便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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No.172『激闘』

 オールマイトの参戦、だがここまでの間に誰かしらの記憶にはこのNo.1ヒーローがこの場に来るという記憶はなく、だからこそ赤霧にとっては想定外でしか無かった。

 

 目の前のレイミィからも同じ結果、つまりこの場の誰もが彼が来るということを聴いていないと言うことであり、そこから向こうが張った作戦、いや、コレは最早作戦とすら言えない、なぜならば

 

「来る〝かも〟しれないの一点張り、随分な賭けをやったものだな」

 

「いいえ、絶対に勝てる賭けよ。だってこのナチュラルボーンヒーローが騒ぎを聞いて大人しくしてるわけないもの」

 

「HAHAHA! そういうことさ、まぁ正直に言うと急に始まって驚いてるけどね!」

 

 策を幾ら練ったとして記憶を覗かれればバレてしまう、ならば作戦に加えてないイレギュラーを存在させれば良い。そう考えレイミィは一つの博打を打つことにした、つまりはオールマイトには何も知らせないで事が起きたら勝手に来ないかなと言う話なのだが。

 

 はっきりと言えば作戦でもなんでも無く、何だったらオールマイトは既に活動限界も近付いていることを考えれば周りに止められて来れない方の確率が高い分の悪い賭けだったが、結果はご覧の通り。

 

「ま、どうであれ助かったわ。貴方が来てくれるだけで赤霧と戦いやすくなる」

 

「……そう言ってもらえると嬉しい限りではあるが、今の私でどこまでやれるかというのが本音だよ」

 

「なんだぁ? 俊典が随分と珍しい弱音を吐きやがるじゃねぇか」

 

 現れたグラントリノにオールマイトもだがレイミィも驚いた表情を見せる。まだ向こう側ではヤクザの構成員を止めようと戦闘が繰り広げられている音が聞こえるというのに来る余裕があったのかと。

 

 それを見たグラントリノは問題ないから来たんだってのと口にしてから、更に続ける、曰く。

 

「便利屋が気張ってやがってな。援護は出来ないから機動力がある俺が向かってくれって」

 

「なるほどね、でも大丈夫? 御老体にはきつい相手じゃなくて?」

 

「はん、伊達にこの歳までヒーローはしてねぇよ」

 

「無理はなさらないでくださいよ、グラントリノ」

 

「……そうか、グラントリノなのか。随分と老けたものだな」

 

 どこか懐かしむような声の赤霧にグラントリノは頭を掻きつつ彼女を見据え、記憶の中の姿と一寸違わないその姿に彼は向こうの世間話に合わせるように口を開く。

 

「そういう、お前さんは老けなさすぎなんだっての。にしてもだ、まさか本気でやり始まるとはな、あん時はただの理想論を語ってるだけだと思ってたんだが」

 

「悪いけどお喋りはこいつをぶちのめしてからにして欲しいわね、正直あまり長く維持は出来ないのよコレ」

 

「待ってくれ! 赤霧、一つ教えてくれ、君の狙いはなんなのだ?」

 

 時間がないって言ってんだろお前、その言葉がレイミィの口から出てくることはなかった。言葉を飲み込んだとかではない、彼女がそれを言おうとして振り向いたときにはオールマイトは赤霧に顔面を捕まれ、地面に叩きつけられていたと言うだけである。

 

 動いたということすら認識すらできなかった、いや、彼女はそれを否定する。僅かな空気の動くすら感じなかったことから赤霧は物理的な移動をしたんじゃなく短距離テレポートに類似する〝個性〟を使ったのだと。

 

「がっ!?」

 

「よりによって貴様がそれを聞くのか、オールマイト」

 

「私を無視とは見上げた根性ね!!」

 

 叩きつけられたオールマイトをフォローするためのレイミィからの尻尾での攻撃を片手で流し、続けて死角から現れたグラントリノに〝個性〟による衝撃波で距離を取らせる。

 

 だがその僅かに出来た隙でオールマイトは赤霧の腕を掴み力任せに放り投げ、即座に追撃を掛けるが速度に物を言わせ全て回避、逆に反撃に放たれた拳を防ぐのだが想定以上の威力に思わず数歩下がってしまう。

 

「(なんという威力! いや、それよりも)どういうことだい、それは」

 

「貴様の存在が今の愚民どもを生み出した、その意味が分からないとでも言うのか?」

 

 全てをヒーローに押し付け、自分たちは素知らぬ顔をし、なにか被害を被れば彼らを責めるだけの存在を、それを許してしまう社会を作ったのは貴様だ。淡々と告げられた言葉にオールマイトは何も言い返せなかった。

 

 違うと反論しようにも彼自身も間違っていると言えるものではないと分かってしまっているから。何よりも赤霧、もといスカーレットデビルがその群衆によってヒーローを、この今の社会から追い出されてしまった存在だと知っているから。

 

 何かを言おうとしてもそれが浮かばない、笑おうにも笑えない、それでもオールマイトはグッと前を向き彼女を見据え答える。

 

「あぁ、そうかもしれない。だからこそ私が出来ることは何でもしよう、この社会が君の言う通り歪んでしまっているというのならば全霊をかけて正そう」

 

「……ならば、今すぐにでも正してみせろ。愚民どもに言えばいいだろ、今の考えを捨てろとっ!?」

 

「グチグチグチグチ、ウザったいのよ! んなことは言われなくても分かっててやろうとしてんのがわからない訳じゃないでしょうに!」

 

 尻尾、爪、拳、脚、身体全体を使いつつ、更に〝個性〟の【劣化固定】まで利用した乱撃。並の(ヴィラン)であれば一秒と耐えられずに沈められるはずのそれを赤霧は【吸血姫】と【AFO】で吸収した〝個性〟を使い捌き、彼女へ反論する。

 

「貴様らのやり方じゃ遅いと言ってるんだ!」

 

「だからこそお前さんが魔王になるってか」

 

「魔王!? それはどういうぐっ!? どういうことなのですか、グラントリノ!!」

 

「言葉の通りだオールマイト、私は全てを0に戻す。ヒーローも(ヴィラン)も破壊し、魔王として世界に君臨する」

 

 君臨し、愚民どもを管理する。断言した赤霧の瞳は本気だということを言葉で聞かずとも分かる色をしていた。このままではいずれ手遅れになると、彼女は思いその手段としてそれを選んだのだと。

 

 けれどそのやり方を彼らが認められるはずがない。もし遂行されてしまえば、その過程で生まれる犠牲は計り知れないものになるのだから、何よりも今を壊すということはそこで懸命に生きている人たちを無視するということでもある。

 

 故にオールマイト達は彼女を止めるべく、果敢に攻め立てる。同時にオールマイトは彼女に言葉を投げ続ける、過去を知ったからこそ赤霧は、エルジェーベト・バートリーはまだ止まれるはずだと。

 

「赤霧、いや、スカーレットデビル! 君はそれを理解できないわけじゃないだろ!!」

 

「その犠牲も込みの話だ!」

 

「何言ったって無駄よ、オールマイト。こいつはもうブレーキなんてものは壊れてんだから」

 

「俺もこいつと同意見だ。もし止まれるんだったら、志村菜奈の時点で止まってただろうさ」

 

 志村菜奈。その名前が出た瞬間、赤霧の表情が懐かしい名を聞いたとばかりに若干だが動く。けれど動いただけであり、赤霧はすぐに表情を戻し、グラントリノに言う。

 

「懐かしいな、だが菜奈が居たとしても私は止まらないさ。もうその時点で人には失望してしまってたからな」

 

「そうか? あの日のお前さんはまだ信じてたように見えたぜ」

 

「……ふふっ、グラントリノ、貴方も意外と人を見る目がないようだな」

 

「疾っ!!!」

 

 語る言葉はもうないとばかりの態度を見せた赤霧にレイミィが隙だらけだと上空からの強襲が襲い掛かるが、その一撃は透明な膜のようなものに遮られる。

 

 全力での一撃を防がれたことに驚きながらもこの膜の正体を彼女は即座に看破、記憶が正しければこの〝個性〟も死穢八斎會、その中の八斎衆の一人が所持しているはずの〝個性〟【バリア】だと。

 

「ちっ、〝個性〟をそうやって幾つも持ってるって卑怯でしょ!」

 

「貴様がそれを言うのか。グラントリノ、貴方にはもう動かないでもらう!」

 

「うおっ!?(ブーツが!?)」

 

「グラントリノ! 今のも〝個性〟か!」

 

 動き出そうとしたグラントリノだったが〝個性〟の制御に使っていたブーツが突如なくなったことでバランスを崩し明後日の方向へと飛んでいきそうになるがオールマイトが直ぐに受け止める。

 

 見れば赤霧の手には彼のブーツが握られ、そして【崩壊】してしまった。これによりグラントリノはこの場において戦闘不能となったのを見てから赤霧はレイミィと向き合うが、当の本人は肩で呼吸をする程に疲弊していた。

 

「ぜぇ、ぜぇ……」

 

「なんだ、もう限界か」

 

「オールマイト、まだ動けるわよね」

 

「勿論だとも、と言いたいがパワードスーツがこちらもそろそろ限界だ」

 

「すまねぇな、二人とも。俺はもう無理だ」

 

 正確に言えばグラントリノもまだ戦えないわけではないが赤霧が相手では足手まといにしかならない。そしてレイミィも無理に無理を重ねた〝個性〟の同時発動で限界が近く、オールマイトのパワードスーツも火花やスパークが走るくらいには耐久限界が近づき始めていた。

 

 肝心のエンデヴァー達はまだ死穢八斎會の組員によるゾンビアタックによって足止めされており、こちらに来ることはまだ難しい。ともすれば次で決めるしかないとレイミィは体に活を入れ、息を整える。

 

「さて、行くわよ!」

 

 ぐっと踏み込んで加速した刹那、身体の中から何かが逆流し口元から鮮血が溢れ出たがすぐに吐き出しながら赤霧に襲い掛かる。それをはっきり見てしまったオールマイトは声をかけようとするが今はそんな場面じゃないと感情を押し殺し、スーツの性能ギリギリまで稼働させ彼女に追従する。

 

 対して赤霧はまずレイミィからの初撃を一瞬だけ展開した【バリア】で防ぎ、追従してくるオールマイトに【結晶】に【射出】という〝個性〟を合わせることで弾幕を作り牽制、牽制しつつ再攻撃をしてきたレイミィに【強肩】を利用した乱打で釘付けにする。

 

 無論、レイミィもオールマイトもただやられるだけではない。乱打を防ぎつつ口を開け【劣化拡声】による音波攻撃を繰り出せば、流石に音を【バリア】でも防ぐことは出来ないらしく赤霧は乱打を止め、衝撃波で迎撃。それにより一瞬だけで来た隙に差し込むようにオールマイトが懐まで潜り込んで渾身の右ストレートによる『DETROIT SMASH』を打ち込む。

 

「ぬぅ!?」

 

「ちっ、咄嗟の【個性強化】と【結晶】じゃ防ぎきれないか、だが耐えられたのならば私の勝ちだ!!」

 

「くっ!(しまった、パワードスーツの腕部分が!!)」

 

 しかし、胴体へ放たれた渾身の一撃は先程よりも更に硬くなった結晶によって威力を殺され、届く頃には重いには重いが赤霧にしてみればまだ耐えられる程度に威力になってしまう。更にその腕を掴まれたことで咄嗟に退いたことで腕自体は無事だったものの、【崩壊】によってパワードスーツの腕部分が崩れてしまい使い物にならなくなってしまった。

 

 けれどオールマイトは諦めたりしない、いや、彼にしてみればあの一撃で倒すのが役目ではない。大事なのは少しでも自分に意識を向けさせるということ。流石に完全にオールマイトだけをと言うのは無理であろうとも、レイミィへの比重が減ればそれでいい、なぜならば、その間にレイミィが懐に入り込めれば良いのだから。

 

「貰った!」

 

「気付かないとでも思ってるないだろうな!」

 

 目で追うのも無理だと言えるほどの速度で懐に潜り込もうとするレイミィを迎撃するための攻撃が振るわれるが、赤霧は直ぐに違和感を感じ取る。振った先に手応えがまるでないと、まさか読み違えたかと回避しそうな場所に意識を持っていってしまった時、レイミィの嘲笑するような声が赤霧の耳に届く。

 

 彼女は別にあの迎撃を回避したわけではない、振るわれる直前に【劣化固定】により動きを止め攻撃範囲に入ってなかっただけ、それから赤霧が意識を他に動かしたと同時に解除し懐に飛び込んだのだ。そのことに赤霧は気付くも既に遅い、そこには右腕を貫手にし必殺の一撃を放つ直前のレイミィの姿。

 

「じゃあね、話ならあの世で聞いてあげるから」

 

「っ!!!」

 

 防げない、手持ちにあるどの〝個性〟が発動するよりも早くレイミィの右手が自分の心臓を貫く。赤霧が確信したと同時にその真紅の槍と化した右手が胸を貫き……心臓を軽く刺した所でレイミィの右腕が弾け、腹部数カ所に地面から突如、現れた棘が彼女を貫く。

 

「そうは問屋が卸さないって言葉知ってるか、便利屋?」

 

 笑いながら黒い靄から現れたのは死柄木、その右手はレイミィの腕があった場所に、左手は地面に触れ、攻撃が彼のものだと言うことを示しており、レイミィはなぜ赤霧が死穢八斎會を狙ったのか本当の目的を理解する。

 

「そう、いうことか、アンタ死柄木に【オーバーホール】を渡すために……!」

 

「【崩壊】は使い難いからな。いや、赤霧、これもかなり使い難いんだが」

 

「使えてるんだからわがままを言うな」

 

 ヴァンパイア・クイーンと全ての〝個性〟が解除され血を吐きながら地面に膝をつくレイミィ、オールマイトも既に満身創痍、他のヒーローが来るには僅かに時間が足りない、状況は一気に赤霧側に傾いた瞬間だった。




この娘、また最後の最後で大ダメージ貰ってる……
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