No.159『新学期スタート』
長いようで短かったように感じるも内容自体は濃すぎると言える夏休みが終わりを告げた。それはつまり雄英高校の新学期が始まったということでもあり、本来の世界線ならば出久と勝己の二人は深夜に私闘を行ったということで謹慎処分を受けるはずだったがそれもない。
だが新学期の始まりの全校朝会の最中、校長である根津の長い話の後に現れた人物たちにA組は困惑していた。確かに今朝から見てなかったし、今も見てないからどこかに行ったのかと疑問には浮かんでいたがあぁそういうと納得もしてた。
「ご紹介に預かった、便利屋チェイテ所長のレイミィ・バートリーよ。まぁ、さっき校長から話があった通り、年内の間はここに事務所を構えるから依頼があるなら来なさい、なんでもって訳じゃないけど受けるつもりだから」
「HAHAHA! そういうことだから皆、仲良く頼むよ。ただ彼らも決して常に暇という訳ではないということも忘れないであげてね」
こうして紹介されてはいるが実を言えば夏季休暇の最中でも雄英に来ていた生徒達には既に知られており、そこから伝播してたりもするので全く知らなかったという生徒はあまり居なかったりする。
知らないとすれば自分たちの依頼でも受けてもらえるかもしれないという部分だろう。とは言え、じゃあ何でもかんでも頼んでくるというわけではないだろうし仮に来てもそこまでの件数じゃないと便利屋は思っていたりする。
理由はなんてこと無い、こんな怪しい集団にホイホイと頼むとか自分たちだったら出来ないわという客観的に見た感想である。まぁそんな余談は置いておき、紹介も終わりレイミィだけはクラスに合流、その後も根津校長の話は続くのだがその中で彼女が気になったのは。
(
なのでここからは学業をしながら実践も少しずつ経験を積んでいく期間になったということだ。無論、レイミィには何一つとして関係ないことなのは言うまでもないと思われるが。
「じゃあ、レイミィはインターンはしないってこと?」
「まぁそうなるわね。そもそも日常が既にそんなんだし」
「確かにそうですわね。あ、でしたらその現場に出た際に気をつけた方がよろしい事などのご助言を頂けますでしょうか?」
「あ、それ私も聞きたい!」
時間は全校朝会の後、場所は教室。一限目が始めるまでの僅かな隙間ではあるが校長の口から出てきたヒーローインターンについての話題で盛り上がっていた。
「気をつけること、か。うーん、とりあえずアンタ達はまだプロじゃないんだから上の命令は絶対に聞くこと、もしそれが出来ないって状況で事件を目撃ないし巻き込まれたってときは自分の能力を過信しないで対処できる範囲のことをするってのは大前提になるわね」
などとらしいことを言葉にしているレイミィだが彼女は何も知らない状態で現場に放り込まれ、その場に居たプロヒーローとか警察等などの血の記憶から学び己の物にしたという立場なので実を言うとアドバイスが欲しいという期待には若干困っていたりする。
だって私もそれらしいことやって、後は稼いだ信用と借りで好き勝手に出来るようにしただけだしと。因みに血染や圧紘たちを迎えた後はこの二人が基本的にフォローしていたりする、通称所長の尻拭い係とは被身子の言葉だったか。
「全員座れ、HRを始めるぞ」
そのタイミングで相澤が教室に入ってきたので話は一旦中断、と言うよりもHRが一段落ついたところで梅雨からヒーローインターンについての質問を投げ掛けた。
彼としても来ないとは思ってなかったのだろう、後日話すつもりだったんだがとボヤきつつ、軽く詳細を説明し始める事に。
「平たく言えば郊外でのヒーロー活動、以前行った職場体験……その本格版だ」
「……ん? え、じゃあちょっと待ってくださ……」
「麗日、この
何かに気付いたお茶子が勢いそのままに質問をしようとする直前に彼女の聞こうとしていることに見当が付いていたレイミィが先に口を開く。開いてから相澤にアイコンタクトを送れば、向こうは一つだけため息を吐き出してから続けろと視線を動かしたのを確認してから彼女はお茶子の方を向いて続ける。
「貴女のことだから、体育祭の頑張りは何だったのかとか思ったんでしょうけど違うわよ。アレがあったから、貴方達は
「ん? ん???」
「学校が相手をセッティングするわけじゃない……あ、そういう事か! インターン先のプロヒーローは体育祭の指名先になる、となると無かったらそもそもインターンに向かうことすら出来ないってことか!」
「大体その認識で正しいわ。無名も無名の仮免生徒が縁も何も無いヒーローの所に行って頭下げたって早々受け入れてはくれないってことよ」
「あぁ、なるほど。早とちりしそうになってしもうた……すみません」
「納得したなら座れ。
お茶子が落ち着きを取り戻し座り、相澤はそれを確認してから通常授業の始まりを告げる形で一限目の英語、つまりはプレゼント・マイクの授業が始まる。
始まるがレイミィはそれを聞き流しながら、他のことを考えていた。
普段であれば何もこうして考えることは彼女はしない、仮に重なったとしてもあぁじゃあ互いに邪魔しないようにとか必要なら協力しましょうか程度の話で済む、だが今回は違う。
(仮に死穢八斎會を探ってるプロヒーローの所に活動に行ったとかの場合、巻き込んじゃうのよねぇ)
だからと言って関わるなとは絶対に言えない。レイミィとしてもそれだけ巨大な組織との立ち回り方とかを学べる機会を潰したいわけじゃないから、と考えて彼女は結論付けた。
考えても仕方ないなこれと。出たとこ勝負とも言えば、結局は将来的にはそういう相手をすることもあるんだから遅いか早いかだから頑張れというぶん投げとも言う。
「あれ、バートリーどこ行った?」
新学期がスタートして特に何もなく三日目の昼食前、響香がふと呟いたことから物事は始まった。そう、四時限目までは確かに居たはずのレイミィの姿が終わりと同時に居なくなっているのだ。
その事に気づいたのは響香が昼食に誘うとしたとき、机を見れば忽然と消えているレイミィの姿に言葉を漏らせばそう言えばとクラス中に空気が伝播する。
「先程までは居たはずですが、居ましたわよね?」
「え、ちょ、怖いこと言わないでよヤオモモ、居たでしょ」
「レイミィちゃんならちょっと急いで食堂行かないとって私に伝えて凄い速度で出ていったわよ?」
そこで登場したのは梅雨、どうやら教室を飛び出す直前にレイミィは伝えていたらしいのだが彼女にしか告げなかったところを見るに相当急いでいたらしい、らしいのだがそこで新たな疑問が。
何故に食堂? とここで被身子か誰かでも居れば事情を聞けたかもしれないが教室には流石に居ないしこのまま頭を悩ましてても仕方がないということで食堂組は移動を開始したのだがその道中、こんな話が耳に入る。
「おい聞いたか、今日のオムライスがメチャクチャに美味いらしいぞ」
「先に行ってたやつがそんなこと言ってたな、でもランチラッシュ先生の料理ならどれも美味いじゃん」
「いやいや、話だと作ってるのはランチラッシュ先生じゃないとか、とにかく行ってみようぜ」
んなこと無いだろうと先輩達が笑いながら食堂に向かっていくのを見つつ響香は今の話に心当たりしか無いんだけどばかりにお茶子たちの方を向いてから
「……ねぇ、今の聞いた?」
「聞いた、あれってそういう事だよね?」
「ケロ、確か前に作ってもらった時にヘルプに入らないかって言われてたとか聞いたわ」
「ランチラッシュ先生にかい!? それはその、失礼かもしれないがリップサービスとかではなくてかい?」
「あぁそうか、あの日にお前らは食ったこと無いんだよな、バートリーの激ウマオムライスを、そうだよな、そういう反応になるよね」
まぁ俺達は食って感動したけどとうざ絡みの極地を見せる電気は置いておき、女子達がそう言ってる以上は嘘ではないのだろうと言うことで食堂に入れば見えるのは全員とまでは行かないが利用者の約5割近くがオムライスを注文し食べているという光景。
そして一口食べれば驚きのあまりに目を見開くというほぼ同じような反応をしている状況にこれは間違いないと響香は確信しつつオムライスと看板が付けられた受け取り口に向かえば
「被身子、火伊那、追加で出来たから並べて!!!」
「すぐに!」
「あいよって、嬢ちゃん、A組も来たぞー」
「んなこと言われてどうしろっての! 手は離せないからね!」
あ、修羅場だ。厨房が見える範囲で言えば休みこと一切なく手を動かしオムライスを作り続けるレイミィの姿、そして配膳や他の調理の手伝いに入っている便利屋の面々、どうやら今日は此処にガッツリと手伝いに入っているらしい。
誰がどう見ても声を掛けられる状態じゃないのはよく分かる光景だったので響香達は各々オムライスを受け取ってから適当な所に固まって座ってから。
「大変そうだったね、バートリー」
「だねぇ、でも形とかスッゴイ綺麗なんよね。普通、あの忙しさなら崩れたりしそうだけど」
「確か前に依頼でレストランとか別の食堂のヘルプに入ったことがあるって話を聞いたことがあるわ、その経験じゃないかしら」
「バートリーくん、梅雨ちゃんに凄い話をしてないかい?」
「余程、この間のことが聞いたとか赤黒さんが言ってたからそういうことだと思う、うん」
とりあえず食べてしまおうと食事前の挨拶をしてから一口、味は以前食べたよりも更に磨かれていると響香達は驚き、前に食べたこと無い組はその味に驚愕することになる。
あの娘、多分これだけで食べていけるんだと思うんだけどとは誰もが思う口にはしなかった。そこでふと響香が隣の集団を見ればそこに居たのはB組の面々、彼らもまたオムライスの味に驚いていたのだがその中で物間だけは震えていた。
「なんで震えてんだろ、アイツ」
「認めたくないってやつじゃねぇの、ほら体育祭でも好き勝手やられて敵意むき出しだし」
「なんやそれ、料理に罪はないんだから認めればいいのに」
「難儀ね。それにしても本当に美味しいわ、いや、本当に驚いちゃった」
「あぁ、正直に言えば俺も意外だと思っているくらいだ」
(モグモグモグ)
そんな風に褒められているレイミィだが当の本人はそれどころではない。なんせ、ヘルプを頼まれたとは言えまさかこんなに引っ切り無しオムライスが注文されるとは想定してなかったからだ。
冷静に考えても欲しい、彼女は何も宣伝してないのだ。自分がオムライスが得意だということも、今日作るということも、だと言うのにどうしてと思ったがその疑問はランチラッシュの口から解明されることになる。
「私が軽く宣伝をしたからね、ランチラッシュ称賛のオムライスが今日は出ますという感じに」
「なんでそんな……それで文句言われたらどうするつもりだったのよ」
「はは、それはないと思ってるからこその宣伝さ。実際、食べた皆が絶賛してるじゃないか」
「そもそもレイミィちゃんのオムライスに不味いとか言えるやつは味覚が狂ってますからリカバリーガールの所にぶち込んだほうが良いですよ」
可愛い冗談だと食堂スタッフは思ってるだろう被身子の言葉、だがレイミィと火伊那には理解できていた、目が何一つ笑ってないということを、つまりは本気だということを。
そう言えば物間が来た時もレイミィにあれこれと煽るようなこと言ってたがその時の被身子の顔が色々とやばかったなとランチラッシュも思ったが蓋をした。
ともかくそんな感じにレイミィのオムライスは大絶賛の末に終了、疲れを感じなくつつある身体だと言うのに微妙に疲労感を感じながら教室に戻り、午後のヒーロー基礎学の時間。
「アッハッハッハ!! なに、くふっ、なにそれ、ばっかみたい、ふふっ、アハハハハハ!!!」
レイミィ・バートリーはたった1人の男子生徒によって今までで一番の命の危機に瀕することになった。
以降、月に一度はレイミィ・バートリーのオムライスが食堂に並ぶようになったとかなんとか。