便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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本来とは違う歯車の噛み合いが、彼を動かした。


No.16『切り替わる歯車、緑谷出久の挑戦』

 彼、緑谷出久にとって爆豪勝己と言う存在は嫌な奴ではあるが同時に自分なんかよりも何倍も全てにおいて凄いと尊敬に近い感情を持っている相手だ。

 

 対して自分はどうだろうか。個性は未だ調整一つもできず、身体能力でも完敗、彼に勝てる要素は何一つないじゃないかと折れそうになる、けれど、それでも出久のヒーローになりたいという心までは負けるつもりはないと。

 

 今日まで努力したのは勝己だけではない、出久も決して何もせずにここに来れたわけではないと、だから。

 

「でもだから……今は負けたくない……な……って」

 

「男のインネンってヤツだね……!!??」

 

「あ、いやゴメン、麗日さんには関係ないのに!」

 

「あるよ! コンビじゃん! 頑張ろ!!」

 

 一方、勝己は出久が無個性だったと自分を騙していたのかと怒りに近い感情に思考を支配されかけていた。道端の石程度の存在だったはず、だと言うのに強力な個性を使い、喰らいついて来た彼が気に食わなかった。

 

 故に個性把握テストでの暴走に繋がるが結果は知っての通り、ここでレイミィからのあの視線を思い出し更に苛つかせ手の爆発が少しだが大きくなる。

 

「……クソナードが!」

 

「爆豪くん、作戦を考え……」

 

「俺がアイツラをぶっ潰す、それでいいだろ!」

 

 5分後、ヒーロー側がビルに潜入を開始。モニタールームではビルに備え付けられた監視カメラで彼らの様子を観察している中、レイミィは既にコンビとして差が出ているということに気付き、これはちょっと読めないなと呟く。

 

「読めないってのは? 言っちゃなんだが爆豪達が圧倒的に有利だと思うんだが」

 

「個々だけを見たり、コレの勝利条件が相手の全滅だったらまぁ順当に爆豪側の勝ち。けれど条件の中に核爆弾の確保があって、方やバラバラ、方やしっかりとコンビの強みを活かせそうってなってるから読めないのよ」

 

 偶々その呟きが耳に入ったのだろう上鳴からの質問にそう答えてからモニターに注目する。そこでは言わなかったが彼女の視点では出久も決して弱いわけではないと踏んでいた、確かに現状では個性の調整すらできず、身体能力云々も劣ってるかもしれない、けれど彼の機転の良さはソフトボール投げで高いというのは知っている。

 

 そして昼食の時に沈みかけていた空気の中、レイミィから個性の調子はどうだと聞いてみれば

 

『えっと、とりあえず昨日バートリーさんが教えてくれたようにあのイメージでずっとイメージトレーニングしてた、かな。特にコーヒーと牛乳って言うのがよくわかりやすかったから……』

 

 たかがイメージトレーニング、されどそれは馬鹿にして良いものではなく、彼のような調整ミスで自爆してしまうような個性を持っているとなれば迂闊に実践訓練は積めない。ならば脳内でひたすら反復するだけでも大事なのだから。

 

 1日中の脳内訓練、彼自身の機転の良さ。特に土壇場でのそれは更に良くなるであろうとレイミィは考えているからこそ、このカードは一方的な蹂躙では終わらないと確信し同時にズンズンとビル内を歩き奇襲の準備を整えている勝己をモニター越しに見つめ

 

(これは思ったよりも盛り上がるカードになってるわよ……)

 

 BOOM!! 勝負が動き出したのはヒーロー側がビルに潜入して1分後、曲がり角からの奇襲に出久は反応し麗日を庇うように回避、避けられたことが更に彼を苛つかせるが出久の方は予想通りだと言い放つ。モニタールームからは彼らの音声は拾えないのでそれは聞こえないが、レイミィはその目と表情から彼が勝己の動きを読んでいたと判断。

 

(理解してる相手の動きをそこまでハッキリと予想できる。彼、やっぱり理論型とかそういうタイプかしら)

 

「爆豪ズッケぇ!! 奇襲なんて男らしくねぇ!!」

 

「実戦に男らしくもないもないでしょうに……」

 

「緑谷くん、よく避けれたな!」

 

 漢らしさを極める彼『切島 鋭児郎』の言葉に呆れ気味にツッコミを入れつつ試合を注視する。そんな注目されているとかそういうのを考える余裕がない出久はひたすらに思考を回転させ続けていた。

 

 どうする、どうする、どうする。個性はまだ調整できず、幸運にも予想通りに来てくれたおかげで勝己からの初撃は回避でき、続けて相手の癖である右腕の大振りの攻撃を防いだ上で一本背負いで反撃に成功、けれどコレがずっと続けられるほど相手は甘くない。

 

 でも心で負けたらすべてが終わる。自分自身を鼓舞するために彼は幼馴染みに言い放つ、自分はもう出来損ないの『デク』じゃないと、今の自分は

 

「かっちゃん、今の僕は「頑張れ」って感じのデクだ!!!」

 

「ビビりながらよぉ……そういうところが、ムカつくなァァァァァ!!!!」

 

「麗日さん、行っぐ!!???」

 

 叫びながら襲い掛かる勝己を今度は捕縛テープで受け止めつつ、相方の麗日を先に核があると思われる場所へ向かうように指示。続けて、右の大振りを再度回避してから立て直すために一時退却を選択する彼の姿にレイミィは

 

(実質手札負けしてるってのにキチンと対処出来てる。と言うか、戦いながらも思考をフル回転させてるってことよねあれ)

 

 個性が無いと馬鹿にされ自尊心をボロボロにされたが故に表に出てきてなかった出久自身の強み。

 

しかもそこにヒーローノートに何年にも渡ってヒーローについて纏め上げ脳内にインプットされた情報が加わったらどうなるか、それをまざまざと見せつけられている。

 

だが彼女自身も知らないことだが、昨日のイメージを変えろとそれをベースに日がな一日イメージトレーニングをしてみると良い、その2つのアドバイスが本来以上に彼を引き上げたことを。

 

 そう、本来の【世界線】であれば、次の流れは容赦がなくなった勝己が戦闘服(コスチューム)の機能を開放、手甲部分から放たれた大爆発で一気に劣勢に持っていかれる場面。

 

 確かにそれはここでも事は進んだ、出久はデタラメすぎるその火力に恐れ慄き、勝己は次にそれを使ったら失格とすると言うオールマイトからの忠告に更に苛立ち、殴り合いだと爆破を利用した3次元的な動きで出久を追い詰めにかかる。

 

 突っ込んでくる勝己にカウンターを合わせようとするも、爆発による目眩ましから背後に回り込み一撃を対処できずに直撃し、更に追撃をもらう、その流れが……変わった。

 

 彼はたった一日だけとは言え、レイミィのアドバイスを忠実に守り、個性のイメージトレーニングを欠かさず、それこそ今日のこの訓練の時間の寸前まで会話をしながらも行ってたがゆえに、その副産物としてこの状況下に陥っても相手への理解を止めることはしなかった。

 

(待てよ、僕を警戒したはずのかっちゃんが突っ込んでくる? それは……違うだろ!!)

 

「なっ!!??」

 

 かっちゃんならどうする、かっちゃんならこの後どう動く。あの大爆発を見て驚きこそしたが彼は思考を止めるという致命的なミスはせず、だからこそ勝己のやろうとしてることを『理解』し反撃を中断、敢えて前に飛び込むことで追撃を回避、転がりながら彼と向き合う形に仕切り直しに成功。

 

 しかしその表情に余裕はない、あくまでレイミィのアドバイスを元にした訓練のお陰で思考を止めることをギリギリしなかったと言うだけであり他の全てが変わったというわけではない。

 

 こうして仕切り直ししたとしても圧倒的な差はそこには存在し、ひっくり返す手段を出久は持ち合わせていない。

 

 けれど、彼の顔に諦めの二文字はない。やれると分かったから、怖がらないと決めたから、自分よりも遥かに凄い爆豪勝己に勝ちたいと初めて心か思ったからこそ立ち上がった彼が見たのは既に目の前で鬼、または悪魔を思わせるような表情で腕を振りかぶっている勝己の姿。

 

 彼は出久が想像よりも動けることに、自身の行動がもはや偶然とは言えない程に防がれ回避されたことに己の何かに罅が入る感覚を覚えつつも、持ち前のセンスでだったらとさらなる攻勢に出た。相手が想像よりも機転を利かせるのが早く、上手いのならばそれを上回り、上から潰せば良いと。

 

「っ!!!???」

 

「てめぇは俺より下だ、くたばってろクソナード!!!」

 

(これは、決まるわね)

 

 避ける術がない。モニター越しから見たレイミィですらそう思う完璧な一手、だが土壇場に強いという出久の根性が一つの奇跡を引きずり出した。

 

(ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!?? ここからどう、いや、防御!? 無理だ耐えきれない、でも回避なんか……!!)

 

 迫る危機に脳みそがフル回転を始め、世界がスローになった感覚に陥る。あれを受ければ間違いなく立てなくなり、それは現在上階で天哉にバレてしまい、核を確保しようとするも失敗、それでも諦めずに戦っている麗日の努力を無駄にしてしまう。

 

 それだけは嫌だ。けれど起死回生の超パワーによる一撃も放つ暇はないしもし間に合っても目の前の彼を殺しかねない、せめて個性の調整が出来れば、その足掻きに手を掛けた時、彼の頭の中で昨日の夜に飲んだコーヒーが唐突に想起された。

 

(バートリーさんは僕の個性をコーヒーと牛乳って言ってた。コーヒーは僕、牛乳は個性、それを溢れないように入れて混ぜる……! それってOFAそのものを一点じゃなくて全体に薄く広げることが出来るんじゃ……!?)

 

 思い出すのはコップに入ったコーヒーに砂糖と牛乳を混ぜ、コーヒー全体に広がる光景。それを思い出したと同時に思考が急激にクリアになる。

 

 もしかしたら、そんな一か八かの賭け、身体全体に意識を向け、自身の個性をソフトボール投げの時に指の一点に集中させた時のように今度は身体全体に薄く広げることを意識した瞬間、彼の身体にバチッと小さなプラズマが走った。

 

「なんと!?」

 

「……ハハッ、本当に飽きさせないわねあの子は!!!」

 

「ああああああああ!!!!!」

 

 オールマイトが驚愕の声を上げ、レイミィが狂喜の表情を浮かべ、出久が叫びとともに地面を蹴る。普通であれば間に合わない悪あがき、けれどあの強力なパワーを全体に薄く広げるという発想によって全開時の爆発力は生まれないが、それでも常人のそれを超える力によって『足の骨に罅が入る程度の自傷』で生み出された速度で攻撃を回避し勝己の背後に回り込む。

 

 まだ安定しての発動は出来ないが、後に『ワン・フォー・オール・フルカウル』と呼ばれる技、その雛形が生まれた瞬間である。

 

「は……?」

 

 決まるはずだった一撃を回避され、更に背後に回り込まれたことに勝己の思考が停止した。ありえない光景、ありえない動き、何より自分よりも遥かに下だったはずの出久に背後を取られたことに罅が更に広がり一部がパキンと砕ける音が彼の耳に届いた。

 

 拳を握りしめている出久の姿に脳裏に浮かんだのは敗北の二文字を振り払うように、自分が一瞬でも『負けた』と思ってしまったことを振り払うように、今目の前で勝ちを確信しているクソナードに負けたくないが故に彼は左腕の爆破で無理やり反転、そしてそのまま再度、左の爆破で突撃し『右腕』を振りかぶり

 

「その勝ち誇った面ヤメロや、クソナードォォォォォ!!!」

 

「DETROIT……」

 

「先生!! ヤバそうだってこれ、先生!!」

 

「双方、中……」

 

 流石にこれ以上はビルの倒壊を招くとオールマイトが止めようとするがレイミィとしてはその必要はないだろうと冷静にモニターを見つめる。

 

 確かに勝己を倒せる千載一遇のチャンスではあるが、出久と言う少年がそれを選ぶだろうかと。もし欲を出して倒しに行ったとして確実に撃破できる保証がないのは彼自身が分かっている筈だと。

 

「麗日さん、行くぞ!!!!」

 

《はい!!!》

 

 なら彼が選ぶ手札は一つしか無い。現状で確実に勝てる方法の一手のために勝己の攻撃に合わせて最大出力の一撃を(ヴィラン)役の勝己へではなく。

 

「SMASH!!!!!」

 

 BOOM!!!!

 

 上方へと、麗日と天哉が相対している丁度真ん中へ狙い澄ましたかのような勝己の爆破と出久の最大出力の個性の一撃が合わさった衝撃波が床を粉砕しながら突き抜け、即座に麗日は近くの衝撃で壊れた柱を個性と使い無重力にして軽くしてから両手で持ち上げて

 

「即興必殺! 彗星ホームラン!」

 

「ホームランではなくないか───!!?」

 

 柱のフルスイングで打ち出された床の破片の礫の弾幕を防ぐために天哉が防御態勢を取ったのを確認してから自身を無重力で浮かばせて、核の元へと飛んでいき、確保と叫ぶ。

 

 そう、彼が狙っていた勝利は勝己を倒すではない、彼に負けないことであり、パートナーとの連携を利用した核の確保だった。

 

「ヒーローチームウィ────ン!!!」

 

「……」

 

「ハァ、ハァ」

 

 身体全体への個性の使用と最後の全力での攻撃の右腕の自爆ダメージの衝撃により本来以上の負荷を受けた出久は何も言えずにドサリと倒れ、それを茫然自失と言う様子で勝己は立ち尽くし見つめる。

 

 最後の一撃が右で来ることを出久は分かっていた、つまりもし、もし彼が自分を倒すために動いていたとしたら……小型搬送ロボットに保健室に運ばれていく緑谷出久を見て気付く。

 

(俺、完全にデクに!!!???)

 

「戻るぞ、爆豪少年、講評の時間だ」

 

 いつの間にか後ろに立っていたオールマイトに声を掛けられモニタールームに戻る三人。誰がMVPだったか、その理由は、他の三人は何が良くなかったのか、そういった講評が行われるのだがレイミィとしてはあまり興味が沸かなかった。

 

 寧ろ初日の基礎訓練もなしからの戦闘にしては全員が割と動けてたんじゃないかなというのが感想、無論、挟むべき指摘などはきちんと挟んではおく、何も言わなかったことで成績に響いたりすると嫌だしは彼女の弁である。

 

 それよりもとレイミィが動き出したのは講評が終わるというタイミング、そこで彼女は未だ現実を受け入れられないという感じに俯いている勝己に対して。

 

「貴方は何のためにヒーロー目指してるのかしらね」

 

「……あ?」

 

「昨日も言ったけどやってることどれもチンピラのそれじゃないの。それとも力を振り回すだけでNo.1になれるとか思ってるのかしら?」

 

 死体蹴りとも言える言葉の刃、そこに先程までの出久の活躍に狂喜を浮かべていた彼女はおらず、何処までも底冷えするような表情しかない。

 

「ま、私怨丸出しで襲い掛かって返り討ちって考えたらコレ以上無いほどに素晴らしい(ヴィラン)っぷりだったわ。そこは褒めても良いんじゃない?」

 

「バートリー、オメェそれ以上は俺が怒るぞ」

 

「彼が(ヴィラン)になりたいのか、ヒーローになりたいのか、ハッキリさせる必要があるわ。じゃないと「……ヒーローだ」へぇ?」

 

 コレ以上の追撃は不必要だろと切島からの声に対する反論を遮られ冷たい表情のまま勝己を見れば、顔を上げ自分を見据える姿。

 

 まだ完璧に立ち直ったわけではない、されど砕け折れかけていた筈の心という表情ではなくなっている彼にレイミィは表情を冷たいものから、また興味が戻った、もしくはクラスメイトに向ける何処か穏やかなものに変えて

 

「嘘じゃないことを祈るわ。ごめんなさい、先生、授業を止めて変なことを喋りすぎたわ」

 

「あまりのお喋りは減点対象だから気を付けてくれよバートリー少女! では次の組み合わせを決めるとしよう!!」

 

 所であのビルもう使えないわよね? オールマイトの再開の言葉の直後に出されたレイミィの言葉、見れば倒壊寸前のそれに次の訓練場所は隣のビルに移ることになったのは言うまでもないだろう。




正味、緑谷のこれはやり過ぎたかもしれん、実戦経験無しでここまで咄嗟の動きが可能か言われたら、かなり自信無いと言う……まぁ、現状じゃ安定発動じゃないだろうから多少はね?

と言うか、このオリ主、事あることに爆豪を煽ることしかしてねぇな? 嫌われるぞ(他人事)

あとこれもしかしてオリジナル展開です的なタグ必要なのでは……?

便利屋メモ
便利屋面々は爆豪みたいな性格の人間が白から黒に落ちていくのを少なくない回数見ている。
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