便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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No.165『少女は吸血姫と出会う』

 3日間に及ぶ死穢八斎會の監視の依頼を済ませ、そこで得た情報はナイトアイに伝えたレイミィは現在、学校ではなく死穢八斎會の屋敷が存在する地区に居た。

 

 彼女がなぜ此処に居るのかにはきちんとした理由が存在するのだが、その理由が理由なのでレイミィははぁと軽く頭痛を感じる頭を叩いていると

 

「大丈夫か、お嬢」

 

「ん? えぇまぁ大丈夫、ただちょっと、ね」

 

「あからさまな通報だからね、所長が頭痛を感じるのも無理はないよ」

 

 その様子を見て今回、ともに行動していた仁と圧紘が言葉を掛けるが中でも今こうしてレイミィがまた学校を休みパトロールのようなことをしているのは圧紘が言った通報が理由にある。

 

 事の始まりは事務所に届いた一通のメール。それを始めに読んだのは事務員として慣れ始めてきた燈矢だった、彼は届いたメールをレイミィに伝える前に読んでみたのだがその内容を見て

 

「んだこれ」

 

「どうしたの、燈矢」

 

「あ~、依頼っつうか、通報? みたいな匿名のメールが来たんだけど」

 

何よそれと思いつつパソコンを覗き込む形で届いたメールを見てみる。読んで見れば、なるほど確かに燈矢が怪訝な反応をするわけだと納得するしか無いものであり、その内容というのが

 

 〝死穢八斎會の屋敷がある地区で虐待を受けているかもしれない子供を目撃したのだが保護しようにもヤクザに追われてるようで出来なかったから助けてあげて欲しい〟というもの、これにはレイミィは

 

「ねぇ、私このタイミングでのこの手の依頼に覚えしか無いんだけど」

 

「奇遇だな、俺もだ」

 

「これって保須市の時のアレと似てませんと言うかまんまじゃないです?」

 

「え、前もこんな事あったのかよ此処……」

 

 被身子が言うように内容こそ違うが、この出来すぎたタイミングでのそれは保須市の時のそれと酷似しており、それを示している意味を彼らも気付けないわけがなかった。

 

「つまり、罠?」

 

「だねぇ、どうする所長」

 

「つっても罠だろうと子供って単語を出されたら此処は動かないわけには行かないんだろ、嬢ちゃん」

 

 それぞれの言葉にガシガシと頭を掻いてからレイミィは考える。考えるが火伊那が言うようにこれを無視するという選択肢は当然ながら取れない、言ってしまえば保須市の時と同じで無視して便利屋へ悪評を流される危険性があるからだ。

 

 ともすれば取れる選択肢としてその時と同じように罠ならそれごと食い破るということになるのだが、問題となるのは向こうがそれ前提に仕組んでないわけないよ言う部分だろう。

 

「流石に二度も同じことしてきて対策してないってのはないわよね……」

 

「そもそもの話だ、これが罠だとしたらメール一通だけじゃなく、俺達全員を分散させるように依頼を出してくるだろ」

 

「あ~、そっか。今回は依頼でもない通報、だとしたら保護させるのが狙いって考えるのはどうだ、所長さん」

 

 二人の意見を聞き、レイミィの頭の中で一つの推測が浮かぶ。それは彼女の最終目標を考えれば確かにそうかもしれないというものであり、ともすれば燈矢が言うように保護させることが目的だというのも間違いではない、いや、もっと正確に言うとすれば

 

「死穢八斎會に踏み込むのを早めたいっていうのが狙い」

 

「もしかしてその子供ってのが個性破壊弾の!」

 

「うわぁい、だったら尚の事、無視できないじゃないですかこれ」

 

 繰り返しになると思われるが選択肢というものはこれが届いた時点で無かったらしい。とは言え、仮に選択肢があったとしても彼女たちが行かないという択を取るわけではない、要はこの誘われてるという状況にレイミィは悩んでいたと言うだけである。

 

 が結局は悩むだけ無駄だなこれとなった彼女は良しという感じに手を叩き、全員の注目を集めてから

 

「圧紘、仁、私と付いてきてありがたい情報提供を受けたのだから出ましょうか」

 

「了解だ、お嬢」

 

「了解、でも学校はどうするんだい?」

 

「あ~、今日も休みにしておくわ。後で相澤先生には連絡しておかないと」

 

 口や態度では仕方がないからね、うんという感じだが内心ではやっべーなこれで何日目だっけ怒られるんじゃないかしらとか思ってたり思ってなかったり。

 

 しかし仕事なので仕方がないのは事実なのでその感情は蓋をして、続けて被身子たちにも指示を飛ばす。

 

「それと被身子、血染、火伊那もこの地区周辺にて潜伏してて。間違いなく赤霧達か、或いは奴の魅了で手駒にされてる奴が監視してるはずだから」

 

「あいよ、また屋上からの監視でいいよな?」

 

「それでも構わんだろう。俺と被身子は地上からだな、後でポイントを確認しておく」

 

「はーい、確か急いでやらなきゃいけない依頼は無かったと思うので大丈夫ですよね」

 

「ん? えっと……ねぇな、今日明日くらいだったら問題なさそうだ。あ、つか俺は待機で良いのか、所長さん」

 

「えぇ、待機でお願いするわ。流石に事務所を空にしちゃうと依頼の電話が来たらとか困るし、そもそも貴方、今日はリカバリーガールの定期検診でしょうが」

 

 指摘すれば忘れたのにという表情を晒す燈矢。どうやら大事なことだとは理解しているが面倒だったのでこのチャンスに抜け出そうと考えていたらしい。

 

 だが所長たるレイミィが許すわけもなく彼は待機となる。待機とはいっても暇になることはなく事務作業だったり学園側からの手伝いの頼みだったりも発生するので寧ろ一人残る彼のほうが忙しいまであるとはこの時、燈矢は知る由もないのだが。

 

「さてと、じゃあ各員行動開始、これが死穢八斎會を潰す一手になるのは間違いないんだから油断しないようにね」

 

『了解!』

 

 というのが今朝の話、その後は相澤に急遽依頼がと届いたメールを見せて話をして、クラスメイトにはまた依頼で学校に出れないということを伝え、そして冒頭の場面に繋がる。

 

 現在の時刻は13時すぎ、昼食は既に全員交代で済ませており午後のパトロールを行っているのだがここまでそれらしい気配も報告もない、これにはレイミィの頭の中では空振りだったか? と一瞬浮かぶが直ぐに否定する。

 

(だとしたら態々、今日にあのメールを奴が送ってくる理由にならない。タイミングを見計らってると考えるべきよね)

 

「平和というか何も起きないね」

 

「だなぁ、そういや被身子達の方はどうなんだ?」

 

「最後に来た連絡じゃ、赤霧達も死穢八斎會の組員も確認できてないって」

 

 つまりこの街に監視の目は現状は存在してない。被身子達の目を掻い潜っている言う可能性はないとは言い切れないが、だとしてもそれらしい痕跡すらないとなれば居ないと考えるべきだろう。

 

(本当に?)

 

 そう考えるのは早計と言うやつじゃなかろうかとレイミィは思考を巡らせる。自分たちが街に来ているかどうかの確認位はしなければ向こうだって行動を起こしにくいはずだと。

 

 考えられる手段としては赤霧が目を蝙蝠に変えて偵察させているパターン、だがこれもレイミィの偵察用蝙蝠と火伊那の監視によって飛んでないというのは分かっている。だとすればどうやって……この疑問は便利屋各員も思っていることでありつつも糸口も見つからないとなっている最中、答えはすぐそこにあった。

 

 レイミィ、圧紘、仁を監視するように見ている一匹のネズミ。彼らが来ていることを確認してから逃げるように裏路地に消えていったがその光景を見ていた屋敷の地下に居た赤霧が側に居た〝白い靄〟に対して

 

「どうやら便利屋が到着したらしい、作戦を開始するぞ」

 

「りょーかい、それにしたって便利だね~、その【監視】って〝個性〟」

 

「便利というわけではないがな。魅了して手駒に出来なきゃ禄に視界も覗けんのはAFOからすれば不便だっただろうな」

 

 それよりも早くやるぞと赤霧が動き出せば〝白い靄〟もとい『白霧』が追従する、何者かと気になるとは思うが彼の正体を語るのはまだ先にしておこうという余談はおいておき、それぞれが動き始め、そしてまた未来が変わっていく……

 

────────少女は逃げる。

 

 少女は走っていた、この地獄から逃げたくて何度目か分からない逃亡、けれどその日はいつもと違った。

 

(誰も来ない……?)

 

 いつもであれば直ぐにでも彼女の後ろから怖い足音が聴こえるはずだった。けれど今日はそれがない、まるで誰も自分が逃げ出したことに気付いてないのではと思うくらいには。

 

 幼いながらも少女は違和感を感じ足が止まりそうになるが止まったら追いつかれるかもしれないと思い駆け出した足は止まってしまった。

 

「あっ……」

 

「……」

 

 そこに居たのはこの屋敷で見たことのない紅い女性、彼女は少女を見つめると側まで寄ってくる。対して少女は逃げることもせずに諦めたかのように目と瞑ってしまったが直後に感じたのは頭を撫でられた感触に目を開ければ

 

 居たのは優しい表情をしたその女性だった。どうしてそんな顔をしているのだろうか、少女には不思議でしか無く、何も言えずに居ると向こうから語りかけてくるように口を開いた。

 

「そのまま走れ、走り靄を抜け、そして出会った人間……そうだな、〝私〟に助けを求めてみろ」

 

「え?」

 

「そいつはヒーローよりも断然に信頼できる。さぁ、行け」

 

 分からなかった、どうして助けてくれるのかと聞きたかった、けれど目の前の女性は少女にそう聞くのを許さないとばかりに立ち上がりそっぽを向いてしまう。

 

 どうしよう、と悩むも少女は走り出した。何よりも逃げ出したいという感情のほうが強かった、そしてその姿を女性、もとい赤霧は見送ってから

 

「こちら赤霧、ターゲットは逃亡を開始、頼むぞ白霧」

 

《ういういっと、来た……んじゃ、いってらっしゃい、おっけー、完了だよ》

 

「よくやった、黒霧に戻っておけ。さて、こっちもやるだけやるか」

 

 〝靄を抜けろ〟その言葉を覚えていた少女は目の前に突如現れた白い靄に怯むこと無く突き進み、抜けた先で彼女が見たのは路地裏、ここは少女もよく知っている。

 

 この路地裏は屋敷の地下に繋がっている幾つかの入口の内の一つの近くのはずだと。振り向けば記憶の通りの場所であり、だとすればここで立ち止まっていたら連れ戻されるかもしれないと少女は走り出す。

 

 あの時の女性が言ってたあの言葉を思い出しながら〝私に助けを求めてみろ〟と言うその言葉を。そうして無我夢中に走り、そして……

 

「うわっと」

 

「ふぅ、危ないわねって……そう」

 

「おい、お嬢、圧紘、この娘って」

 

「間違いないね、こちら圧紘、目標と接触」

 

 路地を抜けたと同時に誰かと衝突しそうになるものの、ぶつかりそうになった方が少女を受け止め、そして驚いたように声を上げた。

 

 対して少女もその人物を見て驚いていた。だってそこに居たのはあの時、自分を逃がしてくれた女性と瓜二つと言える人物だったから、そして同時に理解した。

 

 あの時、あの人が言ってた〝私〟と言うのはこの人のことなんだと。また受け止めた側、言ってしまえばレイミィも少女を見て驚き、それから直ぐ様、彼女の記憶を見て少女に視線を合わせるようにしゃがみ込む。

 

「私ね、便利屋をやってるの」

 

「便利屋……?」

 

「そう、依頼さえ貰えれば犯罪以外は何だってやる、何でも屋」

 

 優しく語りかけつつレイミィは羽根で少女の姿を周りから隠す、目の前の少女の姿はあまりに痛々しすぎて、人通りが少ない表通りと裏路地の間の通路とは言え人目に晒したくなかった。

 

 その優しさは少女にも伝わっていたようで、けれど甘受して良いのだろうかという戸惑いを見せるがレイミィの今の言葉と赤霧の〝私に助けを求めてみろ〟が彼女の背中を押した。

 

「お、お姉ちゃん、た、た……」

 

「何かしら」

 

 自分は希望を持ってはいけない、自分が我慢すれば周りの誰かが酷い目に合わなくて済む、そんな恐怖で支配されていた少女はその日初めて……己の願いを口にした。

 

「た、たす、けて……」

 

 本来であれば、この日に出会うのは彼女ではなく一人のヒーローだったかもしれない。けれどその歯車は既に別のものと噛み合い、そして今に繋がる。

 

 消えてしまいそうな声で出された少女からの依頼(助け)を聞き、レイミィは優しく、そして力強く頷き、安心させるように頭を撫でてから笑顔で

 

「その依頼、確かに承ったわ。だから安心してちょうだい、必ず貴女をこの地獄から救い出してみせるわ」

 

「所長、火伊那から通信が入った。若頭がこっちにと言うか、この場所に向かってる」

 

「距離は」

 

「接触まで5分あるかないかってところかな」

 

「十分だな、お嬢、俺は何時でも行けるぜ」

 

 頼りになる仁の言葉にレイミィは流石だと言いつつ立ち上がり、少女もとい〝壊理〟には見えない所で悪い笑みを浮かべてからこう告げる。

 

「それじゃ、始めましょうか」

 

 それは或いは死穢八斎會へ対する死の宣告だったかもしれない。それと同時にレイミィはここまで全部、赤霧の手引きだということにも気付いており、だからこそ一度はあいつの鼻を明かしてやると意気込むのであった。




(この時の壊理ちゃん、ここまで素直に助けて言える精神状態だったかなと思いつつ、まぁ赤霧の言葉とかあったからええやろの精神)

便利屋メモ
〝個性〟【監視】
 赤霧がAFOの能力でヴィランから引っ剥がしてきた〝個性〟、対象の視界を覗き見れるという物なのだが、その対象と心から信頼し合ってなければ見れないという特徴を持つ。
 赤霧は野生動物を魅了してその条件を突破した模様
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