中々の大波乱があった一回戦目を終えたA組の面々。続いての組み合わせはこれまた気にならないと言えば嘘になるカードに仕上がっていた。と言うよりもレイミィは既にビル内で待ち構えている
「……ど、どうしよう尾白くん! 明らかに寒い攻撃が来そうだよ!」
「ど、どうしようと言われてもな」
無理もないだろう、年頃の少年がすぐ隣に透明の全裸の少女がいるとなれば誰だってこうなるものだ。
そんな彼女が焦っている理由はヒーローチームにある。片方は【複製腕】と言う個性を持つ障子、彼の相方が葉隠を絶望の淵に叩き込んだ、そう半冷半燃の焦凍である。
〘どうする、轟〙
「どうもこうも、手を抜くつもりは全くねぇから安心してくれ」
彼のプランを既に聞いているし、それがこの訓練での設定を考えると合理的だというのも理解している。が、それはそれとして容赦が全く無いことなので一応で聞いてみるが返ってきた答えにそれ以上は何も言わなかった。
「ケロ、これもしかして一瞬で決まるってやつかしら」
「でしょうね。ハッキリ言って轟相手に籠城戦は不利も良いところよ、私だって出来れば避けたいもの」
仮にこの設定でやるとすれば血染でも連れてきて初見殺しで沈めるしか無いわねと口にはしないで脳内で作戦をあれこれ立ててみるが、どれも便利屋の誰かを引っ張ってくるという所に着地してしまうことに。
まだクラスメイトの情報が足りないとは言え、流石に彼らを舐め過ぎだと一人反省と同時に自分は便利屋の面々を信頼してるのだなと笑う。
なお、戦闘訓練自体は開始と同時に無慈悲なビル凍結でヒーローチームの圧勝で終わる。終わるのだがモニタールームも同じビルの地下にあるので
「地下まで凍らすとかやりすぎよ、コートが合って助かったわ。大丈夫、梅雨ちゃん」
「眠たく……なってき……たわ……」
「ヤバイよ、梅雨ちゃんが冬眠しそうになってる!!!」
「ビルの外に引っ張り出すわよ、このまま眠られたら洒落にならない」
凍結からの温度の急激な低下にそんなアクシデントが起こったりもしたが、その後は順調に、されど初戦の激闘が呼び水になったのか白熱した対人戦闘訓練は進んでいき、そして
「これでバートリー少女以外は全員終えたかな? ではバートリー少女、
「そうね……」
周囲を見渡し、誰にするかを考える。戦闘訓練とその後の講義を受けながらも、この時用の作戦を考えていたが当初は壁役として切島を選ぶつもりであった。
だが彼は先の勝己との一件で恐らくはいい印象は持たれてないのと実行するつもりの作戦が彼が嫌いな部類なので、候補から除外。さて、どうするかとクラスメイトのここまでの戦闘スタイルを頭の中で思い出しながら選んだのは
「砂藤、頼めるかしら」
「俺か? おう、大丈夫だが」
「それじゃ、着いてきて頂戴。作戦はビルの中で話すから」
「え、相手が誰か見なくて良いのかって、ちょちょ、待ってって!」
カツンとアーミーブーツを鳴らしながらモニタールームを出ていく彼女の後を、砂藤も慌てて追いかける。まるで誰が来ても問題なく勝てるという態度に少々嫌な奴ではと言う空気が流れ始めるもそれを断ち切ったのはオールマイトの一言。
「彼女のことだから既に全力で
「あ~、何か確かにその辺りは自分に厳しそうだよな。バートリーって」
瀬呂が言うように、授業の初めでオールマイトからの頼みではあるが、学校からの依頼の範疇の物事として受け取っているので仕事の時間としてスイッチを入れ替えた状態になっているので先程の態度に繋がる。
今の彼女は便利屋所長として動いている。依頼内容は【全力で
「ところで、なんで俺だったんだ? 八百万とか轟とか、もっと凄いやつでも良かったんじゃねぇか?」
「正味、前を張れれば誰でも良かったが本音。けれど、貴方ほど身体が大きくて格闘も出来るのなら頼ろうって考えただけよ」
「は、はぁ。で、どんな作戦なんだ?」
ヨイショと模型の核爆弾の安定翼のような部分に器用に腰掛けたレイミィに砂藤が聞けば、ふむと考えるように目を閉じ、まずはこっちからねと自身の個性についての説明を軽くだがすることに。
「私の個性は【吸血姫】あ、最後の『き』は鬼じゃなくて姫ね。まぁ、吸血鬼っぽいことが凡そ出来るって物なんだけど、今は諸事情でフルスペックを出せてないのよね」
「出せてないって、どっかが不調とか、そういうのか?」
「ちょっとトラウマがあって、本来必要な行為が出来てないってだけよ。でも限定的とは言え出来ることがあるし、今回はそれを利用するわ」
例えばコレと目を閉じ、少しすれば閉じた両目から二匹のコウモリが飛び出す。それは音も立てずにレイミィと砂藤の周りを飛び回るのだが、そこで彼女から、自分に背中を向けて適当に指を何本か立ててくれと頼まれ、不思議に思いながら三本を立てれば、目を瞑っていてしかも背中越しからは見えてないだろうというのに
「三本、右の指でしょ?」
「ッ!? あ、まさかこのコウモリって!?」
「ご明察、身体全部とかは無理だけどこうやって一部だけなら変化させて飛ばすことが出来るのよ。そして……」
言葉はまだ続いているはずだと言うのに、砂藤は目の前の二匹のコウモリが光ったと認識した時には意識が飛んでいた。
次に彼の意識が戻った頃には何故か、レイミィの足元で跪いており、これには思わず驚きながら弾かれるように飛び退き、何がと混乱しているさまを見てクスクスと笑いつつ。
「ごめんなさい、今のは『魅了』よ。ほら、吸血鬼って美女を誑かすじゃない、それ」
「な、なるほど。って今の一連の流れカメラで見られてるんだよな、帰ったら大丈夫なんだろうか俺」
「そこはしっかりフォローするから安心して頂戴な。で、作戦ってのは今のを利用するの」
「つまり俺が目立つように戦い、その隙にってことか」
その通りと満足な答えに笑みを浮かべるが、追加で言うことがありそれは彼には本当に申し訳ないと言う内容。
今回の作戦は魅了を使った上での
「貴方には捕まるまで暴れてもらうわ。それで演技するのだけれど、その時のセリフで貴方をコケにするようなことを言うつもり、それに関しては先に謝っておくわ」
「気にするなっての。それじゃ、出向いてってやるか」
パンッ! と自身の力瘤を力強く叩き豪快な笑いを一つしてから部屋を出ていく。レイミィもあれだけ力強く豪語されてはミスは出来ないわねと早速コウモリを窓から一階の出入り口、ヒーローチームの背後を取るように飛ばし偵察と仕込みを始める。
さて、誰が来たのやらとバレない位置にコウモリを待機させ少しして確認できたのは、警戒しながらビルに侵入してきた天哉、障子、百の三人。遠近隙がなく、普通に真正面からとなると厳しい相手だが
「こちらレイミィ、悪いけど砂藤、早速向かって騒いで頂戴、メンバーは飯田に障子、それと八百万ね。障子が居るとなると下手すればコウモリがバレるわ」
《おう!》
「仕掛けるタイミングは後方の八百万が動きを見せたら、頼んだわよ砂藤!」
通信を受けた砂藤が彼らの前に立ちはだかる。一人で現れたということで警戒度を上げ、障子が複製腕の一つを耳に変えて周囲の情報を集めつつ
〘砂藤だけか?〙
「出るまでもねぇってよ。どうしてもって言うなら俺を倒していくんだな」
「余程の自信のようだな。三対一で勝てると思ってるのかい? 投降したほうが怪我は少なく済むぞ!」
「私からもそれをお勧めしますわ」
ブラーボー! と思わず叫びたくなるほどの砂藤の
音も立てずに飛べるとは言いつつも流石に至近距離ともなれば羽音は嫌でも耳に届くもの、遂に気付いた百がバッと振り向いたのと同時に砂藤が天哉と障子に一気に突っ込む。
「これは……っ!?」
「チェック」
百が二匹のコウモリに気付いたと同時に核爆弾を置いてある部屋に居たレイミィの両目が開かれ静かに彼らの首元に刃を突きつけたことを宣言する。下の階層からは激しい戦闘音が聞こえるが、先に砂藤に告げたように彼が負ける前提の作戦。
もしかしたら一人ほどはとも考えるが、今回来てる三人では分が悪いだろう。その証拠に階段を駆け上がり、この部屋に向かってくる3人分の足音、少し遅れてから
《砂藤少年、確保!!》
《悪ぃ……一人も止められなかった》
「気にしないで寧ろ粘ったほうよ、誇っていいわ」
砂藤からの謝罪の通信に答えたタイミングで部屋の扉が開かれ、突入してきた三人、陣形としては百を守るように天哉と障子が前に出ている形だ。
見事に理想的な陣形で来てくれたことを感謝するように乾いた拍手を三人に送りつける。
「ふぅ、まさか全員健在でここに来るとはね。全く、一人くらいは道連れでも良いから持ってって貰いたかったのだけれど」
気だるげな態度のまま足を組み独り言を漏らすその姿は悪の組織の幹部と言われても信じられるだろう。
声や表情もまた役立たずが捕まった程度の態度に見えるくらいに迫真な演技に二人の表情が一瞬堅くなるが直ぐに持ち直し
「君の仲間は捕らえさせてもらった。あとは君だけだ!」
「仲間? フフッ、面白い冗談を言うのねヒーローさん」
〘違うというのか? いや、どちらでも構わない。ここでお前を確保して核爆弾も回収させてもらう〙
一歩踏み出し臨戦態勢入る二人、そこでモニタールームの観戦組が気付いた。百だけ動いていないということに、そして彼女が何かを創造しているということも。
ここまで来ても戦闘態勢を取れないレイミィ、不穏な動きを見せる百、それに気付かない天哉と障子。誰かがあっ、と声を漏らすのとほぼ同じタイミングだった。
「一つ、教えてあげるわ。八百万、やって」
「何を……グゥっ!?」
〘飯田!? 八百万、どうしガァッ!!??〙
パァン! 軽すぎず重すぎない銃声とスタンガンのような電圧が流れる音が二回響き、天哉はそのままダウン、障子は当たりどころが悪かったのか崩れはするが、すぐに倒れる様子はなく、しかし動くことも出来ないという状況にレイミィは安定翼に座った体勢を崩さすに。
「味方であろうとも、
辛うじて後ろを振り向けばテーザー銃を構える百の姿、だがその目には光はなく表情も虚ろと正気でないのがはっきりと分かる。
そこまで確認してから障子も倒れ、彼女は二人に捕縛テープを貼り付けてからレイミィの元へと向かってから跪き、それを見て満足げな、それでいて悪い笑みを浮かべ倒れ伏す二人を見下す。
と、まるでことが完璧に進みましたと言う空気を醸し出しているがもし百がメンバーに居なかった場合は背後から強襲させて挟み撃ちの形にしてからの大乱戦だったのでメンバーが悪かったという話である。
内心ではあまりにキレイに作戦が決まったことにガッツポーズをしたいのを必死に堪える便利屋所長が居る。
「それじゃ、おやすみなさい八百万……はい、これで訓練はお終いよ」
《ヴィランチーム、ウィ───ン!!!》
語りかけるように指示を出せばドサリと音を立てて倒れた彼女にも捕縛テープを巻いてから監視カメラに視線を向けての勝利宣言をすればオールマイトの終了のコールがビルに響き、流石の百もこれで目が覚めたのだが彼女の最後の記憶と状況が噛み合わないようで混乱を引き起こす。
「……ハッ! え、あれ、なんで私倒れてましたの!?」
「それをこれから講評を交えて説明するわ。飯田、障子、大丈夫?」
聞いては見たがテーザー銃の威力が少し高めだったようで直ぐには立てないとのこと。なのでオールマイトに来てもらい、自身は囮の役割を全うした砂藤の元へと向かって捕縛テープを外しながら
「ありがと、お陰で全部うまく回ったわ」
「へへ、俺も良い経験になったよ。いっつつ」
「そう言ってもらえると嬉しいわね。さ、帰りましょ、講評って言うほどの内容があるかは分からないけど」
因みに彼女の懸念は杞憂と言うものでありモニタールームに戻れば講評が終わると同時に凄まじい勢いの質問攻めを食らうことになる。特に多いのは百の現象について、別にコレは答えても困らないことなのでと全員を落ち着かせてから
「八百万に魅了を掛けただけよ。私の両目をコウモリに変えて、こうやって、ね? 峰田、三回回ってワン」
「……ワン! ってあれ!!??」
「うぉう、こりゃ凶悪だなおい」
「言うほど強力じゃないわ、多分だけど今回は初見だから成功しただけで。素の状態でも爆豪とか我が強い人には通らないから
チンピラならまだしも指名手配されるようなレベルが相手だと先ず通らない。魅了が来ると分かってる相手にも通らない。自分よりも格上だと通らない。等など挙げればキリがない位には弱点だらけの技、なので基本的にはあまり使うことが少ないらしい。
それでも初見殺しという観点で見れば凶悪だという切島の感想も的外れなものではない。が、それはつまり
「今回、クラスの皆に見せちゃったけどレミィちゃんは大丈夫なの?」
「貴方達が私と敵対するって言うなら困ると思うけど、無いから大丈夫よ」
自分で言っておきながら、直ぐに脳内で無い、無いかなぁ? と考え込む、良い子たちとは言えヒーロー志望だから便利屋となにか間違いでかち合うこともあるんじゃなかろうかと。
「にしても、バートリーの戦闘シーンが見れると思ったんだがなぁ」
「フフッ、それはもっと私がそれしか手札がないって場面じゃないと出すつもりはないわ」
などと答えてる彼女だが、百が居なかった場合は戦ってたのを忘れてはいけない。とりあえずそれっぽくカッコつけてるだけである、だったのだがこの中で唯一彼女の本気の戦闘場面を見たことがある焦凍がポツリと
「じゃあ、あの時はそれしか無かったってことか」
「知ってるのか焦凍!?」
「待ちなさい」
「おっと、済まないがそろそろ授業が終わる時間だ! もし話があるなら放課後にゆっくりとにしたほうがいいと思うぜ!」
オールマイトの言葉によって難を逃れるレイミィ、とりあえず感謝を述べつつ初日のヒーロー基礎学は終わりを告げ、教室に戻っていく際にそう言えば静かだったなと勝己を見れば、向こうも視線を丁度向けたタイミングだったようで交差する。
「……」
「とりあえず、今は私じゃないって感じかしら?」
言葉に答えるわけでもなく視線を逸らし教室に戻る勝己の背中を見つつ、ついでに出久に今回の講評を聞かせてくると保健室に全力疾走で消えていくオールマイトに
「やっぱり慌ててるわよねあれ。ともすれば気の所為じゃないってことか」
「レイミィちゃん、戻るよー!」
「今行くわ!」
まぁいいか、そこで思考を打ち切り教室に戻ることに。気にしても仕方がないとのもあれば、話さないってことはそういうことだろうと一人納得しながら。
レイミィの戦闘シーンは多分、直近だとUSJ……ですかね?(無計画)
しかし、場面描写が中々に酷いっすねコレ(他人事)精進しなければなぁ
便利屋メモ
便利屋全員でチームを組んだ場合、被見子と血染がレイミィの存在によって凶悪になる、具体的には大体がレイミィがコウモリで相手の血を持ってきて血染が舐めるだけで完封できるし、被見子の場合だと手軽に変身もできるので酷いの一言に尽きる。
そこに仁の人海戦術と圧紘のトリックスターっぷりが混ざると手がつけられなくなるとかなんとか。