一つ言っておきたいけど、私だって好き好んで説教を受けたい人間ではない。いや、説教を受けるのが隙なやつとか早々居ないでしょうけど、とにかく私は好きではない。
つまり何が言いたいかってなれば簡単な話よ。寮に入りたくないってことだ、説教があると分かっててただいまなんて言えるわけないでしょうに。
「なに立ち止まってんだ、所長さん」
「別に何もないわよ」
「いや、それは無理あんだろ」
「じゃかしいわよ」
私のその言葉に横暴だなぁとボヤくのは燈矢、もう一度言うが轟燈矢本人である。最もその姿はもはや荼毘だった頃の面影は殆ど無いからこうして雄英まで歩いてこようとも周囲にはバレたりしなかったけどね。
あ、でもあれか、荼毘としての姿はメディアに露出してなかったから気づかれるも何も無いんじゃないかしら……? まぁ良いか、とにかく今の彼はまだ治療痕や包帯が巻かれていたりするけど、パッと見ではほぼ完治していると言っても過言ではない。
けどあくまでそれは表面だけ、内側はまだまだ治療中の身であることは変わり無いから暫くは事務業しかできない、所謂リハビリ期間ってやつね。
「んで、どうすんだよ。何時までも外はキッツいんだが」
「それもそうね、行きましょ……」
「バートリーさん?」
そりゃ、この時間なら走り込みだとかでもう起きてても不思議じゃないわね……にしたってこんなにタイミング良く出てきたりするかしら。
まぁいいや、とりあえず挨拶でもしておこう、うん。
「バートリーくん!?」
「え、バートリー?」
「帰ってきてたのか」
「……んだ、その隣の日傘男?」
まぁうん、緑谷が出てくるなら愉快な仲間達たる貴方達も付き合いで来るわよねそりゃ、うん。あと日傘男は笑いそうになるからやめなさい爆豪って言われた本人が笑うの?
「まさか直球でそう言われるとは思ってなくてな」
「燈矢兄? 退院したって聞いてないけど、大丈夫なのか?」
「じゃなけりゃ、今日ここに来てないって。まぁ母さん達には秘密にしておいてくれとは言ったけどな」
見舞いとかでそれなりに接してきたけど燈矢って割りと茶目っ気みたいなのがあるのよね。それなりに冗談とかも言うし、あとエンデヴァー煽るときは活き活きしてるわ、でも分かる楽しいのよねアレ。
にしても仮免試験前日だってのに朝早くから走り込みに出るなんて真面目ねぇ、なんて考えた所でふと私は思った。
果たしてこの時間帯に起きているのが彼らだけなのかと。普通の学生ならまだしもここに居るのは将来のプロヒーロー、だとすれば……そこまで考えた所で寮の入り口からできれば今聞きたくない声が聞こえてしまった。
「レイミィちゃん?」
「あ、爆豪くんの言う通り本当に帰ってきてた!」
「おはよ、バートリー。とりあえず入りなよ、うん」
「……そうね、その、ただいま」
なんかもうこうして顔を見せられると全てを諦めるというべきか、まぁ心配されてたんだなって分かって素直に従うしかなかった、それはそれとして爆豪は余計なことするな。
つかアイツそんな気を回せたのね、それとも段々と丸くなってきたって感じかしら? こうして私はやっぱりと言うべきかすでに全員起きていた寮へと久し振りに帰ってあれこれと心配の声を掛けられたり梅雨ちゃんからそれはそれはありがたいお言葉を貰ったりしたのが今朝の話ってわけ、ねぇ被身子?
「はい、なんでしょうかレイミィちゃん」
「梅雨ちゃん、別に怒ってなかったけど?」
「そりゃ、あのメッセージの後から逐一ご機嫌取りみたいな勢いでメッセージを送られたら怒る気も失せるってやつですよ」
なによ、今度は向こうに無駄に心労掛けないようにって心掛けただけじゃないの。それをご機嫌取りだなんだって言われるのは心外も良いところなんだけど?
「嬢ちゃん、そんな狡い真似してたのかよ」
「らしいっちゃらしいがな」
「あはは、でも無事に帰ってきてくれておじさんも安心だよ」
「んでお嬢、燈矢を連れてきたってことは今日からここで働くのか?」
狡い真似って……まぁ良いわ。えぇ、そうよ仁、燈矢は今日から職場復帰ってことになるわ、ほら、挨拶。
「はいはいっと、今日からお世話になる轟燈矢ですっと。つっても現場とかにはまだ出れなくて事務作業だけだけどな」
「話を聞く感じだと内蔵関連がまだ完治してないって話だったな。どの程度かかるんだ?」
「殻木と主治医が言うには完治って事になると1年単位って所かしら。現場に出れるレベルならそんなに掛からないらしいけど」
その場合の彼は全力で〝個性〟を使用することは勿論できない。大体、6割程度だって話だったわね、それでも十分って本人は言ってるし経過観察の体で一度使ってもらったけど6割で焦凍と同等レベルなんだからその通りよねとしか言えなかったわ。
でもかと言って無理はさせられない、そういう事で彼には暫くは事務を中心にしてもらうってことになっている。
「問題があるとすりゃ、俺はその辺りからっきしって所なんだが」
「平気です、トガがキッチリと教えますから!」
「……圧紘、頼む」
「了解、副所長殿」
フォローするけど被身子も教えられないってことはないんだけどね。あの娘の教え方ってこう、大雑把とかそういう感じなのよ、私も人のことは言えないけど教え方は上手ではないわね。
「所長さんが教え方が下手っていうのもどうかと思うんだが」
「平気よ、その辺りは圧紘や血染がフォローしてくれてるから。さてと、じゃあ燈矢の席はそこだから座って頂戴、それで次に私からの報告を始めるわ」
そう告げながら鞄からコピーした書類を取り出してそれぞれに配り、行き渡った所で今回の依頼についての話を始める。
依頼内容自体は既に共有されてると思うから割愛するとして報酬面からもう話しちゃうわよ。
「待ってました。あれだけの依頼だ、安い支払いじゃないんだろ?」
「勿論よ火伊那、可能な限り搾り取ってきたから驚きなさい」
「お嬢が自信満々な時って割りと不安になるんだよな、俺だけか?」
「安心しろ、俺もだ」
そこの男二人黙りなさい。オールマイトの件を言ってるんでしょうけど今回は大丈夫だから、デカい組織が相手なら私だって問題なく測れるっての。
んじゃ言うわよ、まず一つはこれ、便利屋チェイテの今後の運営の許可。つまりはあれよ、取り潰しは今後、ここが馬鹿やらかさなきゃ永続的にしないっていう契約ってこと。
「……続けろ」
「血染くん?」
なら続けるわ。この辺りは他にも細かいあれこれがあるんだけど、そこは各自適当に目を通しておいて頂戴、んである意味でメインの報酬の話をしましょうか。
聞いて驚きなさい、今回の依頼の料金は……五千万よ。ふふっ、流石の血染と圧紘も驚きのあまり固まっちゃってるわね。
「え? あ、え? あのレイミィちゃん、もう一度お願いします、トガの耳がおかしくなったみたいですから」
「五千万、耳揃えてキッチリと口座に入るわ」
「ヒュ~、こりゃまた大金を要求したし向こうも払ったもんだな」
「いや、ヤバいな、この便利屋始まって以来の大金じゃねぇかお嬢」
「復帰早々に聞かされることがデカすぎて反応に困るんだが」
ふふん、向こうも今回のことは流石にずっと握られてるのは精神衛生上よろしくなかったみたいで快く支払いに応じてくれたわ。
これで今後の運営も無駄遣いしなければ困るってことは早々ないでしょ。けど代わりに今回の件と他にも私が個人的に握ってた幾つかの手札は手放すことにはなっちゃったけど。
「ん? 報告書呼んだ感じだと、五千万の内訳って何割か殻木の特許が入ってねぇか?」
「あ、本当だ。けどそれでも国が個人というか便利屋っていう灰色な私達に払うにしては大金ですけど」
「それで手札幾つか手放すっていうのはちょっと迂闊じゃない、所長」
「……そうか、そういう事か」
ここで血染が何かを悟ったかのような口を開いた。流石というべきか、付き合いの長さから来るものかと言うべきか、ともかく私としては悟られ他としても驚きはあまりない。
寧ろ気付くでしょうねという感情のほうが大きい、対して血染は私のそんな態度がどう見えたのかは知らないけど呆れたという感じの表情のまま口を開く。
「貴様、終活のつもりか」
「就職はしてるけど?」
「冗談を言う空気じゃねぇのは分かってんだろ、バートリー」
「おいおい、急にどうしたってんだ。いきなり副所長と所長の喧嘩を見せられる新人の気持ちにもなってくれよ」
燈矢の言葉はご尤もだと思いながらも、一度発生したこの空気をすぐには収められないから悪いけどもう少し付き合ってもらうわ。
彼の言わんとしていることは理解できる、端から見れば、そうじゃなくても私の今回向こうに要求した報酬の数々はどれも私が居なくなってから困らないようにするためのものにしか見えない、それはつまり。
「赤霧と相打ちになるつもりか? それとも被身子が言ってた漸く覗けた奴の記憶が関連してるか、どちらにせよ端からお前はこの先を生きれるつもりはないと言ってるようなもんだ」
「保険をかけるのは大事じゃないかしら? 世の中には絶対はないんだし、悪いことかしら」
「悪いとは思わんし俺も同意見だ。だが俺にはまるで保険ではなく始めから使うつもりで慌てて用意しているように見える、言え、奴の記憶から何を見た」
鋭い眼光が私を襲う。何と言うか久し振りに彼からこの視線を貰ったわねと懐かしさすら覚えてしまう。
いや、懐かしいどころではない。これは初対面で貰ったっきりだったわねっていうのは置いておいて、さてどう答えたものかしら……
「確かに赤霧の記憶から重要なことは幾つも覗けたわ、でも言えない」
「絶対にか」
「えぇ、ふざけたことを抜かしてるっていう自覚はある、けどこれだけは譲れない。それに保険っていうのも嘘じゃないわ、言ったでしょ世の中には絶対はないって」
上手く伝わってくれるだろうかと心配したが血染は私の言葉を聞いて、小さく〝そうか〟と呟いてから話を終わらせたを見て安堵の息を吐く。
とりあえず、彼には伝わったらしい。あとは被身子達も言い包めないとなんて思ったけど今のやり取りで察してくれたのか、その話には触れないで圧紘から他の話題を振られることになった。
「えっと、この空気で聞くのもなんだけど報告書にある、特殊弾丸について聞きたいかな」
「見るからに物騒なことしか書いてねぇけどな、現役時代でも見たこと無かったがまぁこの手の物が出回っても不思議ではないわな。んで、弾丸の素材とかは分かってんのか?」
「この弾丸を殻木に調査させたら翌日には判明してるわ。それが二枚目の資料に書かてる」
私に言われ二枚目を捲って読んだ所員たちの反応は大体予想通りだったりする。まぁそりゃそうよね、私だって渋い顔したものこれには。
「弾丸の成分を調査した所、材料に使われてるのは人間であると断定できる……これマジですか?」
「ここまで詳細に書かれてて冗談ってのはないだろうよ、被身子。うげぇ、ちょっと気分悪くなってきた」
「流石にこれは反応に困るね」
「狂ってんだろ、これ作った奴ら」
「意外に正気かもよ、本人たちは至って真面目に作って流して稼ごうって感じに」
被身子からそれぞれがそんな反応を見せていく中、血染だけは資料を読み込んでからふむと唸り一つ聞いてきた、聞くのは良いんだけど弾丸についての感想とか無いわけ?
「生きた人間だというのも断定できるのか? あと火伊那が言うようにこの社会なら出てきても不思議じゃない、それを一々反応してられるか」
「なんとも面白みがないわね。で、生きた人間だって言うのも殻木に言わせれば断定できるらしいわ、曰く生きてないとこの〝個性〟は発動しないタイプらしいから」
そう、この弾丸の材料にされている人物は生きながら材料にされている。普通に考えて頭がオカシイわこんなの、作る方もだけど、もしこれで喜んで協力してますっていうのなら材料側も狂人かよってなるわ。
でもそれはないと私は断言する。その答えはこの資料に書かれているし被身子達もそこは読んでいるだろうから、この個性破壊弾と言うべきか消失弾というべきコレの材料にされているのは……
「んで、子供を材料にしてるってのは質の悪い冗談か?」
「いいえ、事実よ」
「直ぐにこれ作ってる奴らぶっ潰しましょう、ね、レイミィちゃん!」
「落ち着けっての秘書さん、そもそも出所も分かってないんだろ?」
思ったよりも冷静ね、燈矢。そう、私だって許せないし直ぐにでも叩き潰したいけど、現状はどうしようもないわ。
一応、この弾丸の出所とかは警察が追ってるからそこまで時間は掛からないと思うけど、それでも現状、便利屋から動けることは何一つ無いわ。
「歯痒いね、いや、ヒーローでもない俺達がそう言っても仕方がないんだろうけど」
「けどこれを知っちまった手前、見て見ぬ振りは出来ねぇっての。子供を使うとかお嬢なんかが絶対に許せるやつじゃないし」
「えぇ、この件に関しては出所が分かったと同時に私達便利屋は罠を張り巡らせて潰すわ、警察や協会、公安から許可と報酬は約束されてるから問題ないし」
悪いけど子供を食い物にするような奴らを私は野放しにするつもりも許すつもりもない、見つけて引きずり出して徹底的に叩きのめす、なんて断言したら血染が頭を抱えてしまったわ、なんでかしら。
「お前また勝手に……」
「大変だな、嬢ちゃんの保護者ってのは」
「全くだ、はぁ」
なんか知らないけど血染にため息を吐かれたのは非常に不服なんだけどまぁ良いわ。こうして私からの報告も終わり、被身子たちからも特に無いということでこの日は解散となった。
はっきり言っちゃえば、私は疲れ切ってたのでそのまま一度シャワーを浴びて、珍しく寝たいと思って寝て目が覚めたのは深夜だった、うん、とても驚いたわ。
どうも一週間ぶりです。まぁなにやってたかと言えばちょっと夜渡りで空を飛ぶナメクジにストームルーラーぶつけてたってだけです。正直、先週これ更新できたかもとか思ってました。
あと燈矢くんが便利屋に合流です、キャラが増えすぎて回せる自信がもうないですね、はい。