便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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No.186『燈矢の帰宅』

 さて、まずなぜ便利屋が轟家に来ているのかということを簡単にでも説明しなくてはならない。

 

 何も深刻な理由などでもなく端的に言ってしまえば、リカバリーガールの下で壊理の勉強を見てもらうのに若干の不都合が生まれてきたということである。

 

 彼女もまた教師ではあるのだが高校教員でありまた常に暇というわけでもない、更に言えばもう少し目線を合わせられる人物が良いかもしれないと本人から言われだったらと案を出してきたのが燈矢だった。

 

「まぁ、軽く盲点と言うか意識から外れてたわよね。冬美さんも教師だっていうことを」

 

「なんで俺よりも付き合いが長いはずの所長さん達が忘れてるんだか」

 

「反応に困るブラックジョークは止めてくれ燈矢」

 

「それよりも早く呼び鈴鳴らしましょうよ、何時まで外で駄弁ってるつもりですか?」

 

 これ以上ないほどの被身子からの正論を受け、レイミィが呼び鈴を鳴らす。そこは燈矢じゃなくて良いのかとなりそうだが彼が迷っていたので彼女がさっさと動いたと言うだけである。

 

 鳴らし、少しすれば玄関へ向かってくる足音が全員の耳に届く。聴こえる感じから言えば少々足早と言う歩幅、理由は言うまでもないだろうとそれを感じたのか燈矢は小恥ずかしそうに頭を掻いてから

 

「今更ながらどんな顔すりゃ良いのかって思い始めたんだが」

 

「んなもん素直に〝ただいま〟でいいんじゃないの」

 

 そもそも見舞いで何度も既に会ってるのに家に帰るくらいで何を緊張してるんだかと割りと辛辣な言葉に対し、それとこれとはまた違うんだよ所長と燈矢が答える前に玄関の扉が開かれそこには冷の姿。

 

 互いに流れる緊張、言葉を探しているとも言える空気の仲、先に口を開いたのは燈矢だった。

 

 彼は気恥ずかしそうにしつつ冷を見て、それから

 

「あっと、〝ただいま〟母さん」

 

「っ、えぇ、〝おかえりなさい〟、燈矢」

 

 ずっと待っていたその言葉、日常の象徴とも言えるお決まりの挨拶を互いに交わす。そのやり取りだけで冷の目には涙が浮かび、燈矢も気付けば彼女に抱き着いていた。

 

 本当に久し振りの待ち望んでいたやり取り、それを見ていた便利屋面々も黙って見ているとまた足音がこちらに向かってくる。

 

「お母さんって、燈矢兄さん! おかえりなさい」

 

「ただいま、冬ちゃん。ははっ、なんか嬉しいなこのやり取りができるの」

 

「こんばんは、冷さん、冬美さん」

 

 このまま満足するまでとも考えたが壊理も居るしとレイミィが声を掛けると二人はしまったという表情をしてから

 

「いらっしゃい、皆さん。それとごめんなさい、すっかり忘れてたみたいな態度を取ってしまって」

 

「いやいや、息子さんが帰ってきたってことのほうが大事のは当然ですし問題ありませんよ」

 

 寧ろ今日までのことを考えれば当然の反応であり、逆にレイミィたちの方が今の光景を見て邪魔するようで申し訳ないとすら思っているほどだ。

 

 もし此処に居るのが自分たちだけであればそのまま暫くはと思っていたが先程も書いたように今日は壊理も居る、という事でレイミィは壊理をそっと冷達の前へ促してから

 

「それで今日は紹介したい娘が居てね、ほら」

 

「はじめまして、え、壊理、です」

 

 初対面の大人、という事で緊張こそしているがそれでもペコリと挨拶をした壊理に冬美と冷も挨拶をしてから、いつまでも外はと全員で居間に向かうことに。

 

 レイミィ達は見慣れているが壊理は初めてということもあり屋敷の内部にも興味津々だという感じにキョロキョロを視線を動かしている姿に思わず冷がふふっと笑ってから

 

「やっぱり珍しいかしら?」

 

「まぁ見慣れないっていうのはあるでしょうね」

 

 壊理も屋敷と言える家には住んでいたが恐らくは地下のあの場所で軟禁に近い状態であり、なのでこうやって眺めることはなかったが故の反応なのは言うまでもないだろう。

 

 最もその事情を二人においそれと話せないので真実を知るのはもっと先の話になるというのは置いておき、軽い雑談などをしつつ居間に到着すれば待っていたのは轟家の残りの面々。

 

「燈矢兄、おかえり」

 

 まずは夏雄が燈矢の姿を見てから穏やかな笑みを浮かべ出迎え、それを見て燈矢も答えてからもう一人、自身の父親であるエンデヴァーに視線を向ける。

 

 向けられた方は燈矢を見つめ、迷うような素振りを見せてから閉ざしてた口をそっと開いて

 

「戻ったか、燈矢……いや、違うな。おかえり、燈矢」

 

「……あぁ、ただいま、親父殿」

 

「驚いた、素直にそう言えるのね貴方」

 

「バートリー」

 

 なんで水を差すようなことを言ったんだお前はという意味が込められた血染からの声に流石に申し訳ないと思ったのかレイミィは悪かったわよと短く告げ、それから壊理が大人しいなと見てみれば……

 

 彼女はレイミィの足元に隠れるように居間を覗いていた、もっと言えばその視線はエンデヴァーに向けられどことなく怯えているように感じる。まぁとどのつまり、こういう事なのだ。

 

「平気よ、壊理。あのデカい男は見てくれだけで怖くはないから」

 

「ははっ、壊理ちゃんが怖いってさ親父殿」

 

「……むぅ」

 

 ヒーロー活動をしていた際にも子供に怖がられたというのを思い出したのだろうエンデヴァーは難しい表情で一つ唸れば、場が穏やかな空気に包まれる。

 

 それを感じた壊理もレイミィがそう言ったというのもあるが目の前の彼がただ単に見た目が怖いだけなんだなと理解したのだろう、怯えてた雰囲気は無くなり、それから

 

「あの、その、ごめんなさい」

 

「気にするな、慣れていることだ」

 

 慣れるくらいには同じような事あったんだと冷を除いた全員が同じ感情を抱いたのは言うまでもない。冷に関しては薄々そうなんじゃないかなと思っていたと後日、告げられエンデヴァーがレイミィ曰く面白い表情を晒してたとなるが置いておこう。

 

 なんてこともありつつも、居間でゆっくりしつつ雑談を重ねてしまえば壊理も慣れるというものでそこから此処に来た事情を冬美に話してみれば彼女は納得しつつ、居間は冷と会話している壊理に聴こえないように小声でレイミィに問いかける。

 

「あの、あの娘のお母さんは?」

 

「連絡自体は直ぐについたし、謝罪もされたけどまた一緒に住むと言うのは無理だって言われたわ」

 

「そっか……」

 

 レイミィが言うように少し調査すれば壊理の母親の連絡先くらいはすぐに見つかり、これには彼女は驚いたことにあっさりと連絡もついた。

 

 そして壊理の置かれてた状況を話してみれば、相手は涙声で申し訳ないと謝罪の言葉を口にするも壊理を引き取れるのかとレイミィが聴くが断られたとのこと。

 

 曰く自分にはもう彼女と向き合える自信も、そして彼女を恐れないという覚悟も持てないと。本来ならば顔を合わせ謝るべきかもしれないがそれを行う勇気すら持てないと。

 

 言われてしまえば彼女としても納得するしかない、恐らくは目の前で夫が消えていくのを見たのだから恐れを抱くなというのは無責任としか言えないのだから。

 

「気持ちは分からなくないし言い方悪いけど、よくあるお話だわ」

 

 勿論だが壊理本人にはこの事は話していない、と言うか話せるわけがないというのが正しいかもしれない。もし彼女がこれを知るとすればそれはもっと先の話、本人が知りたいと言ってきたときだろう。

 

 こういった事情により彼女が元の家族の所に帰ることは出来ない、レイミィはそこを踏まえ轟家に来たという部分もないわけはないし向こうも薄々、彼女の考えを察していたりもする。

 

「レイミィちゃん、もしかしてだけど将来的に壊理ちゃんを便利屋から離すつもり?」

 

「今のところは、ね。ただその、知り合いにも言われたんだけどあの娘がきちんと考えられるようになってから話し合うつもりではあるわ」

 

「なら安心かな。さて、さっきの相談のことだけど私は大丈夫だよ、頻繁には難しいかもしれないけど」

 

「勿論頻繁にとは言わないわ、それにリカバリーガールも見れるところは見るって言ってるし。それに長くても壊理が中学に入るまでだから」

 

 因みに今から彼女を小学校と言うのは選択肢には上がったが頓挫した。というのも境遇が境遇過ぎるがゆえに周りに馴染めないだろうというものと、そもそもにしてまだ戸籍が復活してないというのが原因としてあげられる。

 

 馴染めない問題は他でも補えるのだが戸籍は簡単な話ではない。元の家族からは既に戸籍変更が行われ、死穢八斎會、もとい治崎廻に監禁されていた時にはそもそも戸籍が抹消されていたのだ、故に今の彼女には苗字が存在しない状態になっている。

 

 最もこの話をした所で意味があるというわけでもなく、この話題はそこで打ち切られた。いや、正しく言うのならば冬美から別の話題が振られたというのが正しいだろうか?

 

「そう言えば、そろそろ文化祭だけどレイミィちゃん達は何をするの?」

 

「うーん、当日の楽しみってことで良いかしら。焦凍も練習頑張ってるから水を差しちゃ悪いでしょ?」

 

「因みに私たち便利屋も出し物をしますからお楽しみにです!」

 

「便利屋も? それはちょっと気になるな」

 

「ふふっ、当日は私たちも行きますので楽しみですね」

 

 本来(原作)であれば今日までの度重なる(ヴィラン)によって文化祭では来賓の招待は中止されていたがここではそもそもの前提が阻止された。

 

 結果として外部からも文化祭に来れるようになり轟家も当日には来ることになっている、この辺の事情も便利屋やA組、雄英の生徒たちの士気が高い理由にもなっていたりする。

 

「……焦凍は学校で上手くやれているか?」

 

 時間は進み、夕飯前だしそろそろ寮に戻ろうかという時間。その間に壊理は轟家の面々、特に冬美と冷に懐いたようで穏やかな空間が出来ているのをレイミィが眺めていた時にエンデヴァーがそんな事を聴いてきた。

 

 なお、内容を聞いた時に彼女は隠す素振りも見せずにげんなりとした表情をエンデヴァーに見せてから、はぁとため息を吐き出し

 

「燈矢との会話でしなかったのそれ? と言うか話題の振り方が下手が過ぎるでしょアンタ」

 

「言うな自分でもそう思っている。それにアイツとは本当に雑談しかしていない」

 

「そっ、まぁ焦凍なら上手くやってるわよ。さっきも言ったけど今は文化祭に備えて練習してるし」

 

「そうか……」

 

 不器用だな相変わらずと思わずにはいられなかったレイミィだったが口にするのも面倒だと改めてため息を吐き出すに留めた。

 

 同時にそれだけのために話を振ってきたわけではないとも思っているので無言でまだ話があるんだろという視線を送ればエンデヴァーは観念したかのように口を開く。

 

「オールマイトから伝言だ。アメリカの方で赤霧による被害者が多数確認されたとのことだ」

 

「やっぱり外国か、にしてもなんでそれを言うのを渋ったのよ……いや、まさかアンタ、オールマイトの使いっ走りにされるのを嫌がったわね」

 

「……伝えたからな」

 

 おいコラと思わず口にしてしまうがエンデヴァーは気にすること無くまた燈矢の所へ向かってしまったのでレイミィは頭を掻き落ち着かせてから自分も冷達の下へと向かう。

 

 向かえば和気藹々と冷達と雑談に盛り上がっているらしく、そこに水を差すことになるのは悪いと思いつつ

 

「アンタ達、そろそろ帰るわよ」

 

「え?」

 

「あのよろしかったら、今夜の夕食はここでご一緒しませんか?」

 

 まず壊理の反応でその後の展開が予想付き、続けて冷の言葉でうーむとなるが考えてみれば燈矢は退院後どころかあの事件の後を考えれば家族と夕食というのは今日が本当に久し振りだろう。

 

 そして壊理の反応を見れば断った場合、駄々を捏ねることはしないだろうが落ち込むのは火を見るよりも明らか、となればレイミィが取れる選択など一つしかないだろう。

 

「あ~、まぁ、だったらお言葉に甘えようかしら」

 

「やった」

 

「ふふん、そうなると思って実は学園には連絡を既に入れておいたのです、これは出来る秘書ですね」

 

「所長に報連相してない時点で駄目じゃねぇかなそれ」

 

 直後、轟家に割りと鈍い打撃音と一人の少女の結構ガチ目の悲鳴が木霊した。二人のじゃれ合いではあるがそれを見て壊理は仲がいいとこうなるんだと思い、大人組はあれは例外だからと教える光景がそこにはあった。




 Q 先週何してたん?

 A ちょっとそのレクイエムで四時間以内を頑張ってたら執筆する時間が無くなってて(屑)
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