「っ!?(速いってレベルじゃない!!??)」
驚愕しているミリオも油断はしていたという訳では勿論ない。話に聞く限りに警戒に警戒を重ね、対峙した瞬間に感じた得も言われぬ空気に何が来ても反応できるようにもしていた。
だが現実はミリオの予測というものを軽く凌駕してきていた。過去に何度か速さを武器にした
「疾ッ!!!」
それでも目視できる速さを超えた蹴りに反応できたのは今日までの訓練や経験の賜物だろう。咄嗟に顔面に向け放たれた彼女からの攻撃を【透過】で回避、すぐに解除して状況を把握しようとしたミリオだったがその思考は突如襲ってきた痛みに中断させられることになる。
「ガッ!?」
「当てた!!??」
「わぁ! あの娘、ミリオくんに攻撃を当てたよ凄いね!! ねぇねぇ今の見てたよね環くん!!」
「見、見てた、見てたから身体を揺らさないでくれ……」
通形ミリオの〝個性〟は出久達が思うような完全無敵などという便利なものではない。もしそうならば開始から終わりまですり抜けを維持すれば良く、それをやらないという時点で何らかの制約が存在していることは分かる。
無論、最後まで立っていた出久達もそれは薄々感じいていたにはいた、だがそれが何なのかまでを〝理解〟するには時間が足りなかったがこうして観戦という形で見ることで出久は気付くことに成功したのか声を上げてから
「もしかして、通形先輩の〝個性〟はすり抜ける対象を選べない……と言うよりも細かい調整が出来ない?」
「だろうな、出来るんだったら始めからすり抜け状態を維持すりゃ良い。やらないってことは相手の攻撃だけとかじゃねぇってことだ」
「ってことはさっきの俺達との戦いじゃ見てから回避してたってことか」
このやり取りに感心したのは環だった。当初こそミリオの〝個性〟を無敵だという彼らに分かってないという感想を抱いていた彼だったがしっかりと見て、その部分を見破ったということには少々驚いていたりする。
最も壁に顔を身体を向けたままなので誰もその変化には気付けないのだが。だが同時に環は疑問に思うことがあった、確かにレイミィの速さは今まで相手してきた中でも最速と言っても過言ではないと思うがそれだけでミリオが一撃もらうほどとは思えないったからだ。
彼とてその手の相手との戦い方は習っているし、経験から相手取れないということはないはず。だと言うのにさっきも、そして……
「くっ! いやぁ、本当に速いな!」
「(防がれた。なるほどね、〝個性〟だよりじゃないってことか)お褒めに預かり光栄だわ、貴方こそ中々やるじゃないの」
「アハハ、簡単に後輩に負けたとなったら立つ瀬が無いからね!」
【透過】による回避ではなく、防御行動を取ったということは〝個性〟の発動が間に合わなかったということ。これがそもそもにしておかしい、防御が間に合ったということは攻撃を読めていたということ、ならば【透過】の発動は間に合っていたはず。
だと言うのに物理的防御を選択した、いや、この場合はこういうのが正しいのかもしれない。〝個性〟による回避が失敗した、と、そしてその違和感は出久や勝己達も感じ取っていたのだろう、ふと彼が呟いた。
「なんか、変だな」
「オメェがそういうってことは俺の感じたことも正しいってことだな。明らかに変だぞアレ」
変。2人が口に出した単語に、他はどこがと疑問を浮かべる。いや、聞いても正確な答えは返ってこないだろうと判断すれば各々が模擬戦を注視する。
眼の前で繰り広げられているのはUSJの際の脳無とレイミィの戦いを思い出させるような高速戦、違うとすればあの日よりもレイミィが更に速く、しかもヴァンパイア・プリンセスを使用してないという点だろうがそこが違和感なはずがない。
では何なのか。ミリオを攻め続けるレイミィの動き、その中で攻撃の一瞬、そこで天哉がなにかに気付いた。自身も速度を武器にしているからこそ気付けた一瞬の違和感、それは
(今、バートリーくん空中で完全に停止してなかったか?)
例えばの話をしよう。天哉が本気で〝個性〟を使って行動し止まろうとすれば完全に止まるまでに制動距離というものが必ず発生する、しかもそこに攻撃動作まで加えれば止まるよりもそのまま勢いで突き抜けていった方が良いまである。
更に言えば止まるということは次に動き出したとしても最高速度に達するまでに多少なりと加速時間が必要となる、そう考えれば相手の目の前で停止すると言うのは自殺行為にも等しいはず。
だが天哉の目にはレイミィにその制動距離も加速時間も存在してないかのようにしか見えない、否、ここまでくれば彼も気付く、そしてこれが二人の言う違和感の正体だとも。
「まさか、いや、それしか考えられない」
「なにか気付いたのか、委員長」
「気付いたと言うよりはもしかしたらという感じなのだが彼女、動きを〝固定〟してるんじゃないかと」
〝固定〟天哉は当初、レイミィの動きを一時停止と考えていたがそれでは制動距離の問題は解決したとして加速時間の問題が残ると考えた天哉はあれらの現象を〝固定〟と推測した。
速度も位置も全てを〝固定〟とすれば止まってから速度が落ちない理由にもなる、なるのだがそうなると上鳴がふと浮かんだ疑問を口にした。
「けどよ、バートリーの【吸血姫】ってそんな事できたっけ?」
「聞いたこと無いし出来るならもっと前からやってそうだけど……」
「もしかして、最近できるようになったとかは? だったらこの模擬戦をやる理由にもなると思うし」
なるほど、確かにそれなら納得できるかもしれないと頷ける内容ではあるが出久や勝己、焦凍などは微妙に引っかかるものを感じ、そうかなと答える。
最近出来るようになったという事は〝個性〟が成長したということになるが話を聞いてる限りだと【吸血姫】はそんな成長の仕方はしないのではと、それよりもあり得るとすれば
「赤霧みたいに〝個性〟を取り入れた、とか」
「え、でも他人から奪ったとかじゃないよねそれ」
「あのコウモリ女が
「……爆豪、お前って意外とバートリーを信頼してるんだな」
「何が言いてぇんだ、あぁ? 半分野郎……!」
因みにだが天哉の推理は当たっている。もっと言えば今のやり取りはレイミィとミリオの耳にも届いており、まさかこの短い時間で見抜かれるとは思ってなかったという感じに苦笑するしか無い。
対してミリオもまた今の会話は聴こえており、それと同時に分かったとしても何の打開策が浮かばないことに口を開く。
「なるほどね、あの高速寸止めのカラクリはそういうことだったのか」
「あ~あ、まさか見抜かれるなんてね。でも、分かっても無理でしょ? 後出しジャンケンに勝つなんて」
言い終わるよりも速くレイミィの姿がミリオの視界から消える。やっと目が慣れてきたお陰で音と影は追うことが出来ているが姿は殆ど捉えることが出来ない。
だがそれで慌てることはない、彼もその手の相手とは何度もしている。故に経験と勘で相手の動きを読みカウンターを合わせようとするが、レイミィにそれが通用しない。
音と微かに捉えた影から位置と攻撃のタイミングを見切りそのタイミングで〝個性〟を使わずにカウンターの右ストレートを放つが空を切る、そこにあるのは不自然なほどに動きを止めたレイミィの姿。
(やっぱりタネが分かってもこうもズラされるとキツイな!)
急いで体勢を整えようとするよりも前に止まっていたレイミィが動き出す、だがそれは停止したはずなのに速度は一切落ちておらず、寧ろ直前の速度そのままで姿が消える。
どこに、と考えることはもうしない。ミリオは半ば直感で防御態勢を取ればそれに重ねるように強化系の一撃でも食らったかのような衝撃が両腕を襲う、もしここで〝個性〟によるすり抜けを選んでいたらやられていただろう。
「(流石に慣れてくるか)それにしても互いに全力で戦えないのはちょっと勿体なく感じるわね」
「そこは同感。でもそっか、君は本気でも全力じゃないんだったね」
「それは貴方もでしょ、
小休憩とでも言うように間合いを離し相対する二人だったがミリオはそこでふとレイミィの息が上がっていると感じ取った。
確かにあの速度で動き続けるとなればスタミナを使うだろう、だがそれにしては息の上がり方が違うようにも感じる。あれは疲労からではなく痛みを堪えているような感じのものだと。
(劣化してるとは言え思った以上に【固定】の反動がキツイわね……これ、【再生】と【耐久】が無かったらマトモに扱えないじゃないの)
そして実際、ミリオが感じたことは何一つ間違っていない。戦闘中に彼に見せた不自然な停止の全ては殻木の協力と【吸血姫】を利用して取り込んだ〝個性〟であり【固定】を利用したもの。
【固定】、名の通りの〝個性〟ではあるのだが発動する度に全ての動きを〝固定〟、これはただ止まるだけではなく運動エネルギー等も現状を固定するので解除と同時に速度などを落とさずに行動を再開できるものとなっている。
が急ブレーキを思いっ切り使っているようなものらしく身体全体に大きくGが襲いかかる、普通であれば禄に使えないが彼女はこれを【再生】と【耐久】の2つで無理やり抑え込んでいる、もっとも完全にというわけではないようだが。
「……ふぅ、ここまでにしましょうか」
「おっとと、あれ、終わりにするのかい? 僕はまだまだやれるけど」
「でもこのままじゃ消化不良だもの。それに総括があるでしょ?」
一応授業中だからねと言えば、ミリオはあっと思い出したかのような声を上げてから誤魔化すように笑い始める。どうやら集中しすぎてそのことを忘れかけていたらしい、見れば相澤もだろうなという反応をしていたのでもし続けていた場合は彼が止めていたのだろう。
その姿を見て全くと苦笑するレイミィとA組の面々、その後は特に語るようなこともなくミリオ自身の〝個性〟の話、その制御のための努力とインターンの経験などを語り授業は終わりを告げ
「では本日の授業はここまでとする。解散!」
「っと、耳郎達は先に行ってて頂戴、私はちょっと保健室に行ってくるから」
「保健室って、え、大丈夫?」
「そういうのじゃないって、ただ激しい運動をした後は絶対に検査を受けに来いって言いつけられてるのよ」
今度破ったら何言われるか分かったもんじゃないからと苦笑しながら告げれば、向こうもなるほどと納得し更衣室へと向かっていった後に自身も保健室へと向かおうと一歩踏み出した所で腹部から唐突な激痛を感じ声が漏れてしまった。
「痛っ、あぁもう、流石に吸血姫と合わせても劣化してる【再生】じゃ馴染んでなければ間に合わないか」
「大丈夫かい!? ちょっと失礼するよってこれは……!」
「わわ、内出血してる! 直ぐに保健室、いや、リカバリーガールを呼んだほうが良いかも!」
「あ、いや、もうちょっとで再生終わるから大丈夫なのだけれど」
「良いから大人しくしてろ、直ぐに呼んでくる」
やばい、思った以上に話が大きくなってしまったとレイミィが思うがすでに事態が動いてしまったのでどうすることも出来ずに指示通り大人しくしていることに。
それから数分と掛からずに相澤はリカバリーガールを連れ戻ってきてから、来る途中に説明は受けていたらしく直ぐにその場で彼女を横にしてから患部を軽く検査した結果は
「症状を見るに内蔵に負荷が掛かった結果って奴だろうね。現状じゃ痛みもないってことは再生は済んでるんでしょうけど」
「だから大袈裟だって言ったのよ。ただまだ〝個性〟が馴染んでないだけ、馴染めばあの程度の戦闘だったら問題ないわ」
「模擬戦のときから思ったのだけれど、君は〝個性〟を幾つも持ってるのかい?」
しまったという顔をしたのはレイミィだというのは言うまでもないだろう、同時にまぁ知られても困らないしどう足掻いても赤霧にはバレてるだろうしそもそも便利屋とリカバリーガールと相澤先生とか結構知ってる人間が居るから今更かと開き直った表情に変えてから
「えぇ、ちょっとした伝手で吸血姫を利用した〝個性〟の取り込みを行ったのよ。まぁどういうわけか、取り込んだのは劣化しちゃうお陰でこのザマなんだけど」
「シレッと言ったけど凄いこと聞かされちゃったよね私たち、ねぇねぇ吸血姫って他にどんな事ができるの? そもそも複数の〝個性〟を取り込むなんて普通じゃないよね?」
「……相澤先生、リカバリーガール、彼女は一体」
質問攻めを受け困った表情のレイミィとそれを止めようとするミリオを見つつ環が二人に問いかける。その内容としては彼女を本当に信頼して大丈夫なのかと言う部分も含まれていることに二人は気付きつつ、そうだねと一言こう返した。
「問題ないよ、あの小娘は少なくても善だからね」
「あぁ、じゃなければ校長が表立って協力してるなんて言わないからな」
なお、この後すぐに戻っていいということになるのだがねじれには寮まで質問攻めを受け続け、被身子と接触し何故か意気投合され、レイミィがこの世の終わりのような顔をすることになるのだが割愛しておこう。
それから数日後、レイミィと血染の二人は死穢八斎會の共同殲滅作戦の事前準備のためにサー・ナイトアイの事務所に来ていた。
Q、つまりレイミィちゃんは何をどうしたの?
A、少し前の話で殻木の所で取り込んだ5つのうちの3つを試運転したんだけど吸血姫の力で取り込んだせいで劣化してて反動でダメージを受けちゃったよってこと
便利屋メモ
【劣化固定】
殻木の所で取り込んだうちの一つ。本来であれば触れた相手なども固定することが出来るのだが劣化してるので自分しか出来ず、しかも反動諸々は体を襲うので使いやすさはまるで無い。
【劣化再生】
超再生の劣化版、吸血姫との合わせ技でまぁ及第点という性能。
【劣化耐久】
ギガントマキアのそれとは違いこれは同名の身体の頑丈さを上げる方の耐久、とは言え劣化してるので本来であれば身体に掛かるGも無効化出来るはずがある程度抑えられている程度になっている。