連絡を受け、彼女が雄英高校に戻るのに数分と要らなかった。事前に根津校長にも事態を連絡しておいたお陰で上空からそのまま寮の前に着地、その脚で直ぐに保健室へと向かい、入口前にて。
「燈矢、状況は」
「今、イレイザーヘッドが〝個性〟で抑えてはいるってところ。ただ壊理が不安定になってて〝個性〟が収まりそうにないって感じ」
「リカバリーガールは?」
「中で声をかけ続けてる。んで俺は追い出された」
「分かった。貴方はこのまま待機してて」
レイミィからの指示に了解と答えた燈矢に見送られながら保健室の扉を開ければ、中にはリカバリーガールとコピーのイレイザーヘッドの姿がそこにあり、その奥には蹲り怯えるように震えている壊理の姿も。
状況だけを見て判断するなら、突発的な〝個性〟の暴走なのだろう。本来であればあの歳くらいの少女なら既に制御できるはずなのだがそれがないという事は死穢八斎會、もとい治崎廻は碌な訓練を彼女に施してないということがよく分かる。
「待たせたわね、リカバリーガール。あとは任せて」
「やっと帰ってきたかい。私じゃ近寄ることも出来なくてね、済まないが任せたよ」
「えzぇ、それよりも……なんだか肌の艶が戻ってるわね」
言いながらレイミィはリカバリーガールを見る。その姿は今朝よりもなんというべきだろうか、いや、単刀直入に言おう、若返っているようにしか見えなかった。
つまり彼女は壊理の〝個性〟に若干巻き込まれたのだろう。それを察して上記のセリフを言えば、リカバリーガールは今言う事かいという感じの視線を向けてから
「私からすればこの程度じゃもう誤差だよ、それよりも早く行ってやりな。アンタなら問題ないんだろ?」
「えぇ、勿論。一応、離れててちょうだい、イレイザーヘッドも〝個性〟を解除してくれていいわ」
コピーのイレイザーヘッドにそう指示を出し、レイミィは壊理の元へと歩き出す。その足音に気付いたのだろう、少女はパッと顔を上げると同時に叫んだ。
「駄目!! 私に近付いたら、お姉ちゃんが消えちゃう!」
悲痛な声で出された警告にレイミィは歩みを止めない。それを見て壊理は向こうが止まらないならと〝個性〟を抑えようとするが今までそんな訓練をしてなかった彼女が即座にできるはずもない。
もう駄目だと言う感情が少女を包み、過去のトラウマを思い出してしまったのだろう。ギュッとこれから起こることから目を背けるように瞑った壊理が感じたのは頭に乗せられた手の平の感触だった。
〝個性〟が未だに発動している、なのに誰がと目を開けた少女が見たのは瞑る前と変わらないレイミィの姿。
「え?」
「あら、どうしたのかしら? まるでありえないものを見たという顔をしているけど」
「だって、私の……」
こうして話している間も〝個性〟の発動は止まらず、だとすれば彼女の身体は段々と巻き戻っていくはず。だと言うのにレイミィにその様子はなく、それを見て壊理は混乱する。
どうして? なぜ? そんな疑問が少女の頭の中を支配していく中、レイミィはフフッと笑ってから彼女に視線を合わせて
「貴女の〝個性〟が私に通じるはずないでしょ。だって私、【吸血姫】だもの」
「?」
「吸血鬼たる存在の姫よ? 人間の〝個性〟程度でどうにかなるわけないじゃない」
「……そうなの?」
何を行ってんだあの小娘はと言う視線がリカバリーガールが送られるがレイミィはガン無視を決め込み、壊理にえぇと告げながら落ち着かせるように頭を撫でる。
とは言え、いつまでも〝個性〟が暴走じみた感じに発動させたままではいられない。そもそもの原因としてどうして急に制御を離れて発動したのかと試しに壊理に聞いてみるが分からないという感じに首を横に振られる。
燈矢との連絡を思い出してもそれらしいことがあったとかもなく、そこから考えられるとすれば壊理の額の伸び切ったような長さになっている角、これが彼女の〝個性〟の力を貯めていたが限界が来たが故に発動してしまったと推測。
「(んで、この娘自身はトラウマと訓練をしてないから抑えることも止めることも出来なくてってところかしら、なら)壊理、まずは深呼吸をしましょう、3つ数えてから息をゆっくりと吸って」
「う、うん……ふぅ」
「そう、また3つ数えて、息を吐いて、またそれを繰り返して」
まずは落ち着いてもらうように指示を出し、壊理もレイミィが消えないということに僅かに落ち着いた部分もあったのか指示に従い深呼吸をゆっくりと繰り返す。
数度繰り返した所で落ち着きをある程度取り戻したのを確認してから、続いてレイミィは壊理に〝個性〟の落ち着かせ方を話し始める。
「さて、良いかしら壊理。〝個性〟ってのは正体不明な物じゃないの、これは貴女の一部よ」
「一部……」
「ええそうよ。昔のことが合って怖いかもしれない、けれど否定しても解決しないわ、だから受け入れなさい、これは自分の一部、今さっきみたいに落ち着いたときのように〝個性〟を落ち着かせてみなさい」
「できる、かな」
「大丈夫、出来るわよ」
彼女からのはっきりとした言葉を壊理は信じ、先程のように深呼吸する要領で〝個性〟へ落ち着くように促してみることに挑戦していく。
一方、リカバリーガールと燈矢の二人は保健室の入口でその様子を声を掛けるわけにも行かず眺めていると、燈矢のスマホに着信が入り出てみれば
《血染だ、そっちはどうだ?》
「どうも副所長さん、こっちは所長さんが今、壊理ちゃんを落ち着かせてて順調って感じ、そっちは?」
《事後処理が終了して引き上げるところ。それよりも被害は出てないんだな》
「被害、被害って言っていいのかこれ?」
曖昧な言葉に血染がどういうことだと告げてくる中、燈矢は隣のリカバリーガールに視線を向ける。
先程もレイミィが指摘したと思われるが若返ってしまっている。これは壊理の〝個性〟が暴走しイレイザーヘッドが抑えに入るまでの僅かな時間だけ【巻き戻し】を受けたからなのだがはっきり言えば、誤差とも言える範囲なのである。
しかも本人も誤差だと言ってるのでこれを被害と言えるのかどうかというのが燈矢の悩み、だが報連相は大事だよなと思い、それを伝えれば
《そうか、その程度で済んで良かったと言うべきか。分かった、これから学園に戻るとバートリーに伝えておいてくれ》
「了解、ってスピーカーにしときゃ良かったな」
「便利屋からかい? その感じじゃこれから帰ってくるって連絡ってところか」
「正解だよ婆さん、一応そっちのことを被害者ってことで報告上げちまったけど」
被害という言葉にリカバリーガールはあまり良い顔をせず、寧ろ僅かとは言え若がったことに対して
「益でしか思ってないんだけどねぇ。腰痛が楽になってるんだよ」
「そりゃ良かった。ん、おぉ所長さん、落ち着かせたみたいだな」
視線の先には渦巻いてたような〝個性〟の暴走はなくなり、抱きつき怖かったと泣き付いている壊理とそれを受け止めながら良くやったわと褒めるレイミィの姿。
とりあえずは一件落着ということだろう。しかし、今回は被害も殆ど出さずに〝個性〟を止めることに成功したということだけであり、今後は壊理の〝個性〟訓練は必須だとレイミィは感じるしか無かった。
「(まぁ、その辺りも初めからするつもりだったから良いのだけれど)明日からは〝個性〟の訓練をしていく必要があるわね」
「訓練、そうだよね、自分で制御できなきゃ……」
「分かってるならよろしい。でも大丈夫よ、今回できたってことは貴女に制御は可能だってことだから、それに私も付き合うから」
だから頑張りましょと改めて頭を撫で、微笑みかける。それを受け取った壊理もぎこちなく頷くのを見てレイミィはそれだけじゃ駄目よねと思案する。
彼女、壊理はこれから苦労することになるだろう、だと言うのにご褒美も無しじゃ死穢八斎會と変わらない、無論今日は腕によりをかけたオムライスとかを出すつもりではあるがそれはそれ、うーむと考えてから閃く。
「そうね、〝個性〟を完璧にオン・オフが出来るようになったなら私の部屋にあるヌイグルミを上げるわ」
「ヌイグルミ?」
「そ、私が上げたTシャツに描かれてるイラストのやつ」
それはつまるところ例の【変な生き物シリーズ】なのだが、壊理はそれを思い出し、だったらとレイミィにリクエストを出した。
これは彼女にとっても初めての行動、今までは抑圧され自分を出すということも出来なかった少女が見せた初めての希望、内容は……
「だったらあの鳥のぬいぐるみが良い」
「お、良いセンスしてるわ貴女、それは私の一押しだもの」
二人がそんなやり取りをしてる中、遠く離れた死穢八斎會の屋敷に居た筈のお茶子は唐突に何かを受信したとばかりに雄英高校の方角を見る。
その動きはヒーロー活動中のそれであり、出久達は驚いてから梅雨が彼女にどうしたのかと問い掛けてみれば。
「マズイ、壊理ちゃんが完璧にレイミィちゃんの趣味に染まった気がする」
「……えっと?」
無論、その返答を理解できるかと言われれば梅雨の反応が全てだろう。とりあえず壊理とレイミィが何かやり取りをしたというのがギリギリ分かるかどうかというライン。
クラスメイトでそれなのだ、何も事情を知るはずもない周りのプロヒーローからすれば最早理解不明というレベルであり、寧ろ赤霧達が何かこちらが感知できない〝個性〟でも使った影響か? と考えたほうが早いまであり、だからこそミルコは近くに居た鋭児郎と出久に聞いてみるが。
「一体何を言ってんだ?」
「お、俺もちょっと分かんないっすね」
「えっと、多分ですけどバートリーさんのことだとは思うんですけど、僕もそれ以上は……」
聞かれた所で分からないが本音である。恐らくはと言う部分はあるが確信もできない以上、下手な返答をし、それがレイミィの耳に入った場合が怖いので黙っておくのが正解だと察したとも言えるのだが。
ともかく、何が起きてるかというのは自分たちも帰らないと分からないということであり、ミルコもだろうなと思っていたようでそれ以上は聞かずに離れていったのを確認してから出久は断りを入れオールマイトの元へと向かう。
向かう理由は今回のことで気になることがあったから。というのも彼自身がではなくOFAの中に居る先代達の意識が言ってた言葉にあった、それは……
「待ってくれ、本当にそう言ってたのかい?」
「はい、バートリーさんと赤霧が戦い始めた辺りから先代達がはっきりとではないけど感じたと」
「こりゃ、思ったよりも簡単な話じゃなくなってきちまったな」
その内容にオールマイトは勿論、近くで聞いていたグラントリノにホークス、そして便利屋の面々も複雑な表情を浮かべる。
はっきり言えば想定外でしか無く、同時にあり得る可能性だったと少し考えれば思い付く話じゃないかと思わざるを得ないものだった。
「仮にそうだとして、もし赤霧も同じだとすれば」
「あいつの目的は俺達が思うような単純なものでもなく、いや、オールマイト、あいつは魔王になると言ってたんだよな」
「言っていたが、そうか、そういうことか!」
オールマイトが何かを閃く、同時にこの推測が正しいとなると赤霧が言ってたことの意味が変わるということも意味していた。
彼女は言った、己が二代目の魔王となり世界に君臨すると。そこに至るまでの犠牲も全て抱え込むと言わんばかりの言葉に含まれているであろう別の意味が生まれると。
「でもレイミィちゃんは知ってるんですかね?」
「神野で嬢ちゃんは赤霧の血を吸ってるだろ、それから記憶を読み取れるようになった、その中に含まれてたとすりゃ知っててもおかしくない」
「そのうえでお嬢は赤霧を仕留めようってしてるんだよな?」
「いや、だが、けどあり得なくはない……?」
圧紘が何かに思い至る。彼女ならば取りうる選択肢を、そして赤霧も仮に同じだとすれば? オールマイトも彼の推測とほぼ同じであり、血染もそこには至っていた。
だからこそ確認する必要がある。聞いたとしてはぐらかしてくるだろう、けれどコレばかりはなぁなぁで済ませられる問題ではないのだから。
出久が先代達から聞いた言葉、それは今のように彼らの大きな衝撃と一つの可能性を思いつかせるのに十分は話だった、その内容というのは
〝レイミィ・バートリーとエルジェーベト・バートリーからAFOの個性因子に秘められた意思を感じた〟
死穢八斎會の物語は幕を下ろした。されど残された問題は更に大きく、そして二人の【吸血姫】の描く結末にこのままだと辿り着いてしまうことを示していた。
ではこれが年内最後の更新となります。いやぁ、終わりませんでしたね、でも多分はい、来年には完結できるように頑張りますのでよろしくお願いします。
因みにですが次の投稿は1月9日になりますのでご了承下さい。では皆様、良いお年を。