便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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No.164『獅子身中の虫』

 時刻は深夜帯、場所は死穢八斎會屋敷の応接間。そこは現在、重圧しかないほどの緊張感に包まれていた。

 

 テーブルを挟み片方のソファに座っているのは死穢八斎會の若頭【治崎 廻】。彼はペストマスクで分かりにくいが、視線は相手を見据えている。

 

 そしてもう片方は世間を騒がしては姿を消し、便利屋や警察などの追跡から嘲笑うが如く逃げ果せている死柄木とその仲間たち。その中で一般人代表とも言える伊口はこの空気に呑まれかけていた、いや、もっと単刀直入に言えば

 

(俺、此処に居るのは間違いじゃねぇかなぁ……)

 

 死柄木、赤霧、黒霧は言うまでもなく(ヴィラン)の雰囲気とかなのでこの場でヤクザ相手に交渉してるのも違和感はないし、赤霧の指示で威圧感を出す感じに黙ってるマグネも見た目も相まって強さしか無い。

 

 だがそれに比べて自分はどうだろうかと伊口は考える。異形型ということで見た目はまぁ良いかもしれない、しれないが他ははっきり言えば一般人でしかなく、この空気に呑まれそうになっていると考えても交渉向きじゃない。

 

「んで、これって言っちゃえばそっちの部下になれって契約内容に見えるんだけど?」

 

「そのつもりで言っている。悪い話じゃないだろ」

 

 軽く現実逃避を始めようとした伊口だったが治崎と交渉をしていた死柄木の声によって現実に引き戻されることになる。見れば不愉快だというのを隠そうともしていない態度と表情の彼だが伊口としてもそうなることは分かりきっていた。

 

 今回此処に来てるのは自分たちを売り込み、赤霧の目的のために内部に潜り込むこと、なので来てみれば出てきた話の内容的にこちらを徹底的に足元を見たような内容だとなれば死柄木が怒りそうになるのも当然の帰結だろう。

 

 だと言うのにあの若頭は表情も態度を一つも変えずに悪い話じゃないだろと言ってくる、これには伊口もお前という感情になるし、ともすれば死柄木は言うまでもない。

 

「舐めてんのか……?」

 

「舐めてる? こちらとしては誠意を見せているつもりだ。これ以上どう譲歩しろと?」

 

「ふむ、そちらには私たちをどうにか出来る切り札があるが故に雑に扱っても良いと思ってるということか」

 

 ここまで黙っていた赤霧が口を開く。開いたがその声には馬鹿にしやがってという感じのものが含まれており、同時に相手を憐れむようなものもあるのをその場に居た全員が感じ取った。

 

 そして実際、赤霧は眼の前の若頭にそのような感情を持っている。こちらのことをあまりに甘く見ているし何も知らない無知なやつなんだなと。

 

「何が言いたい」

 

「隠してるようだが甘いな。お前たちの事情などは大体こちらも把握しているということだ、例えばそうだな……此処最近ここから流している弾丸の話なんかが良いか?」

 

「なるほど、力だけの有象無象集団という訳ではないということか。どうやら、少し侮っていたらしい」

 

 評価し直そうという感じの言葉で態度も平然と返しているようだが若頭から出ている雰囲気はどこか苛立っていた。それもそうだろう、彼は目の前の集団をさっきも言ったようにただ力だけを誇示してるだけのチンピラの集まりと思っていたのだ。

 

 だと言うのに自分たちが秘密裏に流していた個性破壊弾の存在とその元締が自分たちだということを知っている。これはつまりその気になれば更に探れるぞという脅しでもあり、それが彼を苛立たせている。

 

 そして今では〝個性〟を抜いてもらって戦闘能力はないがAFOが己の計画に利用しようとするほどの才能を持っている死柄木が見逃すわけもなく不敵に笑いながら

 

「ハハッ、俺達に足元掬われたのがそんなに悔しいってか? 態度に出てるぜ、若頭さんよ」

 

「死柄木、変に挑発をするな。拗れると面倒だ」

 

「どうやら、お前よりもそっちのヤツの方が話が出来そうだな」

 

「それとあまりこいつを見くびるなよヤクザ。少なくとも貴様よりは将来性はある」

 

 伊口は本気で悩んだ。今の赤霧の言葉は場を収めるための冗談なのか、それとも本気で煽ったのかと、彼にはそれを見抜くだけの経験もなければ天性のものもない。

 

 なので気付かれても仕方がないとマグネと黒霧に視線を向けてみるがマグネの方も反応に困るという感じで、では黒霧はと言うと何故か自慢げだった。

 

(表情は分からないけど絶対に弔が褒められて喜んでる気がする!!)

 

(思ったけど、〝ヤクザ〟なんて言い方したってことは死柄木が貶されてそれなりに怒ってるってことかしらね?)

 

 因みに死柄木は死柄木で急に上げられるような言葉を掛けられて反応に困っていたりする。困りつつも今は組織としてこの場に居ることを考えれば今の言葉は自分たちのリーダーの死柄木であり私は彼に従っているだけだという意思表明なのかもしれないと判断も出来る。

 

「(ま、どっちでも良いけど)んで、どうするよ。さっきの舐めてる契約内容でも構わないぜこっちは、所詮は雇われってやつだからな」

 

「……分かった、少し内容を変更させてもらおう。詳細は後日になるが上方修正は約束する、これでいいか?」

 

「上方修正の幅次第だな。ま、あとは出来高だって言うのならそれはそれでありだけど」

 

 とりあえず吹っ掛けておくかと言うだけ言ってみるが治崎から反応は特に無く、先ほどと違って態度も変えないことに思わず舌打ちをしそうになるが折角、赤霧が立ててくれたというのにそんな事をすれば水の泡になるということを理解しているが故にぐっと堪える。

 

 結論だけで言えば彼らは死穢八斎會に雇われるという形で契約することになる。最も後日の変更された契約内容次第では即日破棄もあり得なくはないだろうがその辺りは屋敷から拠点に戻った赤霧曰く、問題ないだろうということらしい。

 

「あそこまで煽られ、しかも足元掬われたと言うのにそんな事をすれば死穢八斎會に泥を塗る行為になる。自分たちの権威を復活させたいという連中がそれを良しとするとは思えん」

 

「同時にあの若頭、こちらの見立てでは組織内の人望はあまり無いとも感じられました。ともすればこれから雇う自分たちを不当に扱い、敵を増やすのも不本意でしょうしね」

 

「最もどんな契約だろうと私たちは彼らの敵だって言うのが笑える話になるんだけど」

 

「まぁ、死穢八斎會に潜り込む理由が理由だしなぁ」

 

 彼らが死穢八斎會に接触したのは本気で同盟を結ぼうというわけでも、稼ぎを得るために雇われたというわけではない。

 

 なので正直に言えば向こうが始めに提示した条件でも構わなかったのだが、それでもああやって突っ張ったりしたのはあまり舐められるのもどうかという部分が理由だったりする。

 

「とりあえずは足掛かりは出来たって感じだがこのあとはどうすんだ?」

 

「すぐには動くつもりはない。と言うよりも動こうにも例の件が残ってる以上、下手には動きたくはない」

 

「確か個性破壊弾の材料にされてる子供がって話よね? 屋敷のどこに居るのか分かってるのかしら?」

 

「地下なのはヤツの記憶から分かっている。あとは機会を見て外に逃がし便利屋に保護させればこちらも動ける」

 

 この話は死穢八斎會と接触する前から赤霧によって全員に聞かされている話ではあるが死柄木と黒霧以外はこう思う。自分たちがしようとしていることを考えれば別にその子供を気にする必要はないんじゃないかと。

 

 結局は最終的には全てを壊すというのならばここで巻き込んでもと。だが同時に彼女が子供という存在を巻き込みたくないというのは今日までの付き合いで分かってもいるもいるのでそれ以上は聞きはしない。

 

 もっと言うとすればこの場に居る者たちが(ヴィラン)ではありつつも若干の善性と言うものを持ち合わせている、或いは死柄木なんかは今日までの暮らしで少し生まれたなども手伝い、不思議なことに不和は起きてはいない。

 

「逃しったって、あぁでもそうか黒霧さんが動けば簡単に出来るか」

 

「可能ですが少々下準備をする時間は欲しいかと。流石にすぐに我々が疑われるようなことは避けたいですし」

 

「てかさ、その子供をこっちで保護すりゃじゃん。何だって便利屋に態々動いてもらうっていう面倒な事するんだよ」

 

 思わずというのはこのことだろうか。死柄木の言葉に全員が彼に視線を向けてしまったし、向けられた方は何だよお前らという表情を返す。

 

 代表として伊口の本音を言わせれば、こいつの口から子供を保護しようという言葉が出てくるとは思ってなかったとなるだろう。その衝撃は誰もが彼の質問に答えるのを忘れるほどであり、その空気に死柄木は心底面倒そうな声で。

 

「んだよ、言いたいことがあるなら言いやがれテメェら」

 

「あ、あぁ、そのごめんなさいね。でも確かにそうよね、その辺りはどう考えてるの赤霧」

 

「まず一つ、こちらで保護したとしてその後の事を考えるとリスクでしか無い。2つ目、ヒーロー側が死穢八斎會に踏み込めるだけの証拠として便利屋に保護されたほうが事態が早く進むから」

 

「即効性の物的証拠ってことか。ハッ、そういうのがないと動けないってのは窮屈なもんだな」

 

 納得したという感じにソファに座り込む死柄木と分かってくれたなら良いと夕食の準備を始める赤霧と手伝いに動く黒霧、マグネと伊口はそれを見てからとりあえずでテレビを付け各々ソファに座ってからふと一言。

 

「……なんつーか、あれっすね。俺達って一応は世間からは(ヴィラン)って事っすよね?」

 

「そうなるわね、敵連合からの派生とかそういう言う感じにはなってるって赤霧が言ってたわね、けどそれがどうかしたのかしら?」

 

「いや、悪いってわけじゃないんですけど。なんか、そうとは思えないくらいにはのんびりしてるなって思っちゃって」

 

「ふふっ、確かにそれはそうかもしれないわね」

 

 更に言うとすればこの場で直接手を汚していると言えるのは赤霧と黒霧、それと前科持ちのマグネだけであり伊口は当たり前ながら死柄木も実を言うと自身の家族の件以外では殺しというものはやっていなかったりする。

 

 本来であれば彼がしていたあれこれを赤霧が肩代わりしているように受け持っているから。だが死柄木にしてみればそれは慰めでもなんでも無く、故に伊口の言葉に彼は否定をした。

 

「伊口、言っとくけど俺は家族を殺っちまってるからな」

 

「けどさ、それだってAFOが仕組んだのが爆発したっていう事故、みたいなもんだろ?」

 

「えぇそうよ。言っちゃえば〝個性〟の暴走だもの、そりゃ感覚が残ってるでしょうし納得はしないでしょうけど」

 

「そういう事だよ、それにだ殺しじゃないとしてもお前だって犯罪してるだろ。俺達を匿ってるし、神野のあれだって立派な公務執行妨害だろあれ」

 

 言われ伊口は何したっけと記憶を探り声が漏れる。そう言えば確かにあの日に自分は死柄木たちが逃げるための時間稼ぎに閃光手榴弾を大量にぶち撒けてたなと。

 

 確かにあれは立派な公務執行妨害じゃんと笑うしかなかったし、その姿が死柄木には面白かったのか彼も釣られるように笑ってから

 

「んだよ、お前自覚なかったってことか? ハハハッ、無意識にできるってならお前も立派な(ヴィラン)じゃん」

 

「確かにそうかも。いや、でも俺って警察とかにバレてないんかな」

 

「テレビでは特に言われてる様子はないわね。私や死柄木、赤霧に黒霧はバッチリ映ってたけど」

 

「そりゃまぁお前は黒霧の靄の先から閃光手榴弾を投げただけなんだから映りよう無いだろ」

 

 今こうしてテレビに流れているニュースでも頻度こそ少なくなったが死柄木組の話は流れるものの相変わらず注目されるのは大暴れした赤霧だったりそのリーダーである死柄木だったりで伊口のことは影も形もない。

 

 そして何より、それが彼らにとって利点でもある。伊口が堂々と動こうが相手からは彼が死柄木とつるんでいるなんてことは気付けないのだから情報収集だろうと物資の補充だろうと自由に動けるのだから。

 

 だがそれもそろそろ限界が来るかもしれないというのが赤霧と死柄木の考え。レイミィと言う秘匿しようと他人の記憶から情報を得られる存在が居るために幾ら赤霧が防御しようとも限界があるからだ。

 

「お前ら、夕食ができたから準備を手伝え。あっと、それと伊口、一つ良いか?」

 

「え、あ、はい、なんですか赤霧さん」

 

「便利屋に匿名で情報を流してくれ。内容は虐待を受けているかもしれない子供を目撃した、そんな感じであればいい」

 

「了解っす。あ、そういうことか」

 

 赤霧の頼みの意味を直ぐに理解した伊口は思ったよりも早く動くんだなぁと思いつつ彼女が作ったオムライスを一口、そして固まった。

 

 見れば同じように食べた死柄木達も驚きのあまりに固まっておりやっと口を開いたのは死柄木からだった。

 

「うっま……」

 

「あらほんと、こんなに美味しいオムライスは初めてだわ」

 

「……ヤバいっすねこれ」

 

「驚きました、ここまでとは」

 

 口々から出てくるお褒めの言葉に赤霧は特に反応することもなく自分が作ったそれを食べて、ふむとこう思うのであった。

 

(さて、あとはアイツが私の記憶を読み解いてくれれば完璧なのだがな)

 

 お前と私、描く先は同じなのだから。赤霧は食事を楽しむ死柄木を見て優しい微笑みを浮かべるのであった。




赤霧達の暗躍とかも本来ならもっと書くべきだけどそれやると話数が膨れ上がるというジレンマ。
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