あ、ここからUSJ編です。
No.20『死にそうな顔して謝罪してくる吸血姫』
翌日、何時の模様に被身子に朝の準備を手伝ってもらい、彼女とともに現れたレイミィ・バートリーの顔は死んでいた。
顔は真っ青とまでは行かなくとも青く、目は虚ろで明らかに普通じゃない状況なのだが所員たちは悟ったような表情で納得する。どうやら例のフラッシュバックが昨夜彼女を襲ったらしい。
「あ~、昨日はそれも来ちゃったんだね、所長」
「血染からの説教が響いてるのに夜にコレだから踏んだり蹴ったりってやつよ……いや、説教された私が悪いんだけど」
「分かってるなら良い、ゼリー飲料で良いか?」
「何時見ても部屋に入ったら病人みたいな顔のレイミィちゃんがお出迎えは肝が冷えるんですよねあれ」
「そりゃまぁそうだろうな。お嬢、学校は行けるか? なんだったら付き添うが」
血染から受け取ったゼリー飲料を飲みながら、仁からの提案にそこまでじゃないから大丈夫と気怠げに手を振り答える。念の為を考えれば受け入れてもいいが、そんな状態をクラスメイトや他の生徒に見られるのは流石に恥ずかしいのでそれだったら一人で死んだ顔しながら登校する方が彼女的には良いらしい。
その辺りは年頃の女の子の感性なんだなと口には出さないが思う所員たち。そうと思われてるとは知らないレイミィはゼリー飲料を飲み干してから、間髪入れずに人工血液も摂取しておくフラッシュバック翌日の朝はある程度はせっせと胃に詰め込まないと何も出来なくなるくらいには体調面はガタガタになっている。
「バートリー、分かってると思うが」
「えぇ、会ったら頭下げておくわ……流石にちょっとやり過ぎてたって今更ながら思ってるし」
一日も立てば頭が冷静になり、考えれば考えるほどに納得の問題行動だなあれとなり、便利屋所長が何やってるのよと自己嫌悪に陥ったのは言うまでもなく、説教後には自室にて彼女自身も頭下げないと駄目ねと天井を見上げて呟いていたほどだ、最もその直後にフラッシュバックからのいつもの流れになり今になるのだが。
(そう言えば、昨日帰る時に、緑谷と爆豪が何か話してたような……)
その時はオールマイトの金銭感覚の狂いっぷりに頭をヤラれてたのも合って気にせずに彼らにバレないように帰ったが、もしかしたらなにか重要なことを見過ごしたような気がし始める。とは言っても自分が居たら絶対に会話が終わると思えば、関わらなくて正解かとグッと立ち上がる。
立ち上がったと同時に身体全体を襲う倦怠感に表情が更に死んだ顔になってしまうが、こればかりは仕方がないので鞄を持ち所員たちに
「ふぅ、行ってくるわ」
「今のお前の様子だと心配だが、忘れ物は無いな?」
「それは大丈夫です。今朝、私も確認してますから!」
胸を張る被身子にそれはそれで不安だがという言葉を既の所で飲み込み、なら良いがと答えることにする血染、これを言った場合、それはもう朝から疲れること間違いなしな絡まれ方をするのは目に見えているので回避できることは回避するに限るという精神である。
「そういや、オールマイトが教師やってるって新聞の一面になってたし、校門前とかマスコミが居るんじゃねぇか? 本当に大丈夫なんだろうな?」
「あ~、所長、やっぱりって行っちゃった……まぁ、大丈夫だと思うよ。なんだかんだで上手くやり過ごすって所長なら」
大丈夫だからという意味だろう。扉から出る直前に圧紘に向けて手をひらひらと振ってから出ていった彼女にいつもの穏やかな笑みを浮かべるしか出来ない。一応、マスコミの相手を全くしたことがないというわけでもないし、今の彼女に無理にインタビューをしようとするのは居ないだろう。
何処からどう見ても体調最悪で下手したら倒れるのではないかと言うほどにはレイミィの表情は死んでる。コレにインタビューを強行しようものならば睨まれるのが落ちだろうと、そこまで考えてから、でもやっぱりと思う。
「あまりに顔色酷すぎて、途中で救急車とか呼ばれたりしないよね、所長」
「微妙にありえそうだな……」
「フラフラでゾンビみたいに歩いてそうですもんね、もしそうなら血染くんの電話に着信が来るんですか?」
「本当に来たらどうするつもりだお前ら」
絶妙にありそうな予想に微妙な表情になる面々の心配を他所に、レイミィは無事(?)に雄英高校正門前付近に辿り着いていた。もっともその足取りは未だ重く、ここに辿り着くのもいつもよりも時間が掛かっての到着、早いところ教室に入って一息つきたいと心から思っている彼女の視界に飛び込んできたのはごった返すマスコミの集団。
最悪だ。間違いなくオールマイトの事で集まっている彼らに、彼女の中でオールマイトの株がガンガンと下がっていくのが分かる、本人が聞いたら私の株なのかい!? とツッコミを入れそうだが今は居らず、彼は心が読めないので無理な話なのだが。
ともかく、行かなくては話が進まないと更に重くなったような気がする足を動かし、正門に差し掛かればズラッと囲まれマイクを向けられてから
「あの、すみませんオールマイトに……」
マイクを向けた女性記者だったがギロリと向けられた目と今朝よりはマシになったがそれでもまだ青い顔と未だ虚ろ気味な瞳、纏う雰囲気も尋常ではないくらいに話し掛けるなと言葉にしなくとも分かるそれに怯む。
たかが学生と高を括っていたがまさかこんなモノを向けられるとは思ってもなかったのだろう。真相はただ単に彼女個人の事情で死んだ顔になるくらいに体調が悪いだけなのだが
「えっと……」
「ごめんなさい、ちょっと今私は余裕がないの、ほんとうに」
だから道を開けて私を教室に向かわせて欲しい。ボソリと蚊の泣くような声で紡がれた言葉は騒がしかったはずの集団全てに届き、モーゼが海を割ったかのように道が開かれる。確かに色々とあれだと言われるマスコミではあるが今にも死にそうな表情の少女から無理に聞き出そうと言うほどには腐ってはなかったらしい。
レイミィは彼らのまだ残ってた良心に素直に感謝の意を示しノロノロと正門を潜り校舎内に消えていく。その後ろ姿を見て彼女にインタビューをしようとしてた女性が一言。
「あの娘、あんなに苦しそうなのに登校してきたのね」
「まぁ天下の雄英高校に入れたってのに風邪くらいで休んでられかってのがあるんじゃねぇかな」
そうかも知れないけど、だからって執念を感じさせるくらいになるのかしら。誰に聞かせるわけでもない呟きは風に消え、彼女は直ぐに次に来た生徒にインタビューを敢行する、だが脳裏には不思議とあの少女のことが消えず、何時の日にか彼女がヒーローになったのならばこの時の心境を聞いてみよう、そう誓うのであった。
一人の記者の脳を知らぬ間に焼いた上で、彼女に永遠に叶うことのない決心をさせたレイミィはA組教室前に居た。途中で教師に保健室を勧められたが大丈夫だからと断るなどで若干の時間を食わされたことに何故かオールマイトの株を下げながら教室に入れば、30分前だと言うのにそこそこの人数が来ていた。
来ていたのだが、入ってきたレイミィを見るなり、芦戸が血相を変えて飛んできて。
「だ、だだ、大丈夫!? なんかもう直ぐにでも倒れそうな顔してるよ!?」
「お、おい、保健室に行ったほうが良いんじゃねぇのかお前!?」
「何!? って凄い顔してるじゃないか、無理するのも良くないぞ、バートリーくん!」
芦戸の叫びに切島と天哉が反応し、彼も動揺してるのがよく分かるほどの声でレイミィに提案する。もしこれで彼女が頷けば直ぐにでも運べるように動ける体制になってるのはさすがヒーロー科の人間というところだろう。
それはそれとして急に叫ばれたことでレイミィの眉間に皺が寄る。後生だから善意だとしても今の私の前で叫ばないで欲しい、あと保健室に行くほどじゃないから大丈夫だと告げ、ドサッと自身の机に座り込み上半身を机に沈むように預ける。
「あの、本当に大丈夫ですの?」
「平気、平気だから……午後までには復帰できるから」
何をどう見れば平気と取れるのでしょうかコレと百が思うが、本人がそう言ってる以上はコレ以上は触れられない。彼女の近くの席のクラスメイトもまた心配そうな表情と視線でレイミィを見ては、側まで向かい気を遣い、水とか飲むかと聞いてくる中、心当たりしか無い焦凍が
「氷、要るか? 冷やせば少しは楽になんだろ」
「あ~、嬉しいけど、でも袋とか持ってないわよ……」
「でしたら私が創りますわ。氷嚢の方が宜しいでしょうか?」
ヌルっと時間を掛けずに百の身体から創られた氷嚢に焦凍が自身の個性で氷を作り入れて、レイミィに渡せば感謝を告げお腹、正確に言えば胃の近くにつける。氷特有の冷たさが腹からスゥッと広がっていけば幾分かは良くなったのだろう、死にそうな青い顔は少しずつ改善されていく。
「ふぅ、ごめん、助かったわ」
「いいえ、それに私は氷嚢を創っただけですし。それにしても轟さんは慣れてる感じでしたわね」
「いや、俺は一度見て事情を知ってるってだけだ」
そう、あのフラッシュバックの発作を彼女は一度轟家で発生させており、その時もこのように色々と処置してもらったことがある。なので焦凍も教室に入ってきたレイミィを一目見て例のそれだと分かったからこそ慌てることもなく、冷やすかと聞いたのだ。
という事を聞いた百及び近くのクラスメイトは思うのは便利屋と轟家って結構関わりが深いのだなということ。
「深いって言えば深いだろうな。もし便利屋が居なかったら、多分まだ色々と拗れてただろうから、感謝してる」
「止めなさいっての。私はただ依頼を遂行しただけよ。ふぅ、かなり楽になってきたわ」
「俺としてはその依頼も気にはなるのだが、守秘義務があるのだろ?」
「勿論あるわ。それ前提の報酬だったし、だからまぁごめんなさいねって……」
ガラッ! と入学初日から変わらない乱雑な扉の開け方で現れた勝己にレイミィの表情が真剣なものに変わる。が、同時に彼の纏う雰囲気が昨日までのとは違うことにも気付いた、どこかこう、言うとすれば
(火が付いたって感じかしら)
態度も言動も、その他諸々も急激に変わったということではない、ただ雰囲気だけがガラッと変わっていることに何があったのだろうかと思いながら若干まだ重い体を引っ張り、彼の前に向かう。
急に現れたレイミィに勝己は何時もと変わらない凄まじい形相で睨みつけるが、それに対して彼女が行ったのは深々と頭を下げることだった。
「……は?」
「昨日は、ちょっと、いえ、かなり言い過ぎたわ。ごめんなさい」
急な謝罪に流石の勝己も状況が理解できず変な声が出て、見ていたクラスメイト達も静まり返る。彼女が謝っている内容から昨日の一件だとは理解しているのだがまさかここまで丁寧な謝罪が飛んでくるとはと言う部分があるのだろう。
だが彼女の中で謝罪とはこういうものなのである。昨日、切島に言ったように頭を下げるというのは安く扱ってはいけない、ペコペコと下げていればそれだけ真髄さと言うものが切り売りされてなくなってしまうのだから、故にこうして下げるという時は本当に必要な場面だけと決めている。
つまり、勝己に深々と頭を下げている今を必要な場面としているということになる。
「おい、コウモリ女。とりあえず頭上げやがれ」
「何かしら、一発殴りたいっていうのならば甘んじて受けはするけど」
「ンなことしねぇよアホか。少なくても昨日テメェにあれだけのことを言われるくらいには俺も酷かっただけだって話だろうが」
え? と今度はレイミィが勝己に素っ頓狂な声を上げる番になる。まさか非を認めてくるとは露とも思ってなかったが本音であり、態度や言動、声は昨日と変わらないが言葉は確かに己があれだけのことを言われても仕方がないと割り切っている。
だが次に来たのはギラついた瞳、あぁ間違いない彼の導火線に誰か火を付けたなと確信できる視線に変わった彼から来たのは宣言。
「俺はNo.1ヒーローになる。半分野郎もポニーテールにもデクにも、そしてコウモリ女、テメェも超えて天辺を取ってやる! もうテメェにあんなふざけたこと抜かされることのねぇようになぁ……!!」
殺意、されどどす黒く粘ついたものではなく、爽やかな殺意と言う中々に可笑しい感想を抱かせるがそうとしか言えないモノをレイミィはぶつけられて思わず笑った。もう、可能な限りはしないようにと昨日誓ったはずだと言うのに狂喜の笑みが隠せない。
あぁ、私はどうやら人を見る目がないらしいと。昔の頃のほうがまだキチンとその人間の心を見抜いていたはずなのにと笑みのまま、自身の審美眼の衰えに嘆き
「えぇ、楽しみに待ってるわ、爆豪勝己?」
いつかの焼き回しのような言葉を最後に彼女は自身の席に戻る。戻って早々に青い顔を再発させて机に突っ伏したことにより、勝己の殺意に当てられてのではと百が騒ぎそうになるのを焦凍と、側まで来ていた梅雨が止めたのは余談なので置いておこう。
とりあえず諸々が回復するまでは午前中をなんとか乗り切ろう、その覚悟を決めた上で朝のHRのために現れた相澤の一言で彼女は遂に撃沈した。先ずは昨日の戦闘訓練の事を軽く話、勝己、出久に一言ずつ、それからレイミィにも
「昨日、お前のところの保護者にも連絡しておいたが言葉を選べ、明らかなライン超えが随所に見られてるぞ」
「肝に銘じておくわ……」
「なら良い。さて本題だ、急で悪いが今日は君たちに学級委員長を決めてもらう」
『学校っぽいの来た───!!!!』
騒ぎ出すクラスメイト、警戒すらしてなかった大声にキャパが超えそうになり机に沈むレイミィ。なお、委員長は出久になった模様、そもそも便利屋所長があるから出来るわけ無いからと辞退した上で適当に彼に入れた票がトドメになった形である。
謝罪しに言ったら燃料投下されてまた狂喜の笑みを浮かべるとか反省してるんですかねこいつ……
あと、ちょくちょく焦凍が割と勝手にレイミィのサポートに動くんだが……?
便利屋メモ
例のフラッシュバックに襲われた翌日は大体午前中の11時くらいまで体調が戻らない。必要に応じられれば無理やり戻せるがその場合は午後も本調子じゃなくなる。