便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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先週は月面基地でAIとドンパチしながら、どけ!俺がお父さんだぞしてました


No.189『レッツ・ダンス・ライブ!』

 文化祭ライブ会場、観客席側は事前の宣伝効果もあり満員御礼と言う状況の中、壊理は燈矢に釣れられてこの場所に来ていた。

 

 学園内に住んでいるという特権をフルに使い場所はいい感じのところを確保できたのだがそれでも周りの人だかりなど少女を圧倒させるには十分であり、思わず燈矢のズボンの裾を握ってしまえば

 

「おっと、そりゃまぁ怖いよなぁ。そうだ、嬢ちゃん、ちょっと失礼」

 

「うわっとと、わぁ!」

 

「思ったよりも軽いな、でもこれで見やすいだろ?」

 

「うん!」

 

 抱え上がられた壊理が頷けば、それは良かったと燈矢が笑いつつ周りを見渡してみる。やはりと言うべきかA組の保護者と思われる大人もチラホラと見えており、その中には明らかに気品みたいなものが違う人物も確認できる。

 

 確認してからあれってセレブってやつだよなと燈矢は軽く慄きそうになったタイミングで見覚えのある人物達が彼の視界に入った。

 

(母さん達だ、流石に今からは近づけねぇな……つか、大丈夫なんか母さん、あと思ったよりも目立つなエンデヴァー)

 

「あ、被身子お姉ちゃん達だ」

 

 どうやら一家でライブを見に来たらしくその中で楽しげにしている母親の心配をしている最中、壊理が指を指した方を見れば会場のキャットウォーク付近にて集まって鑑賞しようとしている被身子達の姿が、向こうも壊理と燈矢に気づいたらしく被身子が手を降って応える。

 

 因みにそこにいる理由としてはライブの演出の一部に万が一があり得るかもというものがあるらしく、発生した際の対処のためであり被身子曰くついでに特等席でもあるんで確保しちゃいましたとのこと。

 

 言うまでもなく職権濫用でしかないのだがまぁツッコむのも野暮かと燈矢は考えないことにした。悪いことをしてるわけじゃないんだし良いかという開き直りとも言うしそれよりもライブの始まりが近いから意識をそっちに向けたというのが正しいとも言える。

 

「っと、始まるみたいだな」

 

 開演の合図とともにゆっくりと上がる幕に燈矢が呟く、対して幕が上がっていく舞台側にいるレイミィは性にもないわねと思わず笑みを浮かべてしまう。

 

 緊張しているのだ、過去に社交界と言うこれ以上に緊張するはずの場で演奏していたはずだというのに今自分はその時よりも遥かに緊張している事実に彼女は笑うしかない。

 

(全く、らしくもないわ本当に)

 

「いくぞコラァ!!」

 

 爆豪の声にレイミィの意識のスイッチを切り替える。緊張はしている、けれどそれは失敗を恐れてとかではない、心地の良い緊張というべきものであり寧ろパフォーマンスを高める材料にすら出来る。

 

 ならば後はそれを無駄にしないだけの演奏を見せつけるだけであり、だったら依頼の時と何ら変わらないじゃないとヴァイオリンを構える、そして

 

「この会場の奴ら全員、音で殺るぞ!!!!」

 

「っ!!!」

 

 開演を告げる大爆発とともにA組ライブが始まる。普通のライブでは意味がない、ならば雄英らしく〝個性〟もふんだんに使った開幕に会場のボルテージが上がるのを肌で感じつつ全員が練習のように、そしてそれ以上の気迫で演奏とダンスを披露していく。

 

 素人の集まり、そう高を括っていた観客たちだったが開幕してすぐに認識を改める。決して素人だからで満足していないと、誰一人として満足させずに帰さないという決意すら感じるものだと。

 

「すっげ」

 

「わぁ……!」

 

 初手から凄まじい熱量に燈矢と壊理も口々に声を漏らすしかない、各自が持てる全力を出しつつも一切の乱れがない演出、その中でレイミィはと言えば

 

(意外っちゃ意外なんだが所長の嬢ちゃんって徹する時は脇役でサポートに徹すること出来るんだなぁ)

 

「とか絶対に思われてますよレイミィちゃん」

 

「まぁここ最近は前に出張る事が殆どだったし燈矢はその場面しか見てないんだから仕方がないだろうがな」

 

「それ言ったら私も同じ感想なんだが、あの嬢ちゃんは本来はあれか? サポートが得意なのか」

 

「俺と同じで本来は支援が得意ってのがお嬢の言葉だぜ?」

 

「今日までのそれを見せられるとその言葉が冗談にしか聴こえねぇんだがなぁ」

 

 元々、レイミィは正面切っての戦いが得意という少女ではなく誰かを立てつつ自分が動きやすいように盤面を調整することのほうが得意であり、こういったライブという場面でもそれは適応される。

 

 今回で言えば場を整えることや、演奏自体を整える等といったバランサーに近い立ち位置でヴァイオリンの演奏をしているのが上から見るとよく分かる。

 

 今までが今までなので勘違いされそうだが、レイミィ・バートリーは〝個性〟込みでもさほど強くなく集団での戦闘でこそ輝くサポートタイプであり本人も自覚しているからこそ脇役に徹するという行為は得意なのである。

 

 なのだがここ最近は【吸血姫】の進化もありバリバリの前線で暴れているので忘れられかけている事実でもある、がこれは血染に言わせれば

 

「奴らしくもなくはしゃいでたってやつだ。本来はあれが本当の動きなんだよ」

 

 影に徹し、必殺のタイミングで表に出てとどめを刺す。便利屋を始めてからもだがそれ以前の血染とのコンビを組んでいるときでも決して崩さなかったスタイル、まさかライブという平和な光景で久し振りに見ることになるとはなと言うのは血染の言葉。

 

 だが同時に自身の影としての適性の高さをこういった場面で活かせているという光景に彼は無意識のうちに笑みを浮かべていた、そしてそれはレイミィ自身もそうだった。

 

(依頼じゃない演奏ってのはこうも楽しいものなのね)

 

 まだバランサーとしての動きでしかしてないがそれでも今までとはまるで違う、楽しいとはっきりと分かる感情の波と雰囲気の心地よさに自然と彼女は笑う。

 

 なるほどこれが友人と行うということかと、気付けば開演前の緊張もどこへやら必要以上の力は抜け、活き活きとした動きでヴァイオリンを弾き踊りを披露していく姿に壊理は自然を目を奪われた。

 

 楽しそうだ、いや、楽しんだこれは、当事者じゃないのに聴いてるだけでそれを感じ取れる。だからだろうか、段々と少女の心理に変化或いは改善と言えるものが起き始めていた。

 

「緑谷、青山、スタンバイ!」

 

「う、うん!!」

 

「頼むよ、緑谷くん!」

 

 ライブ演出のギアを上げる為に二人が動く、それを見てレイミィも耳郎たちにアイコンタクトを送りつつ演奏の手を止めずに指定の位置にさり気なく移動を開始。

 

 更に彼女の動きを見た各員も所定の位置へダンスに紛らさせるように動き、位置についたと同時にフルカウル状態の緑谷が青山を投げ飛ばし、青山が回転しつつ〝個性〟を使い人間花火と言わんばかりの演出を行う。

 

 これにより会場のテンションを更に上げつつ注目を彼に集め、その間にサビと同時に行う演出のための配置場所に移動、レイミィもソロパートのための準備を開始。

 

(さて、クイーンの応用で理論上は出来ることは分かってるし静止状態なら成功できてる、問題はぶっつけで踊りながら出来るかどうかってところよね)

 

 これもまた我らしくないと笑う、本当ならば今日までに一度は試し万全を期すのが私だと言うのにそれを行わなかった。理由はなんてことない、誰にもバラしたくなかっただけ、だとしても人目のないところでやればよかったというのにと今更ながらな反省をレイミィはしつつ、まぁ良いかと開き直る。

 

 失敗したらそれはそれで思い出だ、悪いけどそういうことにしておいてほしいと不敵な笑みを誰にも気付かれないように浮かべつつ息を整えその時を待ち、そして

 

「サビだ、ここで全員ぶっ殺せ!!!」

 

(わぁお、これはこれはお誂え向きなステージを……)

 

 サビと同時に盛り上がりは一気に加速、同時にレイミィも焦凍が作り出した氷の特設ステージの中央に向け演奏しつつ移動していく、ここまでは耳郎達のリハーサル通り、だがここからサプライズが発生した。

 

 一歩進む、レイミィの足元から耳郎達には見覚えのある真紅のエフェクトが発生する、二歩目、それは彼女を包み込み、三歩目、四歩目と進みながらエフェクトが足元からコウモリに変わりながら晴れていき、そして現れた姿に全員が驚愕した。

 

(はいぃ!?)

 

(ちょ、え、なにしてるの!?)

 

 現れたのはヴァンパイア・クイーン状態のレイミィ、しかも見れば特設ステージ上に何人かいるという光景、事情を知らなければ変身演出として盛り上がるかもしれないが知ってる側とすれば驚愕するなという方が無理な演出、だがレイミィが無計画にやるのかと言われれば違うとも言える。

 

 ともすればこれはそのものではないのでは? と驚きながらも即座に冷静な思考を取り戻す面々、もっと言えばライブ中に詰められるわけでもないので後で聞けば良いやとなったとも言う。

 

 また便利屋側も驚きこそしたがすぐにあれはヴァンパイア・クイーンそのものじゃないことを見抜いてもいた、曰く気配が違うとのこと。

 

 一方またレイミィはレイミィで後で詰められるんだろうなぁとか思いつつも今この瞬間を楽しむことに意識を向け、お茶子の〝個性〟でここまで浮遊しステージに安全テープでステージに上がってきていた観客たちに向け自身の分身を向かわせてから手を取り

 

Shall we dance?(一緒に楽しみましょ?)

 

 宣言と同時に始まるレイミィのソロパート、それは誰もが目を奪われる光景だったと後に語られるものだった。今まで脇役だったヴァイオリンが一気に表に出つつ彼女自身とその分身が華麗な踊りを見せていくそれはまるで主役は実は彼女だったのではと言わせるほどのそれ。

 

 今までもそうだった誰一人として退屈させないライブ、それのギアが一つ2つ上がったかのような演出と踊りに壊理は目を離せずそして……

 

(ははっ、流石は所長ちゃんって言うべきかなこれ)

 

 燈矢が見たのは〝笑み〟を浮かべる壊理、恐らく彼女も無意識だろう、それでも少女の心に蓋をしていたトラウマをこのライブは見事に取り払ったのは間違いない。

 

 これじゃ自分たちの出し物でも超えるのは難しいなぁと思いつつ彼もまたA組のライブは見事だと笑う。またレイミィも自身のアドリブでやったことだが思った以上に盛り上がってることが嬉しかったのだろう、その顔にはクラスメイトも見たこと無かったような笑みが。

 

(全く、派手なアドリブをしちゃってさ。これじゃ誰が主役か分からないじゃん)

 

(ふふっ、あぁこれもう後で爆豪辺りにすっごい怒られそうだわ)

 

 けれど後悔は何一つないという表情で演奏を続けるレイミィを見ていた便利屋の面々も楽しそうな彼女を見つつ被身子はこれからB組の出し物の後に自分たちがやるのかと思ったのかボソリと呟く。

 

「ねぇねぇ圧紘くん、これの後に私たちやるんです?」

 

「広告までしちゃったからね、やらないわけには行かないし、負けを認めて退くおじさんたちじゃないでしょ」

 

「そりゃそうなんだが、今までのどの依頼よりも難しいな」

 

「やれやれ、新人には荷が重いんだがどうにならねぇか、副所長」

 

「ならん、全力でやるしかないな」

 

 こうしてA組のライブは大盛況のうちに幕を閉じる。その時のレイミィの顔はやりきったという表情で人混みの中だと言うのに壊理と燈矢をはっきりと見つめてからニコリと笑うのだった。

 

 




Q ライブの描写薄くない?

A これが作者の限界ぞ
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