先代から聞いた。深夜、壊理が寝付いたのを確認してから緑谷と約束時間に校内の人目が付きにくい位置のベンチにて切り出してきた彼の言葉へ対する私の反応は割と強めの頭痛だった、とても痛いし聞かなかったことにしたい。
いえ、聞いてはいたわよ、OFAの中に先代達の意志が存在することと、それと会話もできるようになりつつあるってのは、えぇ。まさかこの短期間に意思疎通を完璧にできるようにして、しかも先代達もAFO関連に限っては何かを感じられるようになってるとか成長が早すぎるでしょうが。
しかもよりによって……いえ、考えてみればコレに関しては致命的ではないわね。そもそも、いずれは発覚することが今になったってだけだから、深刻に考える必要もない、か。
「そうね、正直に話せば先代が言ってることが正しいわ」
「それって、やっぱり……」
「AFOの〝個性〟因子、その中に奴自身の意志も込められている。目的は私かあいつを自身の後継者とするために」
「後継者、え? 後継者?」
今、凄まじい速さで二度見したわねこいつ。気持ちは分からなくもないけど、私だってコレを知った時は驚いたし、けどこれは嘘でも冗談でもないわ。
奴は私かあいつを後継者にしようと目論んでた。どうやら赤霧、と言うよりもエルジェーベトの事もさして信用してなかったらしく本人にも知らせないで仕込んでたみたいなのよ。
「じゃあ、死柄木は……まさか、スケープゴート?」
「御名答。本命を隠す為に彼を利用したってことになるわ。ただ、サブプランでもあったから育てようという意志はあったでしょうけどね」
だからこそ彼を敵連合のトップに据えたしそれ相応の教えは施していたのは確か、まぁ結局は赤霧に全部すっぱ抜かれて今に至ってるんだけど。
とは言え、AFOの保険もきちんと作動してるってのも事実、赤霧としてもそこは想定外だったらしくてね。故にここ最近の行動は彼女が口にした目的とはどこかチグハグな動きになってるのよ。
「言われると確かにそうだなって思う。向こうが、と言うか赤霧が危害を加えてるのはどれも
「建前はヒーローと事を構えるにはまだ早いって言うことらしいけどね。あとはそうね……」
さてどうするか、これ以上話す必要はないと言えばない、けれど緑谷がここまで気付いて踏み込んできたということはオールマイトを含め、血染たちだって気付いているか彼が情報を共有している可能性が高い。
ともすれば黙ってたとしてもいずれ詰められると考えるべきよね。仕方がない、腹を括るしかないか、そう思いながら私は緑谷に今まで話さなかった赤霧と私の目的について話していくことにした。
端的に言えば赤霧、もといエルジェーベトは未来を変えようとしていたと、そしてそのために私が作られたのだと。なんてことを軽いノリで告げられた緑谷の表情は正直に言って吹き出さなかっただけ私は偉いと思う、それほどまでに面白い表情だったんだもの。
「み、未来を? え、ちょ、ちょっと待って、そのためにバートリーさんをってじゃあAFOに協力するためにっていうのも」
「全部ウソ、まぁ私がこの事を知ったのは神野で吸血したからなんだけど。ともかく奴は昔、あぁどのくらい昔かってのは分からないから聞かないで、ともかくその時の親友の〝個性〟で未来を見せられたことが事の始まりになってるの」
その時に見せられた未来ってのも正直、私は把握しきれてないんだけどそのまま進めば社会は変わるけど、犠牲者は洒落にならないほどに出てしまう未来。それを知ってしまったエルジェーベトは自前のお人好しでどうにかしようと動いてしまった。
変えられるという根拠はあったらしいわ。どうやらその見えた未来の中にはエルジェーベトと言う存在が無かったらしいから、つまりは自分はもしかしたら特異点という歴史を変えることが出来る重要な存在かもしれないという判断したってわけね。
「けれど現実は甘くなかった。何をどうしても変えられなかったのよ、特にOFAとAFO関連はね」
「それって先代達のこと?」
「聞けば分かるでしょうけど、エルジェーベトは先代全てと関わったわ。この時点で変えればここまでの悲劇は起こらなくなるんじゃって、だけど……」
何一つ変えることが出来なかった。出来たことと言えば多少なりと時間をズラす事だけ、悪足掻きとも焼け石に水とも言える結果にエルジェーベトは悩んだ。
このままではどうしようもないと。けれど全く変わらないということも分かっていた彼女はそこで閃いた、一人で難しいなら二人ならと、それも
いやまぁ、よく思いついたし実行しようとも思ったわ。誰かと協力してとかじゃない辺り、当時の時点で若干でも人間不信を拗らせ始めてるのも笑える話だわ。
「それでAFOの策謀で心が折れたフリをして潜り込んでバートリーさんを」
「ま、これも綱渡りな賭けではあったみたいだけど。なんたって吸血されるにしても上手い具合に人間性を分配できるかも出たとこ勝負だったらしいし」
と言うかAFOのもとに下ってからの行動全部が綱渡りの連続だったというのが正しいかしらね。吸血後に逃げ出した私が捕まったらアウト、逃げ延びたとして野垂れ死んでも勿論駄目、仮に保護されても便利屋を開けなかったらこれも駄目、開いても軌道に乗れなくて潰れてもまぁ駄目でしょうね。
自分で喋っててひっどい賭けねこれ、確かに私に干渉する術がないんだから仕方がないのは分かるんだけどあまりにも運任せすぎない? ねぇ、緑谷。
「へ? いや、でもそれだけエルジェーベトさんは未来を変えたかったってことじゃないかな。それに多分だけどバートリーさんを信用してたんだとも思う、だから普通なら通らないような賭けに出たんじゃないかな」
「私を信頼してってそれってつまり度が過ぎたナルシストじゃない? 或いは重度な人間不信ね」
「うーん……」
冗談よ冗談、本気で悩まないでちょうだい。でも緑谷が言ってることが正しいとは思うわ、それと人間不信は言い過ぎたわね、彼女は確かに不信はあったかもしれないけどそれ以上に人が好きだったのよ。
好きで、エルジェーベト自身もお人好しで、たとえ罵られようとも他人が傷ついたり悲しむ姿を見たくない吸血姫だったから他人を頼らずに自分自身を利用し、そしてものの見事に賭けに大勝利して今に至るって言えればよかったんだけど、AFOの置き土産に絶賛私もアイツも頭を抱えてるっていうのが現状なのよねぇ。
「まぁ全くの手詰まりって状況じゃないし、このまま事を進めても問題ないとは思うんだけど」
「ねぇバートリーさん、このまま事を進めって具体的にどうするつもりなの?」
「言ったわよね、エルジェーベト・バートリーと言う存在は何故か未来視が見せた光景に居なかった存在だって」
「うん、確か〝特異点〟っていう歴史を変えることが出来るかもしれないって話だったよね」
彼の言葉に私は頷き、そこからナイトアイが話してたことも含めて続ける。彼曰く本来、未来というものはなにか大きな力で複数人の意思があって初めて変えることが出来る代物であるということ、だと言うのに私と赤霧は個人という存在だけで大幅に未来を変えることに成功してしまっている。
無論、これが悪いことだとは言わない。その御蔭で彼女が望むように本来であれば手遅れになるような事態にもならず、後遺症が残るような怪我をするような事も回避でき、最悪死んでいたかもしれない人間も救えたのだから。けれど、じゃあそれで万々歳家と言われたらそうじゃない。
ナイトアイは記憶の中でオールマイトと会話中に私たちのことをこうも言っていたのを知っている、〝まるで本来であれば彼女は存在しないからこそ起きた大規模なバグみたいだ〟と。えぇ、全く持ってそのとおりだと私は思っている、恐らくだけどこのまま放置したら良い方向に進んでいた未来に取り返しのつかない何かが起こってしまうと考えている。
「取り返しのつかない何か?」
「どこかの未来で私とアイツが居るからこそ起きる最悪な事態、それが何かは分からないけど間違いなく起きると考えているわ」
なら回避するしかない。でもその方法は? ふふっ、緑谷、貴方なら分かるわよね、特異点たる存在が居るから起きるのならば……怖い顔しないで欲しいわね、これでも未来のために必要なことなのよ?
それとも他になにか手段があるとでも? 何が起きるか分からないってのにそれに備えるとでも? 現実を見なさい、
「それでも僕は君がやろうとしてることは否定したい、いや、する。誰かの犠牲でなんて間違ってると思ってるから」
ベンチから立ち上がって私を見つめる視線には諦めとかそういう物は一切含まれていなかった。あぁ、なんて真っ直ぐなヒーローなのかしらねと私は思ってしまう、だからこそこの子はOFAに選ばれたのだろうとも。
同時に残酷な話だとも思ってしまう。だって、いくら強力な力を持つOFAでもこれはどうしようもないと思っているから、仮にオールマイトだろうとも未来の改変から起きた凶悪なバグに対抗することは出来ないだろう。
「素晴らしいわヒーロー、でも限界ってのがあることも理解することね。貴方の我が儘で世界を破綻させるつもり?」
だから告げる、真っ直ぐな視線に対して確かな現実を。私は貴方達を危険な目に合わせることなく、学生時代を過ごしプロヒーローになってほしいのよ、あぁでもそうね、その頃には職業ヒーローっていうのは一番人気じゃなくなってるかもしれないけど。
「それにもう手遅れだわ。だって私たちの計画はもう進んでいるしね、悪いわね、後は向こうの最後の出方で事は終わるわ」
「……え?」
私が告げた言葉に対して返ってきた緑谷の間の抜けた声がどこかおかしくて口を抑えて笑う。多分だけど彼の隠してるつもりの〝通信機〟の先で聴いてるオールマイト達も同じ顔をしてるんでしょうね。
でも血染達は納得してるかも? 私のここ最近の行動は度を超えてる部分があったし、まぁともかくそういうことだから、割り切ることね。なんて我ながら酷い切り捨て方をしつつ寮の戻ることにした。
これ以上は話すこともなっていうのもあったし、これ以上部屋を開けて壊理が目を覚ました時に私が居なくて不安にさせるのも宜しくないからと足早に、逃げるように去っていこうとして緑谷から声を掛けられた。
「バートリーさん、僕は諦めるつもりはないから」
「それは緑谷出久として? それともOFAとして?」
彼、この期に及んで折れてなければ、納得もしてなかったわ。それどころか今の私の話を聞いた上で緑谷は先程と変わらない視線のまま、はっきりとこう告げてきた。
「両方。友人として、ヒーローとして目の前で助けを求める友達を諦めるつもりはないよ」
ふふっ、どうやら私はオールマイトに認められた
そう、これが彼なのね。緑谷出久と言う人間は恐らくこの世で一番諦めの悪いヒーローなのだろう。と言うか生意気なこと言ってくれるじゃない、邪魔するなら容赦しない女よ私は?
「知ってるけど、それならそれで無理やり抑え込むって手段が取れるなって思って」
「あ? え、なに、アンタ私に勝てると思ってるの? 生意気通り越したこと言ってくれるじゃないの、今ここで地面に叩きのめしても構わないわよ?」
勿論やらないし、やるつもりはないけどそれくらいは言ってもいいでしょ今のは。ここ最近、段々とOFAを扱えるようになったからって調子乗ってるんじゃないわよね、ああ?
決めた、とりあえず今度のヒーロー学の実戦訓練でクラスメイトの前で徹底的にボコしてあげる、二度とそんな口を出来ないようにしてあげるから覚悟しなさい……!!
「あはは、えっと、うん、覚悟しておきます」
「……はぁ、帰るわ。緑谷も早く戻って寝なさい、明日も普通に学校あるんだし」
告げるだけ告げて私は改めて寮の自室へと少々急ぎ足で帰ることにした。全くまさかあんな啖呵を切られるとは思ってなかったけど、ま、あれくらい言えなきゃ困るっちゃ困るか。
私は止まるつもりはないわよ、それでも止めるって言うんだったら頑張ると良いわ、九代目
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「良かったの、死柄木たちに事の真相全部話しちゃってさ」
「もう隠し通せる段階ではないからな、だが死柄木達が落ち着いた反応を見せたのは少々想定外だったが」
緑谷出久とレイミィ・バートリーが密会を終えた同時刻、とある拠点の屋上にて赤霧と白霧が会話をしていた。内容としては今しがた二人が言ったようにレイミィが出久に話したこととほぼ同じ内容なのだが。
そして反応は赤霧が言うように思ったよりも驚かれたとかも無かった、というのも死柄木は気付いていたというのが真相らしい。
「彼、何だかんだで君のことをちゃんと見てたらしくてね。そんなことだろうなだってさ、まぁAFOの意思が宿った因子が埋め込まれててそもそもが君が本命だったってのはそれなりにショックを受けてたらしいけど」
「無理もないだろう、救ってくれたと思った相手が端っから自分を良い体の良いスケープゴートとしか見てなかったんだからな」
でもさと赤霧に白霧は問いかける。事の真相全てということは彼女が最終的に行おうとすることも話したというわけであり、だからこそ白霧は聞くことにした。
彼女とレイミィがやろうとしている最終目標、それは……
「君が世界中の
「やれるさ、いや、やらなくちゃならない。これ以上、私たちはこの世界に存在してはならないから」
告げる声に篭っているのは悲壮の決意、それを分かってるからこそ白霧は夜空を見上げて一言呟いた。
「このまま大団円を許してくれないなんて酷い世界だね、ホント」
世界は常に何かの犠牲が生まれ、けれどその犠牲で世界は廻っている。
Q つまり?
A エルジェーベトは親友が見せた未来(原作)を変えるために初めっから世界の平和のために動いてたよ。
でも上手く行ったには行ったんだけど今度は自分のせいで致命的なバグが起こりそうだから、レイミィと一緒に消えるつもりだよ!
なお、便利屋の面々は彼女の覚悟を後押しするものとする。