午後の部の一限目、ヒーロー基礎学が始まる少し前、昨日の内容を復習しているクラスメイトを眺めながらレイミィは息を吐き出していた。
理由は言うまでもなく激務と言っても過言ではなかった昼食時の食堂のヘルプ、まさかあそこまで忙しくなるなんてと口にしたくなるのを堪えていると。
「おつかれ、バートリー」
「もう暫くはオムライスを作りたくないわ……」
「あのバートリーさんがこんな事を口にするなんて、余程ですわね」
誰もが認めるワーカーホリック少女の口から出てきた働きたくない宣言がどれほどあの食堂での一幕が過酷だったのを物語っているし実際にあの光景を見ればまぁそうなるよねとしか言えないものである。
これは余談ではあるがもし今のレイミィの発言を被身子が聞いた場合、彼女はかなり全力でレイミィをヨイショするし癒やしの空間を作り出す、彼女のオムライスが暫く食べれないなんて耐えられないというのが理由なのは言うまでもないと思われるが。
「全員、静かにしろ授業を始めるぞ」
相澤が教室に来ると同時に席に座り一気に静かになった面々を見てから彼は教卓に立ち、今日のヒーロー基礎学についての話を始める、曰く。
「今日は前に話したインターンについて詳細を話そうと思う。とは言っても俺があれこれ言うよりも職場体験との違いを直に経験している人間から話をしてもらったほうが良いだろう」
(ともすれば外の気配がそれかしらね。数は3つ、私が知らないってなるとあまり接触がない三年だと思うけど)
「多忙な中、都合を合わせてくれたんだ、心して聞くように」
そう告げられると同時に教室には入ってきたのは男子生徒二人と女子生徒一人。彼らこそ現雄英生徒の中でもトップに君臨している三人、通称【ビッグ3】と呼ばれている存在。
姿を見たと同時に驚きに包まれるクラスメイト、まさかそんな大物から話を聞けるとは思ってなかったのだから当然の反応の中、レイミィは彼らを見てから気配に覚えがない理由にも納得しつつ。
(あれが噂のビッグ3、ね。話じゃ下手なプロヒーローよりも実力はあるとか血染も言ってたわね、あいつがあそこまで言うってことは本物なんでしょうけど、どこで情報を仕入れてるのやら)
「じゃあ、手短に自己紹介よろしいか? 天喰から」
刹那、ギンッ! という効果音が聞こえそうなほどの眼力を発揮する天喰と呼ばれた男子生徒。その眼力から繰り出された物理的な質量を持ったかのような圧に天哉達は格の違いというものがこれかと驚く中、レイミィはそれを感じつつなにか別物を感じてもいた。
威圧するようなものではないなこれと、例えるのならばそう極度の緊張した実力者が思わず出してしまった威圧みたいなものだと、だとすれば彼は……なんて疑惑は直ぐに解明されることになった。
「駄目だ、ミリオ、波動さん……ジャガイモだと思って臨んでも、それ以外が人間のままで以前人間にしか見えない」
「……は?」
「っ!? 頭が真っ白に……辛い……! 帰りたい……」
なんだこの人とはクラスメイトの総意だろうしレイミィもそう思ってた。ついでに言えば彼女の思わず出たという声に天喰は反応した結果、黒板の方を向いたと思えばそのまま体育座りまでしてしまったので百達が今のはマズイのではという感じの視線が集まってもいた。
どうするんだよこの空気の中、尾白が雄英ヒーロー科のトップなんですよねとお前はお前で割りとエゲツナイ言葉投げかけるなと言う質問に対して答えたのは女子生徒の方だった、最も正確に言うのならば質問に答える前に天喰に対してそれってノミの心臓っていうんだよと追撃してからだったのだが。
「彼はノミの『天喰 環』で、私は『波動 ねじれ』。今日は校外活動について皆にお話してほしいと頼まれてきました」
やっとまともに進行が再開される、と思ったがこの波動ねじれという少女も環と変わらないくらいに個性的でありアクセルしか無い少女だった。
名乗ったと思えば彼女はクラスメイト達を見てあれこれと質問を投げ掛けてきたのだ、しかも投げておきながら返答は聞かずに次に向かう姿にはレイミィは被身子みたいねとか思っていると、ねじれはレイミィの所にも来て。
「あ、貴女は便利屋の所長さんだよね、どうして便利屋をやってるの?」
「ヒーローだけしか駆け込み寺がないなんて不便でしか無いと思ったからよ。それにヒーローじゃどうしても溢れるものだってあるわ」
「そうかな、でも便利屋って非合法じゃないの?」
「許可は降りてるわ。それよりも貴女こそどうしてヒーローをやってるのかしらって、はぁ本当に被身子みたいな娘ね」
そっちの質問に答えたんだからこっちの質問を聞けとしようとした時には既にねじれの姿はそこになく、別の生徒に質問を投げている姿に思わずため息を吐き出し、それから相澤先生が静かだけどとそっちを見れば。
「……合理性に欠くね?」
「イレイザーヘッド、安心してください! 大トリは俺なんだよね!!」
(うわ、ブチギレる寸前じゃん)
これもう駄目じゃないと思うレイミィ、だが彼女は思いもしなかった。まさか大トリだと言った大柄な男子生徒、環に〝ミリオ〟と呼ばれていた彼の初撃で命の危機を感じる事態になることになるなんてと、クラスメイトは思ったもしかしてこの少女の無力化というものは案外楽なんじゃないかと。
「前途───!!?」
(ゼント……?)
(何が?)
「多難───! つってね、よぉしツカミは大……」
「アッハッハッハ!! なに、くふっ、なにそれ、ばっかみたい、ふふっ、アハハハハハ!!!」
ツカミは大失敗から自己紹介へ繋げようとした彼の言葉は一人の少女の大爆笑で打ち消された。誰がなどとクラスメイトが疑問に思うはずもない、と言うよりも自分たちにはウケないものだとしても唯一人にはクリティカルヒットするかもしれないなんてことは考えるまでもなかった。
大爆笑をしているのは勿論、レイミィであり今もなお堪えることが出来ないとばかりにお腹を抱えて笑い続けている。対してスベると思っていたそれをまさか大爆笑されるとは思ってなかったミリオはレイミィのことを見てから
「凄い、俺のツカミがスベらなかったの初めてだ。おどろ木ももの木さんしょの木って感じだ」
「な、なに、なにそれ、 ふっ、ふふ、くっだらな、ふふっけほっ、あっははははは!! ゲホッ」
「ま、待ってください先輩! これ以上はレイミィちゃんが死んじゃう!!!!」
「ヤオモモ、酸素!!!!」
「既に用意はあります!!」
「耳栓と目隠しも作って、彼の情報を一つでも入れるだけでも今の彼女には危ない可能性がある!」
「しっかりしたまえバートリーくん! そうだ、ゆっくりと酸素を吸って、そうだ!」
慣れた手付きで慣れた感じに笑い死にしそうになっているレイミィの救護を始める面々とそれを見て頭痛を抑えられんという表情を晒す相澤、そして固まるミリオと体育座りから復帰しない環、最後に
「うわぁ、ミリオくんのギャグであそこまで笑えるなんて不思議」
「えっと、イレイザーヘッドすみません」
「……続けろ」
収集つかないだろこれという感じの声にミリオはあ、ハイと頷いてから自己紹介を始める。彼の名前は『通形 ミリオ』、彼は語る、何がなんやら分からないよねと、どうして急に自分たちが現れたのかも、そして自分たちがスベり倒してしまったということを。
何よりも前例が無い一年での仮免取得という部分も考慮してミリオは救護活動が落ち着いてきたA組の面々に堂々と言い放った、これから
「君たちまとめて、俺と戦ってみようよ!!」
『え、え~!?』
結局、相澤の好きにしろという言葉も合って全員が体操着に着替えてから体育館γに集まるも本当にやるのかという空気の中、範太が聞けば勿論と返される。
返されたのならばA組はスイッチが入る、本来の流れならば色々と困惑したりしつつも宜しくお願いしますとなる流れだったが今日までも便利屋ブートキャンプは伊達ではなく大丈夫なら直ぐにでも始めるという心構えが生まれているので切り替えが尋常じゃなく早いのである。
もっともレイミィは参加せずに相澤の隣で待機しているがこれはインターンに参加しないからという理由なのだがミリオはそんな彼女を見て
「君は参加してこないのかい?」
「えぇ、悪いけど見学にさせてもらうわ。それとも私と戦いたいと?」
「そうだね、YESかNOかで言えばYESだ」
「ふぅん……じゃあそうね、先に彼らを伸してからにしてほしいかしら、そしたらタイマンでやろうじゃない」
ただ、簡単にA組を全滅させられるならだけどと付け加えられたその言葉に出久達はぐっと集中力を一気に高める。彼女がああ言ったということは今の自分達でも勝ちの目は存在しているということだと。
同時にあまりに無様な結果を出した場合、今度からの訓練は更に地獄になるということも察したとも言う。対して急に雰囲気などが変わったA組を見たミリオはなるほどこれは油断してたら負けるのはこっちだと笑う。
彼に分かるのは明らかに今の段階の一年とは思えないほどの訓練を受けただろうということ、そんな相手に手加減なんてのは失礼だよねと。
「そんじゃ、ご指導よろしくお願いします!!!」
「っ!!!」
切島の叫びと同時に模擬戦が始まり、出久がフルカウル40%で先駆けとして踏み込みミリオへと強襲、それを見たレイミィが一言。
「あいつ、フルカウルの上限また上げたわね……」
「バートリー、お前の意見が聞きたいがこの模擬戦、どう見る?」
唐突な相澤からの質問にミリオが出久からの一撃を〝個性〟である【透過】で回避、続けざまに襲来する遠距離組の制圧射撃も回避と同時に〝個性〟解除による反発を利用した高速移動で後衛組の背後に周られたのを見て少しの思案の後。
「15分、しかも大半を耐えるのは出久と焦凍と爆豪かしらね」
「あれ、勝てるって言わないんだ?」
「無理でしょうね。彼の〝個性〟を初見で突破できるなんて思ってないもの」
現に今彼らは翻弄され遠距離組はほぼ一瞬と言っても差し支えない速さで鎮圧された。響香はレイミィに教わってた護身術で抵抗しようとしたらしいがまだ付け焼き刃なレベルのそれでろくな抵抗は叶わなかったらしい。
残る前衛組もあの高速移動のカラクリの糸口が掴めず、ワープなのではと言う言葉も出てくるがそれを出久と勝己が即座に否定。
「ちげーよ、アホ。〝個性〟がワープなら服が脱げるなんてこと起きるわけねぇだろ」
「うん、僕も違うと思う。〝個性〟はすり抜けとかそんなので、応用することで瞬間移動もそう見えるだけの高速移動とかだと思う、それもバートリーさんよりも更に速い感じの」
「……へぇ、今のでそこまで分かるんだ」
だが分かるのはそこまで、流石の出久も今の短いやり取りで全てを〝理解〟することは出来ない。けれど攻撃のその一瞬であればすり抜けも出来ないと言うことは分かっていると彼らが取ったのはカウンター、つまりは待ちの形。
けれどレイミィはその判断は間違いだとは思わずとも、この場面では彼にしては珍しく悪手を切ったなと呟くしか無い。
「通形先輩が同学年の同経験値だったら通用したでしょうけど、経験も何もかもが上なら反撃狙いの相手なんて飽きるほどしてるでしょうに」
「そこらは明確な差というやつだろうな」
「けど凄いねぇ、ミリオくん相手にあそこまで粘れるのは中々に見ないよ~」
「ま、無駄に殴られ慣れてるってのはあるでしょうね」
主に血染との特訓は常にカウンターの危険がありヌルい攻撃なんかをすれば遠慮なく鳩尾などに強烈な一撃が突き刺さることなんて日常茶飯事である。
因みにだが今、レイミィは若干早く私も体を動かしたいと思っていたりする。理由はついさっきの出久のセリフにあり、彼はミリオを評価する際にこう言った〝バートリーさんよりも更に速い感じの〟と。
これが彼女の逆鱗と言わずともそれに近いものに触れたし、そう言えば今の身体の本気での動きを見せてなかったなと思い至らせた。
「16分、予想よりも一分長く粘ったわね」
「ぜぇ、げほっ、こ、攻撃が全部当たらなかった……」
結果だけで言えば、どうにか反撃の糸口を見つけようとするも出久達の完封負け、彼の言うように一撃も攻撃が命中することもなく全員が地面に沈められる結果となった。
だがミリオ自身もヒヤリとした場面がなかったというわけではない、特に焦凍と勝己による波状攻撃による面制圧は流石の彼もちょっとやばいかもとは思わせたとか。
「さて、講義にしたいと思うけど先にこっちを済ましちゃいましょうか。それとも少し休憩を挟んで方が良いかしら?」
「いやいや、まだまだ余裕だからこのまま続けよう!」
「それはそれは、あぁそれと一つだけ先に言っておくわ。〝本気〟でやるけど〝全力〟は諸事情で出せないの、ごめんなさいね」
そう告げながらレイミィはミリオと距離を開けて対峙する。纏う空気にトップ組と戦うことに対する緊張は一切見られず、何よりも相対しているミリオは当然ながら出久も彼女の変化に気付いていた。
まるでこれから行うのは模擬戦ではなく、彼女がなにか試したいことをするためにミリオと戦うつもりなんじゃないかと。
「あぁそうだ、緑谷、さっき通形先輩が私よりも速いとか吐かしてたわよね」
「へ、あ、はい……」
「見せてあげるわ、今の私の〝本気〟ってやつを」
互いに準備完了と言うのを確認してから、ミリオとA組が見たのは音も衝撃も何もなく彼の背後に現れた紅い吸血姫だった。
多分、これ投稿されてる時にはデモンエクスマキナやってると思います。