学園から電車で約1時間、サー・ナイトアイの事務所。レイミィと血染の二人は事前に連絡を入れていた時間よりも早くに到着していた。
来た理由は公安からの死穢八斎會の調査のための確認及び情報を共有するためなのだが、レイミィとしては他にも彼から聞きたいことがあったりする。
(あの時は聞かなかったけど、やっぱり気になるのよね。彼が見た私の未来っての、まぁオールマイトの反応からするにあまりよろしくないって感じでしょうけど)
「にしてもナイトアイか。まさか事務所に来ることになるとは思ってもなかった」
「どうしたのよ急に、まさか緊張してるの?」
感慨深いという感じの声で呟いた血染の言葉にレイミィがそう返せば、そうではないと首を横に振ってから
「ナイトアイ、奴は相当なオールマイトファンだという話があってな。そんな奴の事務所だ、どんなグッズをお目にかかれるか、そこが楽しみだと言うだけだ」
「あっそ……」
聞くだけ無駄だったわこれと言う顔を隠さないレイミィ、かなり真剣な表情だったので何かあるのかと思えばこれなのでそうなるのも無理はないのだが。
と言うか仕事で来てるってのにそんなテンションなの珍しいなこいつとすらレイミィは思えてしまう。基本的にはあまり私情というものを見せることがない血染だからこそ、今の発言は多少なりとも驚きが混じってもいたりする。
まぁ、やる気がないとかよりは断然良いかとそこで考えを打ち切り事務所に入っていく二人。中は特筆して語るようなこともないほどに普通の事務所という感じであり、受付に便利屋チェイテの者でナイトアイとの会談に来たと伝えれば数分とせずに一人のプロヒーローが現れ
「えっと、貴方達が便利屋の人かな? サーのところまで案内するから付いてきてっとと、はじめましてが先か。私はバブルガール、サーのサイドキックをしてるよ」
「はじめまして、チェイテの所長を務めてるレイミィ・バートリー。こっちが副所長の赤黒血染よ」
「どうも」
互いに軽く会釈しつつ名乗り終えてからナイトアイが待っている部屋まで行動を開始する。道中ではバブルガールの方からあれこれと会話を振られるという形で互いの認識の確認を行ったのだがやはり実際にレイミィを見たからだろう彼女からこのような言葉が出てきた。
「それにしても本当に学生さんがしっかり所長してるんだね。正直、ちょっとビックリしてるよ」
「よく言われるわ、まぁ気持ちは分からなくもないけどね。なんだったら血染めのほうが所長だと勘違いされることもあるし」
「あ、それはうん、私もかな……」
「そうして油断してる奴から情報抜き出して優位に立とうとするから気をつけたほうが良いぞ」
「今日のあんた、嫌にテンション高いわね本当に」
そんなに同類と会えるのが楽しみなのかこの男と若干引き気味になり始めるレイミィ。少なくともいつもの血染ではない、他のプロヒーローの事務所だとしたら彼はここまで口数は多くなくなんだったら、最低限の言葉以外はほぼ無言が当たり前。
だと言うのにこの口数、間違いなく気分が良い証拠であり付き合いが長い彼女から見ても初めてとも言える光景が故にレイミィは苦笑しているとバブルガールから小声で
「もしかして普段はあまりおしゃべりしない人?」
「そうね、仕事中は寡黙だってのが私の記憶なんだけど……珍しいこともあるものだわ」
ナイトアイと同類だって言ってやろうかとも考えた彼女だったがどうせ対面すればバレるだろうから今言わなくていいかとそう答えるだけに留める。
それから直ぐに一行はナイトアイが待っている部屋の前まで到着、バブルガールがノックしてから
「サー、便利屋の二人をお連れしました!」
「入ってくれ」
「失礼します!」
開かれた扉の先は事務室、そしてサー・ナイトアイはどうやら事務作業の最中だったらしく自身の席にて書類に判を押していたが二人の姿を見ればその手を止める。
時間にしてみて一週間ぶりとも言える再会に先に口を開いたのはレイミィからだった。血染が挨拶を終えてから、彼女も礼儀としての会釈と挨拶をしてから彼に対して
「それにしても、まさかこんなにも早くに貴方とまた会うことになるとは思わなかったわ」
「全くだ。話はすでに聞いている、死穢八斎會で協力体制を取るというのならば話さないわけには行かないからな、そこに座ってくれ」
そう告げられレイミィと血染の二人はソファに座り、対面にナイトアイが座ってからそこで彼女はふと血染が急に静かになったなと視線を彼に向ける。
向けた先に見えたのは部屋を見渡す副所長の姿。何やってんだこいつと口にしなかっただけでも自分を褒めたいとレイミィは思いつつ、軽く咳払いをして話を始めようというタイミングでこの男は口を開いた。
「ふむ、なるほど……これは驚いた」
「先程から周囲を気にしているようだが何か?」
「超少数生産、しかもイベント現地販売限定のオールマイトグッズも置いてあるとはな。俺でもそれは確保できずに涙を飲んだ代物だ」
「ほぉ、分かる者がいるとは思わなかった」
レイミィ・バートリーは血染と知り合ってから初めて彼に対して頭痛を感じるという経験を体験することになった。嘘でしょ貴方とついには口に出てしまうほどの衝撃はおそらく最期の最期まで彼女は忘れることはないだろう。
それでもどれがそれだよ分からないんだよとは流石に口にしなかった。しなかったのはナイトアイが彼の観察眼に感動してるのを水を差すのも悪いというのもあったがそれ以上にこれを口にした瞬間、この男二人が面倒なことになることは目に見えていたという部分が大半である。
「えっと……もしかして」
「同類よ。今まで周りに居なかったから尚更な反動でしょうね……」
「あ、あぁ~」
遂には語り出し始めた二人を見つつ若干、引きが入るバブルガールにレイミィは謝ることしか出来なかった。対して謝られたバブルガールも彼女のその様子に普段は絶対にこんな風にならないんだろうなこの副所長さんと思いつつ苦笑で返すしか無かった。
「で、話を始めたいんだけどそろそろ良いわよね?」
「申し訳ない。ここまで私の語りに付いてこれる者は久し振りだったもので」
「こちらもだ。続きはまたの機会にしたいと思えたのは初めてだ、だがまずは本題からだな」
「……いや、二人のせいで話が出来なかったのよ。なに、他に要因がありましたって顔してるの血染」
「すまん」
彼からすれば普段はお前に振り回されてるんだからたまには良いだろうという部分があったりする。がそんなことをレイミィが知ることもないので彼女は血染が急にアクセルを踏み込んだとしか思えないし、その認識のままナイトアイとの会談を始めることになる。
いや、彼女からすると目の前のナイトアイも血染と同類という事で初対面の印象が一気に崩れかけてて、どういう感情で向き合えば良いのかしらこれとか思っていたりもする、顔には出さない辺りは所長としてのプライドだろう。
「さて、まぁ聴いているのならば話が早いのだけれど、死穢八斎會について現状でそちらが分かってることを教えてもらえるかしら?」
「分かったがそちらは彼らについてどの程度の知識があるかは我々も把握してない、そこからで良いか?」
「だろうな。俺達、便利屋としては一般常識及び多少はという程度だ。死穢八斎會の周囲の地区はプロヒーローがわんさかと居る関係上、便利屋にその手の依頼が来ることはほぼ無いものでな」
「そうね、来たとしても浮気調査か信用調査か、まっ偶に信用調査の過程でそいつらの話題が出たりするけど当たりは一回も引いたことはないわ」
それだけを聴いてふむと唸った後にナイトアイは自分たちが現状握っている死穢八斎會についての現状を語り始める。曰く今までは大人しかったが最近になり若頭の【治崎】という男が怪しい動きを見せているとのこと。
曰く治崎が動きを見せ始めた頃から売人ブローカーなども行動を活発化させており、恐らくは死穢八斎會が何かしらの商品を横流ししているのではとのこと、とここでそれならとレイミィがあの日発見したことを伝える。
「聞いてるとは思うんだけど、死穢八斎會の商品には一つ心当たりがあるわ」
「個性破壊弾のことならばこちらでも聞いている。まさかそのような物も作っていたとはというのが正直なところだ」
「だがこれが流通すれば今の社会には十分すぎる劇薬だ。奴らの目的が何なのかまでは読めないが、碌なもんじゃないのは確かだろうな」
何よりも個性破壊弾が問題なのはその材料。流石のナイトアイもこれを初めて報告書で読んだ時には思わず表情を動かしてしまうほどだったし実際に読んだバブルガールも思い出してしまったのだろう、曇った表情で。
「子供が材料にって読んだけど、間違いないんだよね?」
「えぇ、信頼できる科学者が言うから間違いないわ。ただ気になるのは破壊弾の数が出回ってることなのよね」
「同じ〝個性〟が何人も居るわけがない、ともすれば一人を材料にしていると考えられるが、どう考えても子供からできる量では無い……」
「治崎とか言う若頭の〝個性〟は判明しているのか?」
どう考えても無理な量を捌く、ともすればと考えついた血染の質問にナイトアイは答え、そしてレイミィもなるほど最高に悪党だことと言葉を漏らすことになる。
彼の、若頭の〝個性〟は【オーバーホール】、対象を有機物、無機物問わず【分解】と【修復】を行うことが出来る〝個性〟、つまりは
「これを使えば対象を【壊し】それから【治す】事ができる。そしてその2つがもし生物にも使えるとすれば」
「無限に再利用できる材料の完成ってことね。ちっ」
「ともすれば、その子供の存在の確認と確保が最優先と見るべきか」
と口にするのは簡単だろう。だが実際問題はそう単純には行かない、何よりも現状は個性破壊弾の材料に子供が使われているということが分かっていると言うだけでその出所が死穢八斎會なのか、その子供もそこに居るのかも不明。
始めるとすればそこから調査を行っていく必要があり時間が掛かる。となるのが普通ではあるがレイミィはそこでナイトアイなら信頼できるからと自身の〝個性〟の秘密を明かす。
「対象の血から記憶を読み取れる、か。脅威としか言いようがないな」
「でもこれだけじゃ決定的な証拠ってヤツにはならないわ。試験をカンニングで全部埋めて突破してバレてしまったらそれは違法でしょ?」
「だが取っ掛かりとしては暗中模索になるよりも遥か十分過ぎる。レイミィ・バートリー、一つ我々から頼み事がしたいが大丈夫か?」
「内容次第よ。報酬等は公安か協会からふんだくるから気にしなくていいけど」
悪い顔をしながら告げるレイミィ、彼女としてみればこの場面で頼まれる内容なんて考えるまでもないと思っているし実際そのとおりであり、自身も好みな依頼なのでウキウキで受ける気満々である。
一方、その顔とさっきのセリフを聞いたバブルガールが真顔のまま血染に問いかける。
「……あの、副所長さん、今レイミィちゃんからふんだくるっていう物騒極まりない言葉が聴こえたような気がするんですけど」
「気の所為じゃないからな」
淡々と返されたその言葉にバブルガールはあ、はいと答えるしか出来なかった。何と言うか、これ以上何かを言ってもきっと私はこうして戸惑うだけだろうなというのを感じたらしい。
「頼みたいのは死穢八斎會が繋がっている、或いは商品を横流ししている売人ブローカー及び組織を彼らの記憶から読み取ってもらいたい」
「喜んで、私としても奴らは今回の一件で徹底的に解体するべきだと思ってるし」
ニコニコ笑顔でそう告げながらレイミィはだとすれば少しとは言え学校休まないとなぁとか考えていた。少し前であれば然程気にすることでもない内容、けれど今の彼女には響香たちと過ごす時間が削られてしまうということに心の中で嫌だなと思っていたりする。
自分の残り時間が短いからこそ、彼女たちとの時間を少しでも増やしたい、そんな年頃の少女が持つような感情がレイミィの中に芽生え始めていた。
「(って駄々コネても仕方がないんだけど)それじゃ、二、三日くらい頂戴、その間に情報を集めて報告しに来るわ」
「え、はやっ、そのくらいで集まるものなの?」
「そりゃ血を貰うだけだもの、簡単な依頼だわ」
「中々の自信だが、そこまで言うのならば期待しよう。ではそれで頼む」
「これは忙しくなるな、他の奴らにも今回のことは話しておこう」
そうして仕事の話が終わり、では解散しようかというタイミングでレイミィが思い出したという感じの声を上げてからナイトアイに問いかけた。
あの日、貴方が見た私の未来は何なのかと。告げられたその言葉にナイトアイは驚くが先程の記憶の話とオールマイトからも前に電話でその事がバレたということを聞いたのを思い出してからすぐに冷静になり
「私が〝見た〟君の未来は……」
聞いてみればレイミィは納得しかしなかった。寧ろ現状でも相打ちになるのは約束されているだけ悪い未来じゃないとすら思えるほどに、無論それを口にしたりはせずにそうと返すだけなのだが。
その後は特に何かがということもなく二人はナイトアイの事務所から出て帰路に着くのだがその様子を遠くから双眼鏡で眺めている影があった、などと勿体ぶるのもあれなので言ってしまえば死柄木と伊口の二人なのだが。
「あれって、なぁ伊口、あれって便利屋じゃね?」
「え、あ、本当だ。所長と副所長がナイトアイの事務所からってことは」
「やっと動き出したってことだろこれ、赤霧に伝えておくか」
死穢八斎會を中心として物語が動き始める。このお話で救われるのは誰なのか、変わる未来は誰なのか……ただ一つ言えるとすれば、とある少女は地獄から早期に掬い上げられるということだろう。
やっぱり血から対象の記憶読み取れるって諜報面で強すぎるなこれ……(今更
あ、来週も更新できるように執筆頑張るんですけどもしかしたらデジモン殺されるかもしれないのでまぁ半々ってことで(素直