便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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No.181『吸血姫VSOFA』

 緑谷出久は過去の自分のあまりにも強気な発言に今、若干だが後悔していた。確かに彼女、レイミィを独りで走らせないために止めるとは言ってしまったがまさかここまで彼女の地雷を踏み抜いていたなんて思わなかったのだ。

 

 いや、思わなかったと言うよりも心構えはしてたが相手はそれ以上に根に持ってたと言うべきか、ともかく彼はそこで思考を切り替え目の前の強敵にどう立ち回るかを本気で考え始める。

 

 対してレイミィは久し振りのヒーロー基礎学でしかも実践訓練という事でまさか此処まで早く機会が巡ってくるとはねと思いつつ出久を見据え

 

「さて、何時だったか私が言ったことは覚えてるわよね?」

 

「え、えぇっと……うん、はい、覚えてます」

 

 此処で忘れてるなどとすっとぼけたことを口にした日にはどうなるかなんてのは目に見えているので出久が素直に答えればレイミィはならばよしと満足そうに頷く。

 

 頷いてから妙に緊張している出久を見て確かにあの日のことを根には持ってるがと笑いながら

 

「別に本気でやろうってわけじゃないわよ。言ったでしょ、アンタはもう個人での訓練より組手とかの形式のほうが成長率が良いからやるんだって」

 

「あぁ、良かった。組手だってことは忘れてなかったんだな」

 

「私を何だと思ってるのかしら相澤先生……」

 

 そう、別に彼女の私情でこのカードが組まれたというわけではない。元を辿ると血染の発案になり、彼曰く出久の場合は本人の気質と〝個性〟が〝個性〟故に独りで只管伸ばすよりも実戦形式での方が伸びやすいだろうということ。

 

 また彼自身がもうそこまでのレベルまで行ってしまっているのでそうじゃないと、そもそもの効果が期待できないというのがこの組手の理由である。

 

「改めて説明するがあくまで緑谷の成長を促すための組手だ、本気でやるなとは言わんが全力で相手してやれよバートリー」

 

「ってことだから、安心なさい。クイーンは使わないわ」

 

「……大丈夫なの、それ」

 

「時間がってこと? 平気よ、クイーンならまだしもプリンセス程度ならそこまでの消耗もないし、それよりも……」

 

 構えなさい。言葉と同時に出久は確かな圧と言うものを感じ取り、条件反射にも近い形で戦闘態勢を取った、それくらいにレイミィから溢れ出た圧は実戦ものと告示していて出久はすぐにでも構えを取らなければやられると判断したのだ。

 

 実際、彼の想定は正しい、ここであと数秒でも反応が遅かったらレイミィは容赦なく地面に叩きつけていた。だが出久の反応を見て彼女は笑みを深め、それから

 

「血染、相澤先生、始めるけど構わないわよね?」

 

「その前に貴様の血液をコウモリにして俺の側に送れ、いざとなった時の保険が欲しい」

 

「緑谷は実戦と変わらないものとして相手しろ。それくらいの気持ちでやらなければ成長は望めないと思え」

 

 より正確に言うとすれば気を抜いてことの挑めば何も出来ずに瞬殺されるということであり、出久も緊張した面持ちで頷きレイミィはそれを見て軽く息を整えから

 

「じゃあ始めましょ。【ヴァンパイア・プリンセス・モードエリザベート(鮮血魔嬢)】」

 

「っ! フルカウル40%!!」

 

 互いが宣言すると同時に相澤の目から見ても速いと思わせるほどの速度でぶつかり合う二人、その衝撃は二人には勿論、離れた場所で訓練をしているクラスメイトたちにも届くほどであり、まず初めにお茶子がその方向を見て叫ぶほどだった。

 

「な、なんや今の!?」

 

「考えられるとすりゃバートリーと緑谷なんだろうが……結構、離れてるはずだよな?」

 

 切島が言うように二人が組手をしている場所とA組の残りが訓練している場所は被害を考えかなり離れた場所にしている。だと言うのに此処まではっきりと分かる衝撃とぶつかり合う音には一体どんな組手だよとなる。

 

 なので高所に丁度居た梅雨に聞いてみれば、彼女から返ってきた答えは困惑気味の声で

 

「その、見えないのよ」

 

「見えない?」

 

「ええ、組手をしているのは分かるんだけどレイミィちゃんも緑谷ちゃんの姿も両方とも見えないの。見えたとしても黒い線と紅い鎖、それとっ!?」

 

「梅雨ちゃん、どうしうごっ!?」

 

 辺りに響き渡る高音、それを突き破るような衝撃波、後者はともかく前者にはお茶子達は心当たりしか無かった。

 

 あれを私たちは知っていると、目の前で起こされた惨劇を、だからこそ彼女たちは即座に耳郎の方に振り向いて忠告を飛ばした、今の二人に近づくのだけは絶対に止めておけと。

 

「え、あ、うん、なんで?」

 

「響香ちゃんの耳を守るためや!」

 

「あぁ、お前の耳が絶対に無事じゃ済まないからマジで近寄るのだけは止めておけ」

 

「多分だけどレイミィちゃんもその辺りは考えて加減はしてくれるとは思うけど、そうね、近寄らないほうが良いわね」

 

「あ、そ、そう、分かった」

 

 あまりに迫真過ぎる表情と声に耳郎は頷くしか無い。なんでそこまで命に関わることみたいな忠告が飛んできたんだと思わざるを得なかったが二発目が放たれたことでなんとなしに理解した。

 

 もしかしてあれって声なのでは? と。仮に声だとしよう、だとしたらあれは危険かもしれないと彼女も理解し始める、というのも耳郎の耳は捉えてしまったからだ、あれが所謂発声練習のそれに近いものだということを。

 

 同時に思い出す、確かバートリーって音痴が酷すぎるから渡我さんにも人前で二度と歌うなって言われてたなということを。それらを総合して彼女はあぁと納得した表情のまま呟いた。

 

「この距離で分かる音痴ってごめん、ウチも初めてだわ」

 

「響香ちゃんが匙投げちゃったらレイミィちゃんはもう歌えないってことになるよ!」

 

「いや、無理でしょあれは」

 

「そんなにか……そんなにヒデェのか」

 

 などという無慈悲な宣告をしている側で爆豪達はその組手を見学していたのだが一瞬の膠着の際に爆豪があることに気付いた、と書いたが言ってしまえばモードエリザベートを初めて目撃したと言うだけなのだが。

 

「んだありゃ、ヒーローつうか、ヴィランじゃねぇか」

 

「あれは確かモードエリザベートとバートリーくんは言っていたな。切り札というイメージだったのだがあの様子では違うのか?」

 

「緑谷のフルカウルとかと同じってことは考えられねぇか?」

 

 会話している間も各々はその組手から視線は外さない。外さないからこそレイミィの変化にも、そして出久の変化にも爆豪はすぐに気付けた。

 

 自分が知っているOFAの動きじゃないと、更に正確に言うとすれば彼が把握している〝個性〟の動きと今の出久の動きが合致しないというべきだろう。

 

 そのことから爆豪が推測したのはまた何か別の〝個性〟が目覚めたのではというもの。そしてそれは正しくレイミィもまたそのことには気付いていた。

 

(明らかに【黒縄】と【危険察知】だけじゃない! もしかしてこの子!)

 

「ぐっ!?(マズイ、もう気付かれたかも! いや、でもまだやれる!! 六代目、【煙幕】を使います!)」

 

『構わないがあの娘、直ぐにでも対処してくるよ!』

 

(織り込み済みです!)

 

 刹那、出久の身体から煙幕が吹き出る。いや、これは吹き出るというのではなく周囲一体を覆い尽くす勢いのそれにレイミィは一瞬警戒を挟むが直ぐにコレが先代達の〝個性〟の一つである【煙幕】だと気付けば

 

「(目眩ましってことね、ともすれば次の手は何かしら、なんて私が甘いことしないのは分かってるわよね!!)すぅ、laaaaaaAAaa!!!!」

 

「(来た、【発剄】は十分ってわけじゃないけど、コレくらい溜まれば!!)はぁぁああ!!!」

 

 煙幕に向けて放たれた広範囲音響攻撃から逃れるために左足のみ力を込め飛び出す、がその速度は今までのものとは比較にならない速度でありレイミィも反応が遅れた。

 

 明らかに違う、それは遠目に見学していた爆豪たちにも分かるほどでありだからこそ一発限りの奇襲としては十分なものだった。

 

 煙幕から飛び出した出久は勢いそのままにレイミィの側の岩に向けて黒縄を射出、巻き付いた箇所を視点に一気に自身を引き寄せ速度を殺さないままレイミィに接敵、温存していた右脚を力の限り振り抜く。

 

 対してレイミィは想定外の速度での奇襲に驚きと感心をしつつも反応自体には成功、その蹴りに対してその場で回転、勢いをつけた竜の尻尾で迎撃を敢行、右脚と尻尾が打つかりあい結果は……レイミィの若干の力負けになった。

 

「くっぬぅ……! へぇ、やるじゃないの(今のどう考えても40%の威力じゃない。70、いえ、80は近かったわよ)」

 

「っとと(倒しきれなかった! あの瞬間、インパクトをズラされたんだ!! 流石バートリーさん、力負けでも対処してくるんだ)」

 

「今の、どう見るイレイザーヘッド」

 

「どうもなにも明らかに俺達が知らない〝個性〟が発現してると見るべきでしょう」

 

 こりゃまた訓練の内容を考え直さねぇとなと血染がボヤけば、その割には楽しそうですよと相澤から珍しく軽口が飛ばされる。一方、一連の流れを見ていた爆豪たちはと言うと

 

「なんだありゃ、煙幕も知らねぇが今の出久にあそこまでの一撃はまだ出せねぇはずだ」

 

「とすれば〝個性〟で威力を上げたと言うべきか?」

 

「だが緑谷はそんな〝個性〟、いや、発現したのか?」

 

「だとしたら緑谷の奴ってしれっと3つ4つを扱ってるってことだろ、普通できねぇだろそんなこと……」

 

 〝個性〟とは体の一部、だからこそ一人には一つであり扱いに難易度こそあれど増えるということもない。増えるということは急に体の部位が増えることと同意義であり、普通であれば使えるようになるには時間が必要になる代物。

 

 それを緑谷出久は扱えていることに驚きしか無い。最も完璧に扱えているわけでもなく一個一個を区切って使っているので本人からすれば扱いきれているわけじゃないと言うのかもしれないが。

 

 けれど彼らは更に驚くことになる、緑谷出久はまだ隠し札を持っていたことを、そしてそれはレイミィも同じ様に驚くことになるレベルだったということを。

 

「(……二代目、【変速】を使います)すぅ」

 

『正気か? 今のお前では一分も使えないぞ』

 

(それでもです。今出せる全てを出して、自分の問題点を見つけないといけないですから)

 

 決意に近い言葉に二代目である【駆藤敏次】、出久の精神内で大きくため息を吐き出してから勝手にしろと言わんばかりに背を向ける。その様子を他の継承者達はやれやれという感じに見ているのだがそこは余談としておいておこう。

 

 出久は距離を離し息を整える、正直に言えばまだ【変速】はオールマイトとの訓練で少しだけ扱った程度であり実戦での発動は初めてということで上手くいくかは分かっていない。

 

 それでも使うのはレイミィに己の今を全て見せ、一人には絶対にさせないと突きつけるため。その決意だけで彼は彼女を見据え、腰を落とし

 

「いくよ、バートリーさん」

 

「(雰囲気が? また何か隠してるってことかしらね)来なさい、叩きのめしてあげ……」

 

 言い切るよりも速かったか、レイミィの視界から出久が掻き消えた。先程までとはまるで違う速さにレイミィの反応が確かに遅れた、そして一瞬でも遅れたということは僅かな隙が生まれということ。

 

 次に血染達が、爆豪達が、何よりレイミィが出久の姿を視認できたのは彼の拳が彼女の腹を捉えた時、そこまでの過程を誰も目撃できなかったということに誰よりもレイミィ自身が驚くしか無かった。

 

 しかし、この場で一番驚いているのは出久だったかもしれない。発剄もなくフルカウル40%のみとは言え奇襲の一撃を突き刺したというのにレイミィはニヤリと己を見て笑っているのだから。

 

「(耐えられた!?)いや、ま、がっ!?」

 

「響いたには響いたけど惜しかったわね、今の動きにアンタの身体がまだ馴染んでないから力に無駄が生まれてるわよ」

 

 一旦距離を開けるべきだと危険察知に従い動くよりも前に反撃の蹴りが彼を直撃し地面に転がる。それでもとなんとか起き上がった彼が見たのは口元から血を流しつつも笑みを浮かべ自身を見つめるレイミィの姿。

 

「はぁ、はぁ、ぜぇ、けほっ」

 

「驚いたわ、まさか【プリンセス】状態での【モードエリザベート】とは言え、ここまで食らいついてくるなんて。と言うか、幾つ〝個性〟が目覚めたのよアンタ」

 

 そして前回のラストに繋がる。がここから組手は再開されることはない、というのも互いにダメージが大きいというのが主な理由なのは言うまでもないとは思われるが。

 

「やりすぎだ、と言いたいが見たいものは見れた。緑谷、こっち来い反省会だ」

 

「は、はい、けほっ」

 

「あ~、いった~。最後のあれは流石にビビったわ……」

 

 血染に呼ばれ痛む体を引き摺りつつもそっちに向かう出久を見送ってからレイミィはモードエリザベートを解除、その場で座り込めば相澤が側に来てから彼女に声を掛ける。

 

「平気か、バートリー。お前も今日はもう休め、これ以上は危険だろ」

 

「合理的に考えてもそれが良いわね。って麗日たちに詰められそうだけどコレじゃ」

 

 見れば手を止めこちらを見ているA組の面々にレイミィは苦笑しつつ立ち上がり彼らにどう説明するかと考えながら歩き出す。こうしてこの日のヒーロー基礎学は終わりを告げ、その日の晩にてその事を話せば

 

「はえ~、凄いですね。でもあまり大怪我しそうなことは止めてくださいよ、文化祭もあるんですし」

 

「あ、あ~そうよね、どうするべきかしらねぇ」

 

 この日から彼女は文化祭に悩むことになる。




もう既に緑谷出久が先代達と会話を可能にしているという成長率、7代目も今回出なかったけど会話可能です。

 なお、変速などはまだ原作のレベルじゃないです、今の出久が五分も使ったら身体が弾けちゃいます。
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