便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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No.171『鮮血魔嬢ともう一枚の伏せ札』

《こちらホークアイ、これから援護を開始する、耐えろよ!!》

 

「出来れば急いでほしいかな、こっちもあまり持ちそうにないから……」

 

 当初の計画ではこちら側が先手を打って正門を解放、屋上からの火伊那の狙撃による援護を元に一気呵成に攻め入ると言うものだった。

 

 しかし、それが開幕から崩された。警察とプロヒーロー連合が正門前に到着と同時に門が開け放たれ彼らを迎えたのは明らかに弱小極道の集団が集められるとは思えない銃火器による弾幕。

 

 不意打ちにより警察数人とプロヒーロー数人が負傷するも仁が咄嗟に増え、試作品のシールドを展開、現状はそれを壁になんとか耐えているという状況にはすることに成功したのだが。

 

「なんたってヤクザが軍とか特殊部隊の武器を持ち合わせてるのよ!!!」

 

「んなもん、こっちが知りたい! スカーレット、記憶から見れないか!!」

 

「そんな暇あるわけないでしょ!!!!」

 

「うわぁい、スカーレットちゃんがステインくんにキレてます」

 

 だろうなと血染は思いつつ状況を確認していく、激しい銃撃に晒されてはいるが被害は開幕時の数人以外は出ておらず、赤霧も火伊那が言うには動いていないとのこと。

 

 何が狙いだと考えたくもなるがその暇は勿論ながらない。このまま銃撃の嵐を防ぎ続けていても状況が好転するわけもなく、下手をすれば悪化すらあり得る、だとすればまずは現状の打破が先だろう。

 

「トゥワイス、ルミリオンを増やせ! こうなったら計画は変えるしかない!!」

 

「了解だ、スカーレットもそれでいいんだよな!」

 

「いえ、赤霧が動かないならもしかしてそれが狙いかもしれない。だとしたら態々乗って上げる理由もないわ」

 

「じゃあ、どうする。このままじゃ、埒が明かないぞ!」

 

「……チッ、このタイミングで切るつもり無かったんだけど」

 

 コレは本来であれば、赤霧と接敵したと同時に切るはずだったカード。それをこのタイミングで使えば、不意打ちとしての価値もなくなりリスクが増してしまうが、状況の打破を考えればここで使う他ない。

 

 それを分かっているからこそレイミィは悪態を付きながら息を整え、そして周囲に知らせるように声を張った。

 

「全員へ、これからちょっと切り札を使うわ! そのまま耐えてて!!」

 

 言うだけ言ってからレイミィは上空に飛び上がる、無論、対空射撃の弾幕に晒されるがそれを最低限回避或いはコウモリで防ぎながら己の中の〝個性〟に意識を集中させながら地上のヤクザ集団と赤霧を見据え、笑う。

 

「さて、目にもの見せてあげるわ、赤霧。【ヴァンパイア・クイーン】」

 

 呪文を唱えるように単語を口にすると同時に神野のあの日と同じように真紅の血が彼女を包み込む。迷いのない切り札の使用、それを見た赤霧はだったら抑えるまでだと言わんばかりに突撃し阻止、或いは撃破を狙おうとした彼女を思いもしない方向からの衝撃が襲い、屋敷に叩きつけられることになる。

 

 無論、場は騒然とするだろう。何より赤霧が吹き飛ばされたと同時に真紅の血が弾け、中から現れたレイミィの姿を見て血染が呟いた言葉が総意とも言えるかもしれない。

 

「なんだ、あれは……?」

 

 この場で一番付き合いが長いはずの血染が出した言葉、ともなれば便利屋の誰もが知らないということ。それほどまでにあの日、神野で見たあの姿とはかけ離れていた。

 

 頭には悪魔のような二本の角が生え、背中にあったコウモリのような羽根は西洋の竜を思わせるような翼に、背骨の一番下辺りからは赤霧を迎撃したと思われるこれもまた西洋の竜を連想させる太めの尻尾に両腕は鱗が生え、両手の爪は細長くなりつつも鋭さと頑丈さを兼ね揃えた物が生えている。

 

 戦闘服(コスチューム)もそれに合わせるように変化しており、見た目だけでは最早ヒーローと言うよりも(ヴィラン)といったほうが納得されるかもしれない姿、禍々しいという感想が先にくるこの姿の名は……

 

「では改めて【ヴァンパイア・クイーン・モードエリザベート(鮮血魔嬢)】総員に告げるわ、鼓膜を破られたくなかったらコピーのトゥワイス以外は地面に伏せて耳を塞ぎなさい」

 

「へ、え? な、何をするつもりなんです、スカーレットちゃん????」

 

「警告はしたからね。スゥ……」

 

 あのまま地上に降りて蹴散らすのかと思いきや、そんな警告を飛ばしてきたレイミィに何がなんだか分からないとばかりに疑問を投げた被身子だったが次の行動で察した。

 

 いや、正確に言えば察してはいないが息を吸い込んだという行為をしたレイミィを見て強烈な悪寒と予知にも似た直感を感じたと言うべきだろう。

 

(あれ、もしかしてレイミィちゃん、嘘ですよね、本気でやるんですか?)

 

 蘇るはかつての記憶、親睦を深めようとかで向かったカラオケボックス、行ったことがないし歌もあまり知らないという彼女を半ば拉致に近い形で連れ込みマイクを握らせ一曲だけ歌ってもらったあの日。

 

 今でもはっきりと思い出せるし思い出すだけで耳が痛くなって頭痛すら甦る記憶が脳裏を流れていったと同時に被身子は叫んだ、そりゃもう本気で叫んだ。

 

「全員、スカーレットちゃんの言う通りにして下さい!!!! あとホークアイちゃんもです!! 距離があっても無事じゃすまないですから!!!」

 

《は? 何が起きるってんだ》

 

「後で説明しますと言うか見れば分かると思うので耳を塞いで下さい、早く!!!」

 

 最早悲鳴だった、便利屋に入社してから初めて聞くようなその声に火伊那も本気でヤバいことが起きると感じ取り即座に耳を塞いで屋上に伏せる。援護も観測も出来なくなるがこれから起こることを考えれば、それが最良の行動だった。

 

 なお、血染を始めとする便利屋の面々も被身子のただならぬ悲鳴に満ちた警告を聴いた時点ですでに行動に移している。戦闘中だがそんなのよりも身の危険のほうが強かったと後に圧紘辺りが語るのだがそれは置いておこう。

 

 ともかく、未だ困惑しているプロヒーローや警察が居たりするが殆どが防御態勢になったと同時に未来で【人力音響兵器事件】とも呼ばれるかもしれない一撃が死穢八斎會の屋敷に炸裂した。

 

「laaaaAAAaAaaaAAAA!!!!」

 

 コウモリが発する超音波を更に強力にしたというのがレイミィの認識だろう。だが現実はもっと酷い、確かに超音波ではあったが彼女自身のどこぞのガキ大将を更に悪化させたかのような音痴から放たれたそれは耳を塞いでいるはずだと言うのに貫通し激しい頭痛を引き起こさせる程に頭に響かせるだけに留まらず、剰え衝撃波を生み出し地表のヤクザ集団に襲いかかる。

 

 耳を塞いでいて激しい頭痛を襲うようなそれを、何一つ防御姿勢を取ってない彼らが直撃すればどうなるか。結果だけで言えば、衝撃波の範囲内に居た全員が上から押し潰されるように地面に叩きつけられ、例外無く白目になり、その耳からは血が流れ始めるという地獄絵図と言う他ない状況に陥っていた。

 

 これ以上は本気で誰かしら脱落者が出てもおかしくない、というよりも老体のグラントリノにとってはただの拷問でしか無く遂に血染に向かった叫んだ。

 

「あっが、おい、副所長、あの小娘を止めろ!!!!!」

 

「無理に決まってるだろ……!」

 

「プレゼント・マイクよりも強力だな……」

 

「だい、じょうぶですか、ホークアイ……ちゃん……!」

 

《ある程度手加減してるんだろうから、こっちはお前さん達ほどじゃないな。それでもはっきりと聴こえるのヤバいだろ》

 

 自分たちでコレなのだ、学生組は大丈夫なのかとチラッと後方に居るはずの彼らを血染が視線を向けてみれば出久達は正門近くで壁があるということ、その状態で耳を塞いでいるからだろうか自分たちよりはマシらしい。

 

 その証拠に出久と鋭児郎が心配そうにこちらを見る余裕があるほどというのを考えれば、確かに火伊那の言う通り手加減はしているらしい、最も爆心地に近い自分たちには何ら慰めにはならないのだがと彼は痛む頭を抑え込みながらダメ元で通信機に向かって。

 

「スカーレット、もう止めろ。味方の被害のほうがデカくなる!」

 

「AaaaAaaa……ふぅ、なによ、そこまで……」

 

「派手にやるな、味方殺し」

 

「っ! ちっ、あれでどうにかなるとは思ってなかったけど無傷ってのはムカつくわね」

 

 強めには叫んでないでしょうがとレイミィが言うよりも先に屋敷の方から不可視の衝撃波が彼女を襲うもそれを難なく両爪で切り払い、見れば無傷の赤霧の姿がそこに。

 

 これには体勢を整え直している血染達も驚愕すると同時に流石にそこまで甘くはないかと構える。だが数の差は歴然、AFOを取り込んだ赤霧と言えどコレだけの戦力が揃っている状況ならば、それも甘い考えだったと悟るのに時間はかからない。

 

 赤霧はレイミィに警戒しつつ耳から血を流し気絶している構成員を見てからはぁとため息を吐き出しつつ

 

「何を寝てる、〝立て〟降伏は許さないと言っただろ。さて、初めから本気でやってやるか【Red Mist(深紅の悪魔)】」」

 

「は? あんた状況を理解して……まさか、やったわね!!??」

 

「貴様も殻木にやったことだろ、何を驚く必要がある」

 

「……まるでグールって奴だな」

 

 告げられた指示に気絶していたはずの構成員が一人、また一人と起き上がる。だがその目には生気は無く、それでいながらもしっかりとした動作で戦闘態勢に入る姿にエンデヴァーが言葉を漏らす。

 

 赤霧は始めから開幕で全滅させられるだろうという予測は立てていた、だからこそ構成員全員に予め魅了を掛けていたのだ、それもレイミィが殻木に施したものよりも更に強力で自我というものすら傷つけてしまうようなレベルのものを。

 

 自我はある、けれど赤霧に指示されればその微かな物すらも無くなり彼女の指示通りに動き出す生きた屍と同様な存在になる。エンデヴァーがグールと言ったがそれは間違ってないだろう。

 

「総員、最後の最後まで立ち向かい、奴らを突破しろ。街に出て地獄を作り出せ」

 

「こいつっ! 全員、ヤクザを一人でも外に逃がしちゃ駄目!!! 一人でも抜けたら無差別に殺しが始めるわよ!!」

 

「くそっ、スカーレット、そっちは任せるぞ!!!」

 

「言われなくても分かってるっての!!」

 

 言うよりも早くレイミィが赤霧に強襲を仕掛け、挨拶代わりに爪を振り振り下ろし、対して赤霧も〝個性〟で腕に作り出した紅い『結晶』で迎撃、爪と当たったとは思えないほどに甲高い音が響くが即座にそれは連続した打撃音にかき消された。

 

 対して血染達も不退転の決意と言わんばかりに武器を構え突撃しながら攻撃してくる構成員を相手にしていく。一人ひとりはなぜか〝個性〟を使ってこないが故に弱いと言えるのだが、何が厄介かと言えば

 

「まるで気絶する気配がねぇぞコイツラ!」

 

「そりゃそうだろうよ、コイツラはもう気絶してる。そのうえで動いてんだ、足を折られても張って命令を遂行しようとしてくるぞ!!」

 

「ウラビティ、大丈夫か!?」

 

「まだ平気や! けど、数が多すぎる!!」

 

 止まるという概念がないのだろう、構成員達は只管に赤霧からの命令を遂行するべく前進を続け、妨害してくるヒーローと警察には激しい攻撃を行う。もしこれが脳無のような存在であれば便利屋はスイッチを切り替えて殺して止めるという荒業を行えたかもしれない、だが相手は人間であり、もっと大きな問題としてこの場にはヒーローと警察が居るというのが彼らのいつものやり方がやり難い状況を生み出し苦戦に繋がっている。

 

「コンプレス、圧縮はまだ行けるな」

 

「問題ない、でも数が数だ、このままじゃ、抑えきれなくなるかも」

 

「あぁ、もう! ステインくん、これもうブラッドチェーンで足とか手を串刺しにして止めるじゃ駄目なんですか!!」

 

「縛り上げるで止めろ。串刺しでもコイツラが止まるとは思えん。トゥワイス、ウラビティとコンプレスの数を増やせ」

 

「やってんだが、俺へのマークが強すぎてっと! 悪い、ホークアイ助かった!」

 

《便利屋が集中的に狙われてるなコレ、囲まれ始めてる、一旦下がれ!!》

 

 トゥワイスが愚痴るように言葉にしたが、彼の〝個性〟によるコピーの量産もレイミィと戦いつつ隙を見て〝個性〟による妨害を行ってくる赤霧とヤクザたちの捨て身行動で生み出した側から消され、数の優位を作れなくなっていた。

 

 その原因としては初動の弾幕で消されたことと、前に出過ぎたことが挙げられる。主に後者は彼自身の凡ミスだとしか言えないのだが、どうしても便利屋として動くとなると固まって前に出つつ、状況によって生み出すコピーを変えるというのが必要なので仕方がない部分もあるのだが。

 

 だが幸いにも全く生み出せていないというわけではない、徐々にだが数を増やすことには成功しており、またプロヒーローや警察、BIG3はもとより後方支援の出久達の活躍もありなんとか屋敷から出すことは阻止できてはいる、無論、楽勝というわけではなく、そしてまだ最大の不安要素が解決したというわけではない。

 

「にゃ、ろ!!」

 

「ふんっ!!」

 

 互角のように戦っているレイミィと赤霧、けれどグラントリノには、エンデヴァーには見えていた。あそこまで命を削るような強化をしたレイミィでもほんの僅かに押しきれてないということを、更に言えば徐々にその動きも悪くなり始めているということも。

 

「どうした、さっきよりも動きが悪いぞ。まぁ無理もないか、そんな身体で5つも〝個性〟を同時発動させているのだからな」

 

「はん、そっちだって始めから切り札を使わないと私の相手ができないのに生意気言ってんじゃないわよ」

 

 不敵な笑みを浮かべながらレイミィは更に攻め続ける。確かにタイムリミットは迫りつつあるがそれでも攻撃を緩める理由にはならず、このまま攻め続ければ少なくても赤霧の勝利条件は阻止できる。

 

「……そうだな、ならば追加で使おう。例えばこういうのはどうだ?」

 

 数を数得るのも億劫なほどのぶつかり合い、数度目の鍔迫り合いになったと同時に赤霧が呟き、それからドスッと言う音がレイミィの耳に届いた。何かを刺された、見れば胸に時計の針のように変化している赤霧の髪の毛が突き刺さっており、何をされたと考えるまでもなく変化が彼女を襲った。

 

 動きが遅くなった。さっきまで出来たはずの高速移動がまるで出来ず、まるで自分の体の時間が遅くさせられたかのような変化にレイミィは一つの推測が浮かんだ。

 

(こいつまさか、死穢八斎會の構成員の〝個性〟を全部!?)

 

「終わりだ、このまま死ね」

 

「おっと、悪いがそれはノーサンキューさ!!!」

 

 まともに動けないレイミィに赤霧がとどめを刺そうとした刹那、二人の上空から聞き覚えしかない声が響き、そして隕石でも落ちたんじゃなかろうかという音と衝撃を伴った落下で現れたのは黒い強化服ともアーマーとも言える姿の大男、彼は二人の間に割って入るように現れ、それからレイミィに向けいつものような笑みで。

 

「平気かい、スカーレット少女!」

 

「っ! ふっ、はぁ、えぇ、助かったわ……【オールマイト】」

 

「オールマイト、だと?」

 

 本来ならばもっと未来で開発が始まるはずのアーマードオールマイト、その試作の試作とも言えるパワードスーツを纏ったオールマイトのエントリーである。




 また強化もらったのに勝ちきれないの本当にレイミィちゃん……

 あとこのタイミングでオールマイトのパワードスーツ出したのはまぁ多分、もう出すタイミングがそんなに無いからというメタ的な理由。

便利屋メモ
【ヴァンパイア・クイーン・モードエリザベート(鮮血魔嬢)
【吸血姫】をベースに【劣化耐久】【劣化超再生】【劣化拡声】【劣化竜化】を同時発動させた姿。なお、今回は赤霧との戦闘のためにクイーンモードで発動したがモードエリザベート自体は通常でもプリンセス状態でも使用可能。
今回の見てくれのデザインはFateのエリザベート・バートリーをそのままの姿で大人にした感じだと思ってもらえれば。

因みに彼女が放った広範囲音響攻撃はエリザちゃんの宝具の劣化版。なお、コレもクイーンじゃないと撃てないとかはないのでやろうと思えば日常的に使える模様。
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