便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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No.182『何にするべきか』

 雄英文化祭、体育祭と同じく雄英高校の名物行事の一つであり学園の規模を考えれば当たり前なのだがその盛り上がりは外部からの客も合わさり凄まじい。

 

 無論それは生徒たちも同じ、文化祭ではヒーロー科も普通科も関係無しに盛り上がれる、或いは向こうよりも盛り上げるなどの影響で士気は非常に高い、そうそれはA組とて例外ではない。

 

 寧ろ学生だからこそこういったイベントは盛り上がらない理由がないとも言えるのだが、ともかくその日の朝のHRは文化祭での出し物ということになった。

 

「出し物ねぇ、これってどこまでがアリなの?」

 

「どこまでってなるとあまり非常識なのとか、そういうのは駄目だよね」

 

「ふむ、ともすれば」

 

 スッとレイミィの視線が一人の男子生徒を貫く、誰かとなれば目を血走らせ今まさに意見を出そうとした男こと峰田である。

 

 だが彼の動きは止まる。さながら蛇に睨まれた蛙と言うべきだろう、峰田だけに威圧とも言える物が襲い掛かったのだから当然かもしれないが。

 

「あっ……」

 

「峰田、分かってるとは思うけど次の言葉には十分に注意しなさいよ?」

 

 にこりとした笑みで告げられた言葉、されど声には一切の冗談も含まれていないのは誰もが理解した。

 

 ここから一つでも選択を誤れば己は確実に今日を生きられない、そう確信すら持てる言葉を聞いた峰田の脳細胞はかつて無いほどにフル活動を始める。それは己が生きるために、生きたうえで己の欲望を満たすために。

 

(考えろ考えろ考えろオイラ! バートリー相手じゃマジで舐めたこと言えば消される、だが向こうが乗る気にさせることができりゃそれが実現するはずだ!!)

 

 まさに脳細胞がトップギアと言えるほどの回転数で峰田は思考を巡らせ続ける。最早、現場に出たプロヒーローが大事件を目の当たりにしたというレベルのそれに周りは引き始めた所で峰田は顔を上げた。

 

「め、メイド、喫茶……!」

 

 声が震えに震えていた。彼とてコレが絶対に安牌だという確信はなかった、だが彼の中で浮かんだ案の中でコレが己の欲望を満たしつつレイミィからの粛清を回避できるものだった。

 

 どうなる! 峰田は意見を告げた直後にレイミィに視線を向ければ彼女は黒板に書き出されたそれを見てふぅんと声を漏らしてから

 

「良いんじゃない、前にやったことあるし私も」

 

「よっしゃぁ!! ってちょっと待て、やったことある????」

 

「依頼とかでってことでしょ?」

 

 その通りであり、便利屋として被身子と共にメイド喫茶の手伝いをしたことがある。なので案そのものには彼女は悪くないんじゃないと乗る気というわけでもないが通るならそれも良しと言う立ち位置になっている。

 

 とは言えレイミィは別にいいんじゃないかと言うだけであり他の女子がヨシとするというわけでもなく、彼女の一存で女子組を説得できるわけでもなく、つまりは何が言いたいかと言えば

 

「まぁ、通るわけ無いんだけどね」

 

「そらね、私もレイミィちゃんが良いとは言えちょっと反対したいかなぁって」

 

「私、ビックリハウスが良い!」

 

「ダンス!」

 

 単刀直入に言えば峰田と上鳴の意見は通らない、コレには二人は残念がることになるしレイミィもでしょうねと言いつつも考えてみれば喫茶店という事は料理を出す必要がありこの雄英でそれを意味するのは

 

「そもそもランチラッシュの料理超えれないでしょあれ」

 

「ば、バートリーのオムライス」

 

「ふざけんな、却下よ却下」

 

 こうして貴重な戦力を失った二人のメイド喫茶計画はお流れになるのであった。その後もあれこれと意見が出され、それを委員長、副委員長である八百万と天哉の二人が纏め更に絞るところまでは進められたのだが。

 

「一つってなると意外と会議は進まないものねぇ」

 

 結論から言えば決まらなかった。寧ろ彼女的にはでしょうねという感情しか無い、この手の出し物というのは決めるのは中々に難しい、特にそれが学生がとなれば難易度は更に上がりやすい。

 

 故に今日中には決まらないだろうなというのがレイミィの考えであったし実際そうであるところを見るに彼女の分析力は中々のものだと思われる。

 

 最も決まらなかっただけであり意見が全く無いだとか、纏まりがないとかは無いあたりは流石だと彼女は思いつつ、近くのベンチに座り込む。

 

 現在彼女は授業も終わり放課後ということで一人で学園内をフラフラとしていた、なんというか一人で居たかったという感情があったらしい。

 

「(壊理は寮で麗日達と居るし、被身子達はまだ戻ってないしここまで一人ってのは久し振りね)んっん~」

 

 思えば連日のように誰かしらと居たり現場に居たりで一人でのんびりという時間はまるで無かったなと思えば悪くもないと思えなくもない。

 

 別段、誰かと常に居たいと言う性格でもない。一人ならば一人で良いし、偶にはこういう時間が寧ろ欲しいと思うくらいの人間ではある、そうじゃなければ疲れるしというのも彼女の本音だったりもする。

 

(にしても文化祭、どうするかしら。あぁでも芦戸が出したダンスってのは悪くないかもね)

 

 料理などの出し物ではなくライブイベントのようなものであればまぁまぁ受けは良いんじゃないかしらなどと考えているが自身が音痴であるということを忘れているというわけではない。

 

 確かに彼女は歌に関しては耳郎が匙を投げるレベルで音痴ではあるが音楽ができないという訳ではない、まぁその話は後に回そう。

 

 そんな感じに初参加の文化祭についてあぁでもないこうでもないとノンビリと考え事をしている最中、その姿を見たのだろう一人の青年が近寄り彼女に声を掛ける。

 

「バートリー?」

 

「ん? って心操じゃない、割りと久し振りね」

 

「まぁそうだな、えと、なにしてんだ?」

 

 声を掛けられ意識を向ければそこに居たのは心操、時間的と彼の姿を元に考えれば相澤との訓練を終え、そして帰り道でレイミィが一人でベンチに居たので声を掛けた所だろう。

 

 対してレイミィも心操を見て上記の台詞を言うくらいには久し振りだなという感情だった。厳密に言えば彼の顔は割と見ている、が本人を見たというのは久し振りというのが正しいかもしれないが。

 

「何をしてるかと言えばノンビリしてるってところかしら。あとはまぁ文化祭についてとか色々適当な考え事? とりあえず隣座ったら、訓練終わった後なんでしょ」

 

「え、あ、あぁ、それじゃ失礼します」

 

 急なお誘いに緊張しつつも若干距離を開けた所に座る心操、それから文化祭と言う単語にそう言えばクラスでも出し物の話とかしてたなとなり、A組はどうするんだと聞けば

 

「何も決まってないのよね~、まぁ案は出てるから今日中にでも委員長辺りが決めるんじゃないとは思ってるけど」

 

「バートリーは関わらないのか?」

 

「文化祭初心者は大人しくしてる方が良いのよ。それに私はなんであれ楽しめる人間だし」

 

「……文化祭初心者?」

 

 初めて聴いたんだけどそんな言葉と思わずオウム返しをしてしまった心操が面白かったのかクスクスと笑うレイミィ。その返しでそっちはどうするのかと聞けば、彼は頭を掻いてから

 

「ま、こっちもまだ決まりきってないって感じ。でもヒーロー科よりは盛り上げるって士気は高いな」

 

「そりゃそうでしょうね。あぁ思い出した、便利屋としての出し物も考えないといけないんだったわ」

 

「便利屋も? 便利屋は通常業務だと思ってたんだが」

 

「根津校長からそんな話が出てきたのよ。ウチとしても断る理由がないしここ最近減り続けてる外部のお得意様を作るチャンスと考えれば悪くはないんだけど……」

 

 如何せん何をやれっていう状況なのよねぇと彼女にしては珍しい本気で悩んでいるという姿を見て心操は何か力になれないかと考え込む、考え込んでからそう言えばと彼は口を開いた。

 

 それはあの日、レイミィの秘密を知った時に彼女に向けて断言した決意表明の言葉、あの時はなんとか出来る手段を探し出すなんて断言したというのに現段階で何一つ手掛かりも掴めてないことを言えば。

 

「気にしなくてもいいって言ったじゃないの、そもそも簡単に見つかるなら私だってすぐに飛びついてるわ」

 

「そうかもしれないが、情けなくてな。ああまで言ったくせに何も出来ないってのが、それにお前の役に立ててないなってのもあるし」

 

「役には立ってるわよ、と言うか私の方こそ謝るべきよね。コピーとは言え貴方には相当助けられてるし」

 

「……なぁバートリー、コピーが〝個性〟使う度に俺の口座に金入れていくの止めてくれないか?」

 

 彼が言うようにコピー体の心操が〝個性〟を使い人一人を洗脳する度に便利屋から報酬という体で心操の口座に10万ほど振り込まれる。コレの何が恐ろしいかと言えばそもそもの話として口座自体が心操の預かり知らない所で作られていたという点だろう。

 

 コレに関しては彼の両親に話を通した結果である。流石に危険がないわけでもないということでレイミィ自らが便利屋所長として交渉に臨み、向こうと契約を結んだ上で口座を作ってもらい振り込んでいる。

 

 なので心操がこの報酬自体を知ったのは割りと最近だったりするし知った時は既に振り込まれていた金額に目眩すら覚えたとかなんとか。

 

「止めてくれなんて出来ないわよ。そういう契約だし、そもそも危険なことをさせてるんだから当然でしょ?」

 

「そうかもしれないけど、はぁ言っても意味無いだろうなとは思ってたから言っただけなんだが」

 

「好きに使えばいいじゃない、その口ぶりだと溜まってるだけなんでしょ」

 

「分かってくれバートリー、不意に振り込まれた金を使えるほど俺は肝が座ってないからな」

 

 冷静に考えてみよう。ある日突然、身に覚えのないお金が振り込まれていたら使えるだろうか、確かに使える人間もいるかも知れないが雄英でヒーロー目指してますという彼が使えるかと言えば手を出せるわけ無いだろで話が終わってしまうのである。

 

 だがレイミィにはそれが通じない。彼女からしてみればグレーでもなんでもないお金を恐れる理由なんてあるのかというのが先にくるからである、もしこの場に女子組の誰かが居ればこう言うだろう、彼女に人の心は分からないと。

 

 なので彼は丁寧に説明をした、これこれこういう理由で簡単には使えないんだと。それを聞きレイミィは理解する、なるほど学生には荷が重いお金だったかと。

 

「まぁそういうことなら貯金しておけばいいわ、別に税金云々も関係ないお金だから引かれることもないし」

 

「あぁまぁうん、そうさせてもらうっと。んじゃ、俺はそろそろ帰るから」

 

「あら、もうそんな時間だったのね」

 

 腕時計を見ればそれなりに経っている時間にレイミィも驚いたような声を上げてから立ち上がり、心操も続けて立ち上がってからじゃあと去っていくのを見送る。

 

 見送ってから彼女もそろそろ寮に戻るとするかと戻ったのだがどうやら文化祭の出し物について進展があったらしく聴いてみれば

 

「バンド演奏とダンスホールの合わせたヤツ、ふぅん、良いんじゃない?」

 

「でしょでしょ!? なんかこう皆で盛り上がれるものって考えたらコレ良いんじゃないってなったんだよね! まぁキッカケは轟くんなんだけど」

 

「アイツが? へぇ、にしても悪いけど私は歌えないわよ?」

 

「あ、そこは大丈夫、誰も期待してないから」

 

 バッサリとした言い草に歌ってやろうかと思うレイミィだったがこの場に壊理が居ることを思い出してぐっと堪え、耳郎にどんな感じにするのかと聞けば

 

「細かくはこれから、それで聞きたいんだけどさバートリーって音楽系で出来ることある?」

 

 とりあえず聴いておくか、じゃなければダンスに回せばいいし。そんな感じで聞いた質問にレイミィは素直に答える、そしてその答えに場は嘘だろお前となった。

 

「音楽系でってなると歌以外はってことよね。そうね、自信を持って言えるとすればヴァイオリンとかサックスとかかしら」

 

「……え、ごめん、もう一回言って?」

 

「ヴァイオリンとサックス、言っておくけど依頼で演奏を頼まれたくらいには出来るわ。まぁ依頼が来たから習得したって言えるんだけど」

 

 この吸血姫が見栄を張るようなことを言わないのは彼女たちは分かっている。だからこそ真実であろうということも、だがそれはそれとしてセンスはあったんだとなるのは無理もないだろう。

 

 もう少し証人が欲しい、そんな想いは意外な人物から得られることとなった。場が騒然としたそのタイミングで寮の扉が開かれ現れたのは血染と出久、そして

 

「ジェントル、それにラブラバもどうしたのよ?」

 

「雄英から防犯システムの依頼をされてね、折角だから顔を出しに来たのさ」

 

「便利屋が子供を引き取ったって聞いたのもあるわ。にしてもどうしたのこの空気」

 

 妙な空気を感じ取ったラブラバが聞き、レイミィが答えればあぁと納得したような表情をしてから

 

「アンタの音痴っぷりを考えれば当然の反応よね。でも嘘じゃないわよ、コイツ、これでもヴァイオリン演奏で金取れるくらいには上手いわ」

 

 瞬間、誰かが校舎に走った。目的は唯一つ、なんとかヴァイオリンを貸し出すために、それを見たレイミィはなんでこうなったのかしらと近くに来ていた壊理にボヤいたとか。




また設定を生やしたけど文化祭編でしか使われないだろコレという顔
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