このアンティーク風の電話が鳴り響くのはどれくらい振りだろうかなどと思いつつ、待たせるのは悪いわねと出てみれば聴こえた声は私の予想通り、と言うかそれ以外の声が聴こえたら問題なんだけど。
《や、お嬢様》
「この回線は久しぶりね、色男」
聴こえた声はホークスその人であり、同時に安堵を覚えたのも事実だわ。まぁ何かあったらすぐに分かるから大丈夫なのは分かってたけど、それはそれってやつよ。
とりあえず本題にと言う前にホークスからこの回線についての話があるとのこと、どうかしたのかと言いつつ私としてはこれもう使えないんじゃないかと思ってたり。
いや、だってもう今回の件が終わったら使う理由ないってのもあるし、暗号回線なんて便利屋にこれ以上は握らせたくないでしょうしなんて思っていたんだけど、どうやら違ったらしい。
《今日からこの回線での通話に時間制限が無くなったから》
「……あ、そう」
《あれ、思ったよりも反応が薄いね。喜んでくれても良いんだよ、おれと通話し放題なんだから》
「わぁ嬉しいわって言ってほしい?」
《いやぁ、お嬢様に言われると裏があるんじゃないかってなるから、やっぱり遠慮しようかな》
あまりにあんまりな言われように口元がピクピクと動く感覚を覚えるけど、まぁまぁ事実でもあるので反論しようと考えたけど出来なかった。一応だけど自覚はあるのよ私だって。
それにホークスには今日まで散々迷惑を掛けてるってのもあるし、うん、そうね、そこは謝罪の一言を今の内に入れておきましょうかって言葉にしてみたら向こうから返ってきた言葉はこれだった。
《まるでもうすぐ居なくなるって感じの言葉だねそれ》
「そうじゃなくても、ちょっと振り回しすぎたって感情はあるんだけど?」
《ハハッ、俺としては楽しかったからそこまで悪いとは思ってなかったんけどなぁ》
ふぅん、じゃあ今後も便利屋が貴方を振り回しても良いのかしら? え、ダメ? 少しは暇にしてほしい? どう考えてもこれから忙しくなるって言うのに何言ってんのよあんた。
《だよねぇ、ってことで本題。スライディン・ゴーを起点にしたヒーロー内部の炙り出しはほぼ完了、ただちょっと逃げられちゃったんだよね》
「具体的には?」
《想定よりも少しだけってところかな。協会で動き出したところで悟られたか、異能解放軍からタレコミがあってって感じ》
数字として出す必要がない程度ってところか。けど姿を晦ましたってことは間違いなく向こうの戦力として合流したと考えるべきよね。
さて、どうするかって言えたら良かったんだけど手を止めることなんて出来ないしなぁ。
「計画を変える必要ある? あるなら考えてみるけど」
《いや、そこは会長からも言伝を貰ってるけど計画の変更は必要ない。寧ろこっちとしては内部からの裏切りを警戒する必要が無くなった分、他に人員を回せるから願ったりだ》
「それなら良いけど。これはまた暫く世間様が騒がしくなりそうね、消えたヒーローが全部無名なら良いんだけど、そうじゃないんでしょ?」
《残念ながら、ね。伊達に向こうも長い間潜伏して準備を進めてた組織じゃなかったってことさ》
どうやらランキング上位じゃなくても中間あたりが消えたっぽわねこれ。唯でさえ、秘密裏でとっ捕まえたヒーローだけでそこそこ数居るってのに。
まぁ幸いトップヒーロー層には紛れてなかったのは不幸中のなんとやらだけど。でも異能解放軍自体もそれなり以上には削ってるしホークスの言うように問題にはならないか。
「とは油断は禁物よ、赤霧もだけど異能解放軍がどんな手札を握ってるか全部はまだ分かってないんだし」
《あそこまで周りを潰してってるのに全容が不明っていうのも気味悪い話だと思うけどね》
「それはそう、流石の私もちょっと引くわこれ」
ありとあらゆる面、言っちゃえば補給とかそういう部分を潰したってのに持久戦となるとまだちょっと面倒かもしれないって思わせるのは相当よほんと。
一応、向こうも最悪は考えてたってわけなんでしょうけど。あと、街一個が異能解放軍の傘下なのも大きいか。
っていうのは持久戦を本当にする場合の話なんだけど、そもそもデカい組織相手に持久戦なんて愚策でしかないからするつもりもないんだけど。
《寧ろ時間を掛けたらまた面倒なことにしかならないだろうしね、ここからはスピード勝負だ……って言えたら良かったんだけど》
「分かってるわよ、協会と警察内部にも居たんでしょ」
《はい、正直ビックリするくらいに紛れてました》
頭痛を感じたのはきっと気の所為じゃないわねこれ。一度は粛清レベルな事をしたはずなんだけど、異能解放軍は上手いこと逃げ切っていたらしいのよね。
んで、そこも勿論縛り上げたには上げたんだけど一部はどうやら逃げられたらしい。お陰で非常に面倒なことに少しだけだが立て直しの時間が発生してしまったとのこと。
「コレに関しては最初の粛清で見逃した私も悪いわね。言い訳していいなら当時は異能解放軍とか全く気にかけてなかったのよ」
《いやいや、君だけの責任じゃないよ。俺達もまさかここまでねじ込まれているとは思ってなかったのが悪いんだ》
「……まぁ、コレ以上は不毛だから止めましょう。それでどの程度の時間が必要になってるの?」
《早くて2日、遅くても3日以内でどうにかする。最悪、少数精鋭で赤霧だけでも潰しに掛かるって方針もあるにはある》
出来ればやりたくないけどとホークスが言うが私としてはそれが通るのならば決行したいというのが本音である。
時間を掛けれないというのもあるが赤霧が、と言うかアイツの中に居るAFOがどう動くかがまるで分からない以上、速攻を掛けれるのならば掛けたいからだ。
まぁ何が問題かって言えば、少数精鋭の内容よねぇ。オールマイトとエンデヴァー、それにホークスとミルコ辺りが揃えれば良いんだけど、どうかしら?
《あ~、俺以外ならなんとか、なるかなぁ》
「なんとかして、ほら、魔法使ってちょうだい」
《うーん、でもそうか、分かった。会長に掛け合ってみる、それなら一日で準備は整えられる、ただ問題が一つ》
「なに?」
《その場合は間違いなくオールマイトのサポートアイテムの開発が間に合ってない。良くて7割の性能ってところかもしれない》
七割、オールマイトであると考えれば悪い数字じゃないが赤霧相手となると不足も良いところでしかないが呼ばないという選択肢はない。
やはり彼の戦闘センスの良さは居ると居ないとじゃ話が大きく変わる。けどその数字だと主力ではなく支援という形で動いて貰った方が良いだろうし、心配はあるけどそれで参戦してもらうしかないわね。
《了解、向こうにはそれで伝えておくよ》
「お願い、ふぅ……」
《緊張してる?》
「疲れてるが正しいわね。連日あれこれで働いてれば今の身体でも疲れを感じるわよ」
まぁ正確に言えば精神面で疲れたってだけで肉体的には疲れは感じてないんだけど。ってうわ、随分と話し込んじゃったわね、ホークス貴方明日も仕事あるってのに大丈夫なの?
え、全く大丈夫じゃないから現実逃避に電話かけてきた? えぇ、仕事の話はついでだったってことなの?
《ついでってわけじゃないよ勿論、うん》
「歯切れの悪い返しをしないでもらえるかしら……?」
演技なのは分かってるけど実際にやられると色々言いたくなるわねそれ。さて、じゃれ合いはここまでにして他に何か詰めることとかが無いなら解散になるけど?
《無いかな、〝今は〟だけど》
「状況が動いたら分からないってことね。出来ればこっちが動くまでもう状況を動かして欲しくないわほんと」
《俺も同じだし、ここまでやったんだから暫くは向こうも動きづらいはずだからそう願ってるよ》
互いに疲れた感じのため息を吐いてからホークスと挨拶をし電話を切って、壊理が寝ているベッドに腰掛けて頭を優しく撫でる。
今にして思えば最後のやり取りがもしかしたら良くなかったのかもしれない。被害を考えれば動けないだろうという慢心だったとも言えるかもしれない、まさか……
「はぁ、はぁ、ぜぇ……くっそ、やっぱり性に合わねぇことはするもんじゃねぇなおい」
「全くだ、どういう風の吹き回しだ死柄木?」
言葉にするならば物語は一気に加速したということだろう。
物語は佳境へ。
因みに来週の更新があるかは筆次第ですね……