異能解放軍の一件を皮切りに事態が大きく動き出している今日このごろ。とは言え、それを実感できているのは便利屋だったり公的機関だったり一部のプロヒーロー達だけ。
大多数の一般人、またはヒーロー志望とは言えまだ学生である者たちには何となく世間が騒がしいな程度でしか無いそんな中、ふぅと雄英高校の寮の近くで息を吐き出しベンチに座り込む少年こと緑谷出久が居た。
「……」
『どうしたんだい九代目、なにか考え事のようだけど』
(あ、いえ、まぁちょっと思うことがあって)
彼の思う事とはAOFについて。レイミィから話は聞いているし、まだ暗躍をし場をひっくり返そうとしていることも知っている、だが。
(引っ掛かるんです、AOFがそんな分かりやすいことをするのかって)
『確かに今までの奴を考えればこんなにあっさりとバレるような策だけで済ませるとは思えない』
『だがエルジェーベトに殺されるのはAFOからすれば想定外だったんだろ? だったら出来たのがこれが限界って話で終わるんじゃないのさ?』
言われればそうかもしれないと頷けなくはない。けれど出久は素直に頷けなかった、オールマイトや先代達から聞いた話だとそんな甘い敵じゃないと思っていたから。
何より赤霧とレイミィが二人して出し抜かれたという事実が彼の中で、バレることすら策じゃないかと言う疑惑を持たせていた。
『だがあの二人のことだ、策だという前提で事は考えているだろう』
(それはそうかもしれませんが、件の影響があるとすれば僕たちも何かしら考えておくべきかもしれません)
『OFAの継承者として、か?』
七代目の言葉に出久は頷く、もっともそうじゃなくてもレイミィの助けにはなりたいと思っているがやはりAFOが関わってるとなれば己が動かないわけには行かない。
OFAを継承したから、オールマイトも動いているが今は自分が継承者なのだから動かなくてはならないという焦りがないわけではない。
『だが今のお前では足手まといだと言われるんじゃないか』
(うっ、それは……)
YESかNOかで言えば間違いなく前者だろう。いくら強くなったとは言え〝個性〟を大量に集めた赤霧の体を使うAFOとまともに戦えるわけがない。
そもそもレイミィ自身ですら単騎じゃ勝てるか以前に戦いになるか怪しいと言っているのだから、出久が増えたところでと言う話にすらなる。
出久も理解してないわけではなく、だからこそ大きくため息を付いて項垂れてしまい、先代達もコレばっかりはという感じの雰囲気を彼の中で出していると。
「どんよりオーラを醸し出してどうしたんだい、緑谷少年!」
「っ!? あ、オールマイト」
恐らくは寮に向かう途中だったのだろうオールマイトが出久に声を掛けてから、彼の隣に座りどうしたのかと改めて聞く。
対して出久も一人と先代達だけで悩んでも仕方がないとつい先程までの事を彼に話せば、オールマイトはうぅむと難しい顔で唸りそれから。
「実際問題で言えば、緑谷少年が出てこれる余地はないだろう。バートリー少女からも今回の作戦はプロヒーローと便利屋のみで行うと断言されてしまっているからね」
「ですよね……」
分かりきっていた現実だがオールマイトからも言われると流石に凹む出久。向こうも何も意地悪で言ってるだとかではなく、自分の身を案じてのことだということも理解できるからこそ本当にどうしようもないという現実に打ちのめされたとも言える。
「だが、だ」
「?」
「それはあくまでバートリー少女が提案したこと、つまりはそれすらもAFOの掌の上という可能性がある」
可能性でしかない、だがありえない話ではない。ならばこのまま進めれば、カウンターを食らうかもしれない、ならばとオールマイトは出久を見据えて告げる。
「君がジョーカーになるんだ」
「僕が、ジョーカー?」
「あぁ、この場で君と私しか知らない手札になるんだ。無論、彼女は物凄く怒るだろうがなぁに終わり良ければ全て良しとものだよ」
AFOがこちらの手札を知ってるのならば知らない一枚を手に加えれば良い。奇しくもUSJ前に根津達にレイミィが口にした言葉と似たようなことを笑みを浮かべながら告げるオールマイト。
そしてそれを見て、呆けた表情をしてから言葉の意味を理解して同じ笑みを浮かべる出久。どう考えても危険な策なのは言うまでもないが、勝機は十分に存在する賭け。
「やりましょう、オールマイト。それにAFOが関わるのならOFAとして僕は絶対に行かなくちゃいけないと思ってるんです」
「……そうだね、だが君だけじゃない私も共に行こう」
重いものを彼に背負わせてしまったと思いつつオールマイトは出久と握手を交わす、この手札一枚で状況が変わるのか、それが分かるのは遠くない未来のお話。
男二人がそんな会話をしている最中、我らが便利屋所長は何をしているかと言うとこの時間帯に珍しく寮に戻っており現在は壊理の勉強を眺めつつクラスメイトたちからの質問を捌いていた。
最も既に捌き終えたあとであり、勉強の方も正直に言うと彼女が見なくても問題ないと言うレベルだったりするのだが。
「そうそう、なによ思ったよりも勉強できてるじゃないの」
「良いですか落ち着いて聞いてくださいね。レイミィちゃんが見てないだけで壊理ちゃんの勉強は前から出来てるんですよ」
「リカバリーガールも驚いてたくらいだしね。てか、驚いたって話だとバートリーたちの大立ち回りだよ」
ウンウンと頷くのはほぼ全員であり、聞かされた今でも現実味がないがテレビで流れる情報が真実なので認めるしかない。
と言うかたった数日でなんかデカい所を潰す為に社会のあちこちを徹底的に炙りに炙ってました。炙ったついでになんかそこら中に潜んでた、黒い人達を表に引っ張り上げておきました。
あ、あと逃げられないように物証とか全部こちらで用意しておきますね、それじゃあとは警察とかがお願いします。これが便利屋の数日の流れなのだから末恐ろしい、最も対価としてレイミィ以外の疲労が溜まってしまったのだが。
「正直に言うぞ、もう暫くはあんな働き方したくねぇからな」
「まぁ今回みたいに大胆に動くのはめちゃくちゃ珍しいけどな、と言うか初めてか?」
「この規模は初めてだね。便利屋としてはだから、所長個人だと分からないけど」
「開業前ならそれなりにって感じだけど、それでも一度や二度程度よ。何度もやれる話じゃないし」
「ん? なんでだ?」
開業前ならそれこそ恩や貸しを押し付けられるじゃんという素朴な疑問を投げ掛ける上鳴にレイミィはため息を一つ挟んでからやらなかった理由を話すことに。
「んなこと派手にしたら、一瞬で四面楚歌になって幾ら私たちでも潰されるのがオチに決まってるからじゃない」
「あ~、そりゃそうか。つか、だから今日まで便利屋のこともそこまで有名じゃなかったってことになるのか?」
「そ、かなり大人しめに動くようにしてたからね。とくに開業後はその辺りはかなり気を遣ってたんだからね」
だからこそ仁の〝個性〟を利用した大掛かりな動きや、自身の〝個性〟による記憶の利用などは目立たないレベルに抑えていたとも言える。
仮にそうしなかったらレイミィが語ったように便利屋はここまで大きくならずに潰されて、ヘタをしたら今よりも社会が酷いことになってたかもしれないとすら断言できる。
では今回はいいのかとなるが、簡単にざっくり言ってしまえば今回は便利屋だけの作戦ではなく後ろ盾が揃っているので丁度良く隠れ蓑になっているので問題ないというのが彼女の言葉だ。
「けどま、流石に今回は精算度外視過ぎるオールインだったのは否定できないけどね」
「度外視どころか、今後二度と同じ手は使えないレベルだ」
便利屋の手札全てを使ったオールイン、一度でも行えば今後は警戒されるのもあるが正直な話を言えば、今回隠れ蓑に使った公的機関の方々が許してくれないのもある。
なんだったら二度とやるなよお前らと名指しされてたりする。それそうだろう、この数日で国中がお祭り騒ぎから戻ってこれてないのだから、けれどそこはレイミィと言う少女、自分たちが動けなくても問題ないように種を撒いてあったりする。
「ちょっと失礼するわ、バートリー居るわよね」
「えっ、ラブラバさん?」
挨拶もそこそこに突如、寮にやってきたラブラバと申し訳なさそうに頭を下げているジェントルがやってきたが彼らもとい、彼女がその種である。と同時に向こうからしてみればマジでふざけんなよお前という話であり、故にラブラバの表情は笑っているが笑ってないという状態だったりもするのだが。
レイミィは特段気にする様子もなく、ズイズイとやってきたラブラバに笑顔で応対する。無論、彼女がまぁまぁ怒ってる理由も理解しているが分かってないふりをしてるだけである、いい性格だ。
「こんばんは、ラブラバ。どうしたのかしら、イライラしてるみたいだけど」
「お陰様でねぇ……! ったく色々言いたいことはあるけどまずは本題、奴ら全員動き出したわ」
「ん? 動き出したってのはまぁ多分異能解放軍のレン中なんだろうけど、なんだGPSでも付けてたのか?」
因みにA組が居る前で異能解放軍の単語を出して良いのかとなるが無論宜しくないがこれはオフレコだと圧紘が彼らに伝えているし、そうじゃなくてもクラスメイトは悟ってくれているので問題ない。
問題しかないがまぁ置いておこう、ともかく火伊那の言葉にレイミィは首を横に振る。追跡装置みたいなのを付ける暇もなければ、付けたところでバレるのが関の山なのだから意味がないと。
ではどうやって分かったんだと当たり前の疑問に、レイミィはゆっくりと指を上、もとい天井、更に言うと空に向けて指しながらニッコリと告げる。
「人工衛星」
「は?」
「こいつ、Feel Good Inc.が所有してた人工衛星を私たちに横流ししてきやがったのよ」
刹那、場の空気が固まった。何やってんだお前というのが大半だが、会社が人工衛星を所有してたことに驚いている雰囲気も含まれている、ともかくそういう事なのだ。
「横流しなんて人聞きの悪いわね。押収したから中身の解析を頼んだだけでしょ」
「操作権まで全部そのまま投げてきてその言い訳が通るわけ、いやまぁ通ってるから使えてるんだけど」
「あの時の愛美くんの表情は凄まじかったね……」
因みに関係各所にはこの人工衛星、GeLinc.持ちに変更されていることを彼女たちはまだ知らないし知った日には机に突っ伏してしまうことになる。
ともかく、その御蔭で便利屋が動かずとも異能解放軍の動きは筒抜けとなったのは確かであり、情報料でラブラバ達も儲けになるとなればあまり強く拒否はできないものがあるのは否定できない、できないがラブラバは壊理にそっと告げる。
「良いこと、少なくてもこの吸血姫のような性格にはなるんじゃないわよ。なんだったら尊敬もしなくていいから、雑に扱うのが正しいわ」
「……? え、でもそれは良くないんじゃないの?」
「時と場合と人間によるわ」
「壊理に変なことを教えないでちょうだいよ」
「変なことを教えるのはどちらかと言えば、バートリーくんの方じゃないかなと」
ジェントルの一言にレイミィは彼を睨むが、壊理を除いた便利屋とA組全員は静かに頷くのであった。
なんかもう更新が不定期になりつつありますねコイツ(他人事