それはそれとしてOPで意味深に悪い顔してるレイミィと仲間たちのワンカットが映るけど、実際は……みたいな感じの集団ではある
(大っきいわねぇ)
ただ漠然とそんな感想を抱きながら手のひらサイズよりも少し大きめのアルミパウチから何かを飲んでいる少女『レイミィ・バートリー』、が現在居るのは『国立雄英高等学校』。正門を抜けた先で首が疲れるんじゃなかろうかと言うくらいに見上げることが出来る巨大な校舎を前に、思い出すのは雄英高校についての情報。
ヒーロー飽和社会とも言われるようになった今の御時世において、トップヒーローになりたければ先ずここを卒業するのが第一条件とも言われるほどの超有名高校であり、その名に恥じない土地の大きさ、建物の巨大さ、設備の充実度を誇っている。故に毎年この高校に挑む受験生は山のように存在し、だがこの狭き門を潜りヒーロー科に入れるのは推薦入学の四枠を入れて40名のみ、とここまで情報を思い出して、いや、とレイミィは思考を止めた。
(今年は違うと見るべきでしょうね)
もしかしたら『41』かもしれない。こんなことを思った理由は唯一つ、彼女という存在、確かにヒーロー協会からはここに入学し卒業しなければ便利屋チェイテを取り潰しにするという話は来ているが、じゃあそれで自分が落ちたら向こうは銃口を突き付け合ってる相手を合法的に潰せて万々歳なのかとなればそうではない。
理由は様々あるだろうが、大きなものの一つとして取り潰した報復に彼女が証拠まで握っている自分たちの隠し通さなければならない闇を世間にばら撒くかもしれない等という警戒心。最も彼女自身は理不尽に取り潰されたならまだしも、公平な入試に失敗しての結果ならば全くそんなつもりはないのだが、向こうからすれば彼女はそれをやるかもしれないと思われているらしい。
故に何らかの手を加えてでも自分を入学はさせたいと、それがたった一枠の追加。それでも絶対ではないはずなのだがそのあたりはどう考えているのだろうかとレイミィは思うが、ふと浮かんだのは組織力があるからこそ出来る物騒な案。
(いざとなれば痛み分けになろうとも消すって所かしら)
あぁ怖い怖いと柄にもない事を心の中で呟きつつ、最後の一口を吸い出してアルミパウチを握り潰してからキャップを締めて鞄の中に仕舞い込む。これは見た目はゼリー飲料に使われるタイプのアルミパウチだが中身は『人工血液』、彼女の個性は能力を行使するのに自身及び摂取した血液を対価に使うというのもあるのだが、一日に決まった量を飲まなければ抗うことの出来ない吸血衝動に駆られてしまうというかなり困った特性を持っている。一応堪えることに全てを集中させれば一週間は抑えることが出来るが、喋ることも動くこともままなら無いことになるので出来れば、その状況に陥りたくはないと思っている。
故にその対策に彼女は毎食後とおやつの時間になると250ccを飲むようにしている。因みに好みは程よい甘さを感じられるO型らしい、更に言うとこのアルミパウチは外でも周りを気にせず飲めるようにとパッケージから一般的に売られているゼリー飲料『風』にデザインされていたりするが、この個性用の人工血液パックは中々にいい値段がするので事務所の資金繰りの重りになっている。
(それにしても本当に大きな建物……あぁでも、将来的にはこんな大きなオフィスビルに事務所を構えてってのも面白いかしらね)
脳内に浮かぶのは大成功を収めて大きく成長した便利屋チェイテ、雄英高校にも負けず劣らずな事務所を構え、更に発展していく光景を見て満足気な笑みを浮かべる自分と仲間たち。だがここまでは良いんじゃないこれと思っていたレイミィであったが唐突に難しい顔になった。
次に浮かんだのは夢も希望もない世知辛い現実的なお話であり所長という立場が故に考えなければならないこと、それだけ広大な土地、巨大な事務所もといオフィスビル、それだけ大きくなれば当然増える従業員、彼女の脳内に出てきたのはそれらを維持するためのお金、早い話が。
(光熱費や水道代、お給料にボーナスの福利厚生、間借りだとしたら家賃も、そうじゃなくても依頼時に発生する経費諸々……)
果たして、どれほど一日に依頼をこなさなければならないのだろうか。今だってもし依頼が来ない日が数日もあれば事務所の生活は苦しくなる、いや、依頼があった上で公安や警察と言った上客からのがない場合も若干切り詰めるところは切り詰めなければならない程度には結構ギリギリな資金繰りをしてるのも把握している。
じゃあ今朝のあれは良いのかと言われそうだが、あれは公安からの依頼料が送金されてまだ一日しか経ってなかったのと彼女自身のヘソクリも混ぜていたから問題なかった話だ。もしそれが無かったら許していない。ともかく、話が少しだけ逸れてしまったが、レイミィが所長として思ったのはこの未来図は駄目だなという結論。
(やっぱり、身の丈に合った事務所でいいわね。えぇ、それに今のところも結構気に入ってるし)
程々が一番よ、程々が。口にする訳でもなくそんなことを思いながら試験会場に向けて歩き出し、その途中で目を閉じて、周りの誰もが気にも止めないほど自然な動きで指を口元に運ぶ。それは出そうになった欠伸を止めるかのように、或いは何かを考えていますという風にも捉えられる動きだったが、彼女の指によく見ると蚊程の大きさのコウモリの姿が。
体長は凡そ3mm、注視すれば辛うじて目視が可能かもしれないという大きさのコウモリはレイミィが指を口元に運んだタイミングで口内へと飛び込むと姿を『血液』に変えて吸収されたと同時に、彼女の視界に他者の記憶の光景が映し出される。
これは彼女の個性『吸血姫』の能力の一つ。自分以外の血液を取り込み集中すると、量に応じて対象の記憶を覗き見ることが出来るというもの。しかも知識も吸収できるということで幼少期からこの能力を活用し、常識を学び、あらゆる知識を己の血とし、白か黒しか認めない歪な世界を識り、生きていくためにがむしゃらに活用し続け、今の彼女を形成している柱の一つとも言える能力となっている。
また他人の記憶を見れるということで便利屋の業務にも大活躍はもちろん、目の前の依頼主が妙に怪しいなと感じた場合、本当のことを言ってるのかどうかの真偽を確かめる術にも活用と、はっきり言ってしまえば、これを捨てろと言われても出来ないと言えるレベルに依存してしまっており、そこから派生して一つの、血染から言わせると悪癖とも言えるものが彼女の中に根付いてしまっていた。
それが今まさに彼女が行っている行動であり、大人数に囲まれているなどの状況になると無差別に記憶回収用に編み出した『モスキート』と命名したコウモリを飛ばして、記憶を覗き見してしまうというもの。半ば無意識に近い行動であり、血染や圧紘からも問題になる前に止めるべきだとは言われ、レイミィ自身も理解はしているのだが、この行動は昔から自身を守るために、生きるためにやっていたという呼吸とほぼ同列な物となってしまっているが故に、中々治せずにいる。
因みにこの能力も万能というわけではなく、しっかり弱点が備わっており、あくまで見れるのは『記憶の持ち主の主観』なので光景に鏡などが無ければ姿が見れない、名前なども見れるわけではないので視聴範囲内で呼ばれなかった場合はこれが誰の記憶なのか不明で終わってしまう等が挙げられる。両者とも明確にターゲットを決めていれば気にはならないが、今回のような悪癖からの無差別では目立つ弱点となっている。
(うーん、やっぱり『モスキート』で読み取れる一週間程度の記憶じゃ、どの子も真面目に勉強してましたとか特訓してましたとかで同じような光景しか見れないわね)
つまらないわねぇ。この脳内の声が聴こえるか、心を覗くことが出来る個性持ちが居たら間違いなくブチ切れられるようなことを思いながら、戻ってくる『モスキート』を様々な動作でさり気なく口の中に入れては他人の記憶を見ていたレイミィだったが面白いもとい興味を引くような記憶は中々見れず、そろそろ止めるかというタイミングで彼女の興味を引く記憶が2つも転がり込んできた。
いや、興味を引くなんてものではなかった。これ知ってしまったのは良いけどマズいわよねと彼女にしては珍しく冷や汗をかくほどの記憶にそっと周囲に視線を動かしてみるのだが
(むぅ、片や名前、片や名字は分かってても姿が分からないんじゃ見つけようないわよね)
せめて姿が一瞬でも鏡とかに映ってくれれば良かったのにと文句を言いたくなるのを堪え、今はどうしようもないかと結論づけるレイミィ。それはそれとしてこれは今晩にでも彼に電話で伝えないといけないことにほんの少し苦笑を浮かべつつ、試験会場へと今度こそ向かう、色々と考えたいことはあるが今の彼女の最優先目標は雄英高校の入試なのだから。
あれから筆記を終えて実技試験前まで時間は進み、レイミィは実技試験会場に居た。結論付けたとはいえ、気になるのは気になるのでと試験の最中に隙を見て記憶の持ち主を探ろうと考えていた彼女だったが、常に雄英高校側からの視線があり、下手な行動をして落とされるを避けるために断念。その時はカンニングなどを防ぐためのものと考えていたのだが、こうして実技試験会場に来てからも常に見られているという感覚にレイミィはこれは間違いないと確信する。
(監視されてる。恐らくは協会から私の情報を貰ってるのでしょうけど、私が分かる範囲で死角無く見られてるのが分かるレベルって相当な力の入れ具合じゃない)
しかも自分にわざと気づかせてる節もあるし。と自身の体の調子を確認するような動きをしつつ気配を探ってみれば、今この場でモスキートを飛ばしたとしたら良くて警告、最悪の場合は一発退場させられるくらいにはしっかり見張られていると分かった事実に驚きつつも納得する。
だが同時に思うのは信頼無いわねという感情。これは別にヴィランを相手にしてるわけでもなく、ただただ公平な入試でしかない。だと言うのにカンニングやら、教員の記憶を覗き見て試験内容の把握等の白ける行為をするわけ無いじゃないと。準備運動を終えたレイミィは偶々目に入った監視カメラに向けて笑みを浮かべてから、カメラの先で見てるであろう誰かに向けこう告げる。
「そんな無粋でツマラナイ真似するわけ無いじゃない」
とここで周囲の視線にチラホラと自分に集まってる部分があるなと感じたが、まぁ当然かと開き直る。というのも彼女の今の姿は中学の夏仕様の制服、周りがジャージなどの中でこれは中々に目立つかと。なのでレイミィはそれ以上は気にしないことにした、気にしても仕方がないというのもあるだろうが。
寧ろ向けられてくる視線に対して微笑みながら軽く手を振るくらいの余裕すらあるので実行してみるかとレイミィ。途端に周囲の視線が霧散してムスッとなった模様、これから実技だからってピリピリしすぎでしょと自分も周囲の人間を観察してみると、ふと一人の男子が目に止まった。
見るからにガラが悪いことがよく分かる少年、目つきとか態度とかでこいつヒーローなの? とすら思われそうな彼を見てレイミィの口元がニヤッと動く、その笑みは子供がお気に入りの玩具を目にしたという感じの笑み。
(あぁ、良いわね。自分以外は眼中にもないと言った感じ、自分に自信が溢れてるが故の態度、ふふっ……)
この手の男子に自分を焼き付けたらどういう反応するのかしら。笑みを深めたまま少年を見つめる彼女には記憶の覗き見の他に困ったものが存在する。それは自分が興味を持った存在に対してアプローチを掛けたくなるというもの。
その方法も一般的なそれではなく、相手を実力などで叩き伏せて屈服させるような、まさに吸血姫という感じのそれに過去に被身子が趣味悪いですねと真顔で言ったとか。なお、その後、レイミィもそっちも好みのタイプの趣味悪いでしょうがから始まった言い争いになったのだが忘れている。
余談はおいておき。レイミィはそろそろ開始するかなと彼の斜め後ろに位置取る、勿論それを相手には悟らせてはいないので少年は攻撃的な笑みのまま両手を自身の後ろに回し準備を整えている。
対してレイミィはその動きに、なるほど手からなにかするタイプの個性かと推測を立てつつ、静かに息を吐きだし、視線を前に向けて極限まで集中を高めてからぐっと足に力を入れたと同時に
《ハイ、スタート》
司会進行役のプロヒーロー『プレゼント・マイク』の唐突な開始宣言に続いたのは、地面が砕け何かが飛翔していく音と空気が連続で炸裂していく音、そしてその2つに驚き騒然とする受験生に対しての、プレゼント・マイクからの発破をかける声だった。
便利屋メモ
レイミィは身長160cmで、胸は控えめのモデル体型。
個性【吸血姫】
異形と発動の複合型と思われている個性。吸血鬼っぽいことは凡そ出来るが、とある事情で弱体化しており現状の種類は多くないらしい。本人的にはまた別のものではないかと思ってたりする。