想像してた以上に悲惨としか言えない。この少女、壊理の記憶を読み取って抱けた感想はそれしか無かった、私もこの娘くらいの年齢の時は他と比べたら酷いもんだと思ってたけど、これは比べようがないわ。
寧ろそれでも無気力になってないのは強い子だとしか言えないし、だからこそ死穢八斎會もとい治崎廻への怒りが抑えられなくなりそうになる。
それにさっき強い子だとは言ったけど、正直に言えばギリギリだったのは間違いない。もしこの脱走に失敗してたら、この娘は多分折れてたかもしれない……
「仁、この娘のコピーを出して。言うまでもないと思うけど『ドッペルゲンガー』でよ」
「おう、にしてもひでーな……」
「本当にね。圧紘、ドッペルゲンガーが出たらこの娘を一旦圧縮してちょうだい。あっと、貴女、名前は?」
知っては居るけどこういうやり取りは警戒を解くという面では大事、なので目線を合わせ直してから聞いてあげれば、彼女は圧紘と仁に若干の警戒をしながら。
「え、えり、です」
「壊理、これからこのおじさんが〝個性〟を使って貴女を隠すんだけど、その間窮屈な思いをするかもしれない、ごめんね」
「だ、だいじょうぶ、です」
「いい子ね。仁、どう?」
「完璧だぜ、お嬢、ほら」
言いつつ振り返れば、そこにはもう一人の壊理の姿。仁が作り出した彼女はオロオロと周囲を見渡してから私の方に近寄ってくる。これを見るに現状で信用されてるのは私だけってことかしら、まぁこの二人、顔は怖いものねなんて自分でも失礼だなこれということを思いつつ、視線を合わせてから魅了を使ってコピーの壊理に指示を出す。
「貴女はこれから本物の壊理として行動しなさい、良いわね」
「うん」
本来、仁のドッペルゲンガーで生み出されたコピー体ならこんなことしなくても本物と同じように活動してボロが出るってことはないんだけど今回は事態が事態なので保険として此処までやっておく。
やっておくんだけどさ、やっぱり子供に魅了は使うたくないのよねぇ。なんかこう、嫌な気分になるっていうの? まぁ四の五の言ってる暇ないんだけどさ。
「よろしい、それじゃ圧紘、頼むわ」
「それじゃ壊理ちゃん、今から〝個性〟を使うんだけど、その間ちょっと窮屈に感じるかもしれないからごめんね」
「は、はい、だいじょうぶ、です」
「うん、いい子だね。じゃあ、失礼するよ」
何度でも言うけど本当に強い子だわ。今だって彼女からすればまるで知らない男性から〝個性〟を君に使うって言われても素直に頷いて抵抗もしてなかったし、いや、違うわね。
これは強いという訳じゃない、命令されたら従うしかないって思考になってると考えるべきか。日常に戻したらその辺りのフォローも必要かもしれないわね、でもそれは今は考えないでおこう。
「それで所長、このまま一旦撤退するのかい?」
「いえ、折角だからこのまま若頭って奴の顔を拝んでおきましょうか。こちらレイミィ、火伊那、若頭の接敵まであとどのくらい?」
《そろそろだな、もうそっちのことに気付いてもおかしくないから気をつけてくれ》
「分かったわ。仁、奴が来たら怪しまれないように数値を見なさい」
「おうって、おい、嬢ちゃん?」
コピーの方の壊理が唐突に私たちから逃げるように走り去っていくが理由は察するまでもない。ていうか、あからさまな気配を漂わせて逃げられないと思ってるのかしらね。
そう思いながらあの娘が逃げてったのと逆の路地を見れば、そこに一人の男が居た。正確に言えば歩いてきてた、なので向こうからすれば私たちがあの娘を保護してたとかじゃなくて、逃げてる途中で接触しておきながらそのまま逃げ去られたという光景にしか見えないだろう。
「すみません、娘が迷惑を掛けたみたいでって」
「別に大丈夫だけど、それよりも人の顔を見て驚くなんて、どうことかしら?」
ペストマスクをして両手には白の手袋、こちらを見る表情と視線は警戒と見下し或いは軽蔑とでも言えば良いのかしら。まぁポジティブなものではないのははっきりと分かる、こちらも同じだけど。
そして向こうが私を見て驚く理由も心当たりしかない。そりゃ赤霧と瓜二つだものね、驚くのも無理はないでしょう、でも私は知らない振りをしつつとりあえずでそう問いかければ
「いえ、ただちょっと知り合いに似ていたもので。ところで、貴方方は確か『便利屋』ではありませんでしたか?」
「へぇ知ってるんだって思ったけどおかしくないか」
「えぇよく知っています。英雄気取りのはみ出し集団でしたよね、確か」
「んだとてめぇ?」
挑発だというのが丸わかりの言葉に仁が反応するのを私は片手で止める。正直に言えば私も思わないところがないわけじゃないけど、こんなあからさまな物に突っかかる理由もない。
とは言っても何も言い返さないのは癪でしかないというのも当然の感情だと思うのよね、これでもプライドってのは持ち合わせてるつもりだから。
「私たちをヒーローだとかの程度にしか思えないなんとツマラナイ思考しかないのね
「ほぉ、何がどう違うんだ? やってることは変わらないだろ、世のため人のためにというのと」
こいつ、あっさりと穏和な感じの仮面を脱ぎ捨てやがったわね。なるほど、舐められてるって認識で構わないわね?
「少なくてもそこまで百%善意では動いてるつもりはないわよ。それよりも娘さんを追わなくていいの? この辺、治安が良いとは言えないけど」
これ以上はお前と語るつもりはないという態度でそう告げてみれば、若頭もとい治崎は向こうもそう思っていたようで確かになという感じのまま去ろうとしていく背中に
「あぁそうだ、一つ大事なこと教えてあげる」
「……なんだ」
「子供って割りと些細なことでも致命傷になりかねないのよ。気をつけてあげなさい」
「はぁ、どういう意味かは分からんが覚えておこう」
面倒そうに呟いてから去っていくのを見送り、私たちはその場から離れるように動き出す。その最中に通信機で各員の状況、他に監視の目が無かったかと聞いてみたんだけど
《そう思って見て回ったんですけどトガの方は特に居ないんですよね。組員も赤霧たちも》
《俺の方も同じだ、その若頭以外に確認できてない》
《私もだな、屋上からの監視も全く無し。どういうことだ、向こうはこっちがこの街に来てるのをどうやって察知したんだ》
おかしい、火伊那が言うように私たちがここに来てるのが分かったからこそ壊理が狙ったかのようにあの場所に逃げてきた。だとすれば何かしらの監視の目がないと説明がつかない。
まさかAFOの〝個性〟で得た物の中に街全体を監視できる〝個性〟があったとでも言うの? いえ、そんな大規模なものを使えばヒーローか誰か、もっと言えば治崎に気付かれるはずだし利用しないわけがない。
だとすればそんな大規模な〝個性〟じゃなく、その上で私たちの動向を監視できる〝個性〟、でもそんな都合の良いものがそう考えた時、ふとなにか視線を感じた。
何と言うべきだろうか、人間の視線じゃなくて野良猫とかが警戒して見てくるようなそれを感じその方向を見れば居たのは一匹のネズミ。そのネズミは私が気付いたと分かると逃げようと言う素振りを見せたことで私は確信しネズミに向けて指先からブラッドチェーンを飛ばし貫き殺す。
「お嬢!? ど、どうしたんだよいきなり」
「やられた……!」
「やられた? いや、まさか所長、そういうことかい!?」
気付いたという感じに声を上げた圧紘に同意するように頷き、ネズミの死体から血を抜き取って記憶を確かめてみれば思った通りの物が読み取れた。
単刀直入に言ってしまえば、赤霧は得た〝個性〟を利用してネズミに魅了を掛けて、その視界を利用して街中を監視していたということだ。いや、ネズミだけじゃない、奴が魅了を使えば野生動物ほぼ全てが、もっと言うとすれば魅了を掛けられた市民だって赤霧の目となってしまう。
「ちょっと待てよじゃあ、俺達があの娘を保護した上でコピーを向こうに渡したことも」
「バレてると考えるべきでしょうね。ナイトアイに連絡をして情報共有をして、すぐにでも行動を促さないと」
「警察にはどうする? 個性破壊弾の内部成分と壊理ちゃんのDNAが一致すれば向こうも動きやすくなると思うよ」
勿論その方が良い、ここからはスピード勝負になるのは間違いない。圧紘にはそれをお願いしつつ、仁には各員に撤退の通信を入れるように指示、それから私はスマホを取り出して事前に交換しておいたナイトアイへと連絡を入れる。
数コール、向こうの忙しさを考えれば十分過ぎる早さで出てくれたが内心じゃ、ワンコールで出てくれなんてことを思いつつ繋がったと同時に用件を話す。
「ナイトアイ、忙しいところ悪いわね。ちょっと貴方に話したいことが出来たの」
《と言うと、死穢八斎會についてか》
「えぇ、それで出来れば周りの目がない所が良いわ。貴方の事務所とか大丈夫?」
《ふむ、余程のことを握ったようだな。分かった、こちらも屋敷の監視は一旦……どうした、バブルガール》
ん? 何か向こうでも問題が起きたのかしら、まさかコピーの件がもう向こうにバレたかと焦ってしまったけど、どうやらそうではないらしい。じゃあ関係ないかと言われるとそうじゃなかったってのも同時に発覚するのだけれどね。
「何かあったの?」
《こちらのインターンで来ているヒーロー二人が治崎と接触したらしい。済まないが彼らと合流してから事務所に向かうので先に向かっててもらえないか?》
「(治崎と? あれ、それってもしかしてコピーの方の壊理がそのインターン生と接触したってことよね?)とりあえず、分かった、私たちは先に貴方の事務所に向かっておくわ」
なんかちょっとした事故が起きたっぽいわねなんて、その時は呑気にと言うかそれ以上に考えることがあって思考の隅に押しやったのよねぇ、まぁ何があったかは後で語ってあげるわ。
でもそうね、言えるとすればあれよ。世間って本当に狭いのねっていうことよ……
─────監視の目が一つ潰れたな
死穢八斎會の屋敷の一室、一応で振り分けられた客室に赤霧は居た。彼女はつい先程まで目と瞑った状態で壁に寄りかかり座っていたのだがふと目を開き、それから笑いつつ
「思ったよりも早く気付かれたな」
「如何なさいましたか、赤霧」
声の方を見ればそこには目を瞑る前と変わらない体勢で立っている黒霧、どうやら座ることもせずに彼女の側に居たらしいと赤霧が気付かないわけもなかったが触れる必要もないかと彼からの質問に答える。
「便利屋に監視の目が気付かれた。しかも情け容赦無く監視に使ってたネズミを貫き殺して脅しても来やがった」
「おや、ともすれば今後は難しくなるかもしれないと?」
「だろうな、だがやりようは幾らでもある。寧ろ気付いたからこそ向こうは動きにくくなるかもしれんな」
笑いながら赤霧は言うが内心では大した抑止力にはならないだろうと確信していた。なぜ? 自分なら気にしないからだ、だとすれば同じ存在の彼女が気にする道理がない。
それよりも潰される前の情報で分かったことで笑える話があると黒霧に言えば、向こうは何でしょうかと一言返す。
「どうやら若頭さんは便利屋が作ったコピーの娘を掴まされたらしい」
「それはつまり計画通りということでは? 死柄木たちに連絡をしておきましょう。ところで治崎には?」
「頼む。それとヤツには言うな、そこまでしてやる義理もなければ、私たちは敵の策略を見抜くために雇われているわけでもないからな」
言うだけ言えば、赤霧はまた目を閉じ別の監視の目の視界を覗き始める。それを見て黒霧はではと死柄木たちに事が進んだことを伝えるために〝個性〟で姿を消す。
それに何か反応するわけでもなく赤霧は一羽のカラスの視界を覗き見るがこの【監視】と言う〝個性〟の弱点を一つ上げるとすれば音は一切拾えないという部分だろう。
しかも魅了を掛けて【監視】の条件をクリアこそしているがあまり露骨な監視をすれば先程のようにレイミィにバレてしまうが故にある程度は自由にさせているので視界がブレにブレたりもするので使えるかと言われると微妙なところだろう。
(その点、カラスなどの鳥類は便利だな。空中であれば早々に気付かれるという可能性は低く出来るからな。ま、遠すぎてろくに見えないのも難点だが)
ままならないものだな。そんな事を思いながら赤霧は屋敷周辺の監視を続ける。されどそれは死穢八斎會の為ではない、自分たちの目的のためである。
あとがき、書くことがなくなってきちゃったねんな……あ、【監視】で見れる視界はこう、SIRENの視界ジャックみたいな感じだと思ってもらえると分かりやすいかなって。