便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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No.188『前日だからこそ念入りに』

 月日が流れというものは早いもので気付けば文化祭前日、レイミィ達A組は最終確認ということで通しで演奏をしていた。

 

 結論から言えば特に問題なく、後は本番でミスをしなければ大丈夫だねコレと耳郎が言うほどの完成度でありそれを聞いたレイミィもふぅと息を吐き出す。

 

「そう言えば便利屋の方は準備どうなん?」

 

「血染が言うには万端だって聞いたわね。言った本人は疲れた顔してたけど」

 

「赤黒さんが疲れた顔って相当じゃない? 一体何するんだろ」

 

 なお、疲れた理由に関しては文化祭はまるで関係ないと言うのはレイミィは知っているが面白いので黙っている、別に嫌がらせとかではないが本当に些細な事なので話すのが面倒だとも言う。

 

 それ以外はレイミィが言ったように準備は万全であり、こちらもまた本番でミスしないことを注意するくらいしか気をつけることはないだろうと被身子も胸を張って告げていたのは彼女の中の記憶に新しい。

 

「にしてももう明日が文化祭か、学園中の飾り付けとかすげーことになってたな」

 

「気合入りすぎてビビるわ、もう既にそこらの学校とは一線を凌駕してるぞ」

 

「ま、それだけ楽しみにしてたってことなんでしょうけどね。連日、便利屋も働きっぱなしだったし」

 

「……ん? 便利屋の仕事しながら文化祭の出し物の準備もしてたの?」

 

 そうだけどと頷くが頷いてからハードなことやってたわねアイツラとなる呑気なことを思っているが、彼女自身もその一人だということは忘れてはいけない。

 

 されど便利屋からしてみれば通常業務と変わらないというのも事実、まぁつまるところはブラックに片足突っ込んでいるから多少やることが増えたとしても負担と思わないというだけなのだが。

 

「ふと思ったんだけど、やっぱり文化祭はアンタ達の家族も来るの?」

 

「来ない理由がないよねって感じ。ウチの親なんか私たちがライブするって聞いてそりゃもうウキウキよ」

 

「俺の所も似た感じだな、てか大体の家庭はそうじゃねぇか?」

 

 上鳴が言えばクラスメイト達も同意するように頷くのを見るにそういうことらしい。やはり家族が来るというとなると緊張もするらしいというのは会話から分かり、ふむとレイミィは考える。

 

 そう言えば自分にはその手の経験は当たり前だがないんだよなぁと、生い立ち諸々を考えれば当然なのだがそれはそれとしてクラスメイトの思い思いの会話を聞いてると感じるものはあるらしい。

 

「身内が学校の行事に来る……あれかしら、血染が私の授業参観に来たとかそういう感じなのかしらね」

 

「え、あったのそういうこと」

 

「まぁ中学で何度か? 安心してちょうだい、中学時代は大人しい猫を被ってたからアイツが頭痛に悩むことはなかったわよ」

 

「今は頭痛に悩ましてるって自覚はあるんだったら労ってあげるべきじゃないか?」

 

 なんで? ニッコリとした笑顔で天哉の言葉に答える便利屋所長の姿にお労しや副所長と思ったのは出久だったか、ていうかあの人が疲れた顔してるのってレイミィの所為じゃないんだろうかと言う疑惑すら浮かび上がる。

 

 無論、全く労ってないというわけでもなければ血染だけが被害者という訳でもないし、なんだったらレイミィも偶に向こうに悩まされることもあるので一方的ではないということだけは補足しておく。

 

「んで話は戻すんだけど、やっぱり身内とか知り合いが見に来るっていうのはあれなの? こう、緊張するっていうのかしらね」

 

「そりゃまぁするだろ。普段から顔を合わせるしライブでミスったらそれを言われると思うと緊張するし」

 

「ふーん、爆豪、あんたの所の家族も来るの?」

 

「あぁ?」

 

 この流れで投げるボールだったかなと誰も思わない辺りレイミィと言う少女にクラスが慣れた証拠かもしれないと言う話は割愛し、突如投げつけられたそのボールに不機嫌そうな表情をしつつも爆豪は意外なことに答えた。

 

「来るってよ。テメェに話があるんだよさ」

 

「……私に?」

 

「あ、僕のお母さんも話があるって言ってたな」

 

 なんで? 先ほどと同じセリフなのに含まれている感情がまるで違う困惑そのものと言った声、何をどう考えても二人の両親が自分に話がある理由が見当たらないんだけどとなる。

 

 何度も記憶を漁っても心当たりがまるでない、と言うか二人の両親と面識すらないので理由を考えるだけ無駄とも言えるかもしれないとレイミィがどうしてと聞くが

 

「詳しくは……かっちゃんの方は?」

 

「知らねぇよ、ただ話があるってのを聞いただけだ」

 

「そう、まぁ分かったわ。当日どっかで時間を空けておくから伝えておいて」

 

 二人の反応からするにただ本当に話がしたいだけかもしれないと考えることで一応の納得をしておく。もっと言うとすればやはり考えても仕方がないというのが大きい部分もあるのだが。

 

 とここで八百万が思い出したという感じに声を上げた、どうやら彼女もまたレイミィに伝えることがあったらしいのだがその内容で彼女は本日三度目の同じセリフを吐くことになる。

 

「バートリーさんのヴァイオリン演奏をお母様とお父様も知ってまして、楽しみだと仰ってましたわ」

 

「……なんで? え、待って、本当になんで???」

 

 自分が八百万の両親と面識があるのは依頼の件で疑問でもなんでもない。だが演奏の実力に関してはどこで知ったんだとしか言うしかない、始めは八百万から聞いたのかと思ったが言い方からして違うだろう。

 

「バートリーさん、過去に社交界にて演奏をしたことはありますわよね?」

 

「えっと、そうね、一度だけ……」

 

「社交界で!? いや、依頼で演奏したってのは聞いてたが、んなスゲーところでやってたのかよ」

 

「でも一度だけよ? 実入りが凄い良かったから死に物狂いで腕を磨いて当日に間に合わせたってだけだし」

 

 いや待てよとそこでレイミィの脳内に閃きが走る。もしかしてそれが原因じゃないかと、当時は依頼報酬の高さしか見てなかったのでなんとも思わなかったがあの集まりってどんなのだったかと記憶を探る。

 

 なんかこう色々と偉い人たちの集まりだったようなと、その主催もなんか凄いところだったような気がすると呟きながら整理していくがその内容にツッコミが入るわけである。

 

「なんでそんなにフワフワした感じにしか覚えてないの」

 

「仕方ないじゃない、当時は本当にギリギリでこの依頼を成功させなくちゃいけないってことしか考えてなかったんだから」

 

「だとしても次もその人から依頼が来るかもとか考えたら覚えてたりしないか……?」

 

「うっ、それはそうね」

 

 鋭い指摘に言葉が詰まる、実際その通りではあるのだが当時の便利屋は本当に色々とギリギリでありひっきりなしに依頼を受けなければという状況だったのも手伝って、大雑把にしか覚えてないというのが多々あった。

 

 更にその後に同じ人物から依頼が来たことはなかったので尚の事忘れていたということにも繋がる。いや、それは今はどうでもいいとレイミィは忘れかけていたそれをなんとか思い出していき、そして

 

「ねぇ八百万、もしかしてその主催の知り合いだったりしたのかしら、両親」

 

「はい、お父様が知り合いでして是非とも一度は聞いてみたいと話していたのを覚えていますわ」

 

「やったねバートリー、これに成功したら依頼が来るかもよ」

 

 横の繋がり本当に恐ろしいわと口元を引く付かせている所に耳郎の言葉が来るがそれに答える余裕はない、無くはないが本人を前にどう反論しろって言うのよというのが本音でもある。

 

「こりゃ思ったよりもプレッシャーを感じる当日になりそうだわ」

 

「……あれ、それって私たちの演奏とかダンスもヤオモモの両親が見るってことだよね?」

 

 何気なく思いついてしまったという芦戸の言葉に場に緊張が走る。無論、素人の集まりである学生のそれに八百万の両親が辛口なことを言うとは思わないし、実際に試験勉強の時に会った印象からないと断言できる。

 

 出来るがそれはそれ、と言うか耳郎の両親の音楽家なんだからと気付けば誰かの口から言葉が漏れる。あれ、思ったよりもハードルがそこそこ高いライブなんじゃねこれと。

 

「練習、もうちょいしておく?」

 

「そ、そうやね、うんやっておいて損はないよねうん」

 

「全体の動きとか確認しておくか、あとソロパートと各自のダンスパートも」

 

「バートリー、ヴァイオリンはまだ大丈夫?」

 

「問題ないわ、爆豪もいいわよね」

 

「はん、寧ろ今の流れで終わるつもりだって行ったらぶっ殺してやるところだったっての」

 

 端っからそのつもりだったが尚更、下手なものは見せられないと気持ち新たにライブの練習を再開するA組、結局放課後に行われた前日最終確認のそれが終わったのはもう帰る時間だと教師に怒られるまで続いた。

 

 そうして夜が明け雄英文化祭当日、リハーサルも終え一度休憩を挟んでからライブが始める数十分前、ステージ裏に集まった面々の表情はこれから武道館でライブでもやるのかというくらいに気合が込められていた。

 

「いよいよだね、人の数がすっごいらしいよ」

 

「満員御礼って感じ! やばい、緊張してきた!」

 

「あんだけ練習したんだから平気だって、ね、レミィ!」

 

 振ってみたが返事が来ないことに疑問に思い、彼女が居るはず場所を見れば精神統一でもするかのように深呼吸を繰り返すレイミィの姿、それから

 

「えぇ勿論、私もだけど観客に私たち以上のものはなかったと記憶させるライブをしましょうか」

 

「あれでもバートリーさん、戦闘服(コスチューム)じゃなくていいの? ソロパートとかそうだって聞いてたけど」

 

「ふふっ、そこは安心なさい。アンタ達の度肝を抜いてあげるようなのを考えたから」

 

 待ってなにそれ聞いてないと耳郎達が思うも時既に遅し、本番数分前を告げる合図を受け各々は定位置に付くことになり聞き出す暇はないし、そのレイミィのヴァイオリンを構えふぅと息を整えステージの幕が開くのを待っていた。

 

 その表情に悪巫山戯のようなものは感じられない、耳郎もそれを感じたからだろう、分かったとばかりに頷いて同じくステージの幕を見つめ、それよりも自分たちにはやることがあると気合を入れ直す。

 

(バートリー、アンタに最高の思い出をA組全員から送ったげるから!)

 

 さぁ、全身全霊のライブの幕を開けよう! 最後に余談となるのだが因血染が疲れた顔してた理由はレイミィが思い付きで便利屋の出し物宣伝のポスターとか貼ったりチラシを配りたいわよねと言い出し、それを準備していたためである。




ここからライブ風景で一話潰せる気がまるでしないんですよね(無計画の極み
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