便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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No.153『我は汝、汝は我』

 思ったよりも時間が掛かってしまったと思いつつ寮の入り口に着地した私を先ず出迎えたのは、この時間になっても特訓してた緑谷とそれに付き合ってるであろう血染だった。

 

 いや、この時間までやってるのあんた達……駄目とかは言わないけど、詰め込み過ぎじゃない?

 

「寧ろ足りん、黒鞭の基礎動作は問題なく出来るようになったが実戦に組み込むとなると少々追い込む必要がある」

 

「まぁ、僕からお願いしたことなんだけどね。試験の時に使えないのはやっぱり勿体ないと思ったから」

 

 なんともまぁ向上心があることで。それにしてももう完璧に師弟関係よね貴方達、正直あれでしょ、緑谷も血染の方を師匠って思っててオールマイトは知り合いになってない?

 

「えぇ!? も、勿論、オールマイトも僕には師匠ですよ!?」

 

「とは言え、実戦の殆どを教えてるのは俺だと考えれば、バートリーの言い分も十分に理解できるがな。さて休憩は終いだ、続きをやるから構えろ緑谷」

 

「おっとなら邪魔しちゃ悪いわね。それじゃ、あまり遅くならないことと怪我はしないようにね」

 

 緑谷はあぁ言ってるけど、血染の一言で直ぐに構えに入れるの見たら誰もがそう思うわよと考えつつ寮に入れば、どうやら全員が一階に居た私に気付いた、と言うかあんた達全員こっちに居るの?

 

「おかえり、所長。まぁ、折角の機会だから親睦を深めようかってね」

 

「お疲れ、お嬢。実際は血染の付き添いと被身子が暇だから遊びに行くだなんだで来ただけなんだがな」

 

 暇だから。被身子のこの言葉が現状の便利屋を端的に示していたりする。仕事は来てないわけじゃないんだけど、この事務所に来る前と比べると被身子が言うように暇になる時間が増えてしまっている。

 

 原因は分かりきっている。雄英高校(こ こ)に事務所を移してるからだ、当初は真新しさと質の良さに感動したけど立地があまりに悪すぎるということに気付いたのよ。

 

 単純にアレ、依頼人が電話以外で便利屋と接触できる手段がないのだ。電話でももちろん対応するけど中には電話じゃちょっとという人もいる訳で、あの人の気配がまるでしないのに治安は妙に良い場所にあった事務所ならば誰かに見られることもなく依頼を出しに来れた。

 

 けどここじゃそうも行かない、常に職員が居るし何だったらプロヒーローの目にも入ってしまう。結果として依頼量の低下を招いているというわけである、うん、普通に大問題だわこれ。

 

「んで、暇だって言ってた被身子はどうしたのよ」

 

「それならほら、噂をすればってやつだ」

 

「あ、レイミィちゃんおかえりなさい!! 丁度良かったです、皆と一緒にお風呂に行きましょう!」

 

 あぁはいはい、ただいまただいま。あと言いながら抱きついてくるの止めなさい、ここは事務所じゃないんだから私とか火伊那達は慣れてても他はそうじゃないでしょう?

 

 悪いわね、急に騒がしくしてこの娘はいつもこの調子だから。多分、貴方達にもその内にこうなるわよ、それよりこれからお風呂ってことは夕食はもう終わってるのね。

 

「うん、食後の休憩も終わったし折角だからって渡我さんから誘われて今ってわけ」

 

「レミィも入ろうよ! あぁ、でも先に夜ご飯?」

 

「そっちに付き合うわよ。夕食は帰る途中で適当に食べちゃったのよ」

 

 まぁ嘘だけど。部屋に適当なカロリーバーとかあるからそれで十分ってくらいには空腹は感じてないのよ、感じてないと言うよりアレね、もう『無い』って話なんでしょうけど。

 

 なんてことは勿論、黙っておきつつ思ったけど、火伊那も付き合うのね。断っても良かったんじゃないの? 大方、被身子に押し切られたとかだろうけど。

 

「大当たりだ嬢ちゃん、事務所の方で一人でのんびりするって言ったのにこの秘書殿がこっちでみんなで入るんですってうるさくてな」

 

「煩いってなんですか火伊那ちゃん、裸の付き合いってのは大事だと思うんですよ?」

 

「あはは、私達も是非一緒にって誘っちゃったんだよね。だから渡我さんだけが悪いだけじゃないんよ」

 

 へぇ、流石に子供からのお願いを無碍には出来なかったってことかしら? とりあえず準備してきちゃうから先に行ってて頂戴と私は部屋に一度戻り、準備を終えてからさっさと合流してしまう。

 

 因みにその際に男子組を見たがどうやら緑谷と血染の特訓を見てあれこれと話したり、なんか雑談をしていたりした。随分と仲が良くなっているらしい、まぁ良いことだけど。

 

 そう言えば、寮のお風呂の来るのは初めてね。昨日までは事務所側の方で済ましちゃったし、流石にあっちより狭いとかはないでしょとか思いながらお風呂場に入った私が先ず出てきた感想は

 

「デッカ……」

 

「あ、レイミィも来たね! すごいよね、びっくりだよね、私も初めて来た時は大きいって驚いちゃったよ!」

 

「……あぁ、葉隠か。貴女お風呂場だと本当に分からなくなるわね」

 

 強化合宿のときの温泉でも思ったけど、ふとした拍子に見失いそうになるから怖いわよね貴女。さて、さっさと身体と髪を洗ってお湯に浸かりたいわねって、被身子?

 

「ん~? なんですかレイミィちゃん」

 

「ここは事務所じゃないから」

 

「でもレイミィちゃんに任せると髪の毛はすっごく雑に洗って終わりじゃないですか、駄目です」

 

「あ~、そう言えば合宿の時の温泉でもそんなんだったね」

 

「ケロ、お茶子ちゃんと三奈ちゃんが大騒ぎだったわね」

 

 うげ、ちょっと梅雨ちゃんと耳郎、余計なことを言わないで頂戴。被身子から何してるんですかって無言の圧が来るから、良いじゃないの別にそれで髪質が悪くなったとかないんだから。

 

「それが理不尽が極まってるんですよ。トガも流石に雑にやったら駄目になるのにどうしてレイミィちゃんはそれが許されてるんですか」

 

「レミィの体質ちょっと卑怯じゃない?」

 

「もしやですがスキンケアとかも……?」

 

「してねぇぞそいつ、若いって良いねとか思ってたがどうにも違うらしいなこれ」

 

 どうしたものかしらね、周りの視線が敵しか居なくなったことを察することが出来るものに変わったんだけど。いや、待って、〝個性〟由来の体質だって言うのに文句言われるのはちょっと理不尽すぎるでしょ。

 

 それに被身子だって似たより寄ったりでしょうが、貴女もスキンケアも何も適当にパパっとやって終わらせて荒れてないんだから、私だけが文句言われるのは違うんじゃないかしら。

 

「それはそれで、これはこれです。はい、じゃあ背中流しますね~」

 

「いやだから身体くらいはって……あぁ、もう好きになさい」

 

「にっしし~、じゃあ大人しくしててくださいね~、うへへ」

 

 その怪しい笑いは止めなさいっての。髪、髪って言えば火伊那は結構シャンプーとかそういうの拘ってるわよね、入浴後のケアとかも入念にやってるし。

 

「そりゃ私の〝個性〟が髪を使うからな。傷んでりゃその分、性能の良い弾丸は作れないなら拘るに決まってんだろ」

 

「あ~身体の一部を使う〝個性〟ってそういう部分にも気を使わなくちゃいけないのか」

 

「私も肌とかには気をつけてるよ~、やっぱり酸だから耐性があるって言ってもケアはしないと駄目になっちゃうし」

 

 こうして聞くとその手の〝個性〟持ちって苦労はあるのね。火伊那が来るまではそういう〝個性〟持ちは居なかったから気にしなかったわ。

 

 ……そう考えれば、今の文句はなんか理解できるわねってえ、違う? 女子としてその辺りは気にして欲しい? ハハッ、考えとくわ。

 

「アレは考えるだけだわ、そういう声と顔してるもん」

 

「なぁ、この流れで聞くのもあれなんだがお前たちって私の正体だとかもう全部知ってるんだよな?」

 

「筒美さんのですか? えぇ、その、悪いとは思いましたが調べましたわ」

 

 ふと、本当に唐突に火伊那が口を開き風呂場の全員に質問を投げかけた。八百万のように彼女の名前を聞き調べたものや、よく知ってるクラスメイトこと緑谷から聞いたものが大半だがともかく彼女が協会の会長を殺しタルタロスにぶち込まれたという表向きのそれは知っている。

 

 見れば火伊那はそれを聞きそうかと何かを考えている。まるでだったらなぜこの場に自分が居ても何も思わないんだと言う感じに、そして実際にそうだった。

 

「知ってるなら話が早い。こう、あれだ、端的に言えば私はタルタロスにぶち込まれるほどの極悪人だ、卵とは言えヒーローのお前らからは何か無いのかってな」

 

「無い、と言えば嘘になります。でも今こうして話してて悪い人とは思えないし、何より便利屋に居るってことは何か事情があったんだろうな思えて、だから大丈夫だろうなって」

 

 麗日の言葉がクラスの総意だろう。彼らは表向きだけの理由で人を決め付けたりはしなかった、こうして実際にその人を見て、話して、そして判断を下す。

 

 良かったじゃないの火伊那、貴女が心配してたようなことはないらしいわよっと。ん~、いい湯ねぇ、にしても火伊那もそうやって悩むのね、少し意外だわ。

 

「私を何だと思ってんだ、人をスカウトしてきたお前らに対してならまだしも雄英の奴らはそうじゃない、ならこうして一緒に居ても良いのかってなるだろ普通」

 

「その言い方だと私が普通じゃないって聞こえるんだけど?」

 

「レイミィちゃんが普通って評価を貰えると思ってるのがトガには驚きなんですけど」

 

 可笑しいわね、どうして親友から援護射撃じゃなくて背中から撃たれなくちゃいけないのかしら? いや、まぁ周りから見れば普通じゃないか、うん。

 

 にしても悩みかぁ、私もあるのよね。いや、ここ最近はずっと悩みっぱなしだけど他の件でちょっとね。

 

「それって轟くんと話してたこと? 確かパスワードがなんとかって」

 

「そうそう、あ~……」

 

「レイミィちゃん? どうかしたのかしら、私を見つめて」

 

 しまった、血の記憶のことはまだ梅雨ちゃんにして話してないんだった。どうしようかしらとか思ったけど、どうせ今後も使うだろうし一々誤魔化すのも面倒だから話しちゃうか。

 

「え、血染くんどころか協会と言うかホークスくんからもあまり広めるな言われてませんでしたそれ?」

 

「言われてるけどこの場の人間なら広めないでしょ? ってことだから今から話すことはオフレコで」

 

「ただの入浴中だってのにオフレコの話題をされるとか可哀想に」

 

 とか言いながら顔は笑ってる火伊那を尻目に私は自身の〝個性〟【吸血姫】の能力である血の記憶について、梅雨ちゃんに話したのとそっくりそのまま語っておく。

 

 語れば過去に私がその気になれば国家転覆出来るということを聞いてた耳郎と麗日は物凄い表情になり、それを知らなくても能力を上手く使えば大変なことになることは理解できたであろう者たちも同じような顔になってから葉隠が代表して一言。

 

「レイミィちゃんが(ヴィラン)じゃなくて良かったって心から思うよ私」

 

「あ、あはは、もしそうだったらきっともう大変なことになってたよ」

 

「そうですわね。何をどう隠しても情報が筒抜けというのは恐ろしいことですから」

 

「そりゃあれこれ知ってて国家転覆も出来るとか言えちゃうわな、こわ」

 

「れ、レイミィちゃん、もし辛いこととかあったら私らに相談してな? 抱え込んで爆発しちゃ駄目だからね?」

 

 うん、うん、心配してくれるのは分かるけどそこまで軟じゃないから便利屋が軌道になってるのに(ヴィラン)になるとかないから安心して欲しいわ、本当に。

 

 んで悩みってのはそれ関連なのよと話を続ける。その際に神野の一件に触れるのでそんな事もあったなとか火伊那が呟いたりしつつ記憶のパスワードの本題も話せば

 

「赤霧が完璧に嬢ちゃんの上位互換だってことか、どういう形式なのかも分からないのか?」

 

「全く。ヒントも何も無いのよ、ただ弾かれてると言うよりはなにか阻まれてるって感じでだからこそパスワードかもとか思ってるわけだし」

 

「うーん、ヒントも何もなしじゃ私達も力になれることはなさそうかなぁ……」

 

 ま、でしょうね。とりあえず話しただけだし、んっん~、あまり長風呂するつもりもないから私は上がろうかしらと思った所で話を聞いてから考え込んでいた八百万から私にとって天啓とも言える事を言ってきた。

 

「あの一つ確認してよろしいでしょうか?」

 

「構わないけど?」

 

「バートリーさんと赤霧は同一人物、という認識でよろしかったですわよね?」

 

 まぁDNAから何まで百パーセント一致で肉体的にはそうなるけど、それがどうかしたの? ん、同一人物……?

 

「ではもう一つ、肉体的以外にも精神面もそうだという話はないでしょうか? 話を聞いた限りではバートリーさんが生まれすぐに赤霧、つまりエルジェーベトさんから血を吸って人間性と知識を得たと言っておりましたので」

 

「ん、ん?」

 

「……待って、八百万、悪いけど結論から言ってもらっていいかしら。あぁ、違うわよ、私ももしかしたら答えに辿り着いたかもしれないから答え合わせがしたいの」

 

「分かりました。結論で言えば鍵が掛かっていると言うのが間違いなのではないかと思いました。阻まれてると感じてるのはあくまで……」

 

「錯覚!!! ちょ、チョット待ってて!」

 

 意識を赤霧の血の記憶に集中させる、いえ、今まではこれを『赤霧』のものだと考えてたのが間違いだった、これは『エルジェーベト』のものでありそして『私』のでもあるとすれば。

 

 結果はすぐに出た、あんなに悪戦苦闘して日夜一睡もせずに挑んでたのが馬鹿らしく思えるほどにあっさりと見れなかった部分に手が触れた。刹那、私はすぐ隣の八百万に抱きついていた。

 

「ひゅあああああ!!!!???? ばばば、バートリーさん!?」

 

「ありがとう八百万!!! 貴女って本当に天才だわ!! ごめんなさい、お礼はまた後日するから、それじゃ失礼するわ!」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいレイミィちゃん! せめて髪はしっかりと乾かさないとって、ああもう!!」

 

「……おーい、大丈夫か、八百万の嬢ちゃん」

 

「ダメそうだね、私達も引き上げようか」

 

 なんかお風呂場が騒然としてるけど今の私には聴こえなかった、それよりも早くこの記憶を紐解かないとと言う感情に囚われていた、そう、囚われてしまっていた。

 

 どうして私はこれを見れば全てが解決するなんて思っていたのか、いえ、解決はするわ。ただどうしてこの記憶が

 

「ざっけんじゃないわよ」

 

 私に新しい残酷な話を持ち込んでくると考えなかったのかしら。




吸血姫が見たものは……
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