便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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No.173『事の終わり』

「間一髪でしたね、赤霧」

 

 死柄木、それと彼をここに送り込んできた黒霧も場に現れたことにレイミィは舌打ちしつつ腹部数カ所を貫いている棘を無理やり折ってから引き抜き、その場からオールマイトの隣へ飛び退く。

 

(感覚的に内蔵とかも綺麗に貫通、か。やられたわね……再生に時間が掛るわコレ)

 

「平気かい、スカーレット少女!」

 

「私よりも目の前よ、オールマイトまだ行ける?」

 

 などと聞いてみたレイミィだが見ただけでもオールマイトも戦闘不能に近いというのは分かっており、向こうも首を横に振ったのを見て彼女は舌打ちをすることになる。

 

 自身は言わずもがな、グラントリノもブーツの片方を【窃盗】で盗られ【崩壊】させられたので機動力を考えれば死柄木達の相手は難しい。

 

(血染達は向こうの戦闘音が落ち着き始めてるからもうすぐ来れるとは思うけど、数で不利になったら迷いなく逃げるでしょうし……)

 

 考えれば考えるほど、この状況をひっくり返せる手段がまるでない。ここまで追い詰め、だと言うのにまた逃がすのか、レイミィもオールマイトも苦い顔を浮かべそうになった、その時だった。

 

「ったくよぉ、こんな面白いことやるんだったらもっと早く連絡見るべきだったなこりゃ」

 

 声が上空から響いた。直後、気合の籠もった声とともに強烈な一撃が赤霧を襲うがそれは冷静に真上に展開されたバリアに阻まれてしまうが、防がれたと分かるとレイミィ達の下へ跳んだ攻撃の主の正体を見て彼女はなるほどと呟いてから。

 

「まだ札を隠してたか」

 

「……いや、赤霧、あの反応からすると向こうも想定外なんじゃねぇかコレ」

 

「ミルコ……?」

 

 見れば死柄木が言うようにレイミィ達の反応は想定外だという表情でしかない。そして彼の指摘は正解であり、彼女がこの場に来るということは本気で考えていなかったのである。

 

 理由は一つ、そもそも連絡が付かなかったからだ。ミルコほどのプロヒーローが居るなら楽になるのでと連絡しないわけはなかったのだがしても出ないのではどうしようもなく、なので今こうして現れたことには驚きしかない。

 

「やぁやぁ、速達のつもりだったんだけど、ちょっと遅れちゃったみたいだね」

 

「ホークス……あぁ、なるほど、そういうことか」

 

 オールマイトがこの場に現れることを賭けという形で周りに黙って奇襲を成功させたようにホークスもまた、レイミィのその策に自力で閃き、そして彼女たちでも中々連絡がつかないヒーロー、今回で言えばミルコをを自身の人脈で呼び出し今に至る。

 

 本当ならばもっと他にもと言う考えはあったが事態が急を要する事になっていると予測し連れてこれたのはミルコ一人だったがそれでもレイミィにとっては十分過ぎる戦力であり、彼女は強い倦怠感と激痛を訴える身体を引き摺りながら立ち上がり笑う。

 

「助かったわ、本当に。思ったよりもヤクザの抵抗が激しくてステイン達もこっちに来れないし、ホークアイの援護も難しくて困ってたのよ」

 

「だろうと思って急いだんだよ、お嬢様。オールマイトとグラントリノもご無事で何よりです」

 

「話してるとこ悪いが、私はいつかのリベンジマッチをさせてもらうか!」

 

 獰猛な猛獣のような動くと速さでミルコが赤霧たちへと迫る。流石に一人で向かわせるのはあまりに危険すぎるとホークス、そしてレイミィも動き出す。

 

「(【ヴァンパイア・プリンセス・モードエリザベート】!)ミルコ、死柄木の手には触れないで!」

 

「分かってるっての!!」

 

「寧ろお嬢様こそ無理しないでよ! いや、もう手遅れ感しかないけど」

 

 実際、クイーンがダメージで解除されたというのに無理を押してのプリンセス使用は彼女の残り時間を大きく削る行為でしかない。なにより、赤霧に対してクイーンで対等であり、プリンセスでどうなるかと言えばまずならないだろう。

 

 当たり前だがレイミィもそれは理解しているが、だからといって見ているだけということが出来るわけがない。しかし、現実というものは甘くないというのもまた事実であり、ミルコとホークスの二人と合わせるように赤霧にブラッドチェーンからインファイトを仕掛けるものの、その全ては躱され、いなされ、遂には鋭い一撃が彼女の中心を貫いた。

 

 致命傷、誰がどう見ても言葉にするまでもない致命的な一撃を受けながら、それでも彼女は意識を手放さず血を口から溢れさせながら自身を貫いている赤霧の右腕を両手で掴み【劣化固定】を発動、そして叫んだ。

 

「なっめんな、ホークス!!!」

 

「(動かない!?)ちっ!」

 

「全くもう本当に無茶苦茶をする!!!」

 

「だがその意気込みは好みだ、オラァ!!」

 

 僅かな殺気を拾い咄嗟に身を捻った、次の瞬間にホークスの風切太刀が赤霧の右腕を両断、宙を舞うそれを見つつレイミィはいつかの意趣返しと言わんばかりの光景に笑いつつも地面に放り投げられたかのように転がる。

 

 対して赤霧が残った左腕でホークスを追い払い、迫るミルコには失った右腕から複数の追尾性を含ませた血の鎖を射出し迎撃、その間に死柄木が彼女の腕を拾い上げ〝個性〟で繋げようとするが。

 

「ってコレ、どうやれば良いんだ!?」

 

「無理するな、コレくらいなら元があるなら適当にくっつけることが出来る。しかし、してやられたな」

 

「どうなさいます、赤霧。そろそろ向こうも鎮圧されヒーロー達が来ます、特に消……イレイザーヘッドが来れば我々は無力化されてしまいますし」

 

 一旦仕切り直しだと距離を開けて睨み合う中、赤霧達はそんな会話を始める。ホークス達としては撤退されるのは止めたい所だが黒霧を止めようにも赤霧が邪魔、そこで手間取れば逃げられるという現実は変わらない。またレイミィ自身も既に戦闘不能一歩手前であり、ともすればホークスとミルコだけでどうにかなるかと言えば難しいとしか言いようがない。

 

 最も赤霧側も余裕があるというわけではない。無傷の死柄木や黒霧はともかく、赤霧自身はレイミィから受けた心臓部分の深手と両断された右腕のダメージは決して無視はできず、【Red Mist(深紅の悪魔)】もそろそろ解除しなければマズイという時間まで差し迫っている。

 

 つまりお互いに何一つ余裕がないというのが現状。更に言えば、足止めされているヒーロー達を考えれば、ここまで粘られてしまった赤霧側の方が不利、ともすれば

 

「黒霧、撤退の準備を。死柄木、2人に合図を送る準備をしておけ」

 

「分かったけどよ、また痛み分けで撤退かぁ……」

 

「痛み分けではあるが今回は戦術的勝利はしている。こちらの目的は達成しているからな」

 

「ものは言いようって分かったっての、睨むな怖いから」

 

 軽口を言ってる場面ではないだろうという視線を受けながら死柄木は地面に掌を付けてぐっと力を込めれば、変化はすぐに起きた。

 

 まず気付いたのはミルコ、地下の方から何かが移動する音を耳が捉え、何だと集中してみれば聞き慣れたエンジン音とタイヤが擦れる音の2つ、それは段々とこちらに近寄ってきている事で正体も考えずとも分かった。

 

「……車? 音からしてミニバンタイプかこれ?」

 

「分かるのかよ。まぁだからなんだって話だけ、ど!」

 

 力一杯に死柄木が地面に付けていた手を振るったと同時に彼らの背後の地面が出入り口を伴いながら大きくせり上がって、1台のミニバンがそこから勢いよく飛び出す、その運転席には伊口が居るのだが表情はコレ以上ないくらいに引き攣っていたりする、というよりも

 

「うおおおおおおお!!! 止まれぇぇぇぇぇぇえええ!!!」

 

「全員、逃げろ轢かれるぞ!!!」

 

 着地と同時にドリフトをしながら止まろうとするミニバンに対してホークスの叫びに各自が即座に反応できたおかげで轢かれたものは出ずに済み、車の方もようやく停車し扉が開かれたのだが中から出てきた大男ことマグネの姿を見て死柄木はうわっと声を出してしまう。

 

 控えめに言っても酷い顔だった。それはそうだろう、あの数回のドリフトをしていた車内で恐らくは振り回されたのだから車酔いをしないとしてもキツイものがあるに決まっている。また運転席でなんとか車を制御した伊口も同じような表情を晒していたりする。

 

「おーい、大丈夫か?」

 

「す、スピナー、もう少し、ゴホッ、丁寧な運転をお願い、したいわ」

 

「ご、ごめんマグ姐……」

 

「申し訳ございませんが直ぐに撤退をしますので出す準備を。死柄木、乗り込んで下さい!」

 

「おっと、悪いがそのまま逃がすってわけにはっと!?」

 

「足止めは私がやっておく、早くしろ」

 

 阻止に動いたホークスとミルコだったが赤霧からの衝撃波と左腕に形成した結晶と吸血姫の力による大剣の斬撃の嵐に阻まれ、レイミィもまた動こうとするも身体に力がろくに入らず、仮に入ったとしても

 

「ごっげほっ!?」

 

「無理は止めとけ嬢ちゃん、どっちみちその体で向かった所で返り討ちか、最悪死ぬぞ」

 

「生憎だけど、もう既に死んでる身体なのよ。でも、そうね、これ以上は無理か」

 

「悔しいが、また見逃すしかないか」

 

 オールマイトが口惜しそうに呟いたその言葉にレイミィは反論する。車で逃げるというのならばまだ止める手段は存在すると、忘れてはならないし忘れているわけではないがこの場には彼らしかいないというわけではない。

 

 構成員に足止めこそされているが他にもヒーローが居るし、遠方には火伊那の狙撃だってある。黒霧のワープによる逃亡でもなければいくらでも止めようがあるのだと。それを聞いて、赤霧は笑う、私たちがそれを分かってないとでもと。

 

「随分な自信ね、それともその車が特別で包囲を突破できるとでも?」

 

「あぁ、出来るさ。乗ったな、行くぞ……便利屋、〝次に会ったときが最期だ〟」

 

 全員が乗り込んだのを確認してから赤霧はホークスとミルコを力の限り引き飛ばしてからレイミィを見据え、そう告げてから彼女も乗り込んだと同時に伊口がアクセルを踏み込み、急発進し正門へと猛スピードで突き進んでいく。

 

 無論、それをヒーローと警察が見逃すわけもなく〝個性〟による逃亡の阻止を行おうとするが未だに動きを止めない構成員による妨害で突破され、更にはバックドアが開かれたと思えばマグネが取り出したそれに全員が驚愕する。

 

「機関銃だと!?」

 

「おおい!? 待て待て待て!!! 俺達集合、直ぐにシールドを展開!!」

 

「ぶっ放してやれ、マグネ!!」

 

「往生しやがれぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 雄叫びとともに機関銃が吠えれば、ミニバンを追っていたヒーローと警察に弾幕が襲い掛かる。それを仁がコピーと共にシールド装置による共振で壁となり防ぐが、同時にこれによって短時間とは言え足を止められてしまう。

 

 ならばと今度は火伊那がミニバンを照準を合わせるが車は既に市街地の道路に侵入寸前であり、勝負は一発限り、だが問題ないとばかりに神経を集中させながら

 

《こちらホークアイ、撃てるぞ》

 

「やって!!」

 

《了解、悪く思うなよ》

 

 昼間の市街地に何度目か分からない銃声が響き、放たれた一発の弾丸は吸い込まれるようにミニバンの前輪の片方を撃ち抜いたと思えば、勢いそのままにもう片方も貫く。

 

 これにより制御を失ったミニバンは甲高い音を響かせながらスリップし、近くの建物の壁に追突、そして……爆発した。

 

「え……? あの、爆発しちゃいましたよ」

 

「おいマジかよ、やり過ぎだろコレ」

 

「ホークアイ、お前どこ撃ち抜いた」

 

《タイヤに決まってんだろ、そもそもエンジンを撃ち抜いたとしても爆発まではしない!》

 

 想定外過ぎる光景に思わず反射的なセリフを吐く面々に火伊那も吠える形で反論、同時に構成員も見えない力が解かれたかのように全員が倒れるがレイミィはそれを見て、まさかと痛む身体を動かし爆発した車へと近寄る。

 

 現場には見るも無惨な光景であり、車内に居た人間は赤霧以外は例外無く死んでるとしか思えない状況だが彼女はそっとしゃがみ込み、それから呟く、逃げられたと。

 

「どういうことだ?」

 

「コレを見て、多分だけど爆発物の破片だと思う」

 

 爆発によって飛び散った車の残骸、その中にあった別の破片を指差し、エンデヴァーがそれを拾い上げ見てみれば、確かに車の部品とは思えない代物だった。

 

 ともすれば推測できるのはこの爆発事態が人為的に起こされてものであり、それが指し示す答えは唯一つ、赤霧達は初めからこの逃亡ルートを決めていたということである。

 

「なるほどな。また奴らにしてやられたということか」

 

「えぇ、悔しいけどね」

 

「……ホークス、奴らの拠点を抑えたと言っていたな。どうだ」

 

 え、なにそれ初めて聴いたんだけどとレイミィが声を上げるがエンデヴァーは無視、ホークスは後で話すねと伝えてから塚内警部からの報告を二人に伝える、曰く。

 

「現れなかったらしい、ともすれば別の拠点を用意していたってことになりますね」

 

「簡単には捕まってはくれないか」

 

 死柄木組は逃亡、死穢八斎會は若頭であった治崎廻と組長以外はほぼ壊滅、ヒーロー及び警察には死者こそ出なかったが重軽傷者多数という結果にてこうして今回の事件は一旦の終息を迎えるのであった。




毎回毎回、赤霧達と戦うと痛み分けで終わるなこの作品(展開下手並感)
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