唐突なスマホへの呼び出しに私が待ち合わせ場所に向かってベンチに座れば直ぐに彼は来た。ま、隠す必要もないから言っちゃえばホークスなんだけど。
「や、お嬢様」
「急に呼び出すから驚きたじゃないの、それと久し振り色男」
あははごめんごめんと言いながら私が座ってるのとは別のベンチに座りそれから缶コーヒーを渡してくる、どうやら呼び出したからということらしい。
私としてはさほど気にしてるわけではないんだけど、とりあえず相手の奢りだしと受け取っておく、それよりも何かようなのかと聞けば
「いやまぁ、ここ最近はこうして落ち着いて話すこともなかったなって思ってさ」
「話す用事もなかったんだからそりゃそうじゃないの。ま、あの電話も使わなくなって長くなったなとは思うけど」
「あ~、そう言えば使ってないね。どう、話を通してみるけど完璧なプライベート用の連絡手段にしちゃうってのは」
「お上が激怒しそうな話ね」
絶対に許可が降りないしだったらもうスマホ使えよって話になるわよねそれ。そもそもプライベート用って言うけど流石にそんな時間を簡単に取れるの貴女?
って思ってみたけど、実際はここ最近だけで見ればあるんでしょうね、暇ってやつがと考えながら雑談的な流れで口を開いてみる。
「ここ最近、あからさまに
「ありがたいことにね~、ヒーローが暇することは悪くないから良いことだよ」
「なんて本気で思ってもないでしょうよ、これが自然的なものだったらまだしも」
「それはそう、流石にこのタイミングだとヤバいなって思うよ俺だって」
ここ最近の異常な犯罪の減少傾向、これをヒーローの頑張りのお陰などとは口が裂けても言えない。
そりゃ全く無いとは言わないしヒーローも頑張ってるだろうけど、流石に件数の減り方がそれじゃ説明がつかない、ともすれば
「赤霧が国内に戻ってきてる、か」
「だろうね、発見された
「んで賢い
「どうだろ、賢い方も実は表に出てこないだけで被害に遭ってるかもしれないよ。なんていうか、その辺りの騒がしさも最近感じないし」
表に出ないだけの被害、そこも換算すると考え始めたらちょっとげんなりしてくるしかりに事実だとすればって、止めましょうか、えぇ。
ホークスだって分かってるんでしょ、わたしもある程度は知ってるってことはさ。だったらこんなやり取りは時間の無駄じゃなくて?
「……まぁ、ね。正直な話、今でもちょっとスケールが大きすぎて飲み込みきれてないんだけど、そうじゃないとヤバいって言われると俺からなにか言えないんだよね」
「それはありがたいわ、止めろとかなんとかとかは言われ飽きてたから」
「はは、そりゃまぁそうでしょうよ。でも俺が思うのは違和感、かな」
「違和感?」
初めて言われた単語に思わずオウム返しをしてしまった。違和感、何がどうそれを感じさせたのだろうか、少なくても私にはないんだけど。
いやでもホークスが言うからには引っ掛かる物があったのは確かだろう、それを聞いてみなければならないと促してみる。
「うーん、君と赤霧の計画はまぁなんとなしに理解してる、その上で聞くんだけどそれは『絶対に』成功するのかい?」
「えぇ、『確実に』するわよ、それがどうかしたの?」
「君らしくないよね、だってこの手の大きな作戦で、しかも君よりも格上の相手に行う計画において『絶対に』とか『確実に』成功するって断言したことはないんじゃない?」
「……!」
私だって絶対にと言うのは使わないわけじゃない、相手があまりに格下だったり初見殺しが確実に決めれると確信している場合は使う。
けれどそうじゃない場合は失敗の確率も考慮する。当たり前だ、じゃなければ便利屋の所長なんて出来るわけ無いし、血染辺りに早々に見限られて路地裏に転がってることになってるし。
その私が今、『確実に』と口にした。赤霧が相手の計画で? 確かに赤霧側も合わせてくれるだろうと考えても内部に眠ってるはずのAFOの抵抗もあるはず、ならこの計画は確実じゃない。
「改めて聞くよ、その作戦は絶対に成功するし、万が一に備えて他に予備の作戦とかあるんだよね?」
「ふぅ、えぇくそ、ホークス貴方本当に優秀だわ。プランBも何も用意してないわ」
考えるという思考すら出てこなかった、これしか手段はなくてこれなら確実に成功する作戦であると疑うこともしなかった。
ホークスの言うように私らしくない、何だったら赤霧も同じだろうと考えれば原因はすぐに浮かび上がる。
「AFOの影響? だとしたら私たちが戦い合うことは奴の計画通り?」
「君たちが考えてなかったとすればそうかもしれない、それに副所長達も疑問に思わないってことは周りにも影響が出てるかも」
「そうか、ホークスとは接触が少なかったからギリギリ影響外だったのか」
特に神野後は私の見舞い以外では殆どと言っていい程度には顔を合わせてない、もし私及び赤霧から何かしらの影響を受けてと考えるのならホークスはそれを避けていたからこそ気付けたとも言える。
してやられたとも思えば、私たちが悪の帝王と呼ばれるアイツを舐め腐りきってたと唇を噛みたくもなる。
「二手三手なんてレベルじゃない、死んだ場合でもリカバリー出来るようにしてた。少し考えれば分かることじゃない」
「足元を掬われたってやつだね。いや、これは俺達にも言えることか、悔しいけど完璧にハメられてたってことだし」
改めて言われると悔しいわね本当に。けれどここで気付けたんだから挽回はまだ出来るわ、っても策がすぐに浮かぶかって言われると難しいんだけど。
それにこのタイミングで下手に考えても上書きみたいなのをされそうな気がするのよね、今まで気付かないくらいには思考操作されてたんだし。
「その可能性は考えておいたほうが良いかもね。なら、俺の方で考えておくのはどう? そこから分散させて保険もかけておくし」
「助かるわ。正直、私の方でも血染たちに話してってのをしてみるけどもう影響を受けちゃってると考えれば話したことも忘れられそうだから」
気付かれた場合を考えてないとは思えない、ともすれば気付かれたとしても時間が経てば無意識の内に記憶から消されるなんてこともあり得なくはない。
ならホークスが言ったように多数にこの事実を知ってもらっておき、その上で策を練る。これならば万が一、影響化に入ったとしても誰か一人でも覚えていれば抵抗が可能となる。
こうなると次の話は誰に知らせておくかって部分よね、まぁホークスが厳選する人物なら問題はないでしょうけど。
「その辺りは任せておいて、考えは既にあるから。さて、真面目な話はここまでにしておこうか」
「ん? あぁ、そうね。折角の文化祭で肩凝るような話だけってのも勿体無いものね」
急な話題の転換にどうしたのかと思ったけど、まぁ人が来たんじゃこれ以上は話せないわよね。ねぇ、今思ったんだけど、これって周りからどう見えるのかしらホークス。
どう考えても便利屋の所長とトップヒーローの一人が密談してましたって形にしか見えないんだけど、どう思う?
「えぇ、それ自分で言っちゃう? 俺は別にどうも思わないけど、寧ろそっちの方が色々と思われたりするんじゃない?」
「どうかしら、私が便利屋の所長だって言うのは知られてるわけだし、なにか思われるってことはないんじゃないかしら」
「ねぇねぇ、あれってホークスさんと便利屋の所長さん、だよね?」
「あ、本当だ。わぁ、なんかこう凄い絵にならない?」
「分かる」
……さて、これはどう反応すれば良いのかしら? あらぬ噂が立つことはないとは思うんだけど、貴方の熱烈なファンとかにバレたら刺されるんじゃないかしら、何時だったかそんな話しなかったけ?
「あぁ、したかも、いやまぁ、大丈夫じゃないかな、うん」
「断言してちょうだい、ちょっと怖くなるから」
反応からすると過去に数件はあったみたいな感じなんだけど止めてよ怖いわねっと、いけないわそろそろ戻らないと時間に間に合わなくなる。
「ん? あぁ確か便利屋が出し物やるんだっけ?」
「そうそう、先に向かった壊理たちとも合流しないとだし、行ってくるわ」
「……折角だし俺も観てこうかな、ついてっていいお嬢様?」
なぜこのタイミングでお嬢様呼びしたのかしらホークス? あ、笑ってるってことは分かっててやったわねコイツ、ほら見なさい、さっきの女子二人組みが凄い顔して私らを見てるじゃないの。
どうすんのよこれと私にだけ見えるように笑っているホークスに視線を向けているとその女子、多分一年上の先輩が近付いてきた、嫌にワクワクした顔で。
「あ、あの、いまホークスさんにお嬢様って!」
「え、あぁ、うん、そのあれよ? ちょっとしたおふざけで……」
「やっぱりバートリーさんって没落令嬢とかそういう方だったんですね!!!」
「……はい?」
今なんと? ていうか〝やっぱり〟? 〝やっぱり〟って言ったわよねこの先輩、え、なに私ってそういう感じで先輩たちから見られてたの?
どうすんのよこれ思ったよりもヤバい事が知れちゃったんだけど、ホークスも笑ってないでフォローしてくれない? いや、待ちなさい先輩、私は決してそういうのじゃないから。
「何をどう勘違いしたかは分からないけど、私は令嬢とかそういう大層な人間じゃないから、ただの便利屋の所長ってだけだから」
「便利屋の所長って肩書でも十分普通じゃないと思うけどね」
「ホークスゥ?」
茶々入れる場面じゃないでしょうが、ていうかこっちも貴方のことを色男って呼んであげるけどってやったらこの先輩の勘違いが加速しそうだから止めておきましょう。
あ~っと、とりあえず貴方のそれは勘違いだからという事はやんわりと伝えておく、何故か目の輝きが増した気がするけどもう無視することにして私とホークスは漸く体育館へ、なんだけど。
「なんかもう疲れたんだけど、ねぇ、ホークス?」
「ごめんごめんって、あ、ほら壊理ちゃん達あそこじゃない?」
話をまた逸らされたけどこれ以上は意味がないしと私は疲れたため息吐き出しながら壊理とマンダレイ、そして洸汰達と合流するのであった。
因みにと言うか余談なんだけど、あの先輩、どうやら勘違いしたまま話を広めたらしい、何が言いたいって? ふふっ、愉快な学園生活に変貌したわよ。
次回、便利屋曲芸大会(予定)