アメリカ某所のとある建物の一室、最低限の家具しか置かれていないそこに黒い靄が現れ出てきたのは数人の男女。
最後の一人が靄から出ると同時にそれは人型に戻り、それを確認してから長身の女性こと赤霧が適当な椅子に座り込み、他の面々こと死柄木達も各々腰を下ろし息を付いてから。
「外国の
「赤霧からすれば選り取り見取りなんでしょうけど、ちょっとこう多過ぎるし組織もさも当然のように銃火器取り出してくるの日本がどんだけ平和なのか分かるわね」
伊口とマグネの言葉に死柄木も無言のまま頷く、無言と言っても単純に疲れ切ってて答える気すら起きないというのが事情なのだが。
ともかく彼ら死柄木組は現在、日本を離れ外国で活動をしていた。最もその内容自体は国内に居た頃と変わらず適当な
と言葉にするのは簡単だが実際は国内よりも苛烈な
「ですがその御蔭で国内以上に強力な〝個性〟も手に入っています、特にイタリアマフィアのものとかは中々に珍しい〝個性〟でしたし」
「ヤクザ潰しの次はマフィアとか聴いてねぇぞって思ったけどな……!」
「すまん、まさかあの規模のマフィアだとは思ってなかったんだ」
「そこは事前調査しておきましょうよ赤霧さん」
あれ、この人って結構適当かもしれないと伊口は何度目かの事を思いながら言えば赤霧はすまんと再度謝罪をし、それを見たマグネが笑う。
だがその成果はヒーロー側からすれば決して笑えるものではない。その襲撃で得た〝個性〟はどれも強力なものであり今の赤霧が使いこなせばそれだけで社会を簡単に切り崩せる代物でしかないからだ。
「んでこっからどうすんだ? 間違いなく今回もニュースに流れるから暫くは潜伏か?」
「そうなるな、幸い目撃者の類は無かったはずだから行動自体は出来るだろう」
「ですがそろそろ日本からの情報提供でこちらのプロヒーローが我々に勘付いてるいるかもしれません。そこは注意しておきましょう」
「あり得るわね」
ともすれば外国での活動も段々としづらくなる可能性が高いが今の段階であればさほど痛手というわけでもない。
寧ろ動きが遅いと赤霧が断言する、やはり国外は便利屋も動きようがなかったかとすら。だが逆に国外となると根津とオールマイトの影響力の高さを思い知らされた部分もある。
今回のプロヒーロー達の動きが一番わかり易い、マグネはああ言ったが実際は既に顔写真すらも出回っておりヒーロー間では情報共有され、彼らに見つかれば声を掛けられる程にはなっている。
(幸い市民にはまだ情報が出回っていないから変装さえすれば問題ないといえばないが)
それもどこまで通用するか。考え込む赤霧に気付いたのか、黒霧が彼女に近付きどうしたのかと聞き、向こうが事を話せば
「ですがそれなら既にもう少し活発になっているはずでは? そもそも水面下で動く理由も分かりませんし」
「……ふぅ、考えすぎか?」
「とは言いません、最悪は常に想定しておく程度はしておいて損はありませんから」
想定しておいて空振りする分には誰も損はしない事であり、自分たちの状況を考えれば誰かしらは常に考えるべきだと黒霧が続け、その上でと彼はこう締める。
「そろそろ、動き方を考える必要があるかもしれません」
「ん、何話してんだ?」
ともすれば一度作戦会議が必要かと言うタイミングで死柄木が二人が話してるのに気づき声を掛ける。続けてマグネ、伊口も集まれば丁度いいとばかりに赤霧は一度話があると告げテーブルに座るように指示。
全員が座ったのを確認してから黒霧との会話を改めて全員に聞かせ、そこから今後どうするかの会議を始めることに。
「これ現状だ。とは言え緊急性が高いというわけではない、が悠長に出来るという状況でもない」
「何かしらの手を打つ必要があるというわけね。そうねぇ、もう目ぼしい〝個性〟持ちが居ないのなら他に移るというのはどうかしら?」
「移るったってどこにっすか? 話聞く限りじゃどこに行っても状況は変わらないような気がするんすけど」
「寧ろ移動に時間が掛かっちまえば更に動きにくくなるんじゃねぇのそれ」
何も彼らだって魔法のように外国を移動しているわけではない、赤霧の魅了や黒霧の〝個性〟を使うことでバレる危険性は徹底的に排除こそしているものの短時間で移動できるほど便利なもないのは当然の話しだろう。
その間に更にヒーロー側で動きがあれば下手をすれば詰みということにもなりかねない。そう考えれば今から別の国へ、もしくは地方へと言うのは現実的な手段とは言えなくなる。
「だが留まっているのも追い込まれる危険性しかない。ふむ、これはもしかして手詰まりになりつつあると言いませんか赤霧」
「思ったが言われるとムカつくな」
「なぁ、いっそ戻んねぇか?」
戻る、その提案をしたのは死柄木だった。このまま現地で活動してても活動先を変えても手詰まりと言うのならば日本に戻って潜伏したほうが良いんじゃないか、それが彼の提案だった。
まさかの提案にふむと考え出す面々、動かないというのは確かに選択肢にはないともすれば死柄木が言うように国内に戻るというのはありではある。
「それにだ、赤霧の最終目標がなんであれ、便利屋の所長が必要なんだろ? んで奴は日本から出てこれない、なら完璧に詰みになる前に戻ったほうが良いだろ?」
「国内の潜伏先はどうする、下手な所の潜り込めばそれこそ首を絞める結果になるぞ」
「異能解放軍ってのから声掛けられてたじゃん、アイツラ利用すれば時間は稼げんだろ」
なるほど思ったよりもきちんと考えていたらしいと赤霧は死柄木の言葉に納得するように頷きつつ思う。彼の言う通り、国外に出る前に異能解放軍から同盟を組まないかという誘いがありその際は国外で〝個性〟を集めるのが優先だということで保留してあった。
その返事を今使うということだ。向こうとしても戦力は欲しいだろうから断られることもないし異能解放軍の影響力の高さは凄まじくプロヒーローや便利屋に悟られないように潜伏することも容易いだろう。
「……分かった、お前の決定に従おうリーダー」
「では帰国の手筈を整えておきます、準備ができ次第連絡をしますのでお待ちくださいリーダー」
彼よりも良い案は無いだろうということで赤霧がそう告げれば、黒霧も一礼してから早速準備に取り掛かるためにその場から居なくなる。
なぜか流れる沈黙、どうしたんだと赤霧が聞くよりも前に思い出したんだけどさという感じに伊口が口を開いた、そして内容に赤霧は黙るしか無かった。
「そういや、死柄木がリーダーの集まりだったなここ」
「赤霧がバシバシ指示を飛ばすもんだから忘れてたわ私も」
「俺もまぁリーダーは赤霧で良くねってのは思ってたがよ、指摘されるとなんかちょっと凹んでくるわ」
事実が強すぎると怒るよりも先に凹むんだな俺もとガチトーンで告げられた言葉に伊口とマグネはヤバいとフォローに入り、その光景を見つつ赤霧はふむと思案する。
確かに死柄木に指示を仰ぐんじゃなくて自分が指示を出してた場面が殆どだったかもしれないと。無論、自分が出しゃばりたいからではなく、彼と自分との経験値の差ゆえにやってた行いだったが今にして思えばやりすぎてたかもしれないと。
「そうだな、すまない、私が出しゃばりすぎてたかもしれないな」
「いや謝んなっての、現場での指示はお前のほうが速いし確実なんだから寧ろ頼ってるし」
「だとしてもだ、お前にも経験値は積ませるべきだった。そうだな、帰国したら一度その辺りも指導してやる」
「何時でも赤霧が指示できるって状況なわけないものね、良いんじゃない?」
「うげっ、え~、あぁまぁそうか?」
「俺はどうしたほうが良いっすかね?」
この中で唯一一般人としてここアメリカ潜伏中でも文明の利器を利用してなれないどころではない英語に挑みながら買い物などを行っていた伊口、やはり戦闘中とかでもなにか出来るようにしたほうが良いんじゃと聞いてみれば赤霧は首を横に振って
「いや、お前は今のままでいい。あぁ、勘違いするな、頼ってないだとかではないからな」
「寧ろ秀一が下手に目立ったりすると買い出し係が居なくなってソッチのほうが俺達にはヤバい」
「通販も毎回頼れば足が付くものね……」
「あ、そっか」
この場では伊口の存在が一番頼りになる状態でもある。そんな感じのことを告げられれば彼も納得と同時に役に立ててるようで良かったと安堵の表情が浮かぶ。
やはりと言うべきか戦いに直接関与できないというのは彼の中では負い目があったようだがそう言われてしまえば、今後も後方に徹しようと決意できるもので、伊口はリラックスするように体を伸ばした。
「だが戻ってから少しは息抜きでいいだろう、急がなくてはならないこともないだろうしな」
「異能解放軍が何か言ってきたら?」
「あまり目立たないようなことなら協力するでいいんじゃないかしら? 向こうだって私たちの機嫌は損ねたくはないでしょうし」
もっと言うのならば異能解放軍自体が社会などにも影響力を持っているので戦闘力だけを当てにしている自分たちに工作などはさせないだろうというのが赤霧の考えだったりもする。
なので戻ってしまえば息抜きの時間くらいは取れるはず、それにだと赤霧は続けたのだがその言葉に全員が意外だという表情を晒すことになる。
「雄英高校がそろそろ文化祭だろ、顔を出すのも悪くないかもな」
「プロヒーローの総本山に遊びに行くとか無謀だろお前……」
「息抜きとか言うレベルじゃないんだが」
「伊口ちゃんでも流石に門前払いって話どころじゃないと思うわよ私も」
フッ、冗談だと赤霧が言うがどこまで冗談だったんだよとなるのは無理もないだろう。まぁそれでも場を和ますということは出来たのでとりあえず黒霧から連絡が来るまで待機ということで解散、その直後に赤霧から死柄木に問い掛けた。
「なぁ死柄木、世界を色々見てきてどうだ?」
「どうだってのは?」
「……割りと悪くはないだろ?」
短いが言いたいことは彼にも理解できた、赤霧と組みAFOを裏切り世界を壊す、そのはずだった。けれど国内と国外を見て回り、死柄木の中で若干だが考えに変化が起きていた。
壊すだけで自分のこの感情は解決するのだろうかと、世の中には自分と同じかそれ以上にどん底な環境に居ながらそれでもと生きている人たちが居た、その中には実際に会話をした人たちも居た。
「悪くは、無いかもしれねぇ。ていうよりも壊しちまったらあの人達を巻き込むんだって思っちまった」
「そうか、なら考えろ、時間はお前にはまだあるんだからな」
告げるだけ告げて赤霧は外を警戒するために部屋を出ていく、その姿をただ死柄木は眺め、そして窓から外を見て
「……どうすっかな」
子どものまま大人になってしまった彼は迷う、迷いそして成長していく、その行く末がどうなるかはまだわからない。
劇場版の