「と言うことで便利屋で預かることになった、壊理よ」
「〝と言うことで〟にあるはずの内容が9割くらいすっ飛ばされたような気がするんけどウチの気の所為かな?」
同日の夕方、久しぶりにレイミィが帰ってきて顔を見せたと思ったら保護した子供を連れてきた。クラスメイトからすれば騒然という反応を返すしかないし、今度はどんなことに首を突っ込んだんだこいつともなる。
とは言え〝保護〟と言う単語を出したということは詳細を聞かなくても結構な案件に首を突っ込んだと分かるし、そのレベルとなれば聞いても答えてくれないだろうというのは彼らも分かっているので話自体は割りと早めに有耶無耶になったりする。
ともすれば次に話題になるのはその少女こと壊理について。現在、彼女は初めて来る場所で初めてに人だらけで、ほぼ全員が自分を興味津々と言う感じに見てきているという状況にどうしたらいいのかとオロオロしている。
「とりあえず、挨拶はできる?」
「あ、は、はい。えと、壊理です」
「んわぁ、可愛い! あ、私は葉隠透っていうの、よろしくね壊理ちゃん!」
「ひゃあ!? え、え??? 顔がない!」
「その子は〝個性〟の影響で透明人間だから見えないのが普通よ」
そう言えば、ウチのこの手のことなら間違いなく騒ぐはずの秘書が静かねとふと気付くレイミィ。どうしたことかと便利屋が固まっている方を見て彼女の視界に飛び込んできたのは……なんか倒れてる秘書と呆れ顔を晒す面々だった。
いや待てよ、嘘でしょ、あなたってそんな限界な反応するタイプのだったの? 少しだけ真面目にこの娘との親友関係を白紙に戻そうかしらなんてことを感じつつ、何がどうしたという意味で指を指し火伊那が呆れたまま答える、曰く。
「『カアイイ、カアイイ過ぎて無理、レイミィちゃんレベルにカアイイ存在が居たなんて、カアイイが過剰すぎて死ぬ』とか早口で言ってぶっ倒れた」
「トドメ刺しておきなさい」
聞いた上で出てきたのは辛辣な処刑宣告だったし彼女は初めて親友関係を解消するべきかもしれないと本気で一瞬思ったとか。無理もないだろう、親友で秘書がまさかそんなセリフとともにぶっ倒れたなんて誰も聞くたくないのだから。
同時に思う、最近あまり構ってあげてなかったからストレスでも溜まってしまったのだろうかと。思うがそれで上記のセリフが帳消しになるわけでもないので近付いて軽く蹴飛ばし起こすことに。
「うぐっ、結構本気……いや、違うんですよ、レイミィちゃん。これは決して浮気だとかじゃなくて」
「関係を持ってるわけでもないのに浮気もへったくれもないでしょうよ」
「そんな、トガとは遊びだったっていうんですか!?」
こいつテンションが上りすぎて面倒くさいキャラになってやがるなという言葉がレイミィの口から出るよりも前に頭頂部に全力に近いチョップが被身子を襲い、哀れ秘書は頭を抑えながら地面を転がることになる。
ヒデェ光景だとは男子組の誰の言葉だったか。あまりの事に峰田ですら絶句という形でしか反応できていないと言えば、場の混沌具合を表しているだろう。
「とりあえず、ご飯の時間はまだ早いしお風呂のほうが良いわよね?」
「ん? あぁ、だな。向こうでも入ってないってことはねぇだろうけど」
「あ、じゃあ私たちも一緒でいい? 入ろうかって話もしてたからさ」
女子組を代表してお茶子がそう聞いてきたがそれを決めるのは壊理だものとレイミィは彼女に視線を送る。
今日までの扱いを考えればいきなり大人数に裸を見られるという状況は慣れてないと思うので無理はさせたくないが返ってきた反応は逆にどうしようという感じに見上げてくる視線だった。
「(まぁ、判断するにしても自分の中に材料がないってことよね)とりあえず、一緒に行ってみるのが良いんじゃないかしら」
「お姉ちゃんは?」
「私も行くけど、ちょっと取りに行くものがあるから後から合流するわ」
「取りに行くもの?」
「この娘の部屋着よ、このままってわけには行かないでしょうが」
返答に確かにそうだとなり、その後は復活した被身子と火伊那、A組女子の面々が壊理を連れて寮の風呂場へと向かうのを見送り、さて私もというタイミングで血染から質問が飛んできた、内容は壊理の額の角のようなものについてだった。
「病院で検査してもらって分かったのはあれが〝個性〟由来物だってことね」
「〝個性〟か、内容は分かってるのか?」
「えぇ、あっと男子、聞くのは良いけどオフレコよ。さて、壊理の〝個性〟は【巻き戻し】正直、記憶で見た感じじゃ今までの中で一、二を争うレベルにはヤバい〝個性〟なのは間違いないわ」
見たものを思い出し苦笑しながら血染たちに話す。彼女が見たのは壊理が初めて〝個性〟を発言した直後の記憶、父親と思われる人物が時間を巻き戻したかのように若返りそして消失していく光景。
レイミィはそれを見た抱いた感情は戦慄、便利屋として、公安の暗部として数多の〝個性〟を見てきた彼女だから言える。これはその今までの物よりも遥かに強力な〝個性〟だと。
「しかも〝個性〟制御の訓練なんてしてないから、あの娘は今も扱いきれてないし暴走の危険性もあるらしいわ」
「暴走って、それその大丈夫なのかよ」
「ん~、その辺りは私が責任を持つってことで一先ずって感じね。それに私ならどっちに転がっても美味しいしっと、悪いけど私はお風呂に行ってくるから、じゃ」
手をヒラヒラと振りながら去っていくレイミィ、なんてことなく話された内容だったがそれを聞いた燈矢がある事をふと閃いた。壊理の〝個性〟が対象の時間を巻き戻すというのならば己の体をどうにか出来るんじゃないかと。
「〝個性〟制御が出来ればな、今の段階じゃ消滅するだけだし、仮に成功しても相当年齢が若返って面倒なことになるぞお前」
「それに燈矢兄さん、今治療中の身体に〝個性〟を受けたら治療前に戻っちゃうんじゃないのか?」
「……現実はそう上手く行かないってことか、でもだったら所長さんはなんで自分ならどっちに転がっても美味しいとか言ったんだ?」
「もしかして今のバートリー身体には効かないとか? ほら、聞いた感じじゃ壊理ちゃんの〝個性〟は生物にだけしか影響が出ないような気がするから」
「そうか、今のバートリーくんは死体とほぼ同じだから対象に選ばれない。仮に対象になっても身体のタイムリミットが増える、そういうことだね?」
自分で言って天哉はふぅと眼鏡を抑え深い溜息を吐き出す。確かに安全であり万が一が起きようとも対処はできるがだからといって友人が自己犠牲を発揮しているのをただ見ているだけしか出来ないのは歯痒というものだ。
それは血染たちも同じでありつつも彼らも彼らで、こっちから何か出来るというわけではないので強めの頭痛を抑えることしかできないでいた。
リビングの面々がそんな空気の中、壊理を連れて風呂場にてリラックスしていた女子組。被身子が壊理の髪などを洗ってあげていたが彼女曰く
「うーん、思った以上に丁重に扱われてた感じですかねこれ。髪も肌もそこまで悪いって感じじゃないですし」
「存外、あの若頭が潔癖症だったって話だったりしてな」
「ははは、まっさかー、ヤクザしてるんですよ?」
彼女たちは知らない、後に実はそれが大当たりだったということを。ともかく、思ったよりも酷い状態じゃないと言うのは良い知らせであり、壊理自身も今は浴槽で緊張こそまだしているがそこはコミュ力おばけの多い女子組によって、楽しんでいるように見える。
見えるのだがほぼ全員が違和感を感じていた。ここに来てから、いや、さっきの入浴までの会話でも壊理は〝笑っていない〟のだ、それはまるで笑い方を忘れてしまったという感じの姿に小声で
「思ったよりも心の方は重症かもしれませんわね」
「そこは時間を掛けるしかないんじゃないかな。レイミィちゃんなら慣れてるだろうけど」
お茶子の言葉で響香がレイミィの別れる前の言葉を思い出す。正直に言えば今この場の話題から何一つ関係ない話ではあるのだが、彼女は別れる前になんと言っただろうかということを思い出したというだけである。
そう、レイミィはこう言っていた『部屋着を取りに行く』と普通であればなんてことないセリフ。だが発言者がレイミィ・バートリーだと話が大きく変わる。
「ねぇ、あいつの部屋着って……」
「あっ」
「いやいや、まさか、いやでも、レミィだし」
「私がどうしたって?」
件の少女の声が浴室に響き渡る。どうやら丁度話が出たこの瞬間に入ってきたらしく、タイミングがあまりにも良すぎるでしょと響香が苦笑してしまう。
そのレイミィは妙な空気と苦笑してくる響香を怪訝そうな表情で見てからいつもの調子で身体と髪を洗ってから浴槽に浸かり隣の壊理へ問いかける。
「壊理、どう? ゆっくり出来てる?」
「うん」
「それは何よりだわ、被身子に変なことされなかったわよね」
「トガを何だと思ってるんですかレイミィちゃん!!」
何ってカアイイだなんだと言いながら壊理を見てぶっ倒れた不審者だけどというあまりにも鋭い言葉に誰も反論できなかった、本人も突きつけられるとヤバい奴じゃないですかと思ってしまっているので手に負えないとはこの事だろうか。
因みに壊理はこの流れの会話を理解していないので被身子が急に落ち込んだという認識だったのだろう、大丈夫? という純粋無垢な心配に彼女は遂に沈んだ。
「お、お姉ちゃん、被身子お姉ちゃんが」
「沈めておきなさい、八百万、いい感じの重り創り出せる?」
「ガチで沈めようとするのは止めてやれって」
後に被身子は語った。自分があまりにも汚い大人になってしまったと、それを聞いたレイミィは冷静に返した、中学の頃からその片鱗は出てたじゃないと、被身子は当然のようにキレたがこれは語られることのない話なのでここまでにしておこう。
そんな賑やかな入浴時間だったがそれでも壊理は笑うという表情を見せないことにレイミィもこれは想像以上だわと思いつつ入浴が終わり脱衣所にて壊理に用意した部屋着を着せ、リビングに戻ってきた少女を見て上鳴が一言。
「なぁバートリー、無知な子供にそうやって趣味を押し付けるのはどうかと思うぞ俺」
「は?」
「そのなんだ、オイラもそこは同意かなって思うんだ。こう、あれじゃん?」
「あ? なに、可愛くないって言いたいの」
峰田のまさかの追撃にレイミィ、若干キレる。壊理が着てるのは言うまでもなく例の変な生き物シリーズのTシャツ、因みに描かれているキャラはレイミィお気に入りの例の変な鳥である。
本音で言えば男子組としてはでしょうねという反応しかなかったりもする。女子組も同じであり、無論、壊理には無理に着なくてもいいとレイミィに対して失礼過ぎる事を伝えたが彼女はコレでいいと言うことになっている。
「そうだって言ってんだろ、分かれよそんくらいコウモリ女」
「はぁ!? 別に壊理だって拒否してないし何だったら可愛いって言ってるんですけど!」
「うん、可愛い、と思うよ」
「本心の可能性はあると思うんだが、言わされてるように見えるのは何なんだろうな」
男子たちからの反応にレイミィの額に青筋が立ち始める。一体コレの何が悪いんだと、どう見たって愛嬌しかないじゃんと反論したくもなるがした所で返ってくる反応が予想できてしまい、彼女は適当な椅子に座るだけに留める。
いや、反論したいのは確かだがそれよりも壊理の夕食とかあるしと自分に言い訳をしつつ、少女を見つめる。
「壊理ちゃん、好きなものとか嫌いなものとかない? あるならランチラッシュ先生に伝えておくよ」
「嫌いな物はないです、好きな物は……りんごです」
「リンゴ、なら事が落ち着いたらトガが腕を振るっていいもの作ってあげますよ! それとレイミィちゃんのオムライスも付けて、ね!」
「ん? そうね、それも良いかもしれないわね」
その場合なのだが全員分のオムライスを作ることになるがそれもまた賑やかで壊理の為になるだろうと思い大丈夫だと答え、窓から空を眺める。
この時間まで死穢八斎會に動きがあったという報告はない、だからこそ引っ掛かった。あの壊理がコピーだということはもうバレているはずなのにと。
(なにか、嫌な予感ってわけじゃないんだけど妙な感じがするのよね)
一体何なのかしらコレはと思うレイミィ、それでも明日の計画に変更はない、決戦の時は、近い。
─────同時刻死穢八斎會の屋敷にて
「どういうことだコレは……!!」
苛立つ治崎廻の目の前には空席となっている手術台のような椅子、そこにはさっきまで壊理が居たはずで何時ものように個性破壊弾の材料にしようと身体を弄った刹那、影のように消滅したのだ。
だがそこは若頭として死穢八斎會を切り盛りしてた彼だろう、直ぐに今朝の便利屋の仕業か? と気付き鉄砲玉集団である【八斎衆】を招集、奴らの行方を調べるように指示し彼らが動き出す、が。
「止まれ」
屋敷から外に出ようというタイミングで赤霧の声が響く、と同時に彼らは一人残らず指示に従うように彼女に跪いた。この光景をもし治崎が見ていれば死穢八斎會が現状どうなっているか気付けたかもしれない。
だが彼はこの場に居ない、そして周りの組員も気にする素振りも見せていない。そんな状況の中、赤霧は彼らにこう告げる。
「フリだけで留め、明日に備えて各員、配置に付け、良いな」
『御意のままに』
言葉短くそう告げれば、八斎衆は影のように散っていく。その光景を見て隣りにいた黒霧は末恐ろしいものを見たという声で
「……魅了と言う能力はあまりに反則すぎますね」
「あまり乱用はできんがな、こいつらの意志を書き換えるのにまさか残り時間を削るくらいに本気を出さなければならないとは思わなかった」
だがその御蔭であの青二才の組織を自由にできる。言いながら赤霧は空を見上げる、最もこの組織も明日までの存在だがなと笑い、そして夜が明けた。
(やっべ、緑谷の話を書くの忘れてたという顔)