでるんですけどね。