あと後書きに来週の更新についてのお知らせがあります。
帰ってこない。響香がそんな事を言ったのは四日目の圧縮訓練が終わり、寮に戻った頃だった。
「ねぇ、バートリーって昨日見た?」
「いいえ、耳郎さんの言うように帰ってきたのも見ておりません」
「やっぱり見てないよね? ねぇ、男子は見た!?」
寛いでいた男子組に聴くが返ってきた反応は首を横に振られるというもの。どうやら向こうも彼女が帰ってきたというのを見てはいないらしい、それどころか。
「もしかしたら俺達が寝てる間に帰ってきて、また出てったとか思ったけどそれらしい気配も感じなかったし」
「でも赤黒さんと筒美さんは帰ってきてたよな」
「まぁ、今もそこで緑谷の特訓を付き合ってるしな」
見れば、昨日と同じように黒鞭の特訓に付き合う血染の姿。また火伊那も戻ってきていることも彼らは確認しており、今この場に居ないのはレイミィだけなのだ。
だが冷静に考えてみれば彼らは気付く、レイミィが帰ってきていないというのに便利屋の誰もが、特に被身子が慌てている様子がないことに、それが意味することはつまり
「レイミィちゃんが帰ってこないのはなにかトラブルがあったとかじゃないってことかしら?」
「てかもう聞いちゃったほうが早くない?」
身も蓋も無い芦戸の言葉ではあるが手掛かりも情報も何も無い自分たちが闇雲に悩むよりも手っ取り早いのは確かではあるとその場に居た全員で寮を出て特訓をしている出久と血染のところへと向かう。
寮から出て二人の元へ向かえば、向こうも彼らに気付き一旦手を止める。だがここまでゾロゾロと人数揃えてくるとは何事かと流石に血染も見当が付かずに眉を顰めたが事を聞いて今度はため息に変わった。
「あの阿呆、自分で連絡するとか言いながら忘れやがったな」
「えっと……?」
「すまん、一切聞かれなかったが故に既に連絡を貰っていると思っていたのだが、そうか、あの馬鹿は忘れたか」
間違いなくレイミィの事を言ってるのだろうが辛辣すぎる言葉に、もしかして本当にトラブルとかが起きたわけじゃないんだなと確信してしまう面々。
そして実際にそうであり、彼曰く詳細な内容こそは話せないが彼女は現在。
「アイツはあの依頼の後にその場で指名の依頼を受けた。かなりデカイ案件なので暫くは戻れない、というのを自分で連絡を入れておくと言ってたんだが」
「それを忘れて今に至るってことか、はぁ……梅雨ちゃん」
「えぇ、分かったわ」
その時、全員が梅雨の表情を見て軽く恐れ慄いた。薄々分かってたけどこの子って怒らせたらいけないタイプの人だったと、それを見た血染は自業自得だ阿呆と思いつつ出久の特訓を再開し、A組の面々もとりあえず解散になった。
一方同時刻、帰ったらまさかの説教イベントが待ち構えているなんてまるで思ってないレイミィ・バートリーはビルの一室に居たのだがふと唐突に彼女は思い出してしまった。
「あ、やっちゃった」
「ん? どうかしたのかい、お嬢様」
彼女にしては珍しい心の底からやらかしたという声を聞いたホークスが問い掛ける。現在は協会及び公安、いや、この際なので言ってしまえばほぼ国からの依頼で指定された人物の捕縛をしている最中であり、その部分でなにか起こったのかと思えば。
「あぁいや、依頼関係じゃないわ。ただあれよ、寮のクラスメイトに暫く帰れないけど心配するなって連絡しておくのを忘れたって話」
「ふぅん、お嬢様ってそういう事は知り合いには事後報告だと思ったんだけど、意外だな」
「少し前までの私ならそうしたでしょうね。ただちょっと友人との付き合い方を考え直そうかなって」
これまた意外な言葉と同時にホークスは彼女の心境に良い変化が起こっていることに思わず笑みを零す。彼女が言うように少し前までのレイミィ・バートリーであれば出てこない言葉であり、少しは身内とも言える便利屋以外にも心を許せる相手が生まれてきたという証拠なのだから。
そして、やらかしたことにヤベーどうしようと仕事をしつつも頭を悩ませている姿もまた、光景はともかく少しは年相応なものが現れてきている事もまた幼い頃からレイミィを知っているホークスからすれば嬉しい変化だと言える。
(うーん、これじゃまるで親戚のおじさんだなぁ、俺)
「はぁ、まぁ良いか。被身子か血染辺りが上手く話してくれるでしょうし」
「それって後々で大変なことにならないかな?」
「その時はその時よって、ごめんなさい」
まるでタイミングを図ったが如くレイミィのスマホが振動し、彼女が即座に取り出して画面を見ればメッセージが届いているという内容にすぅっと息を吸う。
しかもメッセージの送り主は蛙吹梅雨。これ間違いなく、連絡しなかったことに関することだと考えるまでもないことにレイミィは引き攣った笑みを浮かべ、それからそっとスマホを仕舞い込んで
「さて、仕事に集中しましょうか」
「大丈夫、返信しなくてさ? あともう殆どやることないよね?」
「……だ、大丈夫だと思う」
駄目だと思う。とは口にしなかったのはホークスの優しさか、将又ただ言わなかっただけかは誰にも分からないがここで一度空気を引き締め直すという目的もあった。
若干、緩んでしまったが現在は上記にも書いたように仕事中、ホークスが言うように殆んどやることは終えたには終えたがそれは現状はという話であり、まだまだ仕事自体は残っている。レイミィもそこは理解しているのでグッと伸びをしてから
「にしても、公的機関の人間が割とあそこで〝花〟を買ってたことには涙を禁じ得ないわね」
「心にも思ってないこと言ってるなぁ」
「実際問題、コイツらにどんな理由で同情して涙しろって話よ」
全くと言いながら腰を掛けたのはそのターゲット。因みに言うまでもないと思われるが既に気絶させられており、現在は証拠品を含めての回収班を待っているという場面である。
連絡は既に入れてあるのであと数分もすれば来るので現在は小休憩しつつ、証拠品を物色していたのだがレイミィはその中の一つ、ターゲットが所持し自分たちに向けてきた一丁の拳銃を手に取る。
見てくれはリボルバー型の拳銃、彼女の見立てでは恐らくは〝個性〟社会になってから流出してしまった物の一つ、つまりはありふれたものでしか無く、一応大雑把に観察してみるが印象は変わらない。
続けてシリンダーを慣れた手付きで横に振り出し、チャンバー内の弾薬を取り出したレイミィはそれを見て小首を傾げた、出てきた弾薬が彼女には全く見覚えなのない形状だったのだ。
「(なにこれ? 弾丸って言うよりは麻酔弾みたいな感じね)ねぇ、ホークス、これ見て」
「うわっとと、えっとこれは?」
「この拳銃の薬室に入ってた弾なんだけど、明らかに普通のじゃないのよね」
突然投げ渡されたそれをホークスも指で摘んで見てみるが確かに普通の弾丸ではない。そもそも弾頭と呼ばれる部分が無く、代わりに何かが出てくるという感じの隙間らしきものがあるだけだ。
「例えるなら麻酔弾とか、かな?」
「やっぱりそう思う? 多分だけど発砲と同時に先端部分から針が出てくるんじゃないかしら、だとすればその弾薬の本来の用途は……」
「殺すのが目的じゃなくて何かしらの薬物を相手に投与すること。どうする、鑑識に見てもらうように警察に頼もうか?」
普通であればそれが良いかもしれない。だがレイミィは首を横に振り別の案を提示した。鑑識よりも早く、内密に、より正確に薬の成分などを調べてくれる奴が居ると。
とは言われてもホークスには思い付かないので誰だいと聞いてみたが言われれば、確かにそいつならまぁ仕事は正確だし早いよねと納得しか無かった。
「殻木よ。あいつアレでもこの手の類のエキスパートだし、今日中にでもこれを渡したら答えが分かるわ」
「あぁ、そう言えばお嬢様の下僕になってたね。そう言えばAFOも一応は居なくなったけど、タルタロスには入れないの?」
「分かってて言ってるでしょ貴方、今の殻木は放っておいても医療方面で馬鹿みたいに貢献してるから動かすに動かせなくなったって」
言うだけ言ってからレイミィはため息を吐き出しながらホークスから返してもらった弾薬を薬室に戻しシリンダーを元に位置に戻す。余談だが彼女が拳銃の扱いに妙に慣れているので公安の『裏』に居た頃と便利屋の仕事でも割りと接することが多かったからである。
では話を戻し実際、現状の殻木は日夜ひたすらに医療方面の研究を続け、その貢献度はもはや無視できないどころか、このまま死ぬまで社会に貢献させたほうが良いんじゃというレベルにまで上がってしまっている。しかも今は燈矢の治療も任せているので、言ってしまえば
「もう無理よアレ、放置しすぎたしちょっとこう、魅了の掛け方が強すぎたかもしれないわ。本気で私のために社会の役に立ちます状態だもの」
「風の噂で聞いたけど、利益とか特許料を君に流そうとしたんだっけ?」
「今思い出しても胃が痛くなってくるからその話には金輪際触れないで」
ともかく殻木ならば十分以上の仕事をしてくれるし、こちらが動いているということもバレにくいということで彼に調べてもらうことに。そのためにホークスは一度、公安の会長に連絡を入れるのだがその際にレイミィから血の記憶から分かったことがあると。
「この弾丸なんだけど、こいつの記憶から見るにどうやら彼だけの特別品ってわけじゃなさそうよ」
「まさか、出回ってるのかい?」
「えぇ、売人から受け取ったみたい。ともすれば流通ルートもあるってことだし、思った以上に広まってる可能性もあるわ」
「ちっ、一つ片付けたと思ったら一気に問題が増えたなっと、こちらホークス、会長、耳に入れてもらいたいことが」
今しがた判明したことをホークスが会長に伝えている間、また暇になったなと気絶しているターゲットから腰を上げて周りからバレないように窓から外を眺める。
外は段々と夕暮れ時を示すように日が落ち始めており、腕時計を見てみれば時間もそれを指し示していた。続けて適当な場所に座り込んでから支給された方の端末で残りのターゲットを眺める。
数だけ見ればあと一押しという所、だが向かえば直ぐに捕まえられるかと言えばそういうわけでもなく、相手が相手故にタイミングを計らなくてはならない事が大半であり結果としてこの残り人数でもまだ掛かるだろうというのが彼女の見解だ。
(早くても二三日って所かしら。仮免試験までには戻りたいけどっと……あ~)
そう言えば今暇だしと自身のスマホを取り出して、今度は既読が付く形で梅雨から送られてきたメッセージを確認することに。そこに書かれていたのは、彼女の予想通りとも言うべきだろうか、今回のことであり短文にて。
〝話は赤黒さんと筒美さん達から聞いたわ。帰ってきたら話があるから、そのつもりでいて頂戴ね〟
(これ、怒ってるわよね? ど、どう返信すれば良いのかしらこれ、こういう時に被身子が近くに居てくれれば聞けたのに)
なんて想ったのが届いたのか、それともレイミィならばこのタイミングで困るんだろうなとずば抜けた精度の直感でも働いたのかは不明だが彼女から一通のメッセージが届いた。
これには若干レイミィはドン引きしつつ、それでもと藁にも縋る思いでメッセージを開いてみるが書かれていたのは無情な一言だった。
〝お疲れ様ですレイミィちゃん、因みに梅雨ちゃんは激おこぷんぷん丸くらいで怒ってるので覚悟しててくださいね。あ、私に助言を求められても答えられないので頑張ってください!〟
〝そこを何とかならないかしら!!!〟
〝ならないです! あとこのメッセージは梅雨ちゃんたちに見られてますから!〟
血の気が引く感覚は久し振りだわ。後に彼女はそう語った、それと同時にどうして被身子がこんな的確なタイミングでメッセージを送ってきたかのカラクリも理解できた。
そりゃ近くに居たら既読が付いてで送れるわなと。そんな現実逃避気味に考えていれば、スマホが震えメッセージが送られてきたことを知らせてきたし送り主は勿論、梅雨ちゃんである。
〝レイミィちゃん?〟
〝え~と、その、連絡しようとはしてたのよ?〟
〝うん、でも忘れちゃったのでしょ?〟
文章だけなのに圧を感じるのは本気で怖いから止めて欲しいと思わず送りそうになるのを堪える。これもうどんな言い訳しても無駄だわと判断したレイミィは素直にこう送った。
〝ごめんなさい、今度からは気をつけます〟
〝はぁ、分かったわ。でも帰ってきたらお話はしましょうね〟
どう足掻いても説教からは逃れられないらしい、その事にレイミィは思わず頭を抱えてしまったし、丁度ホークスも連絡を終えて振り向いてそれを見て困惑することに。
「はい、はい、了解しました。さてお嬢様、次のって……どうしたのかな?」
「仕事が終わったら説教が待ってるのが分かってしまったのよ」
「あぁ~、うん、ドンマイ」
彼が掛けれた言葉はそれが限界だった。だがそこはレイミィもプロだろう、直ぐに立ち直りホークスと共にターゲットを確保するために行動を開始。
結局、彼女が寮に戻れたのは仮免試験1日前。肉体的疲労は無くとも精神的疲労を感じながらレイミィは寮の扉の前で立ち尽くしていた。
因みに今回の指名の依頼の報酬は後の話で出てきます。
まえがきにも書きましたが来週の更新なのですが私的な用事があり休みとなります。なので次の更新は再来週の金曜日か今回のように土曜日となりますのでご了承ください